職人の技と温かい人の思いが支える障害者雇用~確かな技術の取得とそれを支えるナチュラルサポート~
- 事業所名
- 山城内装
- 所在地
- 沖縄県沖縄市
- 事業内容
- 木工内装業
- 従業員数
- 9名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 4 家具製作・家具製作補助 肢体不自由 1 製図工 内部障害 1 製図工・現場管理 知的障害 2 清掃・片付け 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の事業内容・雇用の動機
山城内装は、インテリア家具の製作や、内装工事等の各種見積もりを主に行なっている。社内には設計士がおり、受注があると図面を起こし注文先と話し合いながら少しでもお客様の二—ズに答えようと日々努力している。障害者が行なう業務としては、木材を加工しての製品作りや、木工所内の清掃、図面を起こす等、それぞれの適性や経験に合った職務を担っている。
山城内装が障害者雇用を始めたきっかけは12~13年前にさかのぼる。はじめは健常者を雇っていたが、仕事内容の難しさや技術の取得までに時間が掛かるため、なかなか雇用の定着に結び付かなかった。そこで雇用を安定させるためにいろいろと模索した結果、障害者を雇用してみた。こうして聴覚障害者を1名雇用したのだが、入職当初は周囲とのコミュニケーションのトラブルがよくあった。そこで、ハローワークに相談したところ、助成金等の活用や関わり方等のアドバイスを丁寧に受けることができた。こうして、長い目で障害者の働きぶりをみるようにした。すると、長く働くうちに障害者は、ハングリー精神があり仕事熱心であることが分かり、結果的に長期の雇用に至った。それがきっかけで障害者を積極的に雇用するようになった。山城内装では、障害者と健常者が仲良くお互いの能力を発揮できる環境づくりを目指している。障害者と健常者が切磋琢磨し合える環境が今の山城内装を支えているのであろう。
2. 雇用支援機関との連携
募集は、ハローワークを通して行なうことが多く、新たな職域の開発の参考にしようと情報交換や相談も積極的に行っている。また、木工作業場の2階で設計を行なっている障害者のために車いす用トイレの設置や、雨天時の2階から1階への移動等において濡れない様に通路に屋根を付ける等、施設のバリアフリー化にも積極的に取り組んでいる。これらの取り組みは自社内だけでは予算的にもなかなか厳しいという面もあることから、沖縄雇用開発協会の担当者に相談し適切な助成金を紹介してもらった。また、新規で採用した障害者に関しては、沖縄障害者職業センターに依頼してジョブコーチを派遣してもらうこともあった。また、ハローワークと連携しての採用後のフォローアップや、手話通訳を交えての話し合い等、各種制度や社会資源を有効利用して、会社内だけでなく雇用関係機関と連携してのサポート体制が築かれている。

3. 障害者雇用のための工夫・対策
山城内装では、聴覚障害者を多数雇用しているためコミュニケーションのとり方に工夫しているという。ある時、社長の山城さんが言葉とジェスチャーで業務内容を指示して外での業務に出掛けたことがあった。木工所に戻ってきた時に出来上がったものを見て、イメージと違い失敗したというエピソードがあった。その時の経験から、製作する時には図面を起こしきちんと話し合いをすることにした。今ではそのおかげで図面に対する知識も増え、皆で話し合うことによってより良いものを作っていこうとする思いも会社全体で強くなってきている。また、図面を描くことで業者の依頼に対しての提案も出来るようになり、業者との繋がりも強くなった。
雇用継続していく上では、障害者本人に合った職場の配置が大切なので特に心掛けている。木工所内の業務は、実際に依頼された商品を作るまでに多くの作業工程を有することから多岐に渡る。その中でゆっくりとさまざまな仕事を経験させて、本人に合った仕事を探していくことにしている。また障害者本人に合った業務内容だけではなく、性格も理解し肌の合った者同士でチームを組ませ業務にあたるようにしている。
