安定した障害者の雇用管理
- 事業所名
- 東京エレクトロンAT株式会社
- 所在地
- 山梨県韮崎市
- 事業内容
- 半導体製造装置及びFPD製造装置の開発及び製造
- 従業員数
- 1,468名
- うち障害者数
- 21名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 ヘルスキーパー 聴覚障害 3 エンジニア、製造、事務 肢体不自由 12 マネージャー、エンジニア、受注手配、一般事務、管理部門 内部障害 5 一般事務、管理部門 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の内容
東京エレクトロングループは、半導体製造装置、FPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置のリーディングサプライヤーである。
東京エレクトロングループの中で製造メーカーとして中核を担うのが東京エレクトロンAT(株)である。富士山と八ヶ岳に囲まれた山梨県韮崎市と、日本三景の一つである宮城県松島町に製造・開発拠点を置いている。
変化の激しい半導体業界で競争を勝ち抜くには他社より常に半歩先を目指して優位性を保持していかなければならない。そのためには、「原点(基本的なこと)を見つめ直し、問題があれば改めること」、「新しいことに挑戦し続けるため、常に学ぶこと」、そして「迅速に決断、開発、設計、調達、製造を行うこと」が重要である。これは、代表取締役 原 功三氏の基本理念であり、社員はそれに向かい日々全力で仕事に取り組んでいる。
東京エレクトロンAT(株)では、地球規模での環境に配慮した生産体制を確立するために、環境マネジメントシステムの国際規格である「ISO14001」の認証を取得した。また、地域社会と連携し、信頼関係の構築にも努めている。なお、東京エレクトロングループでは、2000年度以来毎年「環境報告書」を発行し、環境・健康・安全への取り組み、社会貢献活動の成果について報告している。
国内の事業所は次のとおり。
事業所:本社/山梨県韮崎市
本店/宮城県松島町
宮城事業所 松島地区/宮城県松島町
山梨事業所/韮崎市内2ヶ所
関西テクノロジーセンター/兵庫県尼崎市
(2)経営方針・経営理念
東京エレクトロンAT(株)は、東京エレクトロングループの中核を担い、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置の開発から製造までを、一貫して行っている。
東京エレクトロンAT(株)の使命は、継続した技術イノベーションで世界最先端の装置を供給することであり、地方から世界へ向けて発信し、これからも世の中に役立つ製品を作っていくこととしている。
また、東京エレクトロングループでは地域社会と連携し信頼関係の構築に努めている。大学や研究機関と連携し、産学官一体となった研究開発を推進すると共に、地域社会貢献の面では、地元の雇用推進や公共施設の清掃ボランティア活動にも積極的に取り組んでいる。これからも、地域社会における企業の使命・役割を常に念頭に置き、地域の皆様とともに歩んでいきたいと考えている。
(3)組織構成
大きくは、開発部門、生産部門、品質部門、管理部門で構成されている。
(4)障害者雇用の理念
現状の体制の中で、障害者の安定雇用並びにモチベーションを高められるような障害者雇用を実現するという思いで取り組んでいる。特に、障害者も健常者も関係なく、仕事を通じて達成感や自己実現を図ってもらいたいと考えている。
したがって、障害の有無にかかわらず、他者に依存することなく自律的かつ自己責任において、モチベーションの継続、自身の成長を促す仕組み等、このような体制をとっている。
また、上記の経営方針にあるとおり、地域社会貢献としての雇用推進の一環として、障害者雇用にも取り組んでいる。これらは、結果としてノーマライゼーションの実現に他ならない。

2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ
ハローワークからの指導もあり、数年前から障害者雇用を重点的に取り組んできた。特例子会社を作ることも選択肢の一つだったが、上記の障害者雇用の理念にあるとおり、地域社会貢献として障害者に雇用の場を提供することもきっかけとなっている。
また、中途採用での雇用が多く、経験を大切にしている。雇用した以上は、定年まで勤務することが前提となるので、何回もの面接を通じて採用されることとなる。
なお、ハローワークからの紹介を中心とした障害者雇用が多くなっている。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
期間、場所、時間、賃金等健常者と全く同じ労働条件であり、区分はない。
(2)仕事の内容
複数の障害者が雇用されているので、主な仕事を紹介する。
①へルスキーパー
②エンジニア
③製造(受注手配、組立)
④一般事務
⑤マネージャー
⑥管理部門




