環境整備と教育訓練で障害者を雇用

1. 事業所の概要
有限会社銀星タクシー(以下「会社」という。)の在る都城市は、県庁所在地の宮崎市から南西に約50キロの地にあり、都城市・北諸県郡及びその周辺(鹿児島県)との経済活動を共有しており、人口も宮崎市の人口約37万人に次ぐ約20万人を有し、活力ある地域である。
会社は、昭和28年8月に創業され、業界において常にリーダー的役割を果たし現在も都城・北諸地区に7営業所、5待機所が在り、81台のタクシー車両を保有し、安定した企業として躍進中である。平成13年6月には、車いす利用のお客様の乗り降りが楽になることを願いウエルキャブ車を6台導入している。後部座席が回転することで、『乗り降りが楽になりました』との有難い言葉を利用者からいただいているとのことである。
また、平成17年10月には、ISO9001:2000の認証を取得し、より良いサービスの提供を心がけている会社である。
会社の経営理念は、「多様化する社会情勢の中で、ニーズに合ったお客様の立場にたった、真のサービスの向上の徹底を目指す」品質方針として「都城地域において、総合的な業界トップを目指すために、品質マネジメントシステムを構築し、その有効性の継続的改善を進める」とある。また、職場作りの基本方針として①安全・親切・丁寧、お客様を大切に。②従業員を大切に。を基本に、社内融和を合言葉としながら、明るく楽しい職場づくりを目指している意欲的な会社である。
障害者数 7人
視覚 | 聴覚・言語 | 肢体 | 内部 | 知的 | 精神 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 0 | 5 | 2 | 0 | 0 | 7 |
(0) | (0) | (2) | (0) | (0) | (2) |
( )は、重度障害者内数 実雇用率 10.47%
2. 障害者雇用の経緯
会社が障害者を雇用する基本的な理念として、障害者であっても職業を通じて社会貢献したい気持ちは健常者と同じであり、就業可能な障害者の雇用に関しては、企業として社会に貢献できる機会を提供することが障害者の生きがいとなり、また、会社にとってもその手立てが出来るものと確信していることから、重度障害者には、オートマチック車を提供し、働き易い職場作りの配慮がなされている。


3. 障害者の従事業務、職場配置
① 配置場所等
配置場所 | 採用年月日 | 等級 | 障害名 |
---|---|---|---|
内勤者(無線室勤務) | 昭和50年8月8日 | 3級 | 心筋梗塞による心臓機能障害 |
乗務員 | 昭和54年5月2日 | 4級 | 右3.4.5指中骨部切断、右2指関節硬直 |
乗務員(AT車使用) | 平成3年10月2日 | 1級 | リュウマチによる両上下肢機能障害 |
乗務員(AT車使用) | 平成15年8月20日 | 4級 | 交通事故による左下肢機能障害 |
乗務員 | 平成15年12月16日 | 6級 | ヘルニヤによる左下肢機能障害 |
乗務員 | 昭和45年8月3日 | 3級 | 狭心症による心臓機能障害 |
内勤者(無線室勤務) | 平成18年1月1日 | 2級 | 多発性骨端異形成症による両下肢機能障害 |
4. 取り組みの内容
(1)就業環境の整備
乗務員の作業負荷の低減を図り15年前より自動洗車機を導入している。今後の方針として、障害者・健常者を問わず運転操作のし易いAT車の導入を検討している。
(2)募集・定着・職場適応
ハローワークを継続的に活用し、障害の有無・年齢を問わず、誠実で頑張り屋さんを大歓迎する条件で門戸を広げている。二種免許未取得者に対しては、養成制度が配慮されている。
選考に際しては、健康・勤勉さ・安全運転・接客サービスを重視している。
(3)配置・定着・職場適応
重度の身体障害のある従業員1名(1級)は乗務員として勤続16年目。心臓機能障害のある従業員(1名)は、乗務員から内勤者へ配置換えを行い勤続32年目を迎えている。また、内勤者(2名)乗務員(5名)の障害者においても、勤続37年目を筆頭に定着率は非常に高く定年後の再雇用者2名を含め貴重な戦力となっている。
