創りあげたジーンズ製品に「誇り」を感じることのできる職場
- 事業所名
- ブルウェイ株式会社PDセンター
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 繊維製品製造業(主にジーンズ衣料製造)
- 従業員数
- 91名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 縫製仕上作業 肢体不自由 2 縫製作業(ミシン、アイロン、ソーイングオペレーター) 内部障害 0 知的障害 4 縫製作業(ミシン、アイロン、仕上、検査) 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
ブルーウェイ株式会社(本社;広島県福山市)は主にジーンズ衣料を製造し、全国に販売網を広げている事業所である。その製造工場は国内に5ヶ所あり、それら全てが山口県内に設置されている。その工場の一つであるブルーウェイ株式会社PDセンターは、山口市の閑静な住宅地域にその社屋がある。周囲にまだ田園風景も残る静かな環境のなかで、ジーンズ製品が日々製造されている。
当センターは、地域に密着した事業所であり続けることを方針に据えており、地域住民にとって貴重な就労の場となっている。平成19年現在、91名の従業員のなかに障害者が7名含まれており、その全員が安定就労を実現している職場である。
2. 取り組みの内容
ブルーウェイ株式会社PDセンターは、平成18年、他企業との連携のもとで山口発の高級ブランド製品「匠山泊(しょうざんぱく)」の製造に参加した。国内産の最高級素材に丁寧な加工を施すことにより、オリジナルな風格を有するジーンズ製品が当工場で誕生している。障害のある従業員も、この製造の重要な一翼を毎日担っている。
世界的な事業展開が期待できる日本のジーンズ製造の今後、ならびに、障害者雇用の現状について、当センター工場長の岡部泰民氏(58)に話を伺った。岡部工場長は、大学卒業後の昭和49年より当工場に勤務し、現在では当工場における障害者雇用を含め、事業所経営の陣頭指揮をとっている。

(1)地域社会に密着した事業所であり続ける
「近年のわが国では、安い労働力を求めて海外に進出する企業が相継ぎ、国内の空洞化現象が生じました。そのため、企業と地域社会とのつながりは薄まり、かつて日本人が有していた文化や技術の継承は途切れつつあります。私はこの点を大変憂慮しています。当工場は、地域社会や地域住民との共生を第一に考えています。」
製品全てを国内の地域住民の手で製造し、同時に、オリジナルな新製品を市場に送り続けることが、岡部工場長の経営理念である。
「この国内で、国民の手で製造し続けることは、その衣料文化や技術が国民に継承されることを意味します。また、地域社会と深くつながることでもあります。企業と地域は別ものではありません。地域社会と共生する取り組みは、ひいては企業の存続とその発展につながる、と私はとらえています。」
文化の継承のもとで国と地域社会が活性化し、その地域社会から必要とされることで企業は存続できうるという大局観である。目先の利潤の追求に走ることなく、長期的展望のもとで企業戦略を練るという経営哲学の必要性を、岡部工場長は熱く語る。


(2)地域の障害者を雇用する
地域社会には障害のある人々も居住している。地域に密着した企業であることを方針に据える当工場にとって、障害者雇用は自然な選択であったと思われる。当工場には現在7名の障害者が雇用され、就労を通した地域生活を実現している。
(3)“社員雇用”を基本とする
当工場では社員雇用を基本に据えている。現在、9割の従業員が社員雇用契約のもとで働いており、パート雇用はやむを得ぬ場合のみの適用である。当工場で働く障害者7名はその全員が社員雇用である。こうした雇用方針ゆえ、当工場には勤務年数10年を超す従業員が多く、なかには35年を超す従業員もいる。障害のある従業員の勤務年数としては、長い人で約20年、短い人でも7年(平成19年現在)である。
障害者の安定就労にとって、周囲の従業員の勤務年数が長いことは心強い。共に就労生活を続ける過程で、互いの理解が進み、深まることが期待できよう。従業員の障害のこと、触れてはならないこと、望ましい接し方などを時間をかけて共に学び合うことにより、共存するための知恵が育まれ、このことが当工場での安定就労を促していると思われる。
(4)同一職場単位への障害者配置を“1人”とする
「同一職場単位に障害者を2人以上配置すると、障害者の間に心の甘えの生じることがあります。私たちは障害のある従業員に特別な対応をしませんので、心の甘えが職場内で生じては困るのです。厳しい言い方になるかもしれませんが、障害のある人たちにも、この職場で努力してほしいのです」と岡部工場長は語る。
持てる能力を精一杯発揮するには、人間関係上の甘えを断ち、目標に向けて真摯に努力しなければならない。健常者と障害者とが互いに切磋琢磨する雰囲気を職場内に育て、従業員の能力を発揮させていきたいという岡部工場長の願いが、この障害者1人配置という方針につながった。

