職業生活相談員を複数配置して、日頃の意思疎通と人間関係の充実に配慮
- 事業所名
- 奈良交通株式会社
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 乗合バス事業、貸切バス事業、旅行事業、不動産事業、飲食事業
- 従業員数
- 1821名
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 9 事務職、運転職 内部障害 3 事務職、運転職 知的障害 0 精神障害 1 清掃 - 目次

1. 事業所の概要
昭和4年1月設立の奈良自動車株式会社を前身とし、昭和18年7月に奈良交通株式会社に商号を変更、現在に至っている。
関西最大手のバス会社として、奈良県、京都府南部及び隣接各府県の一部を営業エリアとする乗合バス事業を中心に、貸切バス事業、旅行事業、不動産事業、飲食事業、自動車教習所事業等、地域に密着した各種事業を展開している。
旅客ニーズに応じたサービス向上に意欲的に取り組んでおり、小型バスや夜行高速バスの運行のほか、バスカードシステムの導入などを全国的に先駆けて実施し、最近ではICカード乗車券を導入した。また、リフト付バス、ノンステップバス、アイドリングストップバス、CNG(圧縮天然ガス)バスの運行など、人・まち・環境にやさしい交通を実現するためのさまざまな工夫と努力を続けている。
2. 障害者雇用の経緯、背景
交通事業者である当社は、もともと公共性を重視し、社会的使命を果たすことを責務と考えてきたため、障害者雇用に関しても、法定の障害者雇用率を維持することは当然の義務と位置づけてきた。したがって、中途障害者の継続雇用も含め、障害者を雇用することを特別なことと考えたことはなく、以前から人事管理のなかでごく自然に行ってきた。
平成16年4月に障害者雇用率における除外率が引き下げられたが、このことはむしろ法定雇用率の重要性を再認識することとなり、これを契機に助成金も活用しながら、職場環境の整備を進め、より一層積極的に障害者雇用に取り組むことになった。
3. 障害者の従事業務、職場配置
平成20年6月現在、13名の障害者が在籍している。肢体不自由者が9名(うち重度1名)、内部障害者3名(うち重度1名)、精神障害者1名である。
肢体不自由者9名のうち6名は本社の事務部門に所属し、それぞれの担当部署で他の従業員とまったく同等の職務をこなしている。車いすを使用している重度障害者は、おもにパソコンを使っての資料の作成を担当しているが、仕事に対する積極性や快活な人柄が職場の士気を大いに高めている。
他の肢体不自由者も、上肢や下肢にそれぞれの障害を持っているものの、職場でそのことが意識されるのを潔しとせず、淡々と日々の仕事に励んでいる。そのため、周囲も障害者であることを忘れるほどである。
3名の肢体不自由者は運転業務に従事している。また、内部障害者3名のうち1名は事務職だが、2名(うち重度1名)は運転職である。
肢体不自由者であれ内部障害者であれ、運転職の障害者は、基本的に他の従業員と同様の業務に就いている。


4. 取り組みの内容
障害者の新規採用は主にハローワークからの紹介である。合同面接会には必ず参加するほか、普段から障害者の求職情報を提供してもらうよう、ハローワークの窓口に依頼している。経営環境が厳しいなか、限られた人員による効率的な業務運営が求められており、障害者雇用の受け皿は必ずしも大きくはない。しかし、他の従業員に劣らぬ意欲と能力を持ち、地域のお客さまのためにそれを活かそうとする障害者に機会を与えることは当社としての社会的責任を果たすことであり、地元への還元と考えている。
新規採用だけでなく、当社では中途障害者の雇用維持も重視している。現在在籍している障害者のなかには、入社後の傷病により障害を負った者も多い。通勤途上でのバイクの事故や、自宅での転落事故などが原因である。また心臓疾患で障害認定を受けた者もいる。
本人の意欲や努力によってその障害を克服し、従来の業務を継続できる限り、安易に雇用関係を解消することはしない。当社での経験の蓄積や人間関係の維持が大切だからである。
