従業員の自立を重視した取り組み
- 事業所名
- 有限会社エプソンスワン
- 所在地
- 山形県酒田市
- 事業内容
- クリーンスーツ類のクリーニング
- 従業員数
- 18名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 クリーニング業務(仕分け、洗濯、乾燥、たたみ等) 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 10 クリーニング業務(仕分け、洗濯、乾燥、たたみ等) 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
山形県庄内地域にある有限会社エプソンスワンは、山形県で初めて認定を受けた県内唯一の特例子会社である。2001年2月に、東北エプソン株式会社100%出資によって設立された。事業内容は、工場で使用するクリーンスーツ類のクリーニングである。
ちなみに親会社の東北エプソン株式会社は1985年1月、セイコーエプソングループの国内第二の拠点として設立された。半導体事業の主力工場として、世界市場へ向けた最先端の半導体製品(IC)を供給している。また、プリンタ事業ではカラーインクジェットプリンタの心臓部「インクヘッド」の国内量産拠点として事業を展開している。
エプソンスワンでは「働く」ことに対する意識が従業員には最も必要であると考えている。事業方針は「従業員が与えられたミッションをこなす」ことである。
2. 障害者雇用の経緯と現状
東北エプソンは交替勤務等の労働環境やそれに付随した交通手段の問題等があり、障害者を雇用するといっても身体障害者中心とならざるを得ず、法定雇用率をなかなか達成できなかった。しかし、雇用率を達成できずに納付金を支払うというのは本来の障害者雇用の在り方ではない、という考え方の下、「仕事に障害者を合わせるのではなく、障害者のために新たな仕事を創る」と発想の転換を図り、特例子会社を設立することにした。セイコーエプソングループではすでに「エプソンミズベ」という特例子会社があり、特例子会社についてのある程度のノウハウをもっていた。ミズベからの障害者雇用、特例子会社についてのノウハウの支援を受けた。ちなみにエプソンミズベとは現在も情報交換をよく行っており、スワンでなされている業務上の工夫をミズベが取り入れるというようなこともある。
設立時における親会社からの業務支援は総務、人事、財務等関係部門によるプロジェクト体制が組まれてなされた。設立時に親会社から2名の役員が就任(非常勤役員)し、スタッフも3名が出向している。スタッフの業務は障害者指導である。その他障害者雇用の経験者1名が外部から嘱託として加わり、障害者の指導の他、障害者雇用に不慣れなスタッフの支援も行った。
操業が開始されたのは2002年3月であるが、採用活動は2001年から開始された。募集人数10名に対して職業安定所、鶴岡高等養護学校を通して40名の応募があった。その中から本人及び家族との面接を経て10名が採用された。その後、数名の従業員に入れ替えがあったが、現在も知的障害者10名(重度5名、軽度5名)と身体障害者1名(聴覚障害、2級)が働いている。また、障害者以外には7名のスタッフ(出向者)がいる。また、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当時)の重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金の活用と重度障害者多数雇用事業所として、税制上の優遇措置を該当させている。現在は勤務している重度知的障害者5名に対して障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置助成金)の適用を受けている。
3. 取組みの内容
(1)採用・訓練
エプソンスワンでは採用にあたって、「就労意識」(通勤の可否、働く意欲・体力)の有無の確認や、適性試験(スーツ着用・たたみ等の実務、簡単なカードの組合せ、時間感覚)の実施、さらに面接(本人及び保護者)を行っている。採用後は、就業訓練として社内でルール・マナーの基礎教育から業務の基礎教育、工程毎の業務訓練等を行う一方で、職務試行法、職域開発援助事業、トライアル雇用、ジョブコーチなど外部からの支援を受けている。また、前述したように同じエプソングループの特例子会社であるエプソンミズベからも支援を受けている。
しかし、本人の就労意欲や自立性に問題があったり、同僚・スタッフとの関係の中で自傷・他傷行為が発生してしまったり、家庭環境の変化によって本人が不安定になり異常行動をするようになったりなどの原因から、これまで4人が退職に至っている。エプソンスワンでは、トラブルが発生すると保護者や出身校(高等養護学校)、主治医と連携し、また、就業・生活支援センター等の支援によって状況の改善を試みている。
(2)労働条件
従業員の賃金は最低賃金以上に設定されている。年間の休日は法定の有給休暇の他にフレックス休暇として5日間を設定している。
