共に育つ ~共に悩み、共に考え、共に笑う~
- 事業所名
- 株式会社ホシプラ
- 所在地
- 大阪府八尾市
- 事業内容
- あらゆるプラスチック製品の企画、立案、製造、組み立て、販売
- 従業員数
- 70名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 プラスチック加工製造補助 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
あらゆるプラスチック製品(建築用ドアハンドル、物流機器、家庭用品、工業部品など)の企画、設計、製造、組み立て、販売までの一貫生産をしている。主にアクリル、ABS等の肉厚成型を得意としている。
知的障害のあるYさんを雇用したのは、ハローワークを通じて、大阪市内にある障害者職業能力開発施設(以後施設という)からの紹介であった。知的障害のある人の受け入れは初めてだったので、「どこまでできるだろうか」という不安と戸惑いはあったが「Yさんの立場に立って、一緒に悩んだり、笑ったり、考えたりしながら私たちも成長していこう!」と前向きに考えたのである。また、施設の担当職員とYさんのご家族の方の協力体制を確認ができたのも、採用する際の決断材料になっている。
2. 障害者雇用における取り組みについて
(1)作業内容・職場配置について
Yさんは入社当初、組立て作業などを中心に行っていた。そこでは手作業や電動ドライバーなどの工具を使用した作業が中心であったが、Yさんはそういった作業よりも身体全体を動かす作業に適性を感じたので、現在は各作業場に資材を搬入する作業を中心に行っている。
この業務は、各作業場の各資材の在庫状況を確認し、不足している資材類を倉庫からピックアップして、それぞれの作業場に供給する業務である。効率よく、段取りよく業務を進めていくことが重要で、Yさんの業務がスムーズだと各作業場の生産効率アップにもつながるといった非常に重要な業務の一つでもある。


(2)能力開発・教育について
~フォークリフト運転技能講習会の受講と免許取得~
Yさんは「フォークリフトに携わる業務をやっていきたい!」という夢を入社当時から抱いていた。当初は周りの人たちは「将来、フォークリフトの免許が取れればいいね」ぐらいの反応であったが、最近、フォークリフト技能講習会を受講し、見事試験に合格したのである。まさに、入社当時から抱いていた夢を現実にしたのである。
現在Yさんは各作業場に資材を搬入する業務を行いながら「もし、僕がフォークリフトの運転できれば、もっと段取りよく仕事ができる」と常に考えていたようで、ある日、担当者に「フォークリフトの免許を取りたい!」と申し出てきたのである。しかし、フォークリフト運転技能講習会というのは、普通自動車免許の受講と違い、5日程度の非常に短期間での受講でありながら、筆記試験と実技試験に合格しなければいけないのである。そこで、以前、Yさんが所属していた施設に相談したところ「フォークリフト運転技能講習会受講へ向けて、我々の方で特別にカリキュラムを作成して授業をやっていきましょう」と授業が開始されるようになったのである。
まず、フォークリフト運転技能講習会というのは、前半2日間は学科授業の受講と筆記試験、その筆記試験に合格した受講生が、後半3日間の実技授業の受講と実技試験に臨む、といった流れで行われる。5日間の技能講習会で、特に、知的障害のある人が理解しやすいような特別な配慮というものはない。学科も一般の方と同様のテキストを使い、筆記試験問題もルビやひらがなを活用したことにもなっていない。また、実技も一般の方と同じグループで受講し実技試験に臨むことになっている。特に、文字の読み書きが非常に苦手なYさんにとっては学科の受講と学科試験は大きな壁として立ちはだかることになった。
しかし、念願の「フォークリフトの免許を取得したい!」という強い気持ちで、仕事と勉強を両立させながらフォークリフト運転技能講習会を目指した。施設での勉強がある日も、早朝に出社してタイムカードを打刻し、朝の段取りを行ってから施設での授業を受け、夕方には遅くに帰社し残業して帰宅する…という日々が続いた。社内でも夕方遅くから、もしくは授業がないときは、昼休みなどを活用し、Yさんの同僚や上司などが、漢字ドリルやテキストの読み直しなどの復習を行った。
このように、Yさんを中心に、事業所やご家族、支援機関など、本人を取り巻く全ての人たちと「フォークリフト運転技能免許取得」を目指し、その夢を実現することとなった。今後はこの免許取得を生かした業務に、どう繋げていくかが課題である。しかし、何よりも自分自身が掲げた目標に向かって取り組んできたことに本来の意義があり、きっと、これからの仕事を行う上での糧になるに違いない。

(3)社内体制(指導体制)について
①自分の存在意義を認識できる環境づくり
いつまでも「働き続ける」ことができるようにするためには、自分の存在意義を認識させることだと考えている。フォークリフトの免許取得に関しても、本人が「よしっ、やろう!」という気持ちになることに意味があると考える。そうではなくて、我々からの命令で「Yさん、フォークリフト免許をとってきてください」ということであれば意味がないのである。
