特定疾患(原発性肺高血圧症)と内部障害のある新規学卒者の雇用・職場定着へ向けた取り組み
- 事業所名
- 株式会社テレコメディア徳島コールセンター
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 事業内容
- 通信販売業のテレマーケティング事業・人材派遣・アウトソーシング事業・電話秘書サービス・移動体通信販売事業等
- 従業員数
- 435名
- うち障害者数
- 7名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 5 電話オペレーター兼入力業務 内部障害 1 電話オペレーター兼入力業務 知的障害 0 精神障害 1 入力業務 - この事例の対象となる障害
- 内部障害
その他(原発性肺高血圧症) - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業・事業所の特徴
通信販売業のテレマーケティング事業を行っている。この事業は、社内のコールセンターで行うものと社外でテレマーケティング業務の委託を受けるもの(=人材派遣・アウトソーシング事業)がある。
徳島県と徳島市による誘致認定企業では初のコールセンターで、徳島県下最大の規模である。また、当事業所は、地域密着型コールセンターを目指している。徳島県民に愛され、誇りとなるオンリーワン・コールセンターを徳島の人々と一緒に作り上げることを目標に掲げている。
(2)経営方針
①経営理念
当事業所の経営理念は、以下の4点である。
1.時代の変化を敏感にとらえ、必ず社会の役に立つ存在であること
2.常に学ぶ姿勢を持ち、常識にとらわれず創意工夫により質の高い独自の商品開発を行うこと
3.お客様の声に耳を傾け、さらにその期待を上回ることによって信頼を得ること
4.情熱を持って自らの業務を徹底的に追及することにより、全社員が豊かになること
代表取締役は、「人にしかできないホスピタリティあふれるサービスを創造したい」という思いを持ち事業を立ち上げている。社内の壁には「感即動」のことばが掲げられており、これは、「感じたら即、動く。感動をすなおに表せるしなやかな心を持って、お客様に感動していただけるサービスを目指します」という意味が込められている。「感即動」とは、当事業所の理念・信条が凝縮して表現されたことばなのである。
②企業目的
企業目的は以下の通りである。
「お客様と同じ価値観のもとに 高品質のテレマーケティングとサービスを提供することにより その経済効果を高め お客様にとってなくてはならない存在となる これらにより会社の繁栄と社員の豊かさを追求する」

2. 障害者雇用の背景、経緯
(1)障害者雇用に取り組むことになった背景
2004年9月、徳島県と徳島市による誘致認定企業として徳島市に徳島コールセンターが開設された。2005年3月、徳島コールセンターを300席に拡張し、2006年11月には、500席に拡張するため、バリアフリーの環境にある現住所へ移転した。
徳島県民に愛され、誇りとなるオンリーワン・コールセンターを徳島の人々と一緒に作り上げることを目標としていたこともあり、この移転によってバリアフリーの環境が得られ、障害者雇用を実現する準備が整った。

(2)障害者雇用に取り組むことになった経緯
当初より障害者雇用を促進したいという思いがあり、下肢障害のある1名を雇用したものの、募集やマッチングなど自社だけの活動ではその後の障害者雇用を実現することは難しかった。
2007年7月、徳島県の雇用に貢献できればと県下の障害者団体等に文章を発送し、協力要請を開始する。同年9月、障害者就業・生活支援センターと障害者雇用に向けての取り組みを協議し、同月、知的障害者1名と精神障害者1名がコールセンター内の営繕管理業務で職場実習を実施した。この2名は雇用に至らなかったが、社内のサポート体制を考えると障害者雇用は電話オペレーター業務から進めていくことが当面有効であると確認できた。
2008年4月、障害者就業・生活支援センターより特定疾患(原発性肺高血圧症)と内部障害(心臓機能障害)をもつ新規学卒者Aさんの雇用について相談があり、関係機関と協議しながら雇用に向けた取り組みを始めた。
3. 取り組みの内容
(1)Aさんが従事している仕事内容