(3)労務管理の工夫
○雇用管理面について
障害の種類によって雇用管理上の工夫が異なっているので、障害別に紹介する。共通しているのは、仕事等が原因で退職した者は一人もいないという点であり、定着率は100%となっている点である。また、契約社員からスタートして正社員化する制度もあり、この制度を利用して転換した社員が数名おり、実績も残している。
①視覚障害者
ヘルスキーパーの技能職として活躍している。施術に必要な設備や器具をそろえ、またコミュニケーションをとることに心掛け、仕事をしやすい環境を用意している。
②聴覚障害者
エンジニア職・製造(受注手配、組立)・一般事務のポジションで活躍している。社員の中にも手話を勉強している者がおり、コミュニケーションを図るようにしている。また、ボードの活用など筆談も大事にしており、メールやチャットも日常的に活用して円滑な意思疎通を図っている。
③肢体不自由者
事務所・建屋内は完全バリアフリーを実現しており、駐車場についても、最も入口に近いところを指定し、仕事をしやすい環境を整備している。
④内部障害者
腎臓疾患の社員には、労働時間内に個室を付与し透析できる環境を整備している。また、心臓疾患の社員には、無理をさせない労働時間の配慮、業務の質・量等をコントロールしている。
○設備・職場環境について
肢体不自由の社員に配慮し、安全で快適に職業生活が送れるよう、基本的な部分での整備を心掛けている。
①完全バリアフリー化(スロープ、エレベーターを設置)
②T字路などの死角において、一目で対向者の有無が識別できるようにミラー設置


③バリアフリーのリラクセーションスペースを確保
④障害者用のトイレを設置
4. 取り組みの効果
障害者を雇用することにより、次のような効果が見られている。
①社員は障害がある社員の働く姿、頑張る姿勢に刺激を受け、仕事に対する意識改革が生まれた。
②会社の貴重な戦力として今後も継続雇用する、そして積極的な採用活動を行う会社の姿勢が生まれた。
③職場内でのコミュニケーションが向上し、和が育まれている。
④職場全体の雰囲気がより明るくなり職場環境が変わった。
⑤自然発生的な「思いやりの心」を通じて、社員の人間的な幅の広がりが感じられる。
⑥階段や段差を回避するためのスロープやエレベーター、安全通行のためのミラーを設置することは、働きやすい職場環境作りの対策であり、会社に対する安心感や信頼感の向上に直接結びつくものと考えられる。
なぜならば、障害者が作業し易い環境を整備するということは、障害者だけではなく、高年齢者や女性にとっても快適に作業を行える、職場環境の改善につながるからである。
また、取り組みの効果をまとめると次のようになる。
障害者を雇用することによって、社員の協調性や思いやりの心等の気持ちが育まれ、人間的成長が促されている。また、職場の雰囲気がよくなることは、障害者だけではなく会社全体の作業環境の改善、向上につながる。
対外的には、地域社会貢献やCSR(企業の社会的責任)の観点から障害者雇用を高く評価されることにより、企業のイメージアップやブランド力の強化に大きく貢献することになる。
5. 助成金の活用
助成金等については、障害者介助等助成金(手話通訳担当者の委嘱助成金)、特定求職者雇用開発助成金、障害者作業施設設置等助成金(第1種作業施設設置等助成金)、を受給した。
これらの助成金は、障害者雇用をコスト面でバックアップするものであり、非常に効果的な制度と考えられる。
6. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
全国に事業所を展開しているため、CSR(企業の社会的責任)からの各地域雇用として均等に障害者を雇用することが求められている。
また、少子高齢化による労働力不足への対応や、コンプライアンス(法令遵守)の観点からの障害者法定雇用率達成維持のためにも、障害者雇用の充実が課題と認識している。
(2)対策・展望
上記課題の対応として、障害者の継続雇用の充実が考えられる。障害者の定着率がほぼ100%の中で、さらに継続して雇用できるように職場環境等の整備を進めていきたいと考えている。
また、2010年4月に宮城県(大和町)に新拠点を立ち上げる。今後も仙台と山梨で積極的に採用活動を行っていく予定がある。
(3)総括
今後も、継続的に障害者を採用・雇用し、障害者の雇用管理に関しては、健常者と区分することなく、全く同じように扱うことが当たり前であり、社員・従業員としての立場には障害の有無は関係ない、これからもこの理念が大前提となっている。ある面では厳しいとも受け取られるかもしれないが、まさにノーマライゼーションの実現であり、障害を意識しない採用・雇用がここに存在している。
最後に、直属の上司の談話を紹介する。障害がある部下について「会社の仕組みを活用して生き生きと仕事をしています。そして、どんどん能力を伸ばしています」とのことであり、仕事を通じ自己実現を図るという障害者雇用の理念が、確実に実を結んでいることが伝わってくる。
執筆者 : 雨宮労務管理事務所 社会保険労務士 雨宮 隆浩
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