障害者の職場定着を図り、障害者雇用拡大への取り組みを模索している
1. 事業所の概要
戦後まもない昭和21年、戦災孤児救済を目的として地元有志によって始められた。昭和22年に施行された児童福祉法によって、青森県内で二番目に古い児童養護施設となった。
時代の変化にともない、世の中のニーズを真摯に受け止め地域の要望に応えることで事業所も増え、法人の規模も拡大していった。児童の健全育成の場としての児童養護施設があることで、地域の保育状況を見直すことに繋がり、保護者が安心して地域に子供を預け働けるように保育園（昭和25年～）が作られた。弱い立場にある児童の福祉に関わることで、もう一方の弱者の姿も見え始め、戦争で家族を失い、身体の不自由となった一人暮らしのお年寄りの生活を考え老人ホーム（昭和34年～）も開設された。地域で自立生活が困難な知的障害者のために、一般就労しながら入所できる唯一の施設として通勤寮（昭和50年～）もでき、仲間と助け合いながら地域で自立生活を送るためのグループホーム（平成2年～）も整備された。医療法人であり分野は異なるが、藤聖母園診療所（昭和24年～）も地域の必要性に応えて作られた施設の一つである。これらの原点である養護施設藤聖母園は、現在でも地域行事への積極的な参加と施設（設備）開放、障害者自身によるボランティア活動の受け入れも含め、制度の狭間を補填する形で地域に貢献し根づいている。
2. 障害者雇用に至った経緯、背景、理念
理事長より、障害者雇用にどのように関わってきたか説明いただいた。もともとが福祉施設であったため、障害者雇用それ自体に特別な意識はもっていなかった。昭和27～28年頃から既に雇用は始まっていた。当時は、社会貢献という考え方ではなく、福祉を必要とする方々を受け入れることが、藤聖母園の役割であるという思いが強かったことも雇用に繋がった要因である。現在も障害者の雇用を考える際、「障害者が地域で自立して生きていく為に…」、「障害のある者が幸せになる為には…」といった意識で受け入れ、雇用が継続（定着）する為に「生きがいとしての就労」を考え、一人ひとりに自らの役割を意識してもらえるように努めている。各々が職場を通して地域の中で必要とされていることを知ってもらい、自分の存在意義を感じて欲しいとのこと。
現在法人内事業で4名雇用されているが、以前には、知的・身体・重複障害者が5名雇用されていた。定年退職・他地域への転出・希望退職等、長くは20年以上勤続した方もいる。それが成しえたのも『一人ひとりをかけがえのない存在として意識し、お互いを認めあう』とした法人の理念があり、地域が『共に生きる』ことを認め、存在を受け入れてくれたからこそ現在に至っている。
3. 雇用時の状況
現在、児童養護施設で雇用されている障害者は3名である。その中に平成19年に採用となった軽度知的障害の男性（Aさん）がいる。Aさんは平成18年に特別支援学校を卒業し、活気のある飲食・接客業への就職を希望していた。意欲的に採用面接・就職に向けた訓練実習を繰り返していたが、就職には至らなかった。一時期就職活動が途切れ、利用している知的障害者通勤寮支援員に勧められ、聖母園の農園でボランティアを体験した。これが縁で採用に繋がっていったわけだが、作業内容を知らず、イメージだけで「就職」を考えていたことが求職活動時の職域を狭めており、早期就職の妨げとなっていたと思われる。
4. 雇用後の状況
Aさんは、短時間パートとして採用された。社会保険・年金加入・有給休暇をはじめ福利厚生については他職員と同様の待遇で雇用されている。
Aさんの仕事は、夏季と冬季で異なり、夏季は、自然に囲まれた農場での作業が中心となる。指導を担当している職員は、1対1で固定している為、指示の重複・取り違え等が起きづらく、本人にとっては安心して作業に集中でき、人的・環境的にも恵まれた状況である。冬季は、農場が積雪で閉ざされる為、施設周辺の除雪、施設内の清掃と指示を受けての運搬が主な仕事となる。施設内行事の際も児童指導員の手伝いとして参加し、運動会・海水浴・地域交流（花見）会で園児や地域住民とふれ合う機会に恵まれているが、児童との接点がなかったこと、また、年長利用児童と歳が近いこともあり、自分からは話しかけづらく遠慮している状態であった。
5. 現在の業務状況
施設児童の食卓を賑わす果物（りんご60本・梨12本・柿3本・葡萄29本）、野菜（ジャガイモ5畝・トウモロコシ）を育てており、Aさんの受け持ちは、農園の草刈り、トウモロコシ全般、りんごの葉取り葡萄の芽欠き、収穫時の運び等である。指導者からは、「真面目で仕事が丁寧であり、性格的にも本人に合っているのではないか」と評価され、Aさんも「きつい仕事だが楽しい。今はまだ任せてもらえない仕事も出来るようになりたい。車の免許も取って農場までの運転も任されるようになりたい。」と笑顔で夢を語っていた。
児童との関わりはまだ緊張することが多いが、施設の雰囲気にも慣れてきたと話していた。
6. 雇用してみて
理事長は、「幸いにも聖母園には、障害のある職員がいる。障害者を知り、分かり合える環境が既に存在している。職員それぞれに、疑問・悩みがあるのは普通のことである。個々の特性・適性を大切にし、助け合いながら各人のペースで仕事が行えることが理想であり、その中で誰かに必要とされることの素晴らしさを、障害のある職員、障害のない職員そして施設を利用する児童に知って欲しい。」と障害者雇用の重要性と受け止め方を話していた。
現在藤聖母園では、就職意欲を持つことで次のステップに進める状態の方を施設ボランティアとして受けている。「本人の就労意欲と業務委託中の事業所との関係が整えば、法人内他事業所も含め、雇用に向けて訓練を検討していきたい。」と障害者雇用に対して意欲的に話され、同時に、人材の定着は事業所の財産であり、障害のある方も長く働ける職場でなければならないと、「障害者職場定着推進チーム」についても設置を考えたいとしていた。
7. 訪問を終えて
理事長の話されたことを振り返り、福祉分野の事業所には、福祉制度利用者に対する配慮が既に存在し、障害という個性を持った方と共に歩んで来たことを改めて感じさせられた。一方ではサービスを受ける側の障害ある方が、他方では自らの持てる力を発揮し、社会の一員として役割を担う。「共に生きる」ことは、難しいことだが簡単であり、優しさの中にも厳しさが含まれていると感じた。
地域への自立・自分の夢に向かって働くAさんの屈託のない笑顔から、障害者の雇用定着が充分に図られていると実感し、今後の障害者雇用に対しても期待できた。
執筆者 : 青森藤チャレンジド就業・生活支援センター
生活支援担当者 中村 新
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