基本は適材適所による人材活用
- 事業所名
- 株式会社富士急ハイランド
- 所在地
- 山梨県富士吉田市
- 事業内容
- 富士急行株式会社からの委託による「富士急ハイランド」の営業、料理 飲食店業及び土産品等の物品販売業
- 従業員数
- 293名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 レストランの接客 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 1 警備業務 知的障害 1 レストランの洗い場、事務所清掃 精神障害 0 - 目次

1. 事業所概要、取り組みの背景
富士急行株式会社から「富士急ハイランド」の営業を委託されている会社である。富士急グループは「運輸・観光・流通サービス・不動産・土木建築・情報」の6つの柱を基盤に飛躍しているが、観光部門の中心のみならず富士急グループを代表する会社である。
沿革としては、昭和36年に開業し、その後、順次遊戯施設を補強してきた。高さ・速さ・落差が当時世界一としてギネスブックに公認されるものや、子供達に人気のキャラクターのテーマパークがオープンするなど、オリジナリティ溢れる多数の遊戯施設を完備したアミューズメントパークとして、毎年多くのお客様を迎えている。
その他にも、各種競技会の開催や一般のお客様の利用に供している。
【会社データ】
■事業内容: | ①観光事業ならびに旅館業、理髪業、公衆浴場の経営 ②飲食事業の経営 ③遊園地その他娯楽施設の経営 ④雑貨等の物品販売業 他 |
■創業 : | 昭和44年6月1日 |
■従業員数: | 約300名 |
■資本金 : | 9,750万円 |
(2)経営理念等
①経営理念
『富士急グループは、「富士を世界に拓く」という創業精神のもと、オリジナリティの高い「喜び・感動」を創造することにより、世界の人々の心の豊かさに貢献します。』
②経営ビジョン
『富士急グループは十二分に安全を心がけ、ステークホルダー重視の経営をすることにより、アメニティ(夢・喜び・快適・やすらぎ・感動)ビジネスのリーディングカンパニーを目指します。』
株主重視の経営:「世界中のお客様の立場に立って、120%の安全と最高のホスピタリティーの提供を目指します」
:「自然環境・地域社会を大切にし、皆様から信頼される会社になります」
:「社員が夢と誇りを持てる会社となります」
(3)組織構成
総務部(総務課、採用教育センター)、管理部(営業管理センター、仕入センター、精算センター)、販売促進部(販売課、企画課)、技術部(保安センター、整備センター、施設センター)、遊園地部(アトラクション、プール・スケートセンター、第一エリア、第2エリア、料飲、トーマスランド)、直営事業部(富士急雲上閣麓)
(4)障害者雇用の理念
経営ビジョンに沿って、企業としてのCSR(企業の社会的責任)を果たし、地域貢献やノーマライゼーションの実現に取り組むべく、障害者雇用を推進している。

上記の障害者雇用の理念にあるとおり、地域貢献として障害者の方に雇用の場を提供することと同時に、障害者法定雇用率の達成というコンプライアンスがきっかけとなっている。
障害者の雇用は、昭和46年から始め、その方は37年間勤務という実績となっている。主に、ハローワークからの紹介を中心として採用しており、トライアル雇用制度を活用している。
2. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間:期間の定めのない契約と、1年間の有期契約のケースがある。
② 場所:施設内となっている。
③ 時間:フルタイムからパートタイムまで、働き方に合わせたものとなっている。
④ 賃金:月給制及び時給制であり、賞与も含めて健常者との違いはない。また、社会保険等の福利厚生も健常者と全く同じである。
(2)仕事の内容
複数の障害者の方が雇用されており、以下のとおり各人別の主な仕事を取り上げる。
① 視覚障害者、知的障害者:レストランのホール、洗い場、館内清掃
② 内部障害者:警備業務




