高次脳機能障害の雇用および職場定着に向けたとりくみ
- 事業所名
- 株式会社ミドリ電化
- 所在地
- 兵庫県尼崎市
- 事業内容
- 一般家電製品、AV機器、DVD/CD、玩具・ゲーム機等の販売
- 従業員数
- 2,960名
- うち障害者数
- 51名
障害 人数 従事業務 視覚障害 3 販売、店舗サポート 聴覚障害 4 販売、店舗サポート、事務 肢体不自由 19 販売、店舗サポート、事務 内部障害 12 販売、店舗サポート、事務 知的障害 11 清掃 精神障害 2 清掃 - 目次

1. 事業所の概要
一般家電製品、AV機器、家具インテリア、DVD・CD、玩具・ゲーム等を主に販売しており、関西に77店舗、関東に2店舗展開している。
Iさんが働いているY店は、大阪の南に位置しており、駅からは少し離れているものの、店舗周辺にはスーパーやレストラン、ドラッグストア等がそろっているため、とても便利な場所にある。車で買い物に来るお客様が多く、店舗には広い駐車場を用意しており、店内に入ると元気な挨拶で店員の方々がお客様をあたたかく迎えてくれる。また、お客様の声を積極的に取り入れた店舗づくりを行っているだけあって、ベビーカーや車いすの方でも快適にお買い物がしやすくなっている。
2. 障害者雇用の経緯、背景、考え
小売業という形態であり、常にお客様とのコミュニケーションが必要な業務内容が中心となる。そういった理由から従前は身体障害者の雇用しか行っていなかった。しかし、公共職業安定所の担当者等の助言により、昨年から職務内容を増やし(清掃業務)、現在は身体障害の方以外の採用も積極的に行っている。確かにコミュニケーションを取るのが苦手な方もいるが、じっくりと落ち着いてお話しすることができれば、社内でのコミュニケーションを取ることはできる。ただし、対お客様となるとじっくりと、とはいかないので、業務に当たる際は「cleen staff」とゼッケンを着けて店頭で仕事している。
ほぼ関西の全域で出店しており、目標は「全店での雇用」を掲げ、今後も積極的に採用活動を実施していく予定である。
3. 取り組みの内容
(1)経緯
就業支援ワーカーが、Iさんと就職活動を続けている中で、JOBプラザOSAKAから電化製品販売店にて清掃作業の募集があるとの話があり、本人もやってみたいということだったので、すぐに応募をした。その後、支援者もIさんに同行して本社人事担当と面接をし、その際に支援者からIさんの障害特性を説明した。そして、Iさんが実際にどの程度の作業ができるのかを判断してもらうために、雇用を前提とした職場実習から行うことになった。実際の実習場所となる店舗は、Iさんの居住地周辺で、かつ専属でIさんの指導担当をしてくれる方がいるほうが良いということで、Y店に決定した。
(2)作業内容の設定
電化製品販売店のため、お客様と接する機会が多いのだが、レジや接客等は臨機応変さや商品知識を問われるため、本人の障害特性から考えて難しかった。そこで、店舗内外の清掃であれば、真面目にきっちりと作業をこなすIさんに向いているということで、清掃作業に従事することになった。具体的な作業内容は、店舗内のモップがけ、窓拭き、店舗周辺の草刈等である。
(3)従業員への周知
実習開始前に、支援者から店舗マネージャーへIさんのもつ高次脳機能障害の特性を説明し、今まで企業実習を通して見えてきた本人の行動や、それに対する対応を伝えた。また、てんかん発作に関しては、会社の方に高所での作業、車の運転等、主治医から禁止されている事項を伝え、それらの作業は避けるようお願いした。それら事項は、店舗マネージャーから他従業員の方へ伝えることとした。
(4)職場実習
Iさんの障害は、特に新しい情報やエピソードを覚えることができなくなる記憶障害が目立つため、新しいことを覚えるのに時間がかかるので、まずは実習から始め、時間をかけて作業を覚えてもらい、Iさんの能力を見極めた上で採用かどうか判断してもらうことになった。
(5)配慮したこと
職場実習は月曜日~金曜日までの週5日勤務なのだが、週明けは作業手順や店舗内の場所(トイレや用具入れ等)を忘れていることが多いため、週明けにIさんが場所がわからず戸惑っている様子であれば、声かけをしてもらった。また疲れがたまると、てんかん発作が起きやすいため、職場実習開始から1週間は午前中だけ作業を行い、慣れてきたら徐々に作業時間を増やすというように、本人の体に負担がかからないように進めていった。
(6)課題に対する取り組み
①作業内容を覚える
職場実習開始から2週間ほどは、支援者がIさんに付き添って一緒に作業を行い、その中で見えてきた本人の課題を整理し、時間をかけて対応していった。例えば、作業中に持ち場を離れて戻ってきたら、どこまで作業をしたのかわからなくなり、作業手順をすぐに忘れてしまうという状況だったので、まずはIさんに指示・注意されたことや持ち場を離れる際にはどこまでやったかメモを取り、戻ってきたら確認をするよう促した。また、店舗内の掃除の手順もエリアごとに番号をつけて、その番号通り順序良く作業を行った。初めは、メモを取ることさえ忘れていたのだが、その都度メモと確認の重要性を説明するうち、自らメモ・確認を行い、スムーズに作業を進めることができるようになっていった。また、Iさんに実習日誌を用意し、その日の業務内容や、注意されたこと、明日の目標等を書き、毎日の振り返りをしてもらった。