(4)賃金・労働時間
基本的には、健常者と同等の雇用条件となっている。
定期的な検査入院、または体調不良による欠勤などについては、公休扱いを適用するなど考慮されている。
(5)コミュニケーション
身体障害のある従業員に対しては、健常者と区別することなく同一の組織の中で情報伝達、指導・教育を行っている。また、身体障害のある従業員が営業係長の役職にあることも、コミュニケーションを図る結果となっている。
(6)講習・指導
乗務員に対しては、障害の有無に関係なく毎月の班長終礼出席を義務付けており、安全運転及び事故防止の呼びかけ、接客サービスの向上を目指した実習がなされている。
(7)安全衛生・健康管理
年5回以上のリーダー会議(内勤者全員・班長8名・営業所長6名、計30名)を実施し、会社の方針等の伝達及び事故防止と自己健康管理の重要性を伝達している。さらに、年2回の健康診断の励行も継続して実施されている。その他の乗務員においては、毎月の班長終礼を活用して伝達及び呼びかけが行われている。
(8)定年・継続雇用
会社は、平成15年に定年を60歳に引上げ延長している。ただし、定年後の再雇用制度については、それ以前より取り組んでおり高年齢者、障害者の立場に立った取り組みがなされている。現在の従業員の最高年齢は、健常者で69歳、障害のある乗務員も69歳であり、若者には負けられないと意気軒昂の声が聞かれた。
(9)労働条件
① 就業時間 時間外なし 休憩時間 120分 | 変形労働時間制(1年単位) ① 7時0分~18時0分 ② 10時0分~23時0分 ③ 17時0分~ 9時0分 |
② 社会保険・労働保険加入の有無 | 社会保険・労働保険ともに加入 |
③ 定年制・再雇用制度 | 一律 60歳 ・再雇用あり65歳まで |
④ 給与 | 歩合給(固定給 16万~16.5万円 ○各種手当(精勤・家族・スペアー等)を含め 平均支給額は20万円 ○通勤手当は距離に応じて支給 |
⑤ 教育訓練 | 年5回以上のリーダー会議 乗務員においては、毎月の班長終礼を活用して伝 達及び呼びかけを行っている |
⑥ 福利厚生・健康管理 | 忘年会、スポーツ大会(ボーリング、ゴルフ年5 回)、夏の慰労会 |
⑦ 職場定着推進チーム | 営業部長を中心として職場定着推進チームが編成 され行動されている |
⑧ 障害者職業生活相談員 | 営業部長 |
⑨ 各種給付金 | 報奨金対象事業所 |
5. 取り組みの効果
障害のある乗務員は、特に、運転が優しく、慎重な運転を心がけており、過去に事故発生は皆無である。また、障害のあるお客様の気持ちが誰よりも分かり、その対応には高い評価を得ている。
定年後の再雇用制度の取り組みによって、障害者、健常者を問わず安心して職務に励める職場環境となっている。そのことが会社としては貴重な戦力となり、障害者雇用のみならず生涯現役の模範的な存在となっている。
6. 今後の展望
今後も障害者の受け入れ体制の向上を図り、より多くの障害者雇用に取り組むとともに、障害者向けのサービス(介護事業)の充実を目標としている。
7. まとめ
会社は、第二次世界大戦後復興期の昭和28年にタクシー業として創業されており、爾来今日まで経営改革を続行され都城地域に確たる地位を確保されていることが伺える。品質マニュアルにより整備管理者・事故担当者・乗務員等担当者を配置し、業務体制が明確に確立されている。地域を活性化する総合力が求められる現代において、そこに住む地域力を顕在化させる担い手として、立派に貢献されていることを実感した。
障害者雇用については、ハロ-ワークを通じて採用されているが、求人票を拝見すると随所に優遇制度がみられ、それが長期雇用に繋っているものと理解することが出来た。
執筆者 : 長友社会保険労務士事務所 社会保険労務士 長友 安弘
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