働く人にやさしい企業として
- 事業所名
- 株式会社神戸製鋼所大安工場
- 所在地
- 三重県いなべ市
- 事業内容
- 非鉄金属製造業
- 従業員数
- 440名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 現場事務(1)、一般事務(3) 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. はじめに
株式会社神戸製鋼所大安工場(以下、当事業所)は、神戸製鋼所(本社、兵庫県神戸市)アルミ・銅カンパニーの製造拠点であり、現在は自動車分野、航空機分野、半導体・液晶分野等の多岐に渡る製品の鍛造・鋳造品・機会加工品を生産している。1937年に航空機鋳鍛造品の専門工場として名古屋に設立され、その後1992年には現在の場所に工場を移設し、1995年より全面稼動している。
平成19年11月末日時点での従業員(正社員)はおよそ440名と派遣職員が約30名在籍している。また、障害のある従業員(以下、障害従業員)は4名在籍している。神戸製鋼所全体の障害者雇用率は2007年度で2.12%となっており、大安工場のみでは2.66%となっている。
障害者雇用を進めるにあたっての企業の考え方として、『企業の社会的責任として法定雇用率を達成し、労働の場を提供するとともに、人権を企業文化の一つの柱として、障害者との共生・自立支援を行い、お互いの立場を尊重し認め合う安心で安全な明るい職場づくりを目指す』ことを挙げられていた。グループの企業理念として、『信頼される技術、製品、サービスを提供します』『社員一人ひとりを活かし、グループの和を尊びます』『たゆまぬ変革により新たな価値を創造します』と掲げており、法令順守だけではなく、人権に配慮することに踏み込み、障害のあるなしにかかわらず、一人ひとりの従業員を大切にするという姿勢が訪問して、担当の方と話を聴く中で感じられた。
2. 取り組みの経緯・背景
当事業所においては、平成16年に正社員として1名の障害のある人を採用したが、それまで障害者雇用を積極的に進めてきたということはないとのことであった。その背景には、中途障害を持つ人の存在が挙げられる。これまでは従業員の中に私生活や業務において病気や怪我をし、その結果として後遺症が残ったために障害のある従業員がいた。しかし、近年では怪我をする人も減少し、そのような従業員が定年退職を迎えるために、法定雇用率を下回るような状況が見込まれたので、新規で障害のある従業員を採用するに至ったとのことであった。このときは公共職業安定所からの紹介で、面接・筆記試験をして採用をしたとのことである。この時には特定求職者雇用開発助成金を受けるための手続きを取っている。この方を受け入れるにあたり、本人と共に工場内の安全担当者や設備担当者、人事労務担当者が入社前に施設点検を行い、働く際にバリアとなる箇所の洗い出しをして、改善方法について話し合いの機会をもっている。またその結果に基づき必要な箇所の改造を実施している。このときには障害者作業施設設置等助成金や福祉施設設置等助成金等の助成金を活用したとのことであった。受け入れるからには、その人に働きやすい環境で長く働いてもらいたいという企業側の考えが現れている。
新規採用者に対しては、導入教育と呼ばれる研修が行われており、1週間程度の規律訓練(動きや服装など)や企業理解のための座学などがある。その後は専任のOJTリーダーと呼ばれるフォロー担当が付き、受け入れ職場において業務に必要な職業教育が実施されている。
平成17年にも2名の障害のある従業員を採用しているが、両名共に社会経験があったために、簡単な導入教育を行なってから職場に配属をしている。昇給や昇格は他の社員と同じ基準により適宜実施されており、また、Off-JTにおける研修等は必須研修の他、希望や法令改正等に応じて、全従業員に対して適宜研修を受ける機会が確保されている。
3. 全体的な取り組みの内容
先にも書いたが、障害のある従業員の受け入れが決まってから、本人と共に改善が必要な箇所を洗い出し、段差の解消や多機能(障害者用)トイレ設置、手すりの設置、扉を自動ドアに変更、車いす用駐車場の設置などを行なってきた。しかしながら、実際に職務に従事することにより、また、社会経験のある従業員が加わったことにより、細かな点で気づかなかった点や、遠慮をして言わなかったことが挙がってくるようになり、それらにも対応し、改善をしているとのことであった。全体の話として、障害のある従業員にとって使いやすい仕様に職場を改善していくことにより、使いやすくなり、全従業員の労働環境も向上している事が挙げられる。また、職場内での安全や作業環境の改善に気を配るようになり、互いに相手を思いやる姿勢が見えるようになったとの話があった。
他にも物理的な配慮だけでなく、作業の方法で本来は効率的・効果的な方法が求められるのだが、障害のある従業員が時間を要しても、本人のペースで、ミス無く作業を進めることが出来るように配慮をしている。加えて、食堂が混み合うので食事の時間を早目にずらしたり、必要なリハビリ等に通うために業務内容を調整したりする等の配慮が行なわれている。また、神戸製鋼所として取り組んでいるメンタルヘルスの維持向上のために設置されている「なんでも相談室」も重要な役割を果たしていると考えられる。

