IT企業で働く障害者とその環境づくり
- 事業所名
- 株式会社富士通アドバンストソリューションズ
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- ITコンサルティング、システムインテグレーションサービス、パッケージソフト開発、アウトソーシング
- 従業員数
- 1,593名
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 3 ヘルスキーパー:2人
システム開発のSE:1人聴覚障害 2 社内OAシステム担当 肢体不自由 11 SE:4人、事務、事務補助:7人 内部障害 0 知的障害 1 庶務業務 精神障害 0 - 目次
- ホームページアドレス
- http://jp.fujitsu.com/fasol/
1. 雇用率1.8%を達成
株式会社富士通アドバンストソリューションズは、富士通グループの一翼を担うソフト開発会社。横浜市にある本社のほか全国に8つの事業所を持ち、従業員は約1,500人、そのうち9割近くがコンピュータシステムを設計開発するシステムエンジニア(SE)というIT企業である。
(1)障害者雇用の経緯
障害者の雇用を開始したのは1993年。80年代にそれぞれ顧客業界別に設立された富士通グループのシステム会社が合併し、会社の規模が大きくなる課程で従業員数が1,000人を超え、障害者雇用の必然性を意識し始めたからだったという。
「ハローワークが主催する合同説明会で、聴覚障害の方を一人採用したのが最初と聞いています。大学の工学部出身で基礎知識があったことから、入社してすぐにSEとして配属したのですが、現場では技術云々の前にコミュニケーションの取り方にとまどってしまったようで…」と人事部の平林麻里子さんは語る。
厳しい納期に迫られながら顧客の要望を具体的なカタチに仕上げていかなければならないSEの現場は繁忙だ。余裕のあるときなら筆談を交えることもできるが、スケジュールが立て込んでくると、そうも言っていられない。開発チームへの聴覚障害者の配属は、仕事内容への理解や組織への順応の面で課題があったという。
「聴覚障害者に対してどうコミュニケーションを取ればいいのか、現場にノウハウがないまま配属してしまったのが原因でした」
このときの経験を教訓とし、以来、富士通アドバンストソリューションズでは、障害者をSEとして配属する際には、社内ネットワークの管理やホームページの開発などの社内業務を担当してもらい、かつ周囲がフォローしやすい体制で育成することに努めている。
(2)彼らの仕事を『開拓』しながら、雇用を継続
当初、あまり積極的とはいえなかった障害者雇用に対し、「これではいけない」と本格雇用の方針が打ち出されたのは2000年。さらに大きな合併があり、「富士通アドバンストソリューションズ」として動き始めてからだ。
「それまでは『いい人がいたら』といった感じで2~3年に一人採用するぐらいでしたが、それだけでは法定雇用率は達成できません。2000年の段階で障害を有する従業員は10人いましたが、さらに雇用していくために、彼らに適した仕事を『開拓』することを考えました。今ある枠に当てはめるだけでなく、SE以外の新しい職種の展開も始めたのです」と平林さん。
事務職として働く肢体不自由者を少しずつ採用したほか、2004年には、従業員の健康管理のためのマッサージを施術するヘルスキーパーを採用し、社内リラクゼーションルームを開設。徐々に社内に浸透して一人では対応できないほどの人気となったため、2008年にはもう一人の採用を実現し、拡充を図っている。
現在、障害を有する従業員数は17人。2008年で1.8%の法定雇用率を達成したが、今後も毎年2人程度のペースで採用を続けていく方針だ。
2. 「当たり前の存在」としての同僚
車いす利用者である鈴木和生さんは、1994年に入社。業務部に所属し、社内から集約される売上や原価の管理、また社内事務システム運用におけるマニュアル作成やトラブル対応などに従事している。
「僕が入社した頃は車いすの障害者はまだ珍しい存在でしたが、今では数も増えました。仕事をする上で『障害者だから』という特別視はほとんどされていないと思いますね」と鈴木さん。
「彼がいないと困る仕事も多いですし、同じ職場で働く仲間として、大いに頼りにしています」と原淳二業務部長と中嶋倫子さんも太鼓判を押す。
鈴木さんは障害を有する従業員のなかでは先輩格。車いすの新入社員が入居する寮を探すときは、設備が整っているかなどをチェックしアドバイスすることもある。
また、鈴木さんと長年一緒に働いてきた同僚たちも、車いす利用者への対応には慣れたものだ。「たとえば…」と笑いながら語る原部長。
「部で飲み会をするときなどは、鈴木くんが利用しやすい店を探すわけです。段差がなく、通路やトイレが広い店にしないといけませんからね。うちの部にはそういった店のリストが作ってあるんです。で、先日、他の部署に車いすの新入社員が入社したんですが、歓迎会をやるということで幹事が相談に来たのですよ。『どんな店にしたらいいですか』と聞くので、その秘蔵のリストをお貸ししました(笑)」
