障害(病気)があっても働ける、就労はリカバリーの重要な要素
- 事業所名
- 財団法人住吉病院
- 所在地
- 山梨県甲府市
- 事業内容
- 精神科病院及び各種社会復帰施設の運営
- 従業員数
- 228名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 看護業務 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 5 看護補助業務 - 目次

1. 事業所概要
(1)事業内容
半世紀あまりにわたって、精神科医療の専門病院として、精神障害者の治療、社会復帰に力を注いできた。
かつて、精神科の病気といえば、あたかも特定の人だけがかかるものであるかのような偏見をもって見られた時代があった。しかし、科学技術の発達や社会の急激な変化に、多くの人がストレスを感じる現在、統合失調症(平成14年精神分裂病から名称変更)や躁うつ病などの従来からの精神疾患に加え、摂食障害、夫婦間の問題、家庭内暴力、幼児虐待、社会適応障害、不眠など、現代社会の抱える問題による心の病気は次第に増えつつある。また、アルコール依存症は、精神科の病気であるにもかかわらず、もっとも見逃されていることの多い病気である。今や精神疾患は、特別なものではなく、誰もがかかる可能性のある身近な病気である。こうした全ての病気に対応し、患者さんとご家族の立場に立って、考え、互いに手をたずさえながら、治療と心の健康管理に当たると共に、一日も早い社会復帰をめざす精神科の専門病院と社会復帰施設等を備えている。
(2)治療方針
開設以来50余年を経ており、開設当初、まだ薬物もほとんど手に入らなかった時代から、精神障害者の回復、社会復帰に力を注いできた。その伝統は、今日に引き継がれ、1年間に400人近い方々が、退院している。
また、精神障害者の患者の会(退院者クラブ=友心会)、家族会(ひまわり会)は、ともに30年を越える歴史を持つ。現在までに、病院の他にグループホーム、援護寮、作業センター、生活支援センターなど、多くの社会復帰施設等を設置し、運営するに至っている。
病棟は全体に開放度の高い構造に設計され、急性期の方が入院される閉鎖病棟においても、テラスまで自由に出て、外気と触れ合うことの出来る構造になっている。
アルコール依存症の治療に力を注いできたのも、当院の特色のひとつであり、昭和45年以来の歴史をもっている。山梨県では唯一のアルコール依存症専門病棟を持ち、地域の自助グループとの連携の元に、多くの方々が回復されている。
統合失調症、躁うつ病など、従来からの精神疾患を丁寧に診てゆく姿勢は変わらないが、最近は摂食障害、家庭内暴力、夫婦間の問題、社会適応障害、ストレスによる不眠など、現代社会の抱える問題による受診も増えてきた。特に、摂食障害については、家族の会(マーサウの会)を運営し多くの方々の参加を得ている。
【法人データ】
■名称 : | 財団法人 住吉病院 |
■創立者: | 有泉 信 |
■理事長: | 松野 正弘 |
■設立日: | 昭和30年11月16日 |
■事業 : | 精神科病院「住吉病院」許可病床数315床 指定障害者福祉サービス事業所 すみよし生活支援センター事業所 ・地域活動支援センター事業 ・指定相談支援事業 ・共同生活援助事業(グループホーム) 「ひまわり荘」「すみれ荘」「さくら荘」 すみよし寮事業所 ・短期入所事業(ショートステイ) 精神障害者生活訓練(援護寮)「すみよし寮」 精神障害者通所授産施設「すみよし作業センター」 ベーカリーカフェ「ぱれっと」 障害者就業・生活支援センター「すみよし障害者就業・生活支援センター」 |
■職員数: | 228名 |

施設長 森屋さん(前列左)、看護部長 一ノ瀬さん(前列中)、総務係長 野川さん(前列右)、看護長 渡辺さん(後列左)、看護長 大村さん(後列中)、看護長 中田さん(後列右)
(3)法人の理念
充実した環境と細やかな思いやりで精神科疾患の治療と社会復帰のための支援を行う病院であり、学理的かつ適切なる医療の供給により、健康と医療福祉の増進に寄与することを経営方針としている。その主題は次のとおりである。
“HEART・full メッセージ 2008”
「私たちはすべての人々への人間愛の精神を大切に、ぬくもりある医療福祉をもって社会に貢献します」
また、基本理念は次のとおりである。
● 財団法人住吉病院は、医の倫理に基づき、精神障害者への医療、福祉並びに各種活動により、社会復帰の促進と必要な保護をとおして、社会に貢献する。
● 法人及び職員は、利用者の基本的人権を尊重し、奉仕の精神をもって、自己の技術と良心を医療と福祉に捧げると共に、人間愛をもって利用者及びその家族等に接する。
● 法人及び職員は、地域における責務を認識し、その地域の精神医療をはじめ、精神保健福祉活動等にも積極的に取り組む。
(4)組織構成
法人は、病院(診療部、看護部、活動療法部、事務部)、各施設(生活訓練・ショートステイ施設、指定障害福祉サービス事業所、地域生活援助事業施設、通所授産施設、障害者就業・生活支援センター)で構成されている。
(5)障害者雇用の理念
