障害者の特性を見つけ、適正な配置で能力向上を目指す

1. 事業所の概要
当社の創業は、1984年に阿波林材として旧三好町にて原木の仕入れ及び販売を開始する。1987年には有限会社阿波林材、1992年に有限会社から株式会社へ変更し、1993年に三野町・本社工場へ新設移転し、新たな業種になる。2003年には三野町加茂野宮・第二工場へ新設し、原木の販売や木材加工などを開始する。
本社工場では、原木の製材を主に行っている。製品の出荷は、兵庫県など様々な場所へ出荷している。第二工場では、本社工場で製材した物を、フローリングや壁材などへの加工を実施している。
2005年には、愛知万博の色々な施設に阿波林材の杉加工品が使用された。
2. 障害者雇用の経緯
社長は、以前より障害者に対する理解があり、雇用には前向きに考えてくれていた。関係者からの、「なかなか働ける場所がないので、協力していただきたい」という声に、社長含め他の従業員からも「どれだけできるか分からないが、職場実習から受け入れてみよう」という意見が出てきた。
平成18年11月より2名の障害者の職場実習を開始する。精神障害者、身体障害者それぞれ1名ずつである。また、平成19年にも知的障害と身体障害それぞれ1名ずつの障害者を職場実習から開始し、雇用に至っている。
初めての障害者雇用でもあり、上記にも書いてある通り実習を実施する。実習後は、トライアル雇用事業を利用し雇用を進めている。開始当初は障害者に対してどのように接すればよいのか分からない事もあった。しかし、職場適応援助者【ジョブコーチ制度】などを利用し、専門的なアドバイスを受けながら雇用を進めている。ジョブコーチ制度の他にも、業務遂行援助者の配置助成金なども活用し雇用を進めている。
3. 取り組みの内容
(1)教育・訓練
本社工場、第二工場それぞれに現場の指導をする社員を配置し、基本的には2人ペアで仕事を進めている。作業手順や技術面など必要に応じ指導を実施している。指導する社員も、指示ばかりではなく一緒に現場で作業を行い、同じ目線で働きながら指導を行っている。聴覚障害者に関しては、指示の意図が伝わらないことが度々あった。手話通訳者も指導に入り、共に指導を行っている。常に手話通訳者も現場にはいない為、工場にはメモ帳を置いており指示などを書き込んでいる。
(2)職場配置
障害者個々の障害の程度、能力などを把握し、職場配置を行っている。本社工場・第二工場ともに現場責任者が作業指導、アドバイスを行っている。社長は通常は本社工場で業務を行っているが、第二工場へも定期的に出向き責任者と配置などに関し話を行っている。必要であれば、社長も第二工場で業務を行い、仕事上での指示・指導を行っている。
初めは社長と話をすることが緊張していたが、現在に至っては積極的に分からないことを聞き、仕事量も格段に上がっている。
本社工場では、主に原木を使用用途に応じて製材を行っている。本社工場での仕事の量が多い場合は、本社工場で働いているが、主に第二工場でパテ埋め作業や前取り作業を行っている。


(3)福利厚生
職場の人間関係をより良いものにする為、会社で野球チームを作り、仕事が終わってから練習を行っている。大会などにも出場する機会もあり、積極的に参加している。
会社で野球チームを結成し、練習などを始めたきっかけは、社長が昔から野球をしており社会人になっても様々な場所でプレーをしてきた。従業員も男性が8割以上を占めており、野球経験者も多数いた。障害のある社員が主に働いている第二工場の工場長も野球をしており、3名の者に一緒に練習をしようと積極的に声をかけてくれた。
初めは、経験も少ないし、迷惑をかけるのではないかなど不安要素は多々あったが、社長はじめ従業員からの誘いもあり一緒に練習を開始することとなった。職場では見られないような明るい表情や、逆に悔しい表情などが見られるようになった。
私達が野球をしている姿を見ていて感じていることは、野球を通じ職場では会話が出来ていない他の社員と話など出来るようになり、表情が明るくなってきていることが実感できる。
また、職場では同じ人とペアになることが多く、話をする従業員が固定されてしまう。しかし、野球をしている時には、多くの従業員と話をすることで、互いに理解を深め、仕事にも良い影響が出てきている。