障害者が「当たり前の存在」として共にいる姿を示す格好のエピソードであろう。
3. 「心配り」の積み重ね
(1)働きやすい環境づくり
2005年入社の吉田真也さんも車いすの利用者。人事部で従業員の通勤費や出張費などの管理を担当している。富士通アドバンストソリューションズを選んだ動機は「会社の雰囲気が良かったから」。実際、入社してみると、障害者が健常者と一緒に普通に働く様子に新鮮な驚きを覚えたという。
「つまり働きやすい環境づくりができているからなのです。事務所の通路は広くとってあるし、プリンターなどは低い位置に置いてあり、車いすの人でも無理なく利用できるようになっている。僕はクルマで出社するんですが、駐車場ではビルの出入口の一番近い場所に障害者専用の駐車スペースが確保されているので、これにはとても助かりますね」
昨年はセキュリティ強化のため、本社のすべてのドアがICカードをかざすと開錠される仕組みとなったが、車いす利用者がいる部屋のドアにはレバーハンドルを押し開けるのではではなく、タッチ式のスライド自動ドアが設置された。
さらに「小さいことかもしれませんが…」と付け加える吉田さん。
「各部署に配られるお弁当を置く場所を僕に合わせて低い机に変更してくれたり、喫煙ルームで灰皿をさりげなく手渡してくれたり…、ささいなことかもしれませんが、ありがたい心配りは数えきれません。しかも誰もがそれを自然に、意識せずに行動している。その雰囲気がうれしいですね」
富士通アドバンストソリューションズで働く障害者の離職率は極めて低い。このことは、彼らが働きやすい環境づくり、社内の意識づくりが整えられていることの証といえよう。
(2)健康管理にも配慮
入社してから、吉田さんは車いすのまま長時間同じ姿勢で仕事をするという事務職を初めて経験した。その1年後、本人にも自覚がないまま、いわゆる床ずれ(褥瘡)の症状が悪化して入院、手術という事態に陥った。
このことを重く見た人事部は、すぐに他の部署で働く車いす利用者とその上司に連絡し、同様の例がないか調査。幸い吉田さんと同じ症状を訴える障害者はいなかったが、長時間同じ姿勢で車いすに座り続けることが、いかに彼らに負担をかけるかを改めて知ったという。そして車いすの利用者は、午前10時と午後3時に社内の健康保健室に行き、ベッドに横たわって圧力を取り除く姿勢で休憩することを義務づけた。
「僕の場合は吉田さんほどの症状は出ませんが、年齢を重ねていくにつれ、長時間同じ姿勢をしているのがつらくなってきたなぁという実感はありました。ですから症状が悪化する前にこのような改善を行ってもらったのは、正直助かります」と鈴木さん。
休憩時間が設置されたことと、また、「自己管理もしっかりやろう」と心がけるようになったことで再発が防止されているという吉田さんも、「実際、障害者の側から仕事中に『休憩させてくれ』とは言いにくいものです。僕の例が他の障害者の方に少しでも役に立ったのなら良かったです」。
いくら配慮しても健常者には気づけない点もある。障害者からのメッセージを真摯に受け止め、再び問題を起こさないための手を早め早めに打つことが重要だ。
4. リラクゼーションルームで雇用を創出
最後に、視覚障害を有する2人の従業員が働くリラクゼーションルームを紹介しよう。
設立前は「障害者を雇用する目的とはいえ、そこまでする必要があるのか」と議論が交わされたというが、当時の社長の「企業の社会的責任として、実行しなければ」という一声で、社内リラクゼーションルームは2004年にスタートした。
従業員は月に1回、就業時間内に誰でも利用することができ、1回につき約30分の施術で500円支払う。専門の国家資格を持ったヘルスキーパーのマッサージは「心身ともにリフレッシュできる」と従業員の間で大好評となった。
「SEの仕事はデスクワークが主なので、肩こりや腰痛、頭痛に悩まされている人が多いのです。その人なりのつらいところを探っていき、やさしくほぐすようにしています」と言うのは、設立当初から働く伊東久代さん。2008年に新しく入った石井崇之さんも「まだ自分なりのマッサージを模索中です。日々練習しながら技術を磨いていきます」と意欲的だ。
「SEの仕事だけでなく、探せば障害者の人に働いてもらえるさまざまな職域が見つかるはずです。リラクゼーションルームのように、障害者の雇用を生み出しつつ、また、従業員の癒しの場として貢献できるような仕事を、これからも『開拓』していければと思っています」と人事部の平林さん。
富士通アドバンストソリューションズの継続した展開に、今後も期待したい。
執筆者 : 株式会社山笑堂 ライター 小川 亜紀子
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