障害者を温かく迎え入れ、障害者にとっても充実感や生きがい・働きがいのある職場づくりを目指す
- 事業所名
- 株式会社高知ヤマザキ
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 食料品製造業
- 従業員数
- 351名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 経理事務、生産管理、営業部門、生産部門 内部障害 0 知的障害 5 生産部門(パン、和洋菓子、弁当) 精神障害 0 - 目次

1. 設立の経緯と使命
昭和39年3月に高知市大津乙に株式会社イーエスパンとして設立、パン・菓子類の生産をはじめる。その後、昭和42年に株式会社イート食品に社名を変更、昭和59年4月には関西ヤマザキの資本参加を得てヤマザキグループに参入。そして、昭和60年3月、株式会社高知ヤマザキに社名を変更し現在に至る。

会社は、企業経営を通じて社会の進展と文化の向上に寄与することを使命とし、最高の品質と最善のサービス(今日到達しうるベストクオリティー・ベストサービスの実践、実行、実証)を目標とし、品質は今到達しうる最高のものであり、新鮮であることを目指している。
現在、1日7万個のパンの製造のほか和菓子や洋菓子、調理パン、米飯類を製造し高知県内の約700店舗余りと、一部は県外へも販売している。
2. 理念と障害者雇用についての考え方
【企業理念】
ヤマザキグループの一員として、その使命を企業理念としている。
<ヤマザキパンの使命>
・ 良品低廉、顧客本位の精神に徹して、お客様に喜ばれる製品、品質、サービスを提供する。
・ 食品の安全衛生管理を徹底して、社会の負託に応える。
・ 積極的に技術革新に取り組み、変化に挑戦し、21世紀の食文化を創造する。
【障害者雇用についての考え方】

前身の株式会社イート食品の経営者が障害者雇用に理解があり昭和60年当時の法定雇用率1.5%を達成していた。ヤマザキグループが障害者雇用に本格的に取り組むようになったのは、法定雇用率が1.8%に引き上げられた平成10年までさかのぼる。「それまではグループ全体の障害者雇用率は1.3%程度で、入社しても直ぐ辞める障害者が多かった」と言う。そして、その原因を調べていくと、職場内における障害者に対する偏見が浮かび上がってきた。そこで、障害者に対する従業員の意識改革を実施した。
その成果として、従業員の中に「障害者も一人の人間としてその責任を果たせばよいのではないか。無いものを要求してはおかしいのではないか」という考えがでてきた。そこでグループとしても平成10年1月から「障害者雇用率(1.8%)達成三ヵ年計画」をスタートした。当初は、家族に障害者を抱え、障害者雇用に理解のある従業員のいる職場から導入して、障害者雇用に取り組んだが何度も失敗し「最終的にトライアル雇用を重視するようになった。」とのことである。
そして、トライアル雇用を行う中で、障害者雇用を進めるためには「障害者本人の適性ということもあるが、職場の全員が障害者を温かく迎えるような環境、“心の環境”をつくることを優先すべきである。」という考え方に到達した。また、障害者本人にとっても責任ある仕事を任させることにより仕事に対する充実感が生まれ、それが本人の生きがい、働きがいともなっている。

そうした取り組みが定着してきたことにより、職場内ではこの人が障害者だという意識もなく、健常者と同じように注意もするし、指示もするといった状態になっている。そして、現在はグループ全体の障害者雇用率は2.22%、高知ヤマザキだけでは3.82%となっており、近年の定着率は向上し安定している。
3. 取り組みの状況
(1)施設・設備などハード面の工夫
障害者を対象としたハード面の工夫はトイレに手すりを設ける程度で、特に行っていない。これまでは施設・設備に人を合わせるという考え方で取り組んできたと思う。これからは人に施設・設備を合わせるようにしていかなければならないと考えている。
その一つとして、現在、当社のトイレは全て和式であり、それを洋式のものに変えていきたいと考えている。
(2)ソフト面の工夫
①雇用管理
<募集・採用>
とくに募集はしていないが、過去には、障害者施設とハローワークの紹介によるトライアル雇用や、養護学校在学中に職場実習生として受け入れ、本人の意欲と勤務態度をみて採用を決定していた。現在のところ新たな採用は難しい状況であるが、退職者の補充は行っていく。

<賃金>
雇用形態は社員6名、嘱託2名、パートタイマー1名の3つであり、賃金は健常者と同じように職業能力に応じて決めており、全員にボーナス・昇給がある。障害者が健常者と同様に経済的に自立していける賃金を支給している。
例えば、パートタイマーの時間給は健常者と同様の最低650円であり、最低賃金(高知県最低賃金622円/時間)を下回らないようにしている。社員・嘱託は、健常者と同じ賃金体系を適用している。
<労働時間・休日>
会社は2交替制であり、社員・嘱託は7.75時間/日で、パートタイマーは7時間/日で契約しており、就業時間は9:00~17:00である。
休日は、仕事が年中無休のため二交替制でとっており、1ヶ月間に8日の休日を取得するようにしている。
②職場配置・定着
本人の個性・障害の程度に配慮し、本人の適性を見極めた上でそれぞれの作業に配置している。現在、事務職(経理・生産管理・営業)に3名、生産部門(食パン・菓子パン・和菓子・洋菓子・弁当製造)に6名が配置されている。

