大学採用のジョブコーチと共に障害者雇用2年目の取り組み
- 事業所名
- 国立大学法人金沢大学
- 所在地
- 石川県金沢市
- 事業内容
- 教育、研究機関
- 従業員数
- 3,324名
- うち障害者数
- 23名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 事務 聴覚障害 2 技術職員、事務 肢体不自由 7 歯科技工士、事務、教員、技術職員、清掃 内部障害 6 教員、看護師、事務 知的障害 6 清掃 精神障害 1 教員 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.kanazawa-u.ac.jp/
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景等
(1)事業所の概要
所在地: | 石川県金沢市角間町 |
沿 革 : | 昭和24年5月に第四高等学校、石川師範学校、金沢医科大学、金沢工業専門学校等が新制大学として金沢大学となり、平成16年4月の法人化に伴い国立学校法人金沢大学となる。 |
(2)障害者雇用の経緯、背景
金沢大学では現在清掃業務に従事するための障害者雇用を始めて2年目である。現在は7名(身体障害1名、知的障害6名)の障害のある職員と2名のジョブコーチが従事している。その内、本校(附属特別支援学校)卒業生の2名(Aさん女性19年3月卒20歳、Bさん男性20年3月卒19歳)について仕事の様子や大学が採用したジョブコーチの支援について紹介する。
平成18年に進路担当者が大学に現場実習の実施協力を依頼したところ、障害者雇用率達成に向けた取り組みを行なっていた大学の意向と合致し、清掃業務で3名の障害者雇用を進める準備が行なわれた。平成19年の5月、本校より清掃業務を希望していた女子2名、他の養護学校から1名が採用された。更に平成20年5月には新たに4名の採用があり本校より1名の男子生徒が採用された。現在7名のスタッフで清掃業務を行っている。
(3)金沢大学の支援体制
大学では知的障害者を雇用するにあたり2名のジョブコーチも採用した。うち1名は障害者就業・生活支援センターでジョブコーチとして働いた経験のある職員である。事前に大学ジョブコーチと学校、障害者就業・生活支援センターが連携し、職務分析や一人一人に応じた課題分析を行うことができた。また、年に数回の定着支援会議を開催し、支援方法の検討や家庭との調整を行っている。この大学と各出身校、障害者就業・生活支援センターが連携して支援する体制は、金沢大学が障害者雇用を進める上で大変意味があり特色づけられる。
2. 業務内容と課題
(1)Aさんの成長
Aさんは自閉症の障害があり、まじめで几帳面で、一度覚えたことは正確に行うことができる。急な予定変更や自分の思いと異なることが要求されると不安定になり、たびたび大声で泣き叫ぶことがある。
最初は、6箇所ある大学本部棟内のトイレがAさんの担当となった。ジョブコーチが作成した手順書により、仕事の手順は覚えたが作業効率がなかなか上がらなかった。
しかし、仕事を時間でするのではなく、約束の仕事量で終了するようにしたところ、自分が考える時間に終えることができず、パニックになった。そこで楽しみにしている学生食堂での昼食やおやつの時間を確保するために、今ではその日の清掃場所を午前と午後に分け、時間を意識して効率よく仕事に取り組んでいる。何より持ち前のパワーを発揮して力強く仕事に打ち込んでいる。
また、4月より4人の後輩ができ仕事内容の変更があったり残業になったりしている。でも「先輩になったらパニックになりません」とジョブコーチと約束して守っている。後輩が遅れている箇所を手伝うこともある。さらに同僚への気配りとして自分が休暇を取るときは「お願いね」と自発的に声かけするようになった。精神面で大きな成長を見せている。
ジョブコーチも1年間の支援経験よりAさんに対する指示はすべて早めに行い、変更のあるときは口頭でなくできるだけ文字と絵を使って伝えている。

![]() |
《Aさんのスケジュール表》
ホワイトボードに1日の仕事と清掃順番を示したカードが貼られている。傍線が休憩、お昼休みを挟んで午前と午後の仕事場所を示している。この日はトイレ掃除を中心に行っている。 |

(2)Bさんの根気
Bさんは日常生活動作では自立しているが、完璧にはできないので少し支援を必要とする。1対1であれば、日常生活におけるコミュニケーションはとれる。
Bさんの特徴として抽象的な言葉の理解が難しく、「きれいに」「はやく」「強く」など多くのことを一度に言われても理解しにくい。また、集団の中では話を聞くことが難しい面がある。挨拶や返事はしっかりできるが、話しを聞いているようで内容を理解していないことがあり、作業の指示と異なることをすることが見られる。
Bさんは在学中より清掃の仕事に関心をもち3年次の実習でも大学で実施した。その時は移動に時間がかかることや同じ作業を繰り返してしまうことが課題としてあげられた。
準備としてトイレの各箇所の名称を写真と照らし合わせながら記憶した。
4月から業務を始めるにあたりジョブコーチが手順書を作成し、手順書を見ながら作業をするようにしたが、時折順番を飛ばしてしまうことや必要な箇所を集中してできないなどの課題があげられた。その対策として自己チェック、より具体的にする、作業内容をシンプルにする等を実施した。
6月の定着支援会議では、5月の連休後、カートを壊してしまったり、作業の効率が落ちる、働く意欲を失いかけているなど多くの課題が報告された。好きなゲームソフトを買うなどして意欲を促す、励ましの言葉かけなど彼のサポート体制が家庭を含めて見直された。ジョブコーチの方々の日々の言葉かけなどのサポートが現在も継続されている。
現在Bさんは落ち着いてきている。手順書を見なくても仕事の流れをこなしている。慣れてきたことが自信にもなっているようにも見える。黙々と仕事に取り組みオドオドした感じが取れてきている。ただ雑巾を固く絞る、同僚への配慮等細かい課題がまだまだ山積である。

![]() |
《ピカピカ表》
本人が具体的にイメージできるよう手順書の名前や色分けを工夫している。(洗面台を洗うための手順書) |
![]() |
《確認表》
作業の終わりに確認する。文字や絵を使用している。 |
![]() |
《雑巾5回絞る課題》
「固く絞る」という指示は抽象的で難しいので「5回絞る」と示す。 |
![]() |
《手順書》
各箇所を写真で示し、より具体化している。 |

3. 今後について
Aさんの成長振りには目を見張るものがあるが、仕事上どうしても予定外のことが起こりうる。そんな時落ち着いてどう対処すべきかまだまだ課題の残るところである。
Bさんは7名の同僚にスタッフが増え、個人の能力もバラバラで人間関係が複雑化している。同僚への気持ちのよい心遣いなどができればよりよい職場作りにもつながる。先輩後輩関係なく大学からも仕事の質が問われ、同僚からも比べられるとつらい面がある。これからの働くモチベーションの維持も問われる。
しかし、大学がジョブコーチを採用したことでそれぞれの課題に対してリアルタイムに必要な支援が可能となっている。その環境下で一つ一つ課題を解決するたびに金沢大学で働く7名は成長している。
![]() | 《各個人のスケジュール表》 7名の個々人の仕事と仕事内容を表している。なお、このボードは、打合わせや休憩等に使用するため大学本部棟内に一室割り当てられた彼ら専用の部屋(作業員室)にある。 |
執筆者 : 国立大学法人金沢大学人間社会学域学校教育学類附属特別支援学校
教諭 小足 進午
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。