『障害者の限界』という既成概念を捨てた職域開拓及び子会社への水平展開

1. 事業所の概要等
(1)事業内容
コカ・コーラほか清涼飲料水他の販売を主力とし、富山、石川、福井、長野の4県をテリトリーとして事業を展開している。製造、物流、システム関連、自動販売機器メンテナンス、リサイクル事業、海外事業を平成14年以来逐次6社に分社化し、さらに自動販売機オペレータ及びフードの各事業会社を傘下に吸収し、合計8社の連結子会社を擁し総合ネットワークを構築している。
(2)障害者雇用状況(平成20年1月1日現在)
身体障害者 | 知的 障害者 |
精神 障害者 |
総数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
心臓 | 腎臓 | 視覚 | 聴覚 | 音声 | 肢体 | ||||
親会社単独 | 2 (1) |
2 (2) |
1 | 2 | 1 | 5 (1) |
4 (2) |
1 | 18 (6) |
子会社含合計 | 7 (5) |
2 (2) |
1 | 4 | 1 | 7 (1) |
6 (3) |
2 | 30 (11) |
( )数字は重度障害者で内数
(3)沿革
昭和37年北陸飲料株式会社を設立、仕入れ商品の販売を開始。昭和38年日本コカ・コーラ株式会社と製造・販売に関する契約を締結し、富山県、石川県及び福井県における製造・販売権を取得。商号を北陸コカ・コーラボトリング株式会社に変更。同年12月に高岡市(富山県)に工場を新設し本社を移転する。平成11年に長野コカ・コーラボトリング(株)を吸収合併し長野県における製造・販売権を取得。平成14年から16年にかけて、製造、物流、QC、リサイクル、海外の各事業の分社化等再編を進めた。現在、分社化した6社と新たに傘下に吸収した2社の計8社の連結子会社を有している。
障害者の雇用面では、分社化やアウトソーシングの推進により、一時的に障害者雇用率が1%まで低下したが、会社トップからの指示を受けコンプライアンス(法令順守)、障害者の雇用を促進するため、人事部が推進母体となり全社で強力に活動を進めた結果、現在では当社の障害者雇用率は3%を上回っている。
そのほか学校・養護施設からの要請をうけ、2か所の授産施設に関わり障害者の自立への支援に貢献している。
平成13年には障害者の雇用・定着に向けた取り組み状況は、他の事業所の模範であるとして社団法人富山県障害者雇用促進協会長表彰を、さらに平成19年に厚生労働大臣表彰を受賞。
また、高い品質と環境にやさしい企業をめざし、2000年にISO 9001を、2001年にISO14001を認証取得した。

2. 改善の背景
(1)社訓と会社の使命とトップの指示
当社の社訓は、『創意・奉仕・勇気』。当社の使命は、高品質・安全・安心の商品を提供すること、会社の発展・社員の豊かさの実現、責任ある企業市民として地域社会への貢献及び環境にやさしい企業であり続けることとされている。
コンプライアンスは企業の使命の大きな一つであるが、数年前の分社化推進にあたり、アウトソーシングを大胆に取り入れ、また幹部の目線は分社化を成功裏に行うことに傾注している間に、障害者雇用率が1%を割り込む状態に至った。会社トップから改めて障害者雇用を推進するよう強い指示があり、全社が障害者雇用の重要性を再認識する機会となった。
(2)分社化が障害者の職域開拓の援軍に
分社化以前には、社員はすべてにおいて業務を理解し実践できる能力を求められたが、分社後は各自の持ち場での専門能力を発揮することが求められるようになった。より専門化することにより特定の仕事ができる能力(できないことがあっても自分の持ち場に支障がなければ問題ない。)を発揮すればよいというコンセプトで職域開拓が可能になった。
(3)通年採用の比重が高まり障害者雇用のチャンスが増加
契約社員やパート社員の構成比が高まり、かつ、労働市場の変化に対応するため、新卒採用から通年採用への比重が増えたことなどにより採用機会が格段に増え、その結果、障害者の雇用機会が増加した。
3. 改善への取り組み
(1)障害者雇用促進の取り組み体制
①障害者雇用推進専門職の設置
「障害者雇用の機会を拡大することは企業の社会的責任である」を基本コンセプトに置き、人事部に障害者雇用推進専門職(以下「専門職」という。)を配置し、障害者の職域開拓、採用、教育、ケアを人事部で一元的に担当することとした。

②障害者雇用推進員・障害者職業生活相談員の充実
雇用推進員及び職業生活相談員は5名体制に充実し、日々研鑚を積み重ねている。
③障害者雇用推進業務のフロー
職域の開拓1:各職場での障害者雇用の可能性を専門職が調査

職域の開拓2:当該職場長に障害者の充当を説明

職場長と協議し了解を得る

ハローワークへ求人の申込み

専門職が職場又はハローワークで面接(注1)