「障がい(病気)があっても働ける」、「就労はリカバリーの重要な要素」を理念として掲げている。また、前者は障害者へのメッセージでもあり、後者は職員の姿勢でもある。
2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ
当法人は、以前より障害者数名を雇用していたが、平成19年8月に就任した中谷真樹院長により、“ALL for Recovery”を合言葉に障害を持っている方の就労について、より積極的に取り組んでいく方針が打ち出された。「Recovery」とは、単に回復という意味合いではなく、自分の地域で生活し、働き、完全に参加するプロセスのことである。
就労支援を積極的にアプローチするに当たっては、個別職業紹介とサポートモデルを念頭におき、医療・福祉側からは障害者就業・生活支援センターの立ち上げ、就労支援会議の開催、法人側からは障害者の積極的な雇用に取り組んでいる。
特徴的なのは、障害者就業・生活支援センターでの実践が当事者のリカバリーにとり重要な「希望」を与え、作業センターで働いている障害者が、自ら病院で働きたいと申し出るケースがあることである。即ち、治療や福祉、就労などの社会復帰、その維持継続まで総合的に取り組んでおり、特筆に値する。
また、外来診療で来る障害者が申し出るケースもあり、現在、障害者雇用は増加している。特に、精神障害者保健福祉手帳を持った統合失調症の方の雇用が増えており、ハローワークからの紹介による雇用もある。なお、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)の一部を改正する法律により、平成18年4月1日より精神障害者保健福祉手帳を所持している精神障害者についても、身体障害者、知的障害者と同様に雇用率の算定対象となり、短時間労働者(週20時間以上30時間未満)の精神障害者についても0.5カウントされることとなった。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間
原則として1年間の有期契約であり、それを更新する雇用形態となっている。
② 場所
主に病棟である。
③ 時間
トライアル雇用並びにステップアップ雇用に対応した時間設定となっている。
1.週20時間以上のケース(トライアル雇用対応含む)
8:45~12:00を週5日、13:00~15:00を週2日として組み合わせる勤務であり、週3日は3時間15分、週2日は5時間15分の週20時間15分勤務
2.週16時間以上20時間未満のケース(ステップアップ雇用対応)
13:00~17:00を週4日の週16時間勤務
④ 賃金
時給であり、原則として最低賃金額以上を目安に設定し、減額特例は採用していない。
●山梨県最低賃金
1時間 665円(平成19年10月28日現在)
(2)仕事の内容
主に看護補助業務であり、具体的には次のとおりとなっている。
① 清掃(ホール、トイレ、廊下、部屋)
② 食事の配膳、下膳、片付け、トロミ(嚥下障害の方用の食事)の用意
③ 入浴の手伝い
④ 寝具交換
⑤ 売店への注文、品揃え、受取
⑥ パソコン入力、文書業務
⑦ タバコの吸いがらの片付け、ゴミ出し
⑧ ラジオ体操の付き添い
以上だが、業務内容については能力に応じて拡大も考えている。ジョブコーチを十分に活用することがポイントであり、医療と就労支援を行うところが同一であることが効果を高めている。




(3)助成金の活用
次の三つを活用予定である。これらの助成金・奨励金は、障害者雇用に取り組むに当たり、非常に役立つものと考えられる。
① 特定求職者雇用開発助成金
② 試行雇用(トライアル雇用)奨励金
③ 精神障害者ステップアップ雇用奨励金
(4)労務管理の工夫
一言で表すと、「障害者の働きやすい職場は、全ての人にとって働きやすい職場」であり、労務管理の工夫は、働きやすい職場づくりに他ならない。
工夫の概要を述べると、障害者雇用においては、特に、最初のマッチングが大切であり、スタッフ一丸となって気を配るには、その人の病気をよく理解し偏見を持たないで接することがポイントと思われる。また、ジョブコーチを随時活用した作業のマニュアル化が、円滑な障害者雇用に非常に効果を上げている。採用後2週間はマンツーマンで指導を行い、言葉遣い等の配慮が求められるが、慣れてくれば通常の扱いとなる。とにかく、不安を拭うためによく話をすることが大切である。しかし、気を遣いすぎると逆に本人が負担を感じてしまうこともある。また、往々にして、周りよりも本人が頑張りすぎてしまうため、無理をさせないように気を付けることが必要である。
最初に限らず、作業に慣れてきたとしても周りの人が異なった指示(話し)をしてしまうと、本人がパニックとなってしまうので、周りの人が作業に対して共通認識を持つことが大切である。
以下に、実践している労務管理の具体的な工夫を挙げる。
・ジョブコーチと連携する。
・山梨障害者職業センターと連携する
・就労支援準備会を開いて法人内の情報交換に努め、支援体制を整備する。
・障害者雇用を“当事者雇用”と名前を付け業務委員会で業務を検討したり、会議で話題に取り上げて障害者雇用に対しての雰囲気作りを行う。
・採用に際し、面接(履歴書)、健康診断、採否面接などの手続きをしっかり踏む。
