実習を活用した障害者雇用
- 事業所名
- 株式会社アスクテクニカ
- 所在地
- 山梨県市川三郷町
- 事業内容
- 耐熱技術を基盤としたシール材・摩擦材製品を生産し、安全と快適さ を提案し続けている
- 従業員数
- 220名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 3 現業(製造)、生産技術、守衛 内部障害 1 施設管理 知的障害 1 現業(製造) 精神障害 0 - 目次

1. 事業所概要
(1)事業内容
1991年に現社となったが、1944年に(旧)朝日石綿工業株式会社山梨工場として製造を開始、以来六十有余年この山梨の地にて自動車をはじめとする先端産業の一翼を担うべく、耐熱技術を基盤としたシール材・摩擦材商品を生産し、安全と快適さを提案し続けている企業である。
何かが生まれようとする時、そして2つのカがぶつかりあう時、そこには大きな熱が生まれる。その熱エネルギーは時として膨大なカを発生させ、容易にコントロールができなくなることがある。しかしそれを最良の状態にコントロールするのが当社の技術である。当社は時代の進歩とともに技術革新を進め、信頼ある熱とカのコーディネーターとして活躍している。具体的には、シール材:セミメタリックガスケットシート、ジョイントシート、摩擦材:ブレーキライニング、クラッチフェーシング等を生産・販売している。
(2)経営理念等
① 私たちは、安全で、安心でき、そして快適な場を創造する事業を通じて、生活環境と社会基盤の充実ならびに産業の発展に尽くします。
② 私たちは、お客様の満足度を高めるとともに、様々な関係者(ステイクホルダー)ならびに環境と社会に対する責任を果たし、皆様から信頼され尊敬されるようになります。
③ 私たちは、技術力、発想力ならびに意思の力をもって困難に挑戦し、それを克服することによって競争に勝ち残るとともに、社内に希望と活力を満たし、そこに働く人々の幸せと生きがいを高めます。
【環境理念】
アスクテクニカは、企業理念=『快適な未来へ日々前進』に基づいて、事業活動のあらゆる領域で環境への影響を配慮します。
【環境方針】
アスクテクニカ環境理念に基づき、具体的な環境目標を定めて、環境汚染の予防に努めます。
また、地域社会との共生及び、自然環境との調和を目指すため「環境マネジメントシステム」を定期的に見直し、全従業員の参加により環境の継続的改善に取り組みます。
1. 環境汚染物質の削減を推進します。
2. 産業廃棄物の減量化と再資源化を推進します。
3. 資源の有効利用及び省エネルギーを推進します。
4. 環境に関する法規制及び同意したその他の要求事項を遵守します。
5. この方針を全従業員並びに全構成員に周知するとともに、環境に対する意識向上を図ります。
6. この方針は、一般の方から要求があれば配布致します。

(4)組織構成
構成は次のとおりとなっている。
研究所(第一研究課、第2研究課)12%、総務部(総務課、経理課)9%、営業部(東京営業所、浜松営業所、大阪営業所、山梨営業所、海外センター)9%、生産部(第一製造課、第2製造課、生産技術課)62%、品質保証部(第一品質保証課、第二品質保証課、ISO課)8%、内部統制推進室 ※パーセントは人員構成割合
(5)障害者雇用の理念
ノーマライゼーションの考えの下、地域貢献を始めとした企業の社会的責任を果たすべく、障害者雇用を進めている。
2. 取り組みの経緯、背景、きっかけ
上記のノーマライゼーションや地域貢献、社会的責任(CSR)の理念の実現とともに、障害者の法定雇用率を達成することがきっかけの一つになっている。
最初は、ハローワーク主催の障害者雇用を対象とした合同面接会への参加であり、面接会を通じて肢体不自由の新卒の身体障害者を採用した。また、ハローワークからの紹介で知的障害者を採用したが、3ヶ月くらいで退職するというケースや、精神障害者を紹介されたが、会社見学で終了するというケースもあった。
いろいろな経験の中で障害者雇用の難しさを感じていたところ、ハローワークの担当者からの紹介で「山梨県立わかば支援学校」から連絡があり、在校生の実習先として依頼があった。担当の先生が非常に熱心であり、何回も打ち合わせを行い、最後は熱意に動かされるような形で、実習先として協力することとした。実習は、2週間から1ヶ月の期間のものが数回に及び、最後の実習では採用の意向がほぼ確定していたくらいである。この先生とは今も交流があるが、この実習が円滑な障害者雇用という点において、非常に大きな意味を持つこととなった。
3. 取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
① 期間: | 現状では、身体障害者(肢体不自由、内部障害)については期間の定めのない雇用であり、知的障害者は1年間の有期契約を更新する雇用形態となっている。 |
② 場所: | 会社施設内である。 |
③ 時間: | 原則としてフルタイムであるが、65歳以上の場合は短時間勤務のケースもある。 |
④ 賃金: | 現状では、身体障害者(肢体不自由、内部障害)については月給、知的障害者については時給として最低賃金額以上を目安に設定し、減額特例は申請していない。なお、当社の場合は自動車・同附属品製造業が適用されるが、減額特例を申請しないのは、モチベーションの低下を招くような労務管理であってはならないという方針からである。 |
(2)仕事の内容
各人が異なる業務を行っており、具体的には次のとおりとなっている。
① 設備・治具・金型の設計(肢体不自由)