採用又はトライアル雇用

定着へのフォロー:教育、定点面接など
(注1)ハローワークでの面接の場合は動画ビデオで現場を再現して説明する。
(2)職域開拓
進めた主な方策は次の3点である。
① 健常者が就業している業務の全部又は一部で、障害者が代替できる可能性のある業務を予め洗い出し、職場長と協議了解を得ておく。(人事部専門職が担当する。)
② 欠員による補充又は新規増員の場合は、第一に障害者の充当を優先して考慮する。
③ アウトソーシングした業務で障害者の就労で、可能なものは直接雇用に切り替える。
④ 当社での障害者雇用促進事例を関連子会社へ水平展開する。


(3)教育訓練・定着へのフォロー
① 専門職による障害者就業作業の検証
障害者に同伴し、専門職自身が当該作業に就労して業務内容を体得し、与えた作業内容が当該障害者に適正か否かを見極める。専門職自身が体験することにより、個々の作業に係る標準時間の設定や、『作業標準』の作成のための参考にするねらいもあるという。

② 『作業標準』の作成及び教育訓練
障害者従業員が就業する業務の『業務予定表』(『作業標準』に相当する。)を専門職が各人毎に作成し、作業者が体得するまで訓練する。『業務予定表』には、始業から終業までの全ての作業に係る作業時間・作業開始終了時刻・作業場所・作業方法・段取り方法・作業用具等を定めている。教育訓練に当たっては、職場長や必要と考える場合にはジョブコーチの助言・指導を得ている。また、『業務予定表』に該当しない仕事は、障害者への負荷を増し事故に繋がる可能性を排除するため、絶対にさせないこととしている。
③ 定点面接の実施
障害者が業務上(時には私生活上)困っていること、不満に思っていること、希望していること等を忌憚なく発言できる場をセットし、モチベーションの維持向上並びに職場への定着を図っている。
開催頻度は2か月に1回、担当は専門職、及び障害者職業生活相談員が担当し、必要によりジョブコーチに同席を依頼する。

(4)多様な就業形態・就業時間
フルタイムか、短時間か、あるいは変則勤務かについては、障害者の希望、適応能力、通院事情等を考慮し、障害者が持続可能な就労形態を優先して決定する。勤務形態・勤務時間の事例として、①月、火、水曜日は4時間勤務、木、金曜日は7時間勤務のケースや、②週1日勤務のケースなどがある。
(5)職場環境及び設備の改善
全社のバリアフリー化、玄関スロープ、エレべーター、障害者用洗面所等の設置は必要な箇所から随時実施し人にやさしい職場へと設備改善や環境整備を図った。過去5年間に、玄関スロープは本社、石川、飯田(長野県)、須坂(長野県)の4箇所に、障害者用洗面所は本社及び石川の各事業所に設置した。

(6)社外資源の活用
障害者雇用に係る公共支援機関からの支援・助成は積極的に活用した。
・ 求人やトライアル雇用:公共職業安定所
・ 就業支援ワーカー・ジョブコーチの支援:各県障害者就業・生活支援センター
・ 障害者就業に係るモデル事業所の見学:(社)富山県雇用開発協会
・ 各種助成金(障害者作業施設設置等助成金、障害者福祉施設設置等助成金、障害者介助等助成金等):管轄の各県雇用開発(支援)協会
4. 改善の効果
(1)効果
①障害者の職域が広がりこの5年間に障害者雇用数が大幅に増加した。
下の表は障害部位別職種別の就業状況である。(平成20年1月1日現在)
心臓 | 腎臓 | 聴覚 | 視覚 | 音声 | 肢体 | 知的 | 精神 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
管理職 | ○ | ○ | ||||||
製造スタッフ | ◎ | ○ | ||||||
物流スタッフ | ||||||||
倉庫管理 | ◎ | ○ | ||||||
リフト | ||||||||
事務 | ◎◎◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎○ | ○ | ||
営業スタッフ | ||||||||
テレセーラ | ○ | |||||||
リサイクルライン | ○ | ○ | ||||||
リサイクル外勤 | ○ | ○ | ||||||
清掃スタッフ | ◎ | ○ | ○ | ◎◎○○ | ||||
炊事スタッフ | ○ | ◎ | ○ |
赤丸は中途障害者、◎◎は重度障害者を表す。
(参考)障害者雇用率は、親会社(北陸コカ・コーラボトリング(株):3.14%)連結子会社8社を含めた合計:2.90%。
②障害のハンディに抵触しない仕事を与えれば生産性は落ちない。(できない仕事を押し付けると生産性がおちる。)」ということが実証され、かつ、それが全社から理解されて「よくやってくれている。」という評価を得、障害者雇用推進業務がたいへんやりやすくなった。
(2)目標
「障害者雇用率を達成したからそれで良いというものではなく、困っている方も未だたくさんいらっしゃることなので雇用率に拘らず今後も企業グループをあげて障害者の雇用促進に向けて取り組みを継続していきたい」(山岸取締役総務人事統括部長談)

執筆者:社団法人富山県雇用開発協会 高年齢者雇用アドバイザー 大代 武
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