木工所内には、多くの機械がある。その中には使い方によっては、大けがをするような危険のあるものも多い。そのことを従業員全員で認識し、危険性がないかどうか、また、どこが危険なのかをチェックし作業や業務がスムーズに流れるように努力している。給与面の労働条件は、障害者も健常者も変わらない。山城内装は木工所という性質上、入社した当初は見習いであり、熟練してくると職人と呼ばれるようになる。したがって、見習いと職人とで給与には大きな違いがある。熟練した職人の腕や技に対して給与を上げていくことは、この業界では当然のことである。山城内装では職人と呼ばれるようになった聴覚障害者も実際に働いている。
社長の山城さんは、「健常者と言えども、100人見習いがいてもその中で、職人と言われるようになる人は2、3人」と話す一方、「皆が皆職人である必要はない」とも語る。「職人だけではなく、その業務を助ける人もいて、交じり合いながら良い会社を作っていけたらいい」と語る山城さんの言葉は、ここで働く障害者にとって、とても居心地の良い仕事場になっているのだろうということを感じさせた。




4. 社員のサポート体制
社内のサポート体制として最も大きいのは、社長の山城さん自身の人柄であろう。採用時には出来る限り家族と面接を行い、家庭環境についてもある程度理解していこうとしている。ある時、従業員が長期で欠勤したことがあった。その際に、社長自ら家庭を訪問して状況を把握しにいったとのことがあった。山城さんは、そのような時にも怒らずに明日から来るようにと見守る姿勢を取り続けていたという。このような温かい職場環境が雇用の継続に繋がっているのだろう。また、福利厚生や健康管理の面に関しても、年に1回健康診断を必ず全員受けさせるようにしている。それ以外にも毎月第一土曜の作業の終了後、夕方より飲み物やオードブルを囲んでの慰労会や忘年会、バーベキューも行なっている。
山城内装では、障害者のキャリアアップにも積極的に取り組んでいる。情報専門学校を卒業後山城内装に入社した内部障害者の方は、入社後に勉強し2級建築士の免許を取得した。そのことは、障害者自身の自信にもつながり、今では社内で欠くことのできない人材へと成長している。
社内における人的支援体制としては、事業主と障害者職業生活相談員、働いている障害者の代表1名で障害者職場定着推進チームを設置し皆で問題解決を図っている。また、今後は、手話通訳者の派遣を依頼して聴覚障害者の悩み相談等にも取り組んでいきたい。
5. 今後の課題と展望
今後の課題としては、ハローワーク等からの情報を仕入れて、自社の仕事の中で障害者でも可能な仕事を見つけていくことである。さらなる職域の開発を新たな目標に掲げている。また、社団法人沖縄雇用開発協会主催の講習会等にも、なるべく日程を合わせて積極的に参加したいとしていた。
障害者を雇用して業務を行なう上で必要になってくるパソコンの購入や、安全に配慮された機器の改善等の職場環境の整備に関しては助成金の対象となる場合もあるので、これからもハローワークや沖縄雇用開発協会とはより密な連携を取っていきたい。
要望としては、雇用している障害者の健康診断における検査の項目が多く、時間も費用も掛かるということである。山城内装では、雇用している障害者も多いことから交代で診断に行くのであるが、時には業務に支障をきたすことがあり、費用もばかにならない。行政はこのような実態を考慮し、支援の手立てを考えてほしいという要望がある。
雇用している障害者の中には、生活環境が厳しいという人もいて、家族が面倒を見られなくなった時に働いている従業員はどうなるのだろうという心配もある。そのため、将来的にはグループホームの利用も検討していきたい。
山城内装では仕事のことだけではなく、従業員は家族の一員であるかのような温かい雰囲気で満たされており、それが障害者自身の毎日の業務の支えになっているのであろう。
執筆者 : 琉球大学 教育学部 障害児教育講座 准教授 田中 敦士
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