共に生き、共に大きく成長できるように
-「働きたい」障害者を支援する就労継続支援事業(A型)-
- 事業所名
- 社会福祉法人共生福祉会大樹
- 所在地
- 奈良県天理市
- 事業内容
- 列車のもたれカバー等や枕カバー及び航空機イヤフォン・ヘッドホン等 の再生作業。ガウン等のホテルリネン
- 従業員数
- 55名
- うち障害者数
- 45名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 3 リネンの補助 肢体不自由 1 リネンの補助 内部障害 0 知的障害 41 リネンの補助
イヤフォン・ヘッドホンの再生精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
平成18年に制定された障害者自立支援法により設立可能となった、障害者の就労支援推進の仕組みのひとつ、就労継続支援事業(A型)の社会福祉法人である。平成20年4月に新施設「大樹(たいじゅ)」で操業を開始した。
当事業所の前身「有限会社三友」は平成10年9月に設立され、列車のもたれカバー、シーツや枕カバー、航空機イヤフォンやヘッドホンの再生、ガウンやスリッパなどホテルリネン等を業務内容としてきたが、社会福祉法人設立後もその作業を引き継ぎ、さらに新規作業や各種の商品受注に応えるべく努力を続けている。事業場は奈良盆地の東部、近鉄天理駅や西名阪自動車道天理インターチェンジにもほど近いのどかな田園地帯に位置している。
当事業所は、多くの障害者が願う「働きたい」を支援する事業である。障害者に対し、通所による雇用契約等に基づく就労の機会を提供するとともに、就労に関する知識や能力を高めるための職業能力開発訓練や、一般社会に出ていくうえで守るべきマナーやエチケット等の指導・訓練を行う。一般就労に向けた知識、能力が高まった者については、一般就労への移行に向けて支援する。
「共生福祉会大樹」は、共に生き、共に大きく成長できるようにと願って名付けた。その名に恥じないよう、多くの働きたい障害者にとっての楽しい活動の場として、期待に応えていきたいと考えている。
2. 障害者雇用の経緯、背景
理事長の榎堀靜秀は、昭和37年から教員を務めた経験をもつ。教え子には障害のある子もいたが、昔はそういう子も同じクラスで他の子と共に学び、共に遊び、人間関係のうえでも隔たりはなかった。しかしその後、障害児学級や養護学校などが整備され、次第に障害のない子から隔離されるようになった。社会福祉政策の進展による変化とはいえ、個人的には違和感を感じていた。
教員を退職し、母校の大学講師を務めたのち、20年前に大学生のための「ラウンジ」を開業、学生たちの交流と娯楽の場を提供し、事業面でも成功を収めた。そのようななか、クリーニング業を営む友人からの誘いで「有限会社三友」の経営に参加することとなり、現在の事業に関わるようになった。この事業所は、主として障害者に働く場を提供し、社会と共生できる新しい試みで設立されたもので、榎堀にとっては新たな立場での障害者との関わりであった。
当初は数名でのスタートであったが、従業員が増えるにつれ、事業収入と人件費のバランスが崩れ、そのたびに新商品の受注が必要となり、会社として経営するには大変難しい状況となった。このままでは、従業員を守ることも、また雇用を求める人たちに門戸を広げることも困難であったため、今後の企業としての継続や雇用増加に備え、福祉工場の設立も考えた。しかし、福祉工場は授産施設としての経験が一定年数必要とされるなどハードルも高く、難渋していたところ、障害者自立支援法が制定され、障害者の社会参加の機会を促進する環境が整ったことで当事業所の方向性も障害者就労継続(雇用型)として一気に加速し、地元関係者の協力を得て、社会福祉法人の設立に踏み切ることができた。
平成17年4月に社会福祉法人共生福祉会設立準備会が発足、平成19年5月に同法人が設立。平成19年11月には、「三友」の社屋から300メートルほどしか離れていない場所に新施設の建設を開始、翌平成20年4月1日の創業に至ったものである。
3. 障害者の従事業務、職場配置
平成20年9月1日現在在籍している障害者は45名(うち重度24名)。うち41名が知的障害者である。45名のうち29名は「三友」から転籍してきた。
当事業所では、鉄道リネンチーム、エアリネンチーム、ホテルリネンチーム、アイロナーチームという四つのチームがあり、障害者はこのいずれかのチームに分かれて、各種リネン関係のクリーニングやその仕上げ工程の作業をしている。
(1) 鉄道リネンチームは、取引先クリーニング業者から洗濯された状態で搬送されてきた、列車のもたれカバー、シーツ、枕カバーなどの鉄道リネン商品を一次伸ばしするのが仕事である。汚れや破れの検品も行う。台車から各テーブルにドサッと積み上げられた品物のひとつひとつを、まず「はたく」ことによって品物の全体的なシワを伸ばし、次に規則正しくそれを「重ねる」。この時に、縁の小さなシワも伸ばす。ある程度の枚数が重ねられたら、別の場所に移動して、「たたき」をして、更にシワを伸ばす。
(2) エアリネンチームは、航空機の客室などで使用されるイヤフォンやヘッドホンを再生する作業を行う。持ち込まれた使用済みの品物を、まず、絡まったコードを「解き」、消毒液に浸したタオルで「消毒」し、コードを決められた形に「巻く」ところまでが第1工程。ヘッドホンが正しく通電しているかを「チェック」し(第2工程)、「袋詰め」する(第3工程)。「シーラー」と言う機器で袋の口を閉じ(第4工程)、最後に出庫できるように規定数を袋に詰める(第5工程)。このように、エアリネンチームは当事業所での作業だけですべて出庫可能な製品に完成させる。
