製造部門の戦力として欠かせない存在に
- 事業所名
- 京浜発條株式会社
- 所在地
- 神奈川県横須賀市
- 事業内容
- 自動車、エレクトロニクス機器等の精密ばね、各種精密金属ばね、形状記憶合金素子の設計製造
- 従業員数
- 138名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 営業:2名(本社、営業所勤務)
製造部門:2名(熱処理、研磨)内部障害 0 知的障害 2 製造作業(オペレーション補助、検査、焼き入れ、検品他) 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要(品質にこだわり続け、58年)
5階建ての建屋は延べ約4200m2。工場内には、ばねの製造機約90台、検査機約30台がずらりと並び、月に1000万本以上のばねを生産している。1997年、品質保証の国際規格ISO9001を、2002年には環境の国際規格ISO14001を取得。
「発條」とは「ばね・ぜんまい」の意。横須賀市内の工業地域、海を見渡す追浜の地に建つ京浜発條株式会社は、精密ばねの製造メーカーである。
創業は1950年。主にクルマのワイパーやリクライニングシートに使用される小型ばねや、電子機器に組み込まれる精密ばねの生産を、横須賀、群馬、米国シカゴの3拠点で展開している。日産自動車追浜工場の城下町にありながら、ニッサン車のみならず、トヨタやホンダ、その他多くのクルマに京浜発條製のばねが採用されているのは、ひとえにその「高い品質」ゆえ。ワイパーばねの国内シェアは7割を超える。

「我が社の歴史を見てみると、何よりも『品質を追求し続けてきた58年』と言えるでしょう。クルマの部品というのは人の命が関わっていますから、ワイパーばねひとつにしても、万が一の不良があってはならないんです。」と語るのは、業務部の西村学次長。
「100万本に1本の不良品が、長年かけて培ってきた信頼を揺るがす大変な事態になってしまいます。ですから製造部門では、工程ごと、作業ごとに何度も品質検査を行い、合格したものだけが次の工程に流されるシステムになっています。」
ねじれやゆがみ、ムラはないか、ばねの弾力は仕様通りか、キズや欠けはないか…。目視によるチェックはもちろんのこと、測定器などの検査機もフル稼働し、製品の品質を確保している。
2. 雇用して知った知的障害者の「良いところ」
(1)障害者を受け入れる不安
現在、京浜発條で働く障害者は6人(雇用率4.35%)。4人の肢体不自由者のほか、2人の知的障害者がいる。
「肢体不自由の人は古くからの従業員なので別として、我が社が障害者雇用に本格的に取り組んだのは2004年、よこすか就労センターの職員の方から『知的障害者に仕事をさせてみてはくれないか』と持ちかけられたのが発端と聞いています」と西村次長。
従業員数は300人に満たず納付金徴収対象外とはいえ、障害者の雇用は企業の社会的責任のひとつ。これをきっかけに、京浜発條は知的障害者の雇用にも積極的に取り組むこととなった。
「ですが、不安はありましたよ。うまく職場に溶け込めるかどうか、どんな仕事をさせたらいいのか、もし品質不良が出たらどうするのか。大型の設備などもあるので事故だって心配ですし…」
とにかく実習生として、まず1人を受け入れることからスタート。しかし、「3ヵ月もつかどうかも分からない」とまでささやかれていた皆の懸念は、すぐに払拭された。
(2)まじめな仕事ぶりに高い評価
「とにかくまじめで、一生懸命な働きぶりに驚かされました。適当にごまかしたり、手を抜いたりは絶対にしません。それにあいさつがきちんとしていて、すがすがしいんです。」
最初はその人のもつ性格や個性かと思った。しかし、その後、何人かの知的障害者を雇用するなかで、それらの特徴は、彼らに共通する「良いところ」だということが分かってきたと西村次長は言う。
彼らが配属された製造部門の責任者からも、「想像以上の働き。もはや戦力として欠かせない存在」との声が上がってきた。
3. 知的障害者に「仕事」を任せる
(1)指示は一から十まできちんと伝える
石山聡さんは2004年入社。現在、クルマのリクライニングシート用ばねのセッチング作業を担当している。セッチングというのは、ばねを強く巻き付けて負荷をかけることで弾性を向上・安定させる作業で、ばね製造のほぼ最終工程に当たる。