(3)労務管理の工夫
Ⅰ. 雇用管理面について
業務内容によって、労務管理上の工夫が異なっているので、以下のとおり業務毎に区分する。
① レストランの洗い場のケース(知的障害)
●忙しいときは本人がパニックになるため、人員を配置し一人にさせないようにする。これはケガの防止という点でも重要である。
●休みに関しては、本人の希望を100%尊重している。
●ジョブコーチによる3ヶ月に及ぶ支援を受けたことにより、指示命令は複数ではなく、一つに限定するようにしている。なお、ジョブコーチに関しては、具体的には次のようなアドバイスやマニュアルによる指示を受け、大変参考になった。
「接するにあたり、注意していただきたいこと」(原文のまま抜粋)
・周りが忙しかったり、本人が慌てたりすると焦ってしまいます。(食器を落としたり・転んだり)そんなときは「落ち着いて」とか、「ゆっくり丁寧に」等と言うと落ち着きます。
・新しい仕事を教える場合は口頭指示のみだと覚えられません。しかし、見本を見せ(指導する人が実際にやってみせると良いです)、その後本人に実際にやってもらいながら改善点を直していき、良いところは誉めていく(誉めることによってやる気がかなり高まります)ことによって習得が可能です。ただ、本人は一見作業ができているように見えても自信がなく行っていることがあります。そのため、作業をやってみた感想(できるかできないか)を聞き、本人の口から「出来ない難しい」という言葉が出たときにはできていることを伝えていただくことで安心します。
・自分で考えて効率的に作業を行うことや周りの状況を見ながら臨機応変に作業を行うことは難しいです。しかし、気持ちが純粋なため、言われたことは守ろうとします。効率的なやり方に変えた方が良いときやして欲しい作業があるときには直接指示をしてください。
・誉められるとモチべ-ションが上がります(例えば「上手くなったね」など)。注意が重なるとやる気を無くしてしまう恐れがあります。注意の時は「こうした方がいいよ」「こうした方がやりやすいよ」といい実際やってもらい感想を聞くと効果的です。
・会話で、焦ると言葉が出にくいですが、ゆっくり待って聞くか、いくつか単語を提示すると話が続きます。
・話し好きで会話がどんどん広がりますが終了したいときは、「ごめんね‥‥だから」などと話すと中断します。
・時計の5分・10分などの区切りのいい時間は判りますが、数字と数字の間は把握出来にくいです。休憩に入るとき「○分(区切りのいい時間)、または数字で【○のところ】少し前・少し過ぎ」などと言って頂くと判ります。


② 警備業務のケース(内部障害)
タバコの煙等が影響するため、清浄な空気の場所、並びに体力的に負担のかからない業務ということで、現在の仕事内容を設定した。また、一人での作業のため、一日に何回か様子を見に行き、顔色等の体調を確認するようにしている。
③ レストランのホールのケース(視覚障害)
視覚に障害があるため、会社の通達などの伝達事項を口頭で伝えている。また、周囲の従業員がフォローすべく担当者を決め、上司が、担当者と本人の勤務シフトを調整し、単独にならないように配慮している。その勤務シフトについては、早番と遅番は入れずに日勤のみとし、バス通勤にも配慮している。
Ⅱ. 設備・職場環境について
障害者雇用の理念の一つでもあるノーマライゼーションへの取り組みにおいて、障害者も健常者も、安全で快適に職業生活が送れるよう、基本的な部分での整備を心掛けている。
① 段差を避けて車いすでも移動できるように、なだらかなスロープを設置
② 障害者用のトイレを設置


Ⅲ. 労務管理の工夫のまとめ
労務管理のポイントは適材適所であり、一人一人の特性を見極めることが大切である。役割分担がしっかりできれば、障害者雇用を維持継続、発展することができると思われる。また、声を掛けることが大切であり、孤独にしないことが肝要である。
(4)助成金等の活用
助成金等については、ジョブコーチによる支援事業や特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用奨励金を受給している。これらの助成金は、障害者雇用をコスト面でバックアップするものであり、非常に効果的な制度と考えられる。
3. 取り組みの効果
健常者が、障害者の一生懸命にコツコツと働く姿を目の当たりにすることにより、刺激を受け、やる気を高めている。また、しっかりと挨拶をするので、職場の雰囲気を明るくし、ムードメーカーとして活気づけてくれていることが、非常に大きい効果であると認識している。職場全体として役割分担が上手くできており、適材適所が機能しているので、従業員一人一人が目的意識を持って仕事をする仕組みとなっている。
現在では、障害者が職場にいるのが自然であり普通のこととして会社全体が受け止めており、特別に意識をすることもなく一緒に働いている。これこそが、会社におけるノーマライゼーション並びにCSRの現れといえるだろう。
4. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
接客業であり、現状では障害者の仕事が限定されてしまっているので、その範囲をどこまで広げられるかが今後の課題と考えている。
(2)対策・展望
適材適所の精度を高めることにより、障害者雇用の増員も十分にあり得る。したがって、一人一人の特性を見極め、会社全体として適材適所を徹底し、可能な限り、障害者雇用を維持継続していきたいと考えている。
障害者の雇用管理に関しては、決して無理をすることなく、自然体で対応している姿勢がよく伝わってきた。その姿勢こそが、会社全体の活性化やCSRの実現など、有形無形の効果を生んでいる。
執筆者 : 雨宮労務管理事務所 社会保険労務士 雨宮 隆浩
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