事業所名

東洋ハーネス株式会社

所在地

三重県松阪市

事業内容

自家用車ワイヤーハーネス及びハーネス外装部品の製造

従業員数

199名

うち障害者数

5名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	3	試作補給グループにおける部品調達等、ABS組立グループにおけるライン作業、加工グループにおける圧着作業
肢体不自由	2	加工グループにおける補助作業、圧着作業
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. はじめに
2. 職場環境における取り組み
3. 作業環境上の配慮や工夫について
4. 障害者雇用拡充の要因について
5. 今後について

事業所外観

1. はじめに

東洋ハーネス株式会社（本社松阪工場）（以下、当事業所）は、住友電装グループの一員であり、その基本理念や経営方針はグループの理念や方針と同じものとされている。基本理念の中には「社業の繁栄を通じて地球社会に貢献します」ということが挙げられており、これが社会貢献の根拠となり、障害者雇用における理念にもなっている。それ以外にも障害者雇用拡充の素地となったものがあり、「個性を尊重し活力溢れる明るい企業文化を育みます」という基本理念が一人ひとりの状態から従事可能な職務の構築がなされている。また「障害者の雇用の促進等に関する法律」の法定雇用率の遵守も一定の障害者を雇用する根拠となっている。

当事業所では自家用車ワイヤーハーネスの製造やハーネス外装部品の製造及びその物流等が主な業務とされている。ハーネスは車の種類によって共用があまり利かず、多品種を抱えることになる。また車の売れ筋によって注文の変動が大きいことから、変動の大きな多品種生産について、従業員の対応に熟練が求められることが課題として挙げられていた。

当事業所では5名の障害のある従業員を雇用しており、それ以外に松阪東工場においても2名を雇用している。当事業所における障害のある従業員はそれぞれの職務適応性に配慮し配属がなされているが、試作補給グループ、加工グループ、ABS組立グループにそれぞれ分かれて配属されている。障害の種別としては、聴覚障害3名、四肢麻痺1名、両下肢の障害1名となっている。このうち3名は正規職員であり、残り2名はパート従業員となっている。

障害者雇用に取り組むきっかけについての詳細は当時の担当者が退職しているために不明であるが、昭和49年頃からすでに雇用されているとのことであった。現在は障害の程度等を勘案し、本人に出来る仕事があるのかどうかについて工場見学を通して検討してもらい、本人に判断をしてもらっている、とのことであった。採用の経路としては公共職業安定所からの紹介となっており、特に職場実習等は実施せずに採用をしている。ただし今後については、グループ会社にてトライアル雇用を実施しており、その結果により当事業所においても有効であると判断されればトライアル雇用の採用を検討したいとのことであった。

2. 職場環境における取り組み

当事業所独自の障害者雇用における取り組みには、聴覚障害者雇用の初期段階において公共職業安定所を通じて手話通訳の派遣を依頼したり、現在試作部門に配属されている聴覚障害のある従業員については、手話の出来る従業員を配属する等の配慮を行なっている。ただ、だからといって他の従業員とコミュニケーションが図れていないわけではなく、筆談によるコミュニケーション方法も活用されている。そのほかにも駐車場の整備や階段への手すり設置、トイレの改修、エレベーターの使用等、職場環境の改修や目的外使用の許可など、可能な限り柔軟な方法で対応をしている。トイレの改修については助成金を活用しているが、その他の小額の改修については当事業所の負担によってなされている。

また、作業環境の改善についても取り組み、従来であれば立って作業する工程を座って作業できるように改善することで、両下肢に障害がある従業員であっても、その職務適性に応じた作業が可能となっている。

手すりが設置され、改修されたトイレ

3. 作業環境上の配慮や工夫について

障害がある従業員が増加するにつれ、他の従業員に地球貢献というグループ基本理念が浸透するようになったことが取り組みによる副次的な効果であるとされている。このように当事業所が障害者雇用に取り組むことが出来る背景には、そもそも作業工程そのものが多品種生産であり、頻繁にその業務内容が変化するために、職場内の環境の変更について、他の従業員を含めて柔軟に対応するという素地が形成されていることが挙げられる。固定された体制内であれば、新たに採用した従業員のために職場環境を変更したりすると、それだけで特別視されることがあるが、職務そのものが変化に富む当事業所では、そのような心配が無いということが考えられる。その証拠として、他の従業員からこれまでに、障害のある従業員の職務内容等に対する苦情が挙がってきていないことが挙げられる。

職務内容としては、試作補給グループでは部品の調達、ABS組立グループではライン作業に従事している。これらの作業では作業指示書があり、その作業指示書に基づいて行動をすることが求められている。言葉を変えると、この作業指示書の内容が理解できて、その通りに実行することが出来れば、障害の有無に関係なく作業が遂行できるのである。加工グループについても同様に作業指示書があり、従事している作業としては加工の補助作業、圧着作業とに分かれている。圧着作業に従事する従業員の一人は、両下肢に障害があるため、座って作業を出来るように作業台を設置し、そこに圧着用の道具を据え付けている。

これら職務配置の基本的な考え方に、人に合った仕事を創出することが挙げられている。これは社長方針にある「破壊的創造を常に考える」から派生してきているもので、「創造するという気持ちで仕事を見直す」や「過去にとらわれず合ったものに変えて行く」というような言葉で表されている。障害がある人に自身で出来そうな作業を考えてもらうことはもちろんであるが、その従業員にとって継続して働くために必要な作業環境の変更は、会社として取り組むという姿勢の現れであると考える。

圧着作業場での作業環境改善例（大きな力を加えなくても圧着が出来るように作業台にスイッチ等が設置されている）

4. 障害者雇用拡充の要因について

雇用の条件については他の従業員と同じで、給与水準や勤務時間など特別の配慮が必要な方がいないということも理由として考えられるが、現時点ではこの方法で問題等は挙がっていないとのこと。昇給についても同様とされている。ただし、分社化された他の工場では短時間雇用の従業員が2名おり、勤務形態に融通が利かないわけではない。雇用管理についてはグループごとの班長が現場レベルで行い、次いで工場長がとりまとめ、総務部に上がっていくシステムとなっている。

作業環境については、ISO9001を取得していることや、自動車メーカーの製品を請け負っているために品質管理が厳しいこと等もあり、生産技術改善担当と呼ばれる従業員が配置されている。このため、必要な改善は随時行なわれていることも、障害者雇用に少なからぬ影響を与えているのではないかと考えられる。

外部の公的な機関との連携について、公共職業安定所とは障害者の紹介をしていただいた後は、特に雇用保険などに関する以外では連携をとっておらず、地域障害者職業センターとも特に連携をとっているようなことはない、とのことであった。養護学校との連携は当事業所ではないが、他の事業所では実習の受け入れを行なっている。福祉施設との連携については市内の1カ所のみであるが、作業委託をしている状況である。

5. 今後について

今後の展望として、当事業所における現状から、法定雇用率を達成していることを考えると、新たな障害がある従業員の採用は考えにくいとのことであった。しかしながら分社化した工場等では知的障害者の雇用に取り組むなど、その工場に応じた雇用の方法を模索している段階であり、グループ全体での雇用拡大に期待が寄せられる。

当事業所におけるこれまでの雇用拡大について、法令や企業理念に対するコンプライアンスの徹底が考えられるが、企業として社会的責任を果たすという明確な意思を企業経営者が持ち、それを現場の従業員が受け入れて、それに応じた職場環境を構築してきたことが大きな要因となっていると考える。

執筆者 ： 湊川短期大学  人間生活学科  生活福祉専攻
専任講師  尾崎  剛志