・採用手続きをわかりやすく図示し、説明に用いる。
・採用後、白衣の貸与、病院案内、職員紹介等一般職員と同じように処遇する。
・病棟の鍵の大切さをよく説明し、初日から管理を任せることにより、本人に対する信頼感と責任感を期待した。(他の病院では、新採用職員に対し数日から1ヶ月経過後に鍵を渡すこともあるが、当院では初日から鍵を渡している)
・職場の上司の看護長が、2週間毎日面接して業務日誌を付ける。それ以降は1週間に2回、現在は1週間に1回の面接となっている。
・トイレ清掃は作業工程が複雑なので、ジョブコーチが作成したマニュアルをトイレに貼る。
・できるだけ緊張をほぐすよう、上司による声掛けを多くする。
・一緒に働く看護補助者に、教え方のコツを指導する。
・月に一度全員で話し合う機会を設ける。(現在は2ヶ月に1度)
・一緒に懇親会に参加してもらい、打ち解けやすい雰囲気を作る。
・具合が悪い時本人が休むことを遠慮するため、「しっかり休むことが長続きするコツ」と教えることにより、休みやすい雰囲気を作る。本人は「そう言われて気が楽になった」と述懐している。
以上だが、特筆すべきことは、統合失調症の労働者雇用を実践している外資系製薬会社の障害者雇用の担当者の話を聴く機会を設け、勉強会を行うなどして、当事者雇用を始める段階で積極的に労務管理の工夫に取り組んだことである。
4. 取り組みの効果
まず、働く本人が生きがいを持って働くことができるようになったことが挙げられる。さらに、入院している患者や通院している障害者が働いている当事者を見て励まされていることも、非常に大きな効果と認められる。
また、障害者が一生懸命働く事により、他の職員が刺激を受け、職場全体が活性化していることも、大きな効果である。障害者は貴重な労働力であることは勿論、同時に生き生きと働く姿を見た健常者も元気になるという、一石二鳥的な効果を上げているのである。
具体例としては、懇親会の出席に対して自ら節度を持って対応するなど、他の職員の模範となるような所作は、周りに感動を与えたほどである。なお、実直な仕事ぶりや、挨拶の仕方などが素晴らしく、他の職員が刺激を受けて挨拶をしっかり行うようになるなど、真摯な姿勢を目の当たりにして職場全体が引き締まる効果があった。特に、仕事に対して手を抜かない姿勢が、職員としての初心を思い出させてくれるとのことである。
障害者本人にとっての効果としては、生きがいや働きがいの向上であることは明らかであるが、周りに対しての効果は、人間的な成長が最大のポイントと思われる。今まで無意識ないし無関心であった障害に対する偏見に気が付くことにより、組織として多様性(ダイバシティ)を受け入れることができるように成長できた。
5. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
課題は次のとおりである。
① 精神障害者の雇用に関してはまだ日が浅いため、今後長期的に、精神的にも身体的にも安定して働くことができること。
② 一人一人の能力によって、業務を開拓し仕事の範囲を広げること。
③ 法人の内外の様々な職域に雇用を拡大していくこと。
④ 現在の仕事で自信を付け、より深く地域社会へ参加していくこと。
⑤ 一般職員と今以上に打ち解けられるよう、親睦会事業や病棟行事への参加が期待されること。
⑥ 賃金並びに労働時間のアップを図ること。
(2)対策・展望
今後、障害者雇用を増員予定である。特に、病気を体験した看護師にも一緒に働いてもらい、利用者の立場に立った当事者主体の医療福祉を目指したいと考えている。
当院の合言葉“ALL for Recovery”のもと、障害を持つ人も持たない人も共に生きる社会を目指して、ここ住吉の地から“希望・元気”を発信していくことを期している。
また、就業・生活支援センターにおいて、当事者のグループ活動が始まったことを契機として、本人の能力に合わせて短時間でも働くことができるよう応援していきたいと考えている。さらに、就業・生活支援センターと連動させて業務を拡大することや、山梨県全体をカバーするためのモデル作り、農業への取り組みなども検討している。法人としては除外率なしで法定雇用率をクリアーしたが、さらに率を高めたい。
(3)総括
今後において、意欲的に障害者雇用を実現していくと考えている。また、崇高な理念のもと、障害者雇用を通じて、職場だけではなく、社会全体に貢献することを目指していることが強く伝わってくる。特に、院長の中谷先生からは“ALL for Recovery”の考えをご説明いただき、この合言葉が職員一人一人を通じて法人全体に浸透していることを実感した。まさに、「障がい(病気)があっても働ける」、「就労はリカバリーの重要な要素」を実践していることが認められる。最後に、実際に働いている障害者のコメントを紹介する。それは、「仕事が楽しい、やりがいを感じる、長く勤めたい」というものだが、この言葉が、住吉病院の障害者雇用の成果、効果並びに実績を如実に表している。
執筆者 : 雨宮労務管理事務所特定社会保険労務士 雨宮 隆浩
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