(3) ホテルリネンチームが扱う商品は、スリッパ、ガウン、ヒモなど、各種ホテル内で使用される品物である。作業場は工場棟の一角にあり、業務用の大型洗濯機や乾燥機と連動した作業となる。スリッパは洗濯のうえ、陰干しをして乾燥させてから袋詰め作業を行う。
(4) アイロナーチームは、鉄道リネンチームによる作業で一次伸ばしされた品物を、ロールアイロンという機械を使って、完全にシワを伸ばし商品化する。一次伸ばしされた品物をロールアイロンに投入することを「流し」というが、品物のサイズによって流すレーンが決まっており、遅からず速からず、一定のリズムで流さなければならない。一方、品物がロールアイロンの中を通って完全に乾燥されシワも伸ばし終わった状態で排出されてきたあとの「受け」作業では、機械処理を経てもなお付いているシワや、一次伸ばしでも気付かなかった汚れや破れなどの検品を行う。品物によって、束ねる枚数が決まっているので、品物を数えながら綺麗に重ねる。最後に結束機で紐掛けされ、商品となる。




4. 取り組みの内容
障害者の雇い入れは養護学校等の新規学卒が大半で、中途採用は少ない。したがって障害者の平均年齢も25歳程度と若く、活気に満ちた職場となっている。職場適応訓練中の者が9名おり、平成21年4月にも9名予定している。職場実習については希望があれば原則として受け入れるようにしている。
定員は80名だが、60名くらいが妥当な水準と考えている。当事業所の事業を取り巻く経営環境は厳しく、工賃の高い新たな商品の取り扱いや、取引企業との有機的な連携なども模索している。
障害者が従事する業務は障害の程度が重度でも軽度でも同じ作業であって、個々の能力や適性に応じて配置している。当事業所が扱う商品は、見かけはただの布製品や器具であるが、障害者のなかには鉄道や飛行機など乗り物に特別な興味を持っていて、もたれカバーひとつでもその形状などからどの列車のもの、と言い当てる者もいる。作業に対する障害者の関心はさまざまで、そういう個性を活かすような配置を心がけている。
作業を指導するにあたって、守るべきルールを「約束」として障害者に徹底している。①作業上達のための反復練習、②作業中の集中力の持続、③今何をし次は何をするか常に考えて行動する、④まずはやってみるチャレンジ精神、の四つである。これらは、「三友」の頃から培われてきたもので、提携企業からの信用を得る源である。作業内容によっては、指先の器用さが大切であったり、正しく数を数えなければならなかったり…と難しいものもあるが、これらの約束を守れば、それも克服できる、と教えている。
作業時間は午前9時から午後4時55分までで、1時間15分の休憩時間を除くと1日実働時間6時間40分。これにより、休日は日曜日のみだが、週40時間の法定労働時間は遵守している。賃金については、経営上の観点からも、障害の程度により作業能力が劣る場合は低く設定せざるをえない。最低賃金の適用除外許可を受けている従業員も少なくない。最低賃金法の改正に伴い、「減額特例」の申請手続も進めている。自主通勤ができない場合は希望により送迎を行っているが、自主通勤を勧めており、自主通勤者には当法人の規程による交通費を支払っている。
障害者が作業に従事する場所は、新築の匂いの残る施設内の二つの作業場と工場棟である。開口部が多く、建物の周囲が田畑なので渡る風もすがすがしく、酷暑の夏場も作業環境は良い。
職員は、管理責任者、職業指導員(6名)、生活支援員(2名)及び事務員の計10名で、いずれも常勤職員である。この体制で、障害者とその家族が希望する生活や障害者の心身の状況等を把握し、適宜適切な相談、助言、援助等を行っている。また職場実習の実施や職場定着のための支援については、公共職業安定所、障害者就業生活支援センター等の関係機関と連携を取りながら、行っている。
健康管理面では、日常生活上必要なバイタルチェックや投薬、その他必要な管理を行うほか、医療機関との連絡調整及び協力医療機関を通じて、健康保持のための適切な支援を行うこととしている。
助成金に関しては、前身の「有限会社三友」として、重度障害者介助等助成金並びに重度障害者等通勤対策助成金を受給した。社会福祉法人に移行した後もその成果は生きており、助成金の受給が今日の当事業所を支えているといってもよい。社会福祉法人移行後認定された助成金はないが、障害者雇用納付金制度による報奨金は事業所運営にとって大きな助けとなっている。
5. 今後の課題
当事業所は就労継続支援事業(A型)の社会福祉法人であり、一般の他の事業所への就労支援が目標である。しかし、現実の各障害者の障害の程度や仕事の能力からすると、その早期の実現は容易ではない。そこで、現在も存続している前身の「有限会社三友」をこの一般就労の受け皿として整備し、能力の高まった障害者に新たな就業機会を与えることも将来の選択肢のひとつとして検討している。
提携企業等、取引先の理解と協力なくしては難しい課題ではあるが、これからも採用を希望する障害者が増えこそすれ減りはしない現状を鑑みれば、当事業所みずからその道筋をつけるのも使命ではないかと考えている。
執筆者 : 大西労務経営事務所 社会保険労務士 大西 守
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