(4)助成金や制度の活用
3名の障害者すべてに、トライアル雇用制度や特定求職者雇用開発助成金を活用し雇用をすすめている。その他、1名に関しては、ジョブコーチ支援制度を活用している。ジョブコーチは、事業所と障害者の連携を取り、作業が円滑に行えるよう指導を実施している。また、通勤支援も必要に応じて実施している。
第二工場で働いている方に関しては、業務遂行援助者を利用し障害者の程度に応じた職場配置や勤務調整などを実施している。
(5)事例紹介
「Hさんの例」
Hさんは、2006年11月より阿波林材にて就労する。身体障害(聴覚障害)である。就労当初は、徳島県登録手話通訳者の方が度々職場へ足を運び、業務の指示などを行い、作業を進めていた。職場経験や学校在学の時に、木工関係の技術を学んだことがあり、フォークリフトの免許を取得していた。
Hさんは、コミュニケーションを取る事が難しく、手話が出来る者が会社にはいなかった為、メモ用紙などを常備しコミュニケーションを取っている。ジョブコーチ制度を利用し、事業所へ指示の伝達方法やコミュニケーションの取り方などの指示を行っている。また、事業所には電動ノコギリやフォークリフトなど危険な道具がたくさんある為、危険回避の部分でも指示・指導を行っている。
現在に至っても、継続しジョブコーチ制度を利用しながら仕事を行っている。他の従業員にもメモ用紙などを活用した指示・指導が浸透している。Hさんも休日の際には、工場長や事務担当者と携帯電話でメールなどを行いコミュニケーションを取っている。
「Mさんの例」
Mさんは、2007年6月より阿波林材にて就労する。軽度知的障害の方で20歳の方である。以前リサイクル関係の仕事をしており、若いということもあり体力には自信があり、夕方まで疲れた顔を見せずに働いている。
Mさんは、数を数えたりする作業が苦手である。また、順番なども細かく覚えることも苦手である。Mさん単独で仕事をすることはほとんどなく、ペアで仕事を進めている。トライアル雇用制度を利用し、その後、業務遂行援助者の配置助成金を利用し、日々指導を受けながら仕事を行っている。主に第二工場で仕事をしており、工場長がМさんの指導を行っている。
「Yさんの例」
Yさんは、2007年4月より阿波林材へ就労する。身体に障害があり難病指定も受けている。症状としては、視力・視野・色覚などの視覚機能や運動機能の低下、体の痛みなどがある。
社長を含め従業員は、当初は「仕事できるのか。」「体力などは心配ないのか」という意見が出ていた。Yさんの家族とも体調面などに関し相談を行うが、本人の気持ちを第一に優先してほしいということを言われる。Yさんも出来る限り頑張って働きたいという強い意思があった為、トライアル雇用制度を利用し雇用となる。初め、通勤手段は、自転車やバイクで通勤していた。しかし、給料をこつこつと貯め、自動車を購入し現在は通勤している。
仕事に関しては、フォークリフトなども乗り仕事を行っている。体力的には当初より落ちている部分も見られるが、負担のかからない部署へ配置してもらっている。
また、社長はじめ他の従業員も体調面に気を配ってくれ、日曜日以外でも休みを取り体調管理を行っている。家族とも連携を取りながら、体調確認なども行っている。
4. さいごに
大岡社長は障害者の採用に関し、「障害者と健常者を区別をすることは考えていない。仕事をしたいという意欲や積極さが伝わってくれば採用をすすめていく」と述べている。
私たちセンターと関わり話をする中で、障害者が働く場が少ない、能力があるのに認めてもらえる場が少ないことを理解してくれたのである。初めて採用した時には、「大丈夫だろうか、怪我など心配ないだろうか」など不安要素は沢山あったと言う。しかし、実際働いている姿を見て気持ちが変わったとよく口にする。
今後は「同業者にも障害者の良さを伝え、働く場を提供したい」と言ってくれている。また、当社は授産施設へ木材を提供しており、今後も関わりの中で一人でも多くの障害者雇用を進めていく。
執筆者 : 障害者就業・生活支援センター「箸蔵山荘」就業支援ワーカー 堀 昌典
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