勤務時間は7時間15分(昼休みは1時間)である。勤務時間が8時間に満たない理由は、後片付けを従業員の作業終了後にスタッフが行うためである。スタッフの勤務時間を8時間にするために、従業員はそれよりも少ない時間となる。必要があれば残業や休日出勤も行っている。会社設立当初は、障害のある従業員が残業等をしてもいいのかと悩んだが、エプソンスワンで働くということは一般雇用であり、その中には当然残業や休日出勤も含まれるはず、と今は考えている。また、従業員も日頃から家族の働く姿を見ていて、残業・休日出勤は労働者として一人前の証である、というようにとらえているようだということである。
中小企業退職金共済制度にも加入している。設立当初は加入していなかったが、知的障害のある人たちについては加齢の問題は重要であることがわかったためである。
労働条件に関しては、設立当初と比べて現在では、より障害のある従業員の現状にあったものになってきているといえる。
(3)通勤方法
エプソンスワンは山形県酒田市の中心地から少し離れた最上川を渡ったところにあり、酒田駅から車で20分程かかる。従業員は朝は酒田駅から会社が用意したタクシーで通勤している。これは公共バスでちょうど良い時間に運行しているものがないためである。タクシー費用はかかるが、労災等のことを考えるとタクシー通勤も必要なことととらえている。帰りは酒田市営の福祉バスを利用している。以前、バス停は会社から離れたところにしかなかったが、会社が酒田市と交渉してバス停を会社の近くに移動してもらった。朝の集合時間は7時半で、その時間までに駅に来られない人はエプソンスワンでの勤務は無理ということにしている。もちろん会社に近ければ自転車通勤は認められる。以前に、従業員の家族から送迎したいという申し出もあったが、従業員の自立のためにエプソンスワンでは自主通勤を前提としているので、その申し出は断ったということである。
4. 自立に向けての訓練・工夫
エプソンスワンでは従業員の「自立」ということに重きを置いている。
働く事の意味、というのはなかなか把握しにくいことであるが、エプソンスワンでは働くことが社会生活上の自立につながっていることを認識させるための工夫がなされている。
その一つが賞与の意味づけである。エプソンスワンでは従業員が就業時間中は手持ち無沙汰にならないようしている。する仕事が無いと仕事に対するモチベーションがあがらないからである。仕事に慣れて効率性があがれば、一段高いレベルの仕事を用意する。そして、従業員が努力すればそれが賞与に反映されることを知らせている。賞与の額については、従業員1人1人と面接し、努力した人ほど多くなる仕組みにしている。
「自立」への取り組みは、仕事上だけでなく、生活面にも及んでいる。給与・賞与については、自分でATMから引き下ろすことができるようしてほしいと保護者に頼んでいる。給与・賞与が全額入っている口座からは無理だとしても、本人が自由に使える額を別口座に入れ、それについて従業員が自由に出し入れできるようにしている。また、小遣い帳もつけさせている。これは小遣いの使用目的を知るためではなく、従業員自身にいくら使ったかを認識させるためである。自分で稼いだ金を何のために、何に使うのかを考えることは、自立生活に必要な要素である。
こうしたエプソンスワンの取り組みは着実に成果を挙げている。従業員の中から「一人暮らしをしたい」という者が現われた。保護者は、心配もあって「どうせ長く続けられないのだから、敷金がもったいない」といって反対した。しかし、会社側は、保護者に「たとえ1ヵ月でも2ヶ月でも一人暮らしさせてほしい。そして一人暮らしが続けられなくなっても、よくやったと誉めてほしい」と頼んだ。その従業員は半年たっても一人暮らしを続けているそうである。8月中は盆休みもあって出勤日が減るが、それは給料に反映される。そうすると「8月は給料だけでは暮らせないかも」と言ってくる。このようなことも積み重ねが自立ということにつながっていくのではないか、と会社は考えている。
その他、従業員の外出機会が増えるように、自動車の普通免許の取得を勧めており、現在3名が取得に至っている。また、聴覚に障害がある従業員とのコミュニケーションのために、従業員、障害のないスタッフ(工場長以外)の全員が手話の勉強会を月1回開催し、挨拶や簡単な話程度なら手話で行えるようになっている。
このような1つ1つの取り組みが、障害のある従業員にとって自信になり、仕事や生活に対するさらなる意欲の向上につながっている。
5. 課題と将来への展望
山形県唯一の特例子会社ということもあり、見学者も多い。作業現場を見学してもらう際、「どの人が障害のある人で、どの人が障害のない人かわかりますか」と聞くと、大抵の場合わからないそうである。それだけ、障害者が着実に業務を遂行しているということである。
エプソンスワンは20名弱の小規模な会社であるが、親会社である東北エプソンは正社員、派遣社員等合わせて2500名の大企業である。その親会社の社員から言われるのは「エプソンスワンの人のあいさつはとても気持ちがいい」ということである。皆にその価値が認められるということは重要である。
現在のクリーニングでは、これ以上障害者雇用を拡大することは難しい。しかし、東北エプソンもエプソンスワンも障害者雇用への取り組みがこれで十分であるとは考えていない。現在は知的障害のある人を中心に雇用しているが、今後、雇用を拡大するためには、新しい業務の開拓・開発が必要であると考えている。


![]() | 細かい作業手順が作業現場に大きく掲示されている |
執筆者 : 東北公益文科大学 准教授 澤邉 みさ子
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