以前、Yさんは、ある企業に就職していた。彼に対して、非常に理解のある企業だったようだが、Yさん自身が残業を拒んだり、自分の業務を積極的に取り組むことができなかったり、という状況であったと聞いている。恐らく、「残業は夜遅くなるし、しんどいし…」という、Yさんにとって良くないイメージしかなかったのだと思われる。それは「自分がやらねば」という自主性をもって働くことができていなかったのだと思われる。
しかし、本人の性格の明るさと、ご家族や支援者の協力体制を支えにして、自分自身で考えて行動できる環境づくりに徹したのである。まずは、社会人としてのマナーや知識の習得から指導を行った。作業中の態度、接客対応、言葉遣いなど、社会人としての基本を徹底して指導した。その上で、ある程度の役割をYさんに持たせて、自分の業務に対しての責任感、使命感、自主性を引き出すことにも力を入れた。「今、自分のやるべきことは何なのか」ということを自分自身で考えるような指導を行ったのである。そうすることで今回のフォークリフトの免許取得への志願もそうだが、残業に対しても「自分がやらなければ」という使命感で取り組むことができるようになったのだと考えている。
このように、彼らに自分の存在意義を明確にしてあげることが重要であり、そうすることでYさんも「会社のために」という気持ちが強くなり、我々も「彼らのために」という、強い信頼関係が築けることができるのだと考える。
②「障害者」ではなく「人」としてのおつきあい
また、仕事を通しての信頼関係を構築する取り組みだけでなく、仕事を離れてのつきあいも大切であると考えている。忘年会や新年会などの節目での会合はもちろんのこと、有志でカラオケなどへも定期的に行っているようである。いつもは厳しい指導を受けている従業員とも、その日は無礼講で、いっしょに食事をしたりするのが、Yさんにとって楽しみなようで、彼のもともと持っている明るく、優しい人間性が、こういった機会で発揮することにより、Yさんはもちろんのこと、我々従業員も、彼に対して親近感が沸き良い関係が深まっていることを認識している。
「障害がある」ということでなく、その前に「人」であるということを、様々な場面で、お互いが確認しあうことが、Yさんを採用したときに「私たちも、共に成長していこう!」という決意につながっていくものだと確信している。
3. 家族・関係機関との連携
(1)家族との連携
Yさんの雇用が継続できている要因として忘れてはいけないのが、家族との連携である。もともと、Yさんの両親は非常に熱心な方であったので、家族との連絡はスムーズに行うことができた。その連絡方法とは主に『連絡帳』を活用したものである。『連絡帳』といっても、特に大げさなものではなく大学ノートを活用したものである。事業所からは社内でのYさんの様子や事務連絡など、家庭からは家での様子などが詳細に記載されている。
やはり、企業としてはYさんの就職先としての指導や支援は行うことができるが、生活面での支援というのは限界があると考えている。そうなると、生活における指導や支援は家族の協力体制、場合によっては支援機関の協力体制も必要だと考える。
(2)支援機関との連携
Yさんは、施設の紹介で採用することになったのだが、トライアル雇用期間中はもちろんのこと正式採用後もその施設の担当職員による定期的な訪問があったので、いろいろな場面で相談することができた。また、事業所からも、定期的にその担当職員へ連絡帳のコピーを送付したりすることで、社内での様子や家庭での様子などを把握してもらっていた。
現在は担当職員の定期的な訪問も、Yさんの勤続年数と共に減少してきた。それは、Yさん自身が安定した就労生活を行っているからではあるが、今後も発展途上であり、いろいろなことがあるだろう。まずは社内で解決できることは、きっちりと社内で解決する努力を続けると同時に、どうしても解決が困難な場合には、支援機関と協力してYさんが「働きつづける」ことができる体制だけは残しておきたい。
4. まとめ
Yさんの就労を継続する上で、事業所も試行錯誤の連続であった。決して上手くいくことばかりではなかったが、あきらめずに本人の可能性を信じながら、Yさんと共に働き続けてきた。あの、残業を拒んでいたYさんが自ら残業を行い、時には早くに出勤して仕事の段取りを行う。そして会社(仕事)のために、また、自分の夢を実現するために「フォークリフト運転技能免許」を取得するなど、入社当初には想像できないほど成長したことは嬉しい限りである。
恐らく、我々がYさんの採用当初に掲げていた「Yさんの立場に立ち、一緒に悩んだり、笑ったり、考えたりしながら私たちも成長していこう!」という方針に基づいた指導をする中で、彼も我々に対して信頼感をもってくれただろうし、我々も彼から教えられたことも数多くある。
彼らは「障害者」という前に「人」であり、限界のない可能性を持っているに違いない。今後も「働く」ということを通して、Yさんが素晴らしい人生を送ってくれることを願っている。そして、我々も、いつまでも「共に悩み、共に考え、共に笑い」つづけていきたいものである。
執筆者 : 大阪市職業指導センター 支援係長 嶋田 彰
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。