バイク事故によって一時は膝を曲げられなくなったAさんの場合、2年間にわたる療養ののち、当社の研修センターで乗務員教育を行ったうえで職場に復帰させた。教育メニューは他の従業員に対して行うものとまったく同じであり、実際に乗客が安心・安全に乗車できるかどうかを十分確認したうえでの措置だった。けがの原因が交通事故であり、障害の克服に長い期間を要しただけに、Aさんの安全運転についての自覚と業務への熱意は会社にとっても有益なものである。
心疾患で1級の認定を受け、ペースメーカーを装着している運転職の従業員がいる。認定を受けてからすでに1年以上になるが、通常の乗務をこなしている。就労にあたっては、本人の健康状態について、本人の主治医と当社の産業医双方の医学的判断に基づいて、事前に十分安全を確認し、体調がおもわしくないときはいつでも相談をかけるように指導している。
障害を抱える者がバスの運転者という人の命を預かる業務に就くことは、決して危険でも何でもなく、むしろ自分にも人にもやさしい運転を心がけられるのではなかろうか。
体幹に障害のある、車いすを使用しているBさんは、バスのスケジュール管理表や名簿作成など各種資料作成業務に従事している。商業高校を主席で卒業したほどの、能力と意欲をもった人材である。責任感が強く、どんな仕事でも安心して任せられる。周囲の従業員にも良い影響を与えてくれている。
そんなBさんであるが、雇い入れにあたってはハローワークの「トライアル雇用」を利用した。障害のある人を雇い入れるといっても、その適性を会社が一方的かつ優越的に判断できるものではない。健常者に劣らぬ仕事を会社が期待し、本人もまたそれに応えようとしても、障害者本人にとって職場環境や職務がなじめなければ長続きはしない。会社と本人が対等の立場でともに適性を見極める時間として3カ月間の試行期間を設けた。
ちなみに、当社はそれ以前にすでに車いす使用者を雇用していた経験があり、社屋入り口のスロープや障害者用トイレも整備していた。しかし、実際に使用する障害者の立場に立って考えなければと、人事部課長自ら車いすに乗って社内の設備を確認したところ、通路が狭かったり、エレベーターのボタンの位置が高いなど、いろいろ不備も見つかった。障害者受け入れのための取り組みは、これで完璧、ということはない。
設備面での整備には課題も残るが、ソフト面での障害者への支援には力を入れている。障害者職業生活相談員9名を各部署に配置し、普段から障害者とコミュニケーションをとることで、人間関係の充実を図り、何かのときは安心して相談してもらえるような環境を整え、職場定着推進を図り、障害者の雇用環境の改善に努めている。
当社の事業の根幹は安全・安心がモットーのバス事業であり、「お客さま第一」が社是である。運転職については、技術向上のために研修センターを設け、「人にやさしい運転」を指導している。この「やさしさ」は、障害のある自社従業員に対しても不可欠である。本人の安全確保に日々配慮することにより、個々の能力が活かされ、ひいてはお客さまへのやさしさにつながることになる。
助成金に関しては、障害者作業設備設置等助成金(1種)を二度利用した。身体障害者用トイレの設置、社屋通用口のスロープ、自動扉及びインターフォンの取り付け等に伴うものである。
5. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
中途障害者については、療養のため一定期間休職を余儀なくされることもあるが、そのことでそれまでの雇用関係、ひいては社内の人間関係から疎遠になることは決してない。元の職務に復帰するまでのさまざまな忍耐や努力を会社としても見守り、支援することで、本人の意欲もむしろ強化されている。
また、障害があるからといって必要以上に業務の負荷を軽くしたりせず、待遇面でも他の従業員と同等にすることがかえっていい結果をもたらしている。
障害者のなかには、まもなく定年を迎える者や定年後再雇用された者もいる。職場定着への配慮や人間関係の充実に心がけたことによる長期勤続であったと自負している。しかし、これらの者も数年後には退職する。これまでの障害者雇用管理の経験を活かし、地域のお客さまの満足のために貢献しようという新たな障害者を仲間に加えるべく、近隣のハローワークも含め、ミニ面接会などを活用して今後も求人活動を継続強化していきたい。
執筆者 : 大西労務経営事務所 社会保険労務士 大西 守
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