事業所名

株式会社アサヒゴウセン

所在地

石川県能美市

事業内容

糸加工及び、ニット生地製造

従業員数

59名

うち障害者数

3名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	オペレーター
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	2	梱包
精神障害	0

目次

1. はじめに
2. 事業所の概要、障害者雇用に至るまでの経緯
3. 企業内授産とは
4. 支援の課題
5. まとめ

事業所外観

1. はじめに

障害者福祉施設のサービス利用者の中には、「将来は一般の企業で働きたい」という希望を持つ利用者や、離職を経験しながらも、再び一般社会で活躍したいと希望する利用者が存在する。このような利用者のニーズに対して、福祉施設では「働くために必要な技術」の訓練や「地域で生きるために必要な力」を身につける体験の機会を持ち、一般就労に繋がるような支援サービスを行っている。

今回紹介する事例は、一般企業と福祉施設が信頼関係を構築し、連携しながら雇用に結びついたものである。

2. 事業所の概要、障害者雇用に至るまでの経緯

株式会社アサヒゴウセンは、糸加工、丸編、ニットの生地製造の事業を行い、3つのグループ会社を持ちながら企業展開している。障害者雇用においては、オペレーターで身体障害者を1名、梱包の業務で知的障害者を2名雇用しており、実績も長い（障害者雇用経験は20年を越す）。また、障害者の就労定着の専門技術を得るため、担当職員に、障害者職業生活相談員の資格を取得させ、『第2号職場適応援助者（企業内ジョブコーチ）』の研修を受講させている。

社会福祉法人富明会「けやき野苑」（知的障害者通所授産施設）とアサヒゴウセンは、平成18年に企業内授産契約を結び、週に2度、リサイクル作業（産業廃棄物の分別）、リユース作業（部品磨き）、及び、清掃作業等を行っているが、平成19年に今回のケース対象者Nさんが採用されるに至った。

3. 企業内授産とは

国で、平成13年度より「施設外授産の活用による就職促進モデル事業」を実施している。事業の特徴は将来的には雇用に移行することを想定し、企業とは雇用関係がなく企業内の仕事を授産施設等が受託し、授産利用者が施設外で作業を行い、出来高等に応じ工賃を受け取ることにある。

『企業との雇用関係はないが、授産施設等に仕事を発注し、支援員の支援のもと事業所内で授産利用者が作業に従事する活動』である。

企業内授産の様子

企業・施設利用者の利点

【表1】

4. 支援の課題

今回、雇用されるようになったNさんは、知的障害（療育手帳B）がある。素直で真面目な性格であり、言語によるコミュニケーションは問題ないが、時間の概念が乏しい傾向にある。一般就労の経験もあり、力仕事には自信を持っている。

企業内授産にも参加しており、アサヒゴウセンで働く事には違和感なく移行できた。障害の特性から、新しい仕事を覚えるまでには時間が掛かる事と、生活面（時間の概念、金銭管理、容姿等）の支援が課題と感じ、企業と連携して支援することとした。

【アサヒゴウセンからの支援】

（1）仕事の支援

本人の特性に合わせ、企業内授産で行っていた作業から、現在行っている「糸の梱包」の仕事へ、本人に無理なく時間を掛けて移行し、一つの仕事を確実に覚えるような支援がなされている。また、新たな仕事の導入の際には指示書（写真1参照）を作り、常時所持させて技術の定着化を図っている。

【写真1】仕事の指示書

（2）職場環境の構造化

仕事の時間割表（写真2参照）の掲示、材料や製品、廃棄物等を管理しやすいように、掲示物（写真3参照）により構造化を図っている。

【写真2】仕事の時間割表

【写真3】掲示物による構造化

（3）生活面の支援

通勤距離が長いため、冬季は公共交通機関の遅れにともない、遅刻が生じた。

将来的には社員寮の利用や地域への移行を考え、家庭の協力を得ながら、身辺自立（自炊・洗濯・買い物等）の支援をおこなっている。

（4）職場内での協調性

企業の福利厚生事業（忘年会・バレーボール大会・地域行事等）に参加を勧め、ナチュラル・サポートの構築（現場従業員の本人理解を深め、良い人間関係をつくる）を進めている。

バレーボール大会

【施設からの支援】

（1）金銭管理の支援

給料の管理方法や年金管理を本人にさせるために、銀行通帳を作りキャッシュカード等の使い方を支援した。

（2）通勤支援

・自宅から、会社まで通勤するための技術や方法を支援した。

・バスの定期券の買い方や、通勤の支援。

（3）  連絡技術の支援

会社に対する電話連絡、緊急時の家への連絡、施設の就労支援担当者への連絡等方法を支援した（携帯電話を持たせた）。

5. まとめ

現在Nさんは、長い障害者雇用の経験と就労定着の専門技術によって築かれた支援方法で、新たなスキルを身につけている。また、施設行事等に参加した時に、施設利用者や支援職員に対して、「僕はアサヒゴウセンで頑張っている。」と胸を張って言うNさんから、Nさんが愛社精神を持って働いていることが理解できる。

今回のケースで特記したいのは、「仕事を教える支援」は勿論、一般就労の定着をさせるために必要となる「生活面（身辺自立）の支援」を企業が中心になって行っていることである。せっかく仕事は覚えたものの、保護者からの支援がなくなった場合に出てくる問題「通勤できなくなる、容姿が乱れる、金銭の管理ができなくなる等」で離職に繋がる場合も少なくない。企業、保護者、施設、地域が連携し、障害者が自立して働けるスキルを身に付けることが、障害者の将来の安定した生活を可能とする。そして、このことが真の障害者の自立であると思われる。

仕事の様子

執筆者 ： 社会福祉法人富明会社会就労センターけやき野苑
支援課長  就労担当支援員  中山  肇