③教育・訓練
障害者ということで特別に教育・訓練は行っておらず、健常者と同じようにOJTを中心にした教育・訓練を行っている。そして、教育・訓練において理解が不足していれば、現場の担当者が理解するまで指導を行っている。

④福利厚生・健康管理
福利厚生面では、ボーリング大会や食事会を開いており、従業員が一体となってやることに心がけている。また、社員食堂では、朝食・昼食・夜食を安く提供しており、自社製品のパンなども安く購入することができる。
健康管理については、年に1回(深夜勤務者は2回)定期健康診断を行っており、全員受診するようにしている。食品を扱うということもあり、月1回は必ず「検便」を実施している。また、作業用として安全なユニフォームや、自社で開発した転倒防止の靴も支給している。
⑤養護学校等との連携
トライアル雇用や学校の職場実習をさせてくれないかという問い合わせもあるが、最近は食品に関する管理が厳しくなり、トライアル雇用や学校の実習を受け入れることが難しくなっている。
⑥助成金や各種支援制度の活用
当社の障害者雇用率は法定雇用率1.8%を大きく上回り、障害者雇用調整金を受給している。また、雇用している障害者の障害の種類も多様であり、これまで各種助成金(トライアル雇用奨励金・特定求職者雇用開発助成金)を受給し、障害者の雇用に活用してきた。
⑦その他
3ヶ月に1回『人権セクハラ防止委員会』を開催し、「人権を尊重する」ことの大切さを忘れないように教育している。また、職場内に投書箱を設置しており、障害者を含めた人権侵害などの問題があれば投書できるようにしており、専用のメールアドレスも設けている。
4. 取り組みの効果
障害者を受け入れたことで、職場内のいろいろな面に効果がでている。例えば、職場内のギスギスした面がなくなり、雰囲気が和むようになったことである。これは“心の環境”を重視するというヤマザキグループの方針の大きな成果であると考えられる。そして、従業員の中に「会社が使命とする、企業経営を通じて自分たちも社会に貢献していけるという意識が高まってきた。」ということである。

効果はそれだけではない。職場内に人権を尊重する雰囲気が定着してきたことも大きな効果である。職場内では、この人が障害者だという特別な見方はなくなり、障害者本人も従業員として自立し、周囲もそれを認めるようになってきた。
そうしたことが、「障害者の一人がボーリングが好きだから、会社でボーリング大会をやろう」という提案につながったのではないかと考えている。会社としても、今後もこういった雰囲気をなくさないように、人権尊重の大切さを教育し続けていかなければならない。
5. 今後の課題・展望等
当社は、障害者の受け入れについて設備面で十分に対応ができておらず、これまではどちらかと言うと「施設・設備に人を合わせる」という考え方で取り組んできた。しかし、障害者雇用が一般的となり、人権尊重・社会貢献を掲げる会社としては、今後「人に施設・設備を合わせる」という考え方に変わっていかなければならないと思う。そして、これまで十分でなかったハード面の整備の一つとして、来年ぐらいには「トイレを洋式のものに変えていきたい」と考えている。
また、ソフト面では障害者との定期的な懇談会を開催していきたい。その場には必要に応じて家族も呼び、職場の状況について会社から説明をする場も設けたい。そうすることで、とくに知的障害者の家族には安心してもらえると思う。さらに障害者の中にも、スポーツが好きな人やいろいろな趣味を持っている人もおり、そういった人達にスポーツ大会やイベントへの参加の機会を設け、そうすることにより、障害者が仕事にやりがいを持ち、人生に生きがいを持ってくれればと考えている。
障害者雇用率3.82%とこの分野では先進的な会社の一つと自負している。今も昔も働く人にとって「職場の雰囲気」は最も重視されることの一つである。これは健常者もそうであるが、障害者にとってはそれ以上に大切である。そのため、当社のように障害者雇用にあたり“心の環境”づくりを重視し、職場の雰囲気づくりから入っていくという取り組みは、障害者雇用を推進するのに参考になるのではないだろうか。

また、障害者の受け入れにおける「施設・設備に人を合わせる」から、「人に施設・設備を合わせる」という考え方への変化も大切である。ソフト面だけの取り組みはどうしても限界がある。やはり、ハードとソフト両方の改善が相まって、障害者だけでなく全ての従業員にとって働きやすい職場づくりが実現できると考えられる。
今後とも、障害者が障害を意識する必要のない会社づくり、社会づくりを行っていきたい。
執筆者 : 株式会社くろしお地域研究所 調査研究部長 浜口 忠信
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