「いかがです? なかなかの作業スピードでしょう」と、石山さんの仕事ぶりに太鼓判を押すのは飯島信幸課長。
「この工程では、セッチングと同時に、治具を使いながらサイズと巻き付け角度の検査も行っています。スピードと正確さ、そしてひとつずつ機械にかけるので根気がいる仕事ですが、彼なら大丈夫。もうベテランの域ですよ」

また、石山さんを指導する際に注意している点を聞いたところ、「指示は一から十まで、きちんと伝えるようにしています」との答えが返ってきた。
健常者のなかには、一を伝えるだけで三まで分かる人、人によっては十まで理解できる人がいるが、知的障害者の場合はそうはいかない。指示は順序立ててもれなく伝え、一緒に確認するようにしているという。
「でも逆に言えば、きちんと指示を出しさえすれば、彼らは必ずそれを守ります。そういうところは、すばらしい長所だと思いますね」
分からないのに分かったふりをしたり、指示を仰がないで自分勝手な判断で物事を進めたり…、そんなことをしない分、安心して任せられますと飯島課長はにっこり微笑んだ。
(2)分からないことは何でも聞くように
もう一人、2006年入社の木村直人さんは、ばねの焼き入れ工程を担当。ベルトコンベアに均一にばねを並べ、熱処理機に流す作業に従事している。
安定した高い品質を保つために、熱処理機の周辺には冷房装置をつけることができない。そのため職場は暑く、夏場ともなると、かろうじて作業者には直接風を当てるスポットクーラーが向けられているものの、うだるような熱気が漂う。

「とにかく暑い職場だし、ばねがたくさん入った重い箱を持ち上げなくてはならないし、厳しい仕事なんです。ですから最初は長く続けられるかどうかが心配でした」と言うのは吉田貴雄係長。
しかし、木村さんは休むことなく、また文句ひとつこぼすことなく、もくもくと仕事に取り組んだ。なんと入社以来、無遅刻無欠勤の皆勤である。
「正直言って、健常者だって今まで誰も長続きしなかったんです。でも、これは誰かがやらなければならない大事な仕事。木村さんが来てくれて本当に助かりました。最初は一台の熱処理機だけを任せていたんですが、今は二台見てもらっています。仕事は確実ですし、うちの職場の大切な戦力ですよ」

