2007年度作成

事業所名

有限会社二幸食鳥松元工場

所在地

鹿児島県鹿児島市

事業内容

食鳥処理業及び食肉加工・販売業

従業員数

129名

うち障害者数

38名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	8	食鳥処理及び食肉加工
肢体不自由	7	食鳥処理及び食肉加工
内部障害	2	食鳥処理及び食肉加工
知的障害	18	食鳥処理及び食肉加工
精神障害	3	食鳥処理及び食肉加工

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 障害者雇用に対する理念と姿勢
4. 障害者雇用に対する取り組みと効果
5. 今後の課題

1. 事業所の概要

従来、個人商店として営業していたものを、昭和44年1月に法人へ組織変更して有限会社二幸食鳥を設立、現在にいたる。この間、昭和44年に錦江工場(鹿児島市)、同54年に松元工場(現 鹿児島市)、同62年に配送センター、平成8年に小野工場/12年に新栄工場/14年に谷山工場(いずれも鹿児島市)を開設、順調に業績を伸ばしている。

2. 障害者雇用の経緯

昭和53年、ハローワークを通して障害者を雇用したことがきっかけ。現在では、ハローワークはもとより、県雇用支援協会、障害者生活支援センター、障害者職業センター、高等学校等の連携を密にして、障害者の雇用拡大と維持を図っている。

3. 障害者雇用に対する理念と姿勢

①  いろんな意味での「垣根」を取り払ってしまうことこそが、最も肝要である。

②  ボランティア精神や法定雇用率を満たすための義務感だけでは、障害者雇用は絶対に長続きしない。

③  障害者も一人の人間であり、一労働者である。

④  いわゆる最低賃金の除外（最低賃金の減額の特例）対象とはしない。（対象とすることは、「垣根」を作ることになる。）

⑤  事業戦略、経営戦略の中においても健常者と差別することなく、常に、障害者も一戦力と位置づける。

⑥  障害者に対して雇用の門戸を開放することも大切ではあるが、職場への定着を図ることはさらに大切である。

⑦  障害者雇用は労働力不足の有効な対策である。

⑧  「障害者だから、とりあえず短時間の勤務から始めよう」といった具合に、障害者であることを理由とした決めつけ、一律的な取り扱い、最初から可能性にフタをするようなことを行わない。

⑨  障害者に対する教育と訓練は、性別、年齢、個人の持つ能力、障害の程度や内容を十分に考慮した上で、OJTにより行う。

4. 障害者雇用に対する取り組みと効果

（1）障害者職業生活指導員の配置

標記指導員を全社内で8名配置し、障害者個々人の相談に応じている。しかしながらその相談内容は多岐にわたり、個人情報その他の観点から制約を受ける部分も少なくないため、まだまだ思うような活動が展開できているとは言い難い面がある。指導員制度に関する社内規定整備と全従業員への周知徹底、指導員個々のスキルアップがこれからの課題である。

（2）障害者職場定着推進チームの設置

県雇用支援協会の指導と助言を受け、上記①の障害者職業生活指導員を中核とした12名のメンバーで「障害者職場定着推進チーム」を約3年前に設置。障害者の働きやすい職場環境の整備を目的として、現在、2か月に1回程度の頻度で会議を開催している。

ここにもこの会社らしさが現れていると思うが、この会議ではどちらかと言えば障害者ではなく健常者に視点を置いている。具体的には、健常者が障害者をどのように見ているかを分析し、障害者をどのようにサポートすべきかを考え、対策を具現化している。

同チームの活動が、例えば精神医療センターから講師を招いての精神障害に関する勉強会の開催や、自発的に手話を勉強する従業員が増えているといった変化を社内にもたらしている。

（3）「声かけ」の実践（職場におけるコミュニケーション）

加工現場内での作業を拝見したが、一瞬たりともボーっと突っ立っている人間が全く見受けられない。自分が何をすべきなのか、全員が理解しているからであろう。

よくよく見ていても、障害者と健常者を見分けることができないのは、みな区別なく、同じレベルの作業をこなしているからでもある。

いらぬムダ口を叩くことは作業効率の面からのみならず、衛生面からも慎まなければならないことであるため、業務遂行上必要最小限の指示等以外には人の声を耳にすることはないが、「ありがとう」「OK!」「大丈夫か」「これでいいですか」「それでいいんだよ」といった音にならないコトバ-それは身振り手振りのジェスチャーだったり、手話だったりする-が場内を飛び交っている。

「できる限り声をかけるように努めています」という工場長や課長の言葉は、もちろん障害者を意識しての言葉である。加工現場内における作業中はもちろん、お昼の休憩中にも心がけていることだと言う。

それが、上長から障害者に対する場合だけに留まらず、健常者の同僚から障害者の同僚にといった横の関係にも広がっていることがよいことで、社内のコミュニケーション力の向上にもつながっている。

（4）手話を話せる従業員の存在(職場におけるコミュニケーションその2)

聴覚障害者の中には、相手の口（唇）の動きをよく観察することで、コミュニケーションの一つの手段もしくは助けとしている従業員も存在するが、衛生面からマスクの着用を義務付けられている加工現場内ではそれがかなわない。一方、聴覚障害者は、周囲とのコミュニケーション不足等からくる孤独感や疎外感を感じやすいことがあるとも言われる。

これに対しては、手話通訳の資格を持つ従業員だけでなく、②で述べたように自主的に手話を勉強している従業員の存在が見逃せない。加工現場内における作業時はもちろん、休憩時や通勤時など、簡単ではあっても手話による会話が交わせることは重要である。通訳レベルまでいかなくても、それなりに手話でコミュニケーションが取れることの意義は大きいのである。

（5）実習生の目

取材当時、当該事業所では近隣の高等学校から職場体験の実習生1名を受け入れていた。彼女の実習日誌には、「職場の人間は皆優しく、いろいろと教えてくれるし、前と違って(以前の実習先のことと思われる)寂しくない」という内容が綴られていた。ここにも、「声かけ」の効果が見て取れる。

ここにもこの会社らしさが現れていると思うが、この会議ではどちらかと言えば障害者ではなく健常者に視点を置いている。具体的には、健常者が障害者をどのように見ているかを分析し、障害者をどのようにサポートすべきかを考え、対策を具現化している。

同チームの活動が、例えば、精神医療センターから講師を招いての精神障害に関する勉強会の開催や、自発的に手話を勉強する従業員が増えているといった変化を社内にもたらしている。

（6）朝礼の実施

毎朝朝礼を実施し、業務上の連絡事項や安全衛生管理上の注意事項の伝達を行うこととしており、手話通訳の有資格者による同時通訳がついている。

その日の朝礼で最も大切なポイントをA4縦サイズの用紙に書き出し、工場内の2箇所に掲示することで、意識の共有化の徹底を図っている。

5. 今後の課題

繰り返しになるが、障害者職業生活指導員制度をさらに充実させるために、社内規定の整備と全従業員への周知徹底を図ること、指導員個々のスキルアップが課題の一つである。

障害者のためのみならず、今後も労働環境の改善・整備を続けていくことで、ゆとりある仕事、スローライフの実現につなげていく。

多くの障害者を雇用し続けていることで得たものをまとめて、これをかけがえのない財産として残していくようにする。

関係諸機関、学校等とのさらなる連携を図ることで、企業として地域への貢献を高めていく。

執筆者  ：  社会保険労務士  ほりえ事務所  所長  石神  啓介

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