Aさんは、大手通信販売会社の通信販売に関する電話やFAX受注部門、インターネット受注部門に配属されて、電話オペレーター業務に従事している。通信販売専用サイトやカード会社のサイト、広告サイト等から注文データを取り込み、お客様からの注文や問い合わせに対するメール対応と電話対応を行っている。また、これに関するバックヤード業務(入力作業等)も行っている。
(2)Aさんの配置
Aさんは常勤の契約社員として雇用された。入社当初、Aさんは、パソコン入力は得意だが電話対応に自信がなかったため、比較的電話対応の少ない上記仕事内容の部署に配属された。現場では上司のSV(現場管理者)を中心に仕事内容の指示・教育を受けている。
(3)Aさんの背景(病気と障害)
Aさんの特定疾患は、原因不明の肺高血圧症である。通常、心臓や肺に病気があると肺高血圧といって肺動脈の血圧が高くなるのだが、原発性肺高血圧症はこうした心臓や肺に特別な病気がなくて肺動脈圧が高くなるものを指す。この病気は、人口100万人当たり年間およそ1~2人の発症と考えられており、極めて稀な疾患である。
Aさんは小学校6年生の時にこの病気を発症した。養護学校高等部2年生まで車いすでの生活(心臓に負担をかけないようにするため)が続いた。高等部2年生の時、最も進んだ治療法の1つであるPG12注射製剤の静脈内持続注入療法を実施し、そのための手術を行った。これにより、Aさんは携帯用小型ポンプをもちいて社会生活が「ふつう」に可能となった。
Aさんは養護学校卒業後、短期大学に進学した。2008年3月に卒業をしたが、特定疾患(原発性肺高血圧症)と内部障害(心臓機能障害)をもつこともあって就職先が見つからなかった。2008年4月中旬、Aさんは障害者就業・生活支援センターに相談を持ちかけ、病状と障害を会社に伝え、理解を得ながら就職活動を展開することに決めた。
激しい運動は禁じられており、身体に大きな負荷をかけること(3階以上の階段上り下り、長時間の歩行)や塩分の高い食事も避けるよう医師より指示が出ている。

(4)関係機関からの相談と社内協議
2008年4月末、当事業所に障害者就業・生活支援センターが提案書(Aさんの病気と障害状況について上記内容をまとめたもの)をもって相談に来た。また、Aさん本人より、自分自身の病気と障害のこと、得意なことと不得意なことも話を伺った。Aさんはパソコン操作が好きで得意とのこと。Aさんに対して、職場見学、仕事内容の説明を行った。Aさん自身が当事業所に勤めたいと思えるかが重要だと考えた。Aさんは、3月に短大を卒業したばかりで新規学卒者と同じであるため、社会人としての経験がない。病気との兼ね合いで8時間の職業生活をやっていけるかどうかについては未知数であった。電話オペレーター業務では、終日座位での作業が主となり、バリアフリーである会社施設はAさんの体に配慮できると考えられた。
Aさんが当事業所で働きたいという想いを確認した。社内協議を進め、Aさんの雇用に向けて前向きに話を進めていくことを決めた。

(5)8時間勤務による負担状況の把握と部署内の協力体制づくり
障害者就業・生活支援センターの職場実習を実施することに決めた。理由は2点あった。1つは、身体への負担は業務を行ってみてどうなのか実際に働いてみて検証する必要があったため。たとえ座位であっても8時間の勤務が身体へどのような負担をもたらすのか未知数であった。これは同時に支援機関と協議をして今後の支援内容と支援量を見極めるためでもあった。もう1つは、Aさんが新規学卒者であり社会人としての経験がなく、Aさん本人が職場に馴染めるか、コミュニケーションを取っていけるか未知数であったため。これは、当事業所にとっても障害者雇用については取り組み事例がまだまだ少ない状況であったため、従業員がどれだけAさんを受け入れ、どれだけAさんに仕事を教えていけるか職場実習を実施して状況を把握する必要があった。
職場実習を実施し、連日、支援機関のスタッフがサポートに来た。身体への負担は、勤務時間の後半に疲れが出やすいことが分かった。Aさんは太ももの裏側や背中にだるさと疲れを感じた。これらへの対処法は休憩を取り体操して血流を良くすることが効果的であった。ただ、業務を区切りよく終えることが出来ず、仕事に集中するとついつい休憩を取らずにいることがあった。また、自分だけ短い休憩を取ることに抵抗もあったようだ。この時期、Aさんは2階の休憩場へはエレベーター使用が認められていたのに階段を使用していた。Aさん自身が自分への配慮に対して如何に強い意識を持ちつづけられるかが課題であった。