4. 具体的な環境整備

具体的な職場の改善として、事務職として業務に従事していることから、事務機器や文具の改善が挙げられる。上肢に十分な力をかけることが出来ないために、パンチの柄が長いものを使用したり、電動ホッチキスを設置したり、文字を書く量を減らすために、よく使う用語についてはゴム印にしたりして改善が図られている。さらに出勤従業員の状況を一覧にしたホワイトボードも、車いすを利用している障害のある従業員が利用しやすいように高さを変更する等の配慮がなされている。また、職場の品質保証部門に属している従業員は、工場内を移動しなければならないため、工場内移動専用の車いすをオーダーメイドで購入している。
OA機器については、コピー機が車いすでは使いにくいことから、コピー機能のパーツと印刷機能のパーツを分離し、車いすであっても使いやすい高さに変更している。パソコンに接続されているプリンターも従来使用されていた台の高さが車いすに合わないことから、高さを低く調整している。これ以外にも社内キャッシュディスペンサーの液晶画面も車いすの高さからは見えにくいことから、モニターを別に設置して操作パネルを写し出す工夫をする等により、利便性の向上を図っている。



通勤面では、1名がバスを利用しているが、他の3名に関しては自家用車で通勤をしている、その3名の従業員用に専用スペースが設けられている。通常であればスペースだけであるが、雨の日に乗り降りが大変であるということから、屋根が設置され、さらにその屋根は職場の棟まで続いているので、雨の日でもほとんど濡れることなく出勤することが出来るように配慮がなされている。また1名は社宅の利用希望をしていたが、バリアフリー仕様ではなかったために対応困難ということになり、車いすでも生活しやすい物件を社宅として借り上げるなどの対応がなされている。これらの改修や設備・備品の購入に関する費用の一部には障害者雇用納付金制度に基づく助成金を利用しているとのことであった。
当事業所におけるこのような配慮は、障害のある従業員に対する特別なものではなく、必要な配慮を必要な人に対して行なうという考えのもとに行われており、その結果として、他の従業員にも私傷病により一時的に配慮が必要な従業員に対し、同じような配慮がなされている。これまでは人がその職場環境に合わせるということが絶対であったが、人に合わせて職場環境を変えていくことが働きやすさにもつながっている。
5. 障害者雇用が継続している要因
当事業所が障害者雇用を継続している背景には、企業理念や法令順守というものが大きく影響を与えていることは言うまでもないが、一般社員と上司との関係が良いという、当事業所の企業風土を挙げることが出来る。これは障害者雇用に限定した話ではなく、採用した従業員の定着率が良いことからも窺うことが出来る。従業員の意見をよく聴き、それを取り入れることの出来る企業の風土が障害者雇用継続の要因であると考えられる。その他にも、障害のある従業員の採用を前に、受け入れ職場の従業員を対象に障害者理解を深めるための研修を行なっている。
職場においては、このような取り組みを通して、必要な配慮はするが、特別扱いをする必要が無いということを全従業員に対し徹底したことも、障害のある従業員の働きやすい職場環境につながっていると考えられる。
今後の展望としては、欠員補充の必要性があれば前向きに検討をしたいということであるが、採用にあたっては事務職の場合は電話応対が可能であることやパソコンの使用が可能であること、文字を書くことが出来る等の基準をクリアできれば検討するとのことであった。
6. 最後に
障害の有無に関わらず、従業員にとって働きやすい事業所である。働くための環境を整備し、その従業員の能力を最大限に引き出すことが、事業所にとってもっとも経営効率がよいという考え方があるようである。
もちろんそのためには先行投資が必要であり、財政基盤が十分でなければ実行困難なものも多いが、障害のある従業員のみ恩恵が限定されているものばかりではないので、ユニバーサルデザインを念頭に置いた職場環境の改善が今後は重要になってくるという事例であろう。
執筆者 : 湊川短期大学 人間生活学科 生活福祉専攻
専任講師 尾崎 剛志
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