配置
(5)原則として、製造の全工程を体験させる
当工場では約40の工程を経て、ジーンズ製品が製造されている。そこで、原則として全従業員に対し、これら全ての工程を入社時に体験させている。障害のある従業員も、原則としてその対象に含まれる。一人一人の得手不得手を確認できれば、得意な工程にその従業員を配置することができる。また、全工程の体験を通し、従業員に幅広い力が育っていれば、仮に欠勤等があっても柔軟な人的配置がその日のうちに可能となる。さらに、総合的な力をつけておくことは、作業への主体的な取り組みを従業員に促すことにもなる。加えて、退職後の余暇活動などにその幅広い総合的な力を発揮してほしい、との岡部工場長の願いもここにある。
3. 工場内での様子
障害のある従業員をここで紹介しよう。
(1)Aさん(下肢障害;身体障害者手帳5級)
Aさんは、中学校卒業後に当工場に入社した。左股関節に障害のあるAさんは、歩行時に杖を使用しているが、上肢機能に障害はない。現在、ミシン・アイロンを使用する縫製作業に取り組んでいる。立位の保持が難しいが、物品等の運搬などには周囲からの支援があり、就労上の心配はない。当工場へは自家用車で通勤している。

(2)Bさん(知的障害;療育手帳B)
Bさんは、県内の養護学校を卒業して当工場に入社した。現在、アイロンなどを使用しつつ製品の仕上げ作業や、製品の検査・検品作業に取り組んでいる。家で家事全般をこなすBさんは社会性が高く、理解力もあり、職場内でのコミュニケーションなどに問題はない。近年、作業能力の著しい向上が見られ、健常者を上回る作業量をこなす従業員として評価は高い。当工場へは自転車で通勤している。

Bさん
(3)Cさん(知的障害;療育手帳B)
Cさんは、県内の養護学校を卒業して当工場に入社した。現在、ミシン・アイロンを使用する縫製作業を中心に取り組んでいる。作業レベルは高いため、支援は特に必要ないが、社会性の面で課題があるため(職場内での会話内容など)、周囲からの理解が必要とされる場面もある。当工場へは自家用車で通勤している。

(4)Dさん(聴覚障害;身体障害者手帳2級)
Dさんは、県内の聾学校を卒業して当工場に入社した。両耳の聴力レベルは90デシベル以上であり、職場での日常会話は筆談が中心である。現在、アイロンなどを使用しつつ、製品の仕上げ作業や製品の検査・検品作業に取り組んでいる。入社時には大変おとなしかったDさんだが、主体性ある勤務態度ゆえに、近年は作業レベルが高くなっている。当工場へはバスで通勤している。

(5)Eさん(知的障害;療育手帳B)
Eさんは、県内の社会福祉施設を経て当工場に入社した。現在、アイロンを使用する縫製作業に取り組んでいる。言語理解面や作業上の問題はないが、勤労意欲を今以上に高めていってほしいと周囲はEさんに望んでいる。当工場へはJRと自転車で通勤している。

(6)Fさん(下肢障害;身体障害者手帳5級)
Fさんは、高等学校と専門学校を経て当工場に入社した。歩行時には杖を使用しているが、上肢機能に障害はない。現在、ミシンを使用する縫製作業に取り組んでいる。技術的に極めて高く、当工場の縫製部門で中心的役割を担っている。勤労意欲も高く経験も豊かであり、健常者を含めた他の従業員の模範となっている。指導者としての役を担える実力の持ち主である。当工場へは自家用車で通勤している。

4. 従業員に望むこと
「自立心を、本人の心の内側からどう高めていくかが、とても大切です。」と岡部工場長は語る。
就労するまでの家庭教育や学校教育のあり方がここに大きく問われている。例えば、親の過保護が子の自立心を押さえ込むことがありうる。また、子に基本的生活習慣を正しく身につけさせなければ、その子は将来、職場の仕事を十分にこなすことは困難となろう。朝の起床、歯磨き、朝食、身支度、定時出勤などを適切にこなすことができればこそ、その延長線上にある職場でたくましく働くことができる。
“働くことで私自身の人生をつくっていくのだ”という自立心の育成が、親や学校教師の大変重要な役割である。
5. さいごに(障害のある従業員とともに、高品質製品を山口から世界に発信)
岡部工場長には夢がある。明治維新発祥の地である山口から、高品質のジーンズ製品を世界に輸出することである。
「日本のお家芸は“ものつくり”です。日本人が古くから兼ねそなえてきた繊細な感性、高度な加工技術、これらに高品質素材を合わせれば、三拍子そろったすばらしい製品が誕生するはずです。これを山口から世界に発信したいのです。私は、未だ誰もやっていないことを成し遂げてみたいと思っています」
その布石は着々と打たれている。岡部工場長は5年前、県内の大学の大学院に社会人入学し、世界における日本文化をテーマに2年間研究した。その知見をジーンズファッションの分野に生かし、これまで8回のファッションデザインコンテストを山口市で開催してきた。平成20年1月には、スペインで開催される衣料品国際見本市に、山口発の高級ブランド製品「匠山泊」を出品する。守りではなく、世界を相手にした攻めの姿勢である。
当工場では、障害のある従業員も製造の重要な一翼を担い、世界に通用するジーンズ製品が日々生産されている。従業員は、自らが製造にかかわった自社製品に「誇り」を持つことができよう。ここに生活の質の高まりが期待できる。
従業員の「働きたい」という願いを叶え、創りあげたジーンズ製品に「誇り」を感じることのできる職場、それがブルーウェイ株式会社PDセンターである。
執筆者 : 山口大学 教育学部 教授 松田 信夫
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