この職場実習期間中、他の従業員と共に社内研修を受けてもらった。業務遂行の研修と社会人としての研修を受ける一方、配置部署でAさんは“一人の新人”としてスムーズに受け入れられた。支援機関のスタッフが連日やってくることでAさんに必要な配慮を自然な形で部署内の者が理解することが出来た。いきなりの雇用ではなく職場実習を実施したことで本人も周囲もうまく馴染むことが出来た。
(6)職場環境の調整と体調管理への自覚
雇用後、徳島障害者職業センターと障害者就業・生活支援センターの支援を受けつつ、ジョブコーチ支援を実施した。その中で以下のような取り組みを行った。また、これらの取り組みを円滑に実施するため、節目節目で支援機関が当事業所に集まりケース会議を実施した。
①職場環境の調整
・確実に休憩の取れる場所の確保
:通常の休憩場所とは別に休憩室を確保した。これは従業員全体にとって有益である。簡易ベッドで体を横にして休めるようになった。
・休憩の取り方のルール化
:定期的な休憩が確実に取れるようルール決め(午後、1時間毎に短い休憩を取る等)をした。本人が休憩を取れてない時は上司が声をかけた。
・負担軽減のための勤務時間の調整
:通勤距離や通勤時間帯、本人の特性からくる身体への負担を業務との兼ね合いで検討することとなった。勤務開始時間を1時間繰り下げ、10時~19時の勤務になった。
・負担軽減のための勤務シフトの調整
:平日4日5日の連続勤務では疲れがたまりやすく、週の後半は顔色が赤くなり、かゆみも出て身体への負担が大きかった。協議の結果、当面は5勤2休から3勤1休を繰り返す勤務シフトに変更することとなった。
・部署との連携
:Aさんの健康管理面と業務遂行面を部署の先輩が把握・管理して、会社上司や支援機関に伝え、情報共有できた。時には、Aさんの勤務形態や服装についての配慮を部署から会社上司へ掛け合うこともあった。
具体的には、健康管理面で顔の赤みや身体をかくことや頭痛、目の下のクマ、服薬できてなかったこと、疲れやバテ具合、Aさんの病気への意識の低さ(「大丈夫」「めんどくさい」)等が報告された。業務遂行面では、休憩時間を取ったり取らなかったりすることやついつい時間超過をすること、残業してキリの良いところまで行おうとすること等が報告された。
・残業
:支援機関からの提案があり、体調管理がまだ不安定な状況であったため、当面の間、本人の意欲は買うが残業は禁止した。
・室内の温度対策
:暑さ対策の温度管理をより厳重に行った。本人が必要であれば卓上扇風機を用意することも検討した。
・服装
:通常、カッターシャツを着用する時期であるが、シーズンより早く軽装(半袖シャツやポロシャツ等)を了解した。
・AEDの設置検討
:会社上司がAED講習を受けていたこともあり理解がスムーズであった。近隣の建物にAEDは設置されているが、万が一の時に取りに行く時間を考えると、社内に設置すべきかどうか検討した。

②体調管理についてAさんが自覚を持ってもらう取り組み
・毎日の体調および疲労感の確認
:Aさん自身によって、仕事を通じての体調変化や自分の疲労感がいつ、どんな時に、どのように出るのか毎日記録をとってもらった。通院時、これを主治医に伝え主治医の判断を仰ぐことにした。
・通院同行
:支援機関が通院に同行し、本人の体調を把握した。事業所への適応に掛かる助言を主治医から頂き、その内容について事業所へも情報提供が行われた。
・自己管理への意識
:休憩時間を削ったり、無理を押して出勤したり、残業をしたり、頑張りすぎることが多く見られた。自分で体調管理・健康管理を出来るということが会社にとって一番の評価であり、会社への貢献となることを上司や支援機関から事ある毎に伝えた。
・家庭訪問、家族との相談
:支援機関が家庭訪問した。両親とよりよい配慮の方法を協議した。水筒(凍らせたお茶等)を持参することや服装(軽装の準備)について、家族の協力を求めた。
4. 取り組みの具体的な効果、障害者雇用のメリット
(1)取り組みを実施したことによる効果
取り組みを実施したことによる効果は大きく、その最大のものは、社内(部署内)の協力体制が根付いたこととAさんの体調管理・健康管理に対する意識が高まったことであった。
