事業所における従業員の理解が障害者雇用拡大の要因
- 事業所名
- 株式会社トモ営業本部
- 所在地
- 三重県松阪市
- 事業内容
- 委託給食業
- 従業員数
- 557名
- うち障害者数
- 24名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 4 調理補助2人、洗浄2人 肢体不自由 5 流通・入力1人、洗浄2人、
洗浄・調理補助2人内部障害 1 流通配送1人 知的障害 7 洗浄1人、洗浄・調理補助4人、
流通・仕分け2人精神障害 7 入力1人、流通・仕分け3人
洗浄・調理補助1人、調理補助2人- 目次


1. はじめに
本事業所が障害者雇用に本格的に踏み切ったのは、平成17年以降のことである。その背景には事業展開が進み、常用労働者数が法定雇用率を適用される人数を超えたことである。一定の事業所規模となり、地域社会において一企業市民として障害者雇用の面でも貢献しなければならないという、社長の判断で本格的な雇用に動き出している。また、「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、未達成の人数に応じた納付金を納めなければならない、といったことも雇用促進の背景に挙げられる。
本事業所は他の事業所と比較して若干特異な側面があり、その一つに、障害種別に偏りがあまり見られないことが挙げられる。これまでの他の事業所では、新規学卒採用又は労災を含む中途での身体障害のある人や、知的障害のある人の雇用については並行して行われている事業所、知的障害者雇用のみの事業所、身体障害者雇用のみの事業所が多いのが現状であった。精神障害のある人の雇用については事例そのものがまだ少ないので、3障害の区別無く雇用している本事業所は、今後の展開に期待が持たれるところである。
従業員数 : | 557名(平成20年7月10日現在)(内、常用労働者255名) |
うち障害者数: | 身体障害者10名(内、3名がダブルカウントの対象) 知的障害者 7名(内、1名がダブルカウントの対象) 精神障害者 7名(短時間雇用が6名) 職務内訳:流通・仕分け:3名 洗浄・調理補助:1名 調理補助:2名 入力:1名 |
※今回の調査では精神障害者雇用に限定をしての訪問のため、職務については精神障害のある従業員に限定して示す。
2. 障害者雇用促進の背景
本事業所はM&S(メディカル&シルバー)グループ、産業グループ、物流グループ、総務グループの4つの部署から構成されており、障害者雇用がここまで急速に進んだ背景には、工場や官公庁、学校、寮等の食堂運営や病院、産婦人科、老人福祉施設、障害者福祉施設等の給食業務の委託を受けていることが大きな要因となっている。
つまり、障害のある人が働きたいと思ったときに、その人の自宅や生活している施設・ホームなどから通勤可能な範囲で職場を調整することが可能である、ということが雇用促進の要因である。ただ、これまでの障害者雇用の経験では、必ずしも近い場所がその人に合うというわけではないようで、少し離れても、その人にあった雰囲気の事業所に配属することも必要だ、と営業本部総務グループ担当部長が話してくれた。
本事業所では最初にも述べたとおり、障害種別に偏りが無く、障害者雇用が進んでいるのだが、特に、精神障害のある人の雇用については、他の事業所と同様に受け入れ以前は他の従業員に戸惑いがあった。もちろんそれらは本事業所に限られたことではなく、これまでに精神障害がどのようなイメージで報道されてきたのかを考えると、一般的とも言える反応であった。その戸惑いをうまく克服し、現在の7名雇用まで拡大できている背景には、最初に雇用した精神障害のある従業員の方の影響がとても大きい。非常にスムーズに職場に溶け込み、大きな問題を起こすことなく業務に従事できていることが他の従業員の安心や信頼を生み、それが現在につながっている。
障害者雇用に際しては、採用段階でハローワーク主催の障害者採用面接会に毎回積極的に参加し、2~3名を順次採用している状態があったため、現在のような雇用規模に至っている。この採用の段階での取り組みとして、求職者を確認した段階で、その求職者の最寄の事業所・受託事業所をピックアップし、その事業所の担当管理職と受託事業所の責任者に求職者の障害種別等の情報を伝えて、受け入れ可能かどうかを打診し、可能であれば求職者に対して面接をし、採用という流れをとっている。配属先が決定してからは、本事業所では配属先のスタッフの受け入れ態勢が障害者雇用の柱だと考えているので、障害理解や関わり方についての勉強会を行って、少しでも円滑に受け入れすることが出来るように配慮がなされている。その中のキーワードとして『理解のある無関心』を挙げていて、障害についての知識を持ちながら、必要な支援はするが、必要以上に詮索はしないということが必要だと常々従業員に対して話している。
また、事業所として精神障害のある人を雇用するにあたって参加をしたセミナーや、会議等での知識も障害者雇用の拡大に影響を与えている。三重障害者職業センターや三重県雇用開発協会等で実施されている、障害理解と対応方法を含めたセミナーの中で、言葉かけの方法や、疲れやすさ、プレッシャーに対する耐性を担当者が学び、その結果を他の従業員に対して伝えていくことで、障害理解が深まり、雇用の安定に結びついている。
雇用上の配慮としては、精神障害のある従業員は、1名を除いて全員が短時間雇用となっており、このことも雇用の安定につながっている。
