障害者だからこそ出来るサービスや気配りから開発・製作から販売の一貫体制と利用者が納得いく福祉器具づくり

1. 事業所の概要
(1)事業の概要
医療機器・福祉機器・日常生活に係わる福祉用品等の製作・販売および介護保険に関わる福祉用具のレンタルなどを行っている。特に、義肢・装具については、昭和61年の設立当初より、販売だけでなく、開発・製作に取り組んできた。
また、障害者の要望により自動車の改造、運転装置の改造・開発及び取付け並びにリフトの取付けなど自動車関連の業務を中心に、福祉用具全般のメンテナンス業務も行ってきた。これらの自動車関連事業については、専門性を高めていくため、別会社とした。今では、全九州をエリアに営業を展開している。
(2)障害と福祉用具製作
当社が扱う製品の中でも、重度の障害者向けの用具には細やかな配慮が求められる。例えば、脊髄損傷といった重度の障害を有する人にとって、車いすの高さが、1センチ違うことが大きな障壁になってしまうことがある。そのほんの些細なズレによって、疲労感は大きく違ってくる。そのような人の場合には、既製品ではなく、オーダーメイドで製作し、本人が何度も何度も確かめながら製作を進めるのだが、それでも出来上がって使用してみるとしっくりしないことがある。そのような時には、さらに調整や改造という補修をしていかなければならない。
営利企業である以上、利益を出さなければならない。しかし、当事者のことを考えれば、よりよいものを使用していただきたいと思うので、何度も調整や改造を行うこともある。障害を有する人のために或いは高齢の方のために、よりよいものをという信念がなければ、この仕事はできないだろう。また、そのようなサービスの姿勢があるから、「またアメックスに」「すべてアメックスに」と言っていただけるのだと思う。
(3)障害者の手による福祉用具づくり
当社では、福祉用具の製作や販売に、障害を有する従業員があたっている。車いすのわずか1センチの差がもたらす快適さや苦痛をイメージできるからこそ、よりよいサービスもできるし、それが生きた技術となる。
日々の仕事の中で、自分に障害があるからこそ、相手を理解することができることがある。
例えば、障害には等級があって、1種の1級がいちばん重度で、2種の7級がいちばん軽いんだよ。と言うけれど、重度や軽度は、車いすに乗っているかどうかで判断できるものではない。自分に障害があるからこそ、こういう障害を持っている人に、こういう用具を使ってもらえばもっと便利になりますよとか、もっと行動半径が広がりますよとか、勧めることができる。
重度障害者の方から「あなたたちにいろいろ言われないでもいい」と提案を拒否されることもある。
健常者なら黙って引き下がるしかない場面でも、私たち障害者なら「いいや、違う。聴いてくれ。あなたがこの用具を使うことで、周囲の人たちもラクになるんだよ」と言えるし、相手もこちらを同じ障害者だと思うからこそ、最後は聴く耳を持ってくれることがある。
障害者と健常者との間には目に見えないバリアがあり、そのバリアを乗り越えて交流ができるのは、やはりこちらも障害者だからなのだと実感させられることが多い。
別会社のニッシン自動車には、障害を有する従業員はいないが、当社と隣接していることで、意見をいつでも聴ける環境にある。当事者のアドバイスを受けることができ、常日頃接することで気持ちを理解できる。自動車の改造にしても福祉用具のメンテナンスにしても、交流を通して人の心を知るのは大切なことである。
(4)障害者のための製品開発
15年程前、障害者用の食器を開発・製作したが、それは今でも全国から注文があり、売れ続けている。また、筋肉が硬化していく人などが使用するアームスリング(三角巾のような用具)機能をもった衣服も開発・製作した。その他、片手でペーパーが切れるトイレットペーパー・ホルダーなど、当社が開発した製品の数は多い。
現在、様々な福祉用具が流通しているが、もっとここをこうすれば使いやすくなるのにという製品は多い。大手のメーカーがそのようなニーズを捉えて開発してくれたらよいが、よほどの市場性がない限り無理だろう。では、当社のような企業がやれるかというと、コスト負担が大き過ぎて、そういくつものプロジェクトを抱えるわけにもいかない。補助金などを使ってという考えもあるが、手続きが煩雑でかえって負担を抱える恐れがある。
2. 取り組みの概要
(1)障害者の現状と従事業務
従業員11名のうち、障害を有する者は6名で、全員が下肢障害であり、うち4名が重度障害で、車いすを使用している。この4名の配置と業務は、1名が事務職、1名がメンテナンス・製作業務、残り2名が営業職となっている。車いすを使用していない2名は役員と技師である。
(2)障害者雇用の経緯
当社では、設立時の社長が病院の理事長ということから障害者雇用を積極的に行ってきた。設立当時は従業員6名であったが、そのうち3名が障害を有していた。以来、事業の拡大に応じて従業員数は増えてきたが、常に半数程度の障害者を雇用してきた。
(3)職場環境づくり
働きやすい職場環境を目指して、以下のような取り組みを行っている。
当社には、障害のあるお客様が直接訪ねて来られる場合も多く、下記の設備等はこれら訪問者への対応も兼ねている。
また、各種設備の中には、会社側が整備したものだけではなく、従業員が自ら工夫したものもある。会社が障害者のために整備できることは、実は限られている。そこで働く本人が、自ら工夫し、働きやすい職場環境を作っていくことが大切である。仕事の現場は、その人でなければ気づかないことが多くあるためである。
①各部屋を一直線に結ぶフラットな通路
当社社屋は、会議室や倉庫の一部が2階にあるが、受付、営業及び福祉用具のメンテナンスや製造、商品ストックなどほとんどの業務は1階でできる。業務の連携をスムーズにするために、これら関係各部屋を1本の通路で貫き、一直線に行き来することができるようにした。部屋と部屋とを分けるドアはすべてスライド式で、さらに車いすでも支障なく通れるようにフラットになっている。
②障害者にも使いやすい施設・設備
下記のような設備などを設置し、特に車いすによるスムーズな社内移動や従業員の事故防止などに努めている。
○エレベーター
○玄関の自動ドア
○車いす対応トイレ
○屋根付きの駐車スペース(雨ぬれ防止)
○ゴムチップ張りの床面(転倒した場合のケガ防止)