吉田係長は、木村さんに対して「知的障害者ということは、ほとんど意識していない」という。とはいえ、「少しでも分からないことがあったら、何でも聞きにくるよう指導はしています」と細やかな心配りは忘れない。
「この商品はどこに置けばいいのか、あの道具はどこにあるのかなど、些細な質問が多いですけどね。でも、『この前も教えただろう』とか、『そんなこと自分で考えろ』とは絶対に言わないように気をつけています。やる気を失わずに、のびのびと仕事をしてもらいたいですからね」
知的障害者の特性をよくとらえ、その「良いところ」を生かし、伸ばしてやろうとする飯島課長と吉田係長のさりげない姿勢には、大いに学ぶものがある。
4. モチベーションの向上・維持のために
(1)目に見える成果がやりがいにつながる
さて、西村次長は知的障害者の仕事ぶりを見ているうちに、ひとつの傾向に気がついたという。成果が目に見えやすい仕事を任せたほうが、やりがいをもって取り組みやすいようなのだ。
「その日一日のセッチング作業量、つまり成果が、仕上がり品を詰めた箱を積み上げることによって確認できるわけです。業務日誌を見てみると、『今日は7箱分がんばったから、明日は8箱に挑戦します』なんて書いてある。ノルマなんて課していないのに、自主的に目標を設定し、達成に向けて張り切っているんです。これには感動しましたね」
作業ひとつにしても、区切りが見えない流れ作業ではなく、たとえば箱の数という成果が見えるような仕組みにしてやる。そんなちょっとした工夫が、知的障害者のモチベーションの向上に役立つのだ。
(2)改善活動にも参加
また、京浜発條では品質や生産性をより高めるため、製造部門の従業員が中心となって改善活動を展開している。知的障害者の2人も活動に参加し、改善提案書なども提出しているという。
改善提案書は提案1件につき500円、優秀な内容で実際に採用されたものには、社内規定による表彰および賞金もある。賞金目当てというわけではないが、がんばって提案すれば表彰されるというシステムは、彼らの「成果を認められたい」気持ちを掘り起こすきっかけにもなっている。
「先日は『移動ロス』を削減するための改善提案書が提出されましたよ。毎日仕事をしているなかで、彼らなりに作業のたびにモノを移動させなければいけない『ムダ』が見えてきたんでしょうね」
残念ながら採用にまでは至らなかったが、それよりも「自分でムダを発見し、改善を考え、提案する」までになった彼の成長ぶりが嬉しいと西村次長は語る。製造部門を支える一員として健常者とともに活動に参加させたことが、彼らのスキルアップにもつながっているようだ。
(3)障害者にも基幹業務を
ところで、企業が知的障害者に仕事をさせようとする場合、「清掃」や「メール集配」などの、どちらかといえば補助的な業務にしてしまうことが多いが、前項で紹介した通り、京浜発條では健常者と区別せず、基幹の製造部門に就かせている。
「我が社の場合、役員以下全員で職場を掃除しているので、わざわざ障害者のために『清掃の仕事』を作る必要がないというのが本当のところですが…(笑)。でも、実習生からよく聞くのは『他の会社の実習では、掃除の仕事が多かった』という声。その点、うちでは実習時から製造作業を体験させているからか、気に入ってくれるようです。せっかく働いてお金をもらうのなら、その会社の業績につながるような仕事をしたい。そしていずれは『君がいないと困る』と言われるくらいになりたい。そう思ってくれているのでしょうか」
仕事に「やりがい」や「誇り」を求めるのは、健常者も障害者も同じこと。その好事例が、京浜発條での彼らのいきいきとした仕事ぶりだろう。
5. 定着の鍵は「適材適所」
2004年に雇用を開始し、京浜発條に就職した知的障害者は4人(さらに2009年春には、横浜市内の高等特別支援学校より新卒者1名採用予定あり)。定着率を保つために、「やりがいをもって仕事を続けてもらう」環境づくりは前述の通りだが、その他にも採用の際のポイントなどを聞いた。
「障害者に限らず、健常者の従業員やパートさん、アルバイトの場合も同じなんですが」と、前置きをしながら続ける西村次長。
「まずは人材を欲している職場の責任者とよく話し合い、どんな人にどの仕事をしてもらいたいのかを明確にすることです。たとえば、一人で黙々と緻密な作業ができる人が欲しいとか、チームを組む仕事だから意思表示がはっきりできる人がいいとか…」
はじめに仕事ありき。それに合わせて欲しい人材のアウトラインができれば、適した人材を選びやすいという。
面接でもっぱら見るのは、その人の性格。時間をかけて話をしながら性格を見抜き、仕事とマッチングさせていく。年齢や経歴、条件などは後回しだ。
「知的障害者の場合も同様です。障害の内容や度合いよりも、仕事と性格のマッチングが大切だと思っています」
「我が社の仕事に適した人に来てもらいたい」という真剣な思いで採用するからこそ、「知的障害者を雇用して、今まで一度も大きなトラブルはありません」と西村次長が誇るだけの成果が出ているのかもしれない。
雇用率の数字を上げるために「とにかく障害者を雇用しなくては」とばかり考えている向きには、ぜひ見習ってもらいたい。
執筆者 : 株式会社山笑堂 ライター 小川 亜紀子
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