部署内の協力体制が根付いたことで、配慮や声掛けがスムーズに行われた。当初、Aさんは「大丈夫なのに・・・」と感じることもあったようだが、今振り返ると「すごく助かった。どれも(自分からは)言いにくいことばかりだったから。」と実感している。協力体制が根付いたことの象徴的な出来事は、部署内でAさんに必要だと考えられたことを部署の先輩方が上司や支援機関に自ら改善するよう掛け合ったことだ。社内でナチュラルサポートが形成された。
休憩室の必要性について、Aさんは「自分では気がつかなかった」と振り返っている。横になって休めることが身体の負担軽減にとってこれだけ良いものだと、休憩室を実際使用して数ヶ月経った今実感している。また、休憩のルール化は、Aさんが休憩を意識して取るようになったのと同時に部署内で先輩方から声をかけてもらえる結果をもたらした。仕事のキリをつけられず、忙しさに追われていることもまだまだあるので、周囲から声をかけてもらえるのは非常にありがたい。また、勤務時間の調整と勤務シフトの調整により、上司から見てもAさんの身体がこの生活パターンに馴染んできたと感じられた。少し仕事ができるようになった頃、休憩室で横になったまま寝入ってしまったり、早退しなければいけない体調不良が何度か見られたりしたが、現在は改善されている。
体調管理の自覚をAさんに持ってもらう取り組みにより、Aさん自身の気持ちに変化が見られた。先日、顔がふっくらしているので支援機関のスタッフが声をかけたところ、「むくみではないと思います。家族がご飯をたくさん食べるように言うから(笑)。でも、本当はもう少し体重を落とした方が心臓にはいいんですけど」「水分も気をつけてるので、むくみは少ないと思います」とAさんが答えた。自分の身体に対しての意識の変化が伺えた。

(2)障害者雇用の波及効果やメリット
当事業所の管理者は「弊社にとっては、障害者の方とお付き合いすることが特別なことではなくなってきたというのが最大のメリットです。障害があっても無くても、みんなが共に働ける会社、そういう会社になってきたという事が一番嬉しいことです。」と話す。
徳島県内において特定疾患をもつ方の雇用事例はまだまだ少ないため、貴重な先進事例であると同時に、県内においては同じ規模(従業員数)の企業が障害者雇用を推進しようとする事例が少ないため、障害者雇用が低調な徳島県下では同規模企業の模範となる好事例であった。
(3)Aさんにとって
「実習に来る前は、ちゃんと仕事が出来るのか?朝ちゃんと行けるのか?体調崩していっぱい休むのか?心配だった。仕事をするようになって、8時間ってこんなに長いもんなんじゃって思った(笑)。仕事自体は教えてもらってできそうだって思った。電話対応は心配だった。今は、仕事に慣れてきて、分かることが増えたからしんどい部分もある。気がついて、やらなあかん仕事が増えた。電話対応はまだまだ怖い。対応の仕方がまだまだ分からない。けど、充実している。こんなにスムーズに良い会社に決まってビックリしている。もっと苦労して仕事探さなあかんかったかも(笑)。」「(同じ病気・障害のある人へ)何でもやってみれば良いよってよく言われるけど、仕事してみて実際やってみたらそうだって思った。試しに足を突っ込んでみたら良い。意外とやったらできる」
5. 今後の課題・展望
Aさんが体調の自己管理を行い、業務遂行力をつけることによって、指示を出される側から指示を出せる側になっていくことを会社は期待している。これは、体調管理を含めて、自分で計画を持って行動が出来るようになることを指している。Aさんが力をつけることで、新たに障害のある人を雇用する際のリーダーとなれる。Aさん自身もキャリアアップを望んでいる。社会人として一歩を踏み出したばかりのAさんだが、将来に大きな夢を持っている。これからも夢を一歩ずつ叶えていかれる事であろう。
「地域密着型コールセンター」として「徳島県民に愛され、誇りとなるオンリーワン・コールセンターを徳島の人々と一緒に作り上げることを目標としています」という当事業所は、「人にしかできないホスピタリティあふれるサービスを創造する」というスタンスが障害者雇用においても有益に影響し、障害者雇用についても更に実績を積まれていくものと強く感じられた。
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