3. 採用後の配置や職務配慮事項など
精神障害のある人のみならず、他の障害のある人々も含めて、本事業所の方針としては、配属先の決定に際し、上記のような通勤可能範囲ということも重要視するが、従業員規模が小規模な受託事業所は避けるようにしている。具体的には受託事業所の従業員が7~8名以上でなければ、障害のある従業員を配属しないようにしている。この背景には、従業員数が少ないと、その中に短時間雇用であれ、フルタイムであれ、雇用上の様々な配慮が必要な障害のある従業員の配置は、他の従業員による十分な支援を期待することが困難となり、それによって配置をしたものの離職をすることになる可能性がある。
上記の支援は、受託事業所ごとの指導役が主として担っている。受託事業所を含めて、それぞれの職場では指導役の従業員が選定されており、その基準は新人社員や他の従業員に対する配慮が出来て、面倒見が良い人としている。本事業所としては障害者職業生活相談員を1名配置しているが、すべての事業所を常に見回ることは困難であるので、事業所ごとに指導役の従業員を業務遂行援助者として配置し、採用後の指導に充てている。
現在、精神障害のある従業員が本事業所の営業本部において行なっている業務は、物流センターという流通部門で仕分けに従事している従業員が3名と、事務所で入力をしている従業員が1名となっている。物流センターに従事している3名の業務は、一人当たり10~15品目の野菜を、各受注事業所(約60事業所)からの発注に併せて必要な種類・数量をベルトに乗せて流し、パッケージングし、コンテナにセットするまでの業務である。このラインには知的障害のある従業員もおり、6~7名で作業を行っている。もう一つの事務所で入力作業をしている従業員については、他の従業員と同じ環境で業務を行っており、管理職からも声をかけやすい雰囲気の中で業務を行っている。
配属当初は数量等の確認作業が必要であったが、慣れてくるにしたがってその作業は減り、人によって若干の差があるが、2週間から1ヶ月ぐらいは指導者がついて作業を行い、現在では特に必要がなくなっている。ただし、数量に過不足があると受注事業所などからのクレームに繋がるため、どうしてもストレスがとれない精神障害のある従業員についてはラインの最終でセッティングの補助作業に従事している。
精神障害のある従業員に対して、就業に関するその他の配慮事項としてどのようなものがあるのか総務グループ担当部長に尋ねると、次のような3つが挙げられた。①一従業員としての様々な責任をもってもらいたいが、そうするとストレスで体調を崩してしまいがちなので、責任の少ない業務を割り振るようにしている。②仕事の期限を切ると、それに追われて仕事をするようになり、その結果①と同じようなことがおきると考えられるので、期限もあまり厳しくしないようにしている。③クレームやミスについては修正をし、改善してもらいたいが、それを本人にダイレクトに突きつけることもストレスになるので、本人に伝えるときにも表現を少し変えて伝えるようにする。これらの対応については独自に、というよりはセミナーや会議を通して得られた知識を基に、予防的に行われているものである。
職務従事時間については、採用当初は4時間を基本とし、業務に慣れてきた頃を見計らって、本人及びセンター長、部長とで面談を行い、体力的にも能力的にも問題がなく、本人が希望した場合に5時間に延長するなど、一定の柔軟な勤務の組み方をしている。中には能力的には何らの問題はないが、本人の希望で短時間としているケースもある。本人の体調のことは本人が一番理解しているので、あまり無理強いすることは控えた対応が現在のような安定した状況を作り出していると考えられる。また、体調によっては休みを取ることも柔軟に出来るように配慮しており、週5日勤務で休みのとり方を体調に応じてとり、それでも回復が思わしくないときには1週間に3日ほど休んだり、1週間連続で休んだりすること等にも対応をしている。これは他の従業員に負担をかけることにもなるが、あまり責任の重くない業務が多いので、他の従業員の手の空いたときに対応をすることで大きな問題とならずに現在まできている。


4. おわりに
これまで障害者雇用が比較的順調に展開されている背景には、ジョブコーチ制度の活用やトライアル雇用の受け入れ、第1種作業施設設置等助成金の受給などの制度面による支援と、比較的単純な作業が多くあること、事業所が県内に散らばっており、職住接近という考え方を実現しやすかった。しかしながら、さまざまな障害のある人が従業員として働くということの意義を、そこで働く従業員が受け入れることが出来ているということが一番の要因になっている。そのための勉強会や、営業本部から離れた事業所には電話での状況確認と定期的な訪問、3~4ヶ月に一度のミーティングでの障害特性についての説明及び確認が大きく影響をしている。また、障害のある従業員には最低賃金を原則として保証しながら、それに加えて学習支援や生活支援のための福祉手当という名称での給与の上乗せもモチベーションの維持に貢献している。
今後の雇用拡大については、小規模すぎる事業所に配置できないことを考えると、ほぼ充足している状況にあるため、数名の雇用拡大が期待できるのが現状である。しかしながら、これまでの成功体験から、障害種別にはあまりこだわることなく採用をしていく方針である。
執筆者 : 湊川短期大学人間生活学科生活福祉専攻 専任講師 尾 剛志
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