③職場の工夫
○車いすで使いやすいデスク
横幅の広いデスクで、個人別の仕切りがないため、車いすで仕事をする時の自由度が高い。引き出しは可動式のユニットを使い、使いやすい場所に動かすことができる。

○コピー機の工夫
通常は上部にある操作ユニットを、低いテーブルの上に乗せて、車いすのまま使用しやすいように工夫している。
○製作・メンテナンス用の手作りリフト
福祉用具の製作やメンテナンスを行う担当者が、製作やメンテナンスをする時に、その用具を持ち上げるためのリフトを自ら作った。前進・後退、上下を手元のコントローラーで操作できる。その用具を自在に動かすことで、自分は、車いすに座ったままの姿勢で作業ができ効率的になった。
以前は、車いすから降りたり座ったり、自分の方が対象物に近づかなければならなかったので、肉体的に大変な負荷であった。この手作りリフトにより、作業はかなり効率的になり、身体への負荷は軽減した。このような創意工夫は現場でなければ生まれてこない。

※活用している助成金一覧
○重度障害者通勤対策(駐車場の賃借)
○障害者作業設備設置等1種(自動ドア、トイレ手摺り工事)
○障害者作業設備設置等2種(事務所の賃借)
3. まとめ
自らが障害者ではあるが、障害者を雇用していくのは難しいことが多い。障害者がハンディを越えて、企業の中で確かなポジションを築いていくには、それ相応の能力を身に付けていかなければならない。給料が半分でいいならそれでもいいが、同じ給料をもらいたいのであれば、会社に対して、どれだけの貢献をすべきかを考えなければならない。その努力があってこその平等だと思う。
もちろん、簡単なことではない。できることできないことで言えば、健常者を雇った方がいい。当社のように11名の従業員のうち半数が障害者という状況では、経営者としては、このようなことも考える。
しかし、先程も述べたように、障害者だからできるサービスや気配りという大切なものがある。それがあったから、22年間もやってこれたのかもしれない。
障害者雇用のあり方という意味で最も重要だと思うのは、企業トップの考え方である。本当に障害者のことを考えているのか、それとも綺麗ごとなのか、それによって企業の姿勢は大きく変わる。厳しく指導し、正当に評価し、平等に扱うことで、働く側も仕事で応える。本当の障害者雇用とはそのような環境から生まれてくるものだと思う。
執筆者 : 有限会社エアーズ マーケティングディレクター 森 克彰
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