②お客様への対応
接客はIさんの業務外とはいえ、店舗内で作業をしていると、どうしてもお客様から声をかけられることが多い。内容は、商品の場所を尋ねられることがほとんどだが、Iさんのあいまいな記憶で案内してはいけないので、お客様からの質問はすぐに近くにいる他の従業員につなげるよう、対応している。
![]() 店内のモップがけ① ![]() 店内のモップがけ② ![]() 店舗周辺の草刈作業① | ![]() 掃き掃除 ![]() 店舗周辺の草刈作業② |
(7)障害者就労支援制度の活用
雇用に至るまでに、大阪障害者雇用支援ネットワークが大阪府の委託を受けて行っている、インターンシップ制度を1ヶ月間利用した。Iさんは、過去の職歴の中で清掃作業を経験したことがなく、Iさん自身にその仕事ができるかどうか判断してもらう意味で、そしてIさんの障害特性から作業を覚えるのに時間がかかるという理由で、インターンシップ制度の利用はとても意味あるものだった。また、会社としてもIさんの障害がどの程度のもので、実際の仕事がこなせるかどうかを見極めるために有効な制度利用だった。
(8)健康管理
Iさん自身、仕事中に発作が起こらないように、毎日21:30には就寝、5:30起床といった規則正しい生活を送って睡眠を充分とり、次の日に疲れを残さないようにしていた。そして、てんかん発作予防の薬も欠かさず飲むようにして、自己管理をきちんと行っていた。
(9)雇用後に出てきた課題、対応
Iさんは、雇用後も職場実習期間中と変わらず真面目に仕事に取り組んでいて、特に雇用後に課題が出てきたわけではないが、やはり障害の特性として新しい業務等を教える時に、理解して覚えるまでに時間がかかってしまう。その際、店舗マネージャーはIさんが納得して覚えてくれるまで、根気よく何度もIさんへ説明し、時間をかけて覚えてもらっている。
(10)雇用したことによる社内の変化
Iさんが働いているY店舗では、障害者、さらに清掃担当者としての採用は初めてだが、店舗マネージャーによると、Iさんが来てくれたことで、店舗内が毎日清潔に保たれて助かっているとの発言があった。また、Iさんのできないこと、例えば脚立を使ってエアコンのフィルター清掃等は、他の社員が行っている。そのため、Iさん以外の社員用の清掃メンテナンス表を作成して、それぞれが清掃の部分で何をすべきかを明確化し、Iさんのできない部分を補うようにしている。
(11)就労支援機関とのかかわり
職場実習期間中は、大阪障害者雇用支援ネットワークのコーディネーターと大阪市障害者就業・生活支援センターの就業支援ワーカーで、会社と本人の調整を行っていった。雇用後は、就業支援ワーカーがY店へ時々様子を伺い、Iさん・店舗マネージャーから何か変化や問題等はないか聞き、定着支援を行っている。
(12)今後に向けて人事・店舗担当者から期待すること
今後、会社の方からIさんに期待することは、今の仕事を完璧に覚えて、いち早く一人で仕事をこなしていただけるよう成長してもらい、今の業務のみならず、それ以外の仕事も覚えていって欲しい。また、店舗内の仕事でお客さんと接する機会が多いため、清掃作業も行いながら、元気よく挨拶できるようになって欲しいとおっしゃっていた。
4. 本人からのコメント
Q1:仕事の難しさなど、職場実習前に比べたらどうですか?
A1:店舗内の商品の位置など以前よりは覚えてきて、だいぶ仕事も慣れてきました。前職では、力仕事が多かったこともあり、重いものを運ぶときは、よく頼りにされています。
Q2:自分自身、変化したことなどありますか?
A2:今は、仕事をすること自体がリハビリになっていて、以前よりメモをよく取るようになり、スケジュールや行動の管理が少しずつできるようになりました。
Q3:今後の目標などありますか?
A3: 今の仕事をしっかりこなして、他の業務も任されるくらい、ステップアップしていきたいです。
5. まとめ
高次脳機能障害は、一般的にあまり知られていない障害で、また一見どこが障害かがわかりにくい。支援者から説明を受けたとはいえ、人事の方を含めY店の方々は、具体的にIさんにどのような対応をしたらよいのか、戸惑っただろう。しかし、1ヶ月の職場実習を通して、Y店舗の方々は実際に働く本人と時間をかけて向き合い、障害に対する理解、そして何よりもIさんの真面目で一生懸命に仕事に取り組む姿勢を評価し、雇用に結びつくことができたのだろう。
今後、高次脳機能障害の方からの就労ニーズは増えると予想されるが、それぞれの失われた部分だけに目を向けるのではなく、残された本人の良い部分を活かし、時間をかけて対応していけば、高次脳機能障害の方も働ける可能性はあるのだと実感した。
執筆者 : 社会福祉法人大阪市障害者福祉・スポーツ協会
大阪市障害者就業・生活支援センター就業支援ワーカー 崎原 牧子
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