② 守衛業務(肢体不自由)
月10日勤務(1日出勤2日休日体制)


③ 環境整備、植木の手入れ、草取り、清掃等(内部障害)
主に構内の環境整備を中心に、パートタイムでの勤務



④ 原材料の計量、製品のバリ取り、接着剤塗布の下準備等(知的障害)






⑤ 原材料の配合(肢体不自由)



(3)助成金の活用
特定求職者雇用開発助成金を活用している。ジョブコーチ等は利用していない。
(4)労務管理の工夫
本格的に知的障害者を雇用したのは今回が初めてであり、特に、その労務管理の工夫について説明する。
本人に対しての指揮命令の原則としては、「わからないところは手を出さず、聞くように」という方針を徹底している。安全が第一であり、わからない時は作業せずに確認するように指示をしており、決まった者に聞くようになっている。また、周りから見て仕事に対して飽きる等集中力が落ちた時は、上司が注意するよう気を配っている。
知的障害者の場合、慣れた仕事はよいが、異なる仕事を与えた時に混乱する場合があるので、同僚がフォローするようにしている。したがって、仕事の内容をなるべく変えないように配慮している。しかしながら、常に同じ仕事というわけにはいかないので、仕事の割り当てについては、事前に当該部門班長からの相談を受けて、異なる仕事等について可能かどうか上司(係長・課長)が決定するようにしている。異なる仕事をすることにより、混乱するおそれがある反面、仕事の範囲が広がるという効果もあることは事実である。
このように、割り当てる仕事が可能かどうかの判断には、上記「2.取り組みの経緯、背景、きっかけ」で触れた実習が非常に役立っており、実習を通じて、可能な仕事を見極めることができたものと理解している。
この実習は、本人が仕事になれると同時に、従業員も障害者雇用に慣れるという一石二鳥的な効果を生んでおり、まさに本人と会社側双方が円滑な雇用関係を維持するのに非常に役立っている。
今回新卒採用したケース以前に知的障害者を雇用した際は、実習からとかではなく、通常の求人からの採用として、すぐに即戦力として仕事を担当してもらったが、周りも慣れず、本人も慣れないまま3ヶ月で退職したことを考えると、実習の効果は絶大と認めざるを得ない。
実習にあたり、山梨県教育委員会発行の『産業現場等における実習ハンドブック「スタートライン」事業所用』(※注1)を職場で回覧し、大切なところは抜粋してプリントするなどして配布し、障害者雇用の理解と周知に努めたことも非常に有効であった。
実習は、2週間から1ヶ月の期間で複数回実施したが、その間の実習報告書に関しては精緻さが求められ、その内容から当時の係長が自分の子供に接するように細かくアドバイスしていることがわかる。その実習が、本人の今の就業意識や仕事ぶりに影響していることは疑う余地はなく、職場の者も、実習を通じて障害者雇用に慣れ、障害者とか健常者とかを意識せずに自然と対応できるようになったと考えられる。
なお、現在の職場はベテランなどの年輩が多く、面倒をみる雰囲気があったことも良い結果を生んだと思われる。
とにかく、実習を通じて本人と職場が相互に理解を深めたことが最大のポイントであり、入社前に原付きバイクの免許を取得するなど、気構えとともに通勤の準備などもしっかりとできたことも評価に値する。

ちなみに、その仕事に対して、本人は一度も不平や不満を言ったことはなく、模範的に働いているので、まだ一年経過していないが、定着してくれることを願うばかりである。
※注1 産業現場等における実習ハンドブック「スタートライン」事業所用
平成16年3月に山梨県教育委員会が発行したもので、次のような構成となっている。
http://www.ypec.ed.jp/center/tokusyu/startline-jigyousho.pdf(参照ホームページアドレス)

係長 塩島さん
(5)取り組みの効果
一言で表すと、社会貢献となる。障害者雇用を通じて、経営理念等を実現することが可能となり、地域と労使の発展につながると考えられる。
また、本人が生き生きと働くことによって、職場の雰囲気が明るくなっていることも事実であり、忘年会等にも積極的に参加し写真を撮るなど、周りを盛り上げてくれている。
したがって、当社にとって、障害者雇用は中長期的に見ても間違いなくプラスと考えられる。
4. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
課題は次のとおりである。
① 今後の事業展開によっては、現在よりも幅広い仕事を与えざるを得ない場合が出てくることも予測され、そのような状況において、どのように対応したらよいか。あるいは、どのような準備をすべきなのか。
② 最低賃金の上昇を含め今後の賃金コストの増加が予測されるため、そのような状況下において、どのように対応したらよいか。
(2)対策・展望
経営理念等を実現するべく、今後も障害者の法定雇用率を達成しつつ、障害者雇用を維持していきたいと考えている。
(3)総括
最後に、障害者雇用を考えている他企業の方へのアドバイスとして、次の点が上げられる。
① 根気よく指導していくこと
② 同じことを何回も何回も指導していくこと
③ 実習からの採用が非常に有効であること
特に、仕事と異なり実習中は周りも丁寧に指導でき、そのことが相互の理解を深めることに大きく役立ったことが認められる。
したがって、障害者雇用に関しては、不安や戸惑いを軽減するという側面からも、実習からの採用を検討することは有力な選択肢と思われる。
執筆者 : 雨宮労務管理事務所 社会保険労務士 雨宮 隆浩
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。