重度知的障害者雇用のパイオニア
- 事業所名
- 日本理化学工業株式会社
- 所在地
- 神奈川県川崎市
- 事業内容
- 文具、事務用品の製造販売、プラスチック部品製造など
- 従業員数
- 74名
- うち障害者数
- 54名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 54 チョーク製造、キットパス製造、プラスチック成型 精神障害 0 - 目次
- ホームページアドレス
- http://www.rikagaku.co.jp
1. 共に働き50年
日本理化学工業株式会社は、1937(昭和12)年設立。古くから教育現場で使用されていた白墨に代わり、粉の飛ばない衛生無害なダストレスチョークの初の国産化に成功した老舗メーカーである。
現在、神奈川県に川崎工場、北海道に美唄工場と2つの製造拠点を持ち、あわせて54人の知的障害者が働いている。

写真はダストレスチョークの製造ラインで働く知的障害者。
初めて障害者を雇用したのは1959年。「近隣の養護学校の先生が訪ねて来て、来春卒業予定の生徒を雇ってくれないかと依頼されたのが、そもそもの始まりでした」と、大山泰弘会長は当時を振り返る。
それまで障害者福祉とは無縁だった大山会長(当時専務)は「彼らの人生に責任を持つことができるだろうか」と躊躇したが、「ほんの少し、働く体験だけでもさせてあげたい」という先生の熱意に動かされ、1週間に限って就業体験を受け入れることにしたという。
「そこで2人の少女が来たんですが、それはもう真面目な仕事ぶりでねぇ。毎日、誰よりも早く出社してきて、休み時間にも手を止めることがない。驚かされましたよ」
そして明日は約束の期日を迎えるという日のこと。現場の従業員たちが集まり、大山会長の机をぐるりと囲んだ。
「みんなで『あの子たちを正社員として雇ってください』と私に訴えるんです。そりゃあもう、びっくりしました。『仕事ができない分は、自分たちがフォローする。だから、ここで働かせてやってください』って頭を下げるんだもの…」
大山会長は彼らの願いを従業員の「総意」と受け取り、その場で2人の少女の採用を決定した。しかし一体、何が彼らをそこまで突き動かしたのか…。
「やっぱり彼女たちの一生懸命働く姿に、みんなが感動を覚えたのだと思います。『せっかくがんばっているんだから、このまま働かせてあげたい』と人に思わせるような空気が自然と生まれたのでしょう」と大山会長。
彼女たちの採用をきっかけに、一人また一人と知的障害者を受け入れ、気がつけば50年で50人以上。アットホームな社風も居心地良く、長年勤め上げ、無事定年を迎えた退職者も出てきた。
「そういえば、先ほどお茶を出してくれた女性。彼女が第一号採用の2人の少女のうちの1人ですよ」とニッコリ微笑む大山会長。
定年後も嘱託社員として元気に働き続けているという彼女。腰がやや曲がり、白髪となったその姿に、半世紀に渡る障害者雇用の歴史を垣間見た気がした。

2. 「働く幸せ」与えたい
日本理化学工業の敷地の一角には「働く幸せの像」が建てられている。そこに掲げられているのは、大山会長が以前、法事の席でたまたま一緒になったお坊さんから教えられた「人間の4つの幸せ」である。
人に愛されること
人にほめられること
人の役に立つこと
人から必要とされること
人間の究極の幸せはこの4つに尽きると教えられた大山会長は、下の3つはまさに「働くこと」により得られる幸福であると気づき、目からウロコが落ちる思いだったという。
「実は障害者を採用し続けるなかで、一つの疑問に突き当たっていたのです。彼らにとって働くこととは何か、またなぜ、そんなにも一生懸命に働くのだろうかと…。毎日会社に来て仕事をするより、本当は福祉施設でのんびり暮らすほうがいいのではないかとも感じていました。でも、違うんですよ。仕事を通じて人にほめられたり、人の役に立ったり、人から必要とされることが、彼らにとっても喜びであり、生きがいなんです」
言葉を噛みしめながら何度もうなずく大山会長。「働く幸せの像」には最後にもう一節、大山会長の言葉が記されていた。
働くことによって愛以外の3つの幸せは得られるのだ。
私はその愛までも得られると思う。
大山会長は、人は働くことにより、人に愛される幸せをも得られると信じている。


3. 誰でも使える道具の工夫
知的障害者を採用する際、日本理化学工業では障害の度合いは基準にしていない。実際、54人の障害者のうち33人が重度障害者である。
「障害の程度でふるいにかけるようなことはしません。重要なのは、彼らの能力に合わせた仕事の流れや道具を工夫することです。しっかりとした仕組みを作り、ルールさえ決めれば、彼らはそれを忠実に守るのですから」と大山会長。道具の数々を見せてもらった。


上に紹介した例以外にも、チョークの切れ端をまとめて取り払うのにフォークを使うなど、小さなアイデアは数知れない。障害の程度に関係なく、誰もが使いやすい道具で間違いなく作業できるよう、日々、工夫が積み重ねられている。
4. 入社時の4つの約束
日本理化学工業では、入社の際に必ず次の4つの約束を守ることを条件としている。障害の程度は問わないが、一緒に働く仲間として、この約束だけはきちんと守るよう厳しく教育しているという。
○自分のことは自分でできること
○簡単でも意思表示ができること
○一生懸命働くこと
○人に迷惑をかけないこと
「知的障害者のなかには、体質的なものもあるのかもしれませんが、病的ともいえるほど周囲に迷惑をかける行動を起こす人がいます。そういうときは、私たちは上の4つの約束を示し、『約束を破ったのだから、帰ってください』と毅然とした態度で自宅に帰します。その後、『もう迷惑はかけない』と家族と約束し、その旨を電話で報告してもらった段階で、ようやく出社を許可するのです」と大山会長。
彼らの管理を担当している従業員には、同じ人が再度迷惑行為を起こしたとしても、起こす間隔が長くなってきたら、それは「成長」の証と見るように指導している。
この繰り返しのなかで徐々に迷惑行為の回数が減り、そのうちまったく起こさなくなったという成功例もあるという。
5. 地元中小企業が雇用の担い手に
大山会長は、これからの障害者雇用の鍵となるのは、中小企業の存在であると考えている。
「法定雇用率を達成するために大企業が特例子会社を作り、大量に雇用するというパターンには限界があると思います。どこの地域にも障害者はいるし、みんなが大企業に通勤できるようなところに住んでいるわけではありませんから。障害者が家の近くで安心して働けるように、地域の中小企業が1人でも2人でもいいから障害者を働かせてあげればいいと思うんです」
そのような環境を作るには、障害者雇用促進法そのものにも改革を加える必要があると力説する。
「それに…」と続ける大山会長。
「働くことができないからと、障害者が18歳から60歳まで施設で生活した場合、一人あたり2億円の社会保障費がかかるといわれています。国や地方の財政を圧迫するこの費用を削減するためにも、より多くの中小企業が障害者を雇用できるよう国も支援すべきでしょう」
障害者雇用のこれからを真剣に考えるのなら、企業と行政が力を合わせ、より実態に則した制度作りに取り組まなければならない。それがゆくゆくは障害者自身の幸せに、そして企業や地域の発展へつながっていくのですと、大山会長は厳しい表情で結んだ。
執筆者 : 株式会社山笑堂ライター 小川 亜紀子
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