事業所名

有限会社トータル美研

所在地

鹿児島県鹿児島市

事業内容

ビルメンテナンス業・ハウスクリーニング業・高層ビル窓ガラス清掃、外壁洗浄、塗装、コーキング

従業員数

26名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	2	清掃作業（1名は高所作業にも従事）
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組みの内容（職場教育）
3. 高所作業への挑戦
4. 障害者雇用の効果（安全管理体制の充実）
5. 今後の課題

事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

  同社は、平成15年に創業した。一般のビルメンテナンス／ハウスクリーニング業を営む会社と同様、例えば床や窓、トイレなど屋内の清掃業務も行っているが、最も得意とし、業務の中心をなしているのは、高層建築物の窓ガラス清掃（屋外側）や外壁の清掃・メンテナンスであり、事業所所在地である鹿児島市にとどまらず、県内各地において事業を展開している。
  一人目Aさん（正社員）についてはハローワークから紹介を受けた。同社のそれまでの障害者雇用実績は0（ゼロ）。いくらハローワークからの紹介とはいえ、よく障害者を採用面接する気持ちになったものだと思い、正直なところ抵抗感や不安感はなかったのかと率直に尋ねてみた。
  この質問は、植丈夫（マスラオ）社長と弟の植公麿（キミマロ）専務にとって、とても意外なものだったようだ。しばらくの沈黙の後、二人はこう答えた。「うーん、特に（抵抗感や不安感は）ありませんでしたね。障害者であることは別に気にしていませんでしたし。（採用面接を決めたのは）強いてあげれば、ハウスクリーニングの経験者であったことでしょうか」「ハローワークの担当者が、Aさんについて、この仕事は大丈夫だというような紹介をされたことが、（採用面接を行う決断を）後押ししてくれたと思います」
  そしてこのように続けた。社長「私は以前勤務していた工場で生産ラインの担当だったとき、知的障害者とパートナーを組んでいました。（抵抗感や不安感を感じなかったのは）もしかしたら、そういった経験をしているからかもしれませんね」専務「私も以前勤務していた職場で、片腕を切断された方と一緒に働いていました。そのせいか、障害者だからといって変に過剰な意識を持つことはないですね」
  採用面接は、筆談とジェスチャーでコミュニケーションを取りながら行われた。Aさんが入社して半年余りが経った現在のそれと比較すると、当時はずいぶんたどたどしい意思疎通であったと二人は述懐するが、Aさん本人のやる気と真面目で明るい人間性が伝わってきたので、採用に踏み切ったということである。
  50歳代後半であるAさんは社長よりも年上であるが、いわゆる使いにくいと言ったことは全く無く、現場のムードメーカーであり、責任者として業務を任せることもあるという。社長と専務の願いは、事故無く無事に定年を迎えて欲しいということと、これまでの経験を若い従業員たちに伝えて欲しいということである。
  一方、二人目Bさん（パートタイマー）もハローワークからの紹介を受けて採用したが、Aさんの時の経験が採用面接などでも活きていると専務は話す。

2．取り組みの内容（職場教育）

  Aさんはハウスクリーニングの経験者であったため、ある程度の知識と技能と経験を持って入社してきたのだが、それでも機材の操作方法を新たに覚え（メーカーが違えば、操作方法にも違いがある）、同社独自の手順・ノウハウを身につける必要があった。筆談とジェスチャー、片言の手話を交えながらのコミュニケーションと、入社当初から常に社長に随伴させること、まさにOJTを実践しながら教育していった。
  本人の努力もあって、今ではちょっとした仕事なら責任を任せるまでに成長した。
  また、ハウスクリーニングの未経験者であるBさんについては、社長と専務による教育はもちろんだが、Aさんが積極的にBさんに手話を使用しながら教え込んでいる。

3．高所作業への挑戦

  同社の業務の中心をなす高所作業であるが、現在はAさんも高層建築物の窓ガラス清掃（屋外側）に従事している。これは本人からの申し出があったからである。
  Aさんの確かなガラスクリーニング技術、ガッツあふれる勤務態度を見ていた社長と専務は、Aさんを高所作業に従事させるべく検討を重ねた。そして、何より大切なことは安全の確保であることを改めて肝に銘じながら、安全確認の徹底を図ることとした。その結果、作業現場における職長の所在場所の見直し、指揮命令・報告及び連絡経路の明確化、指差確認の徹底実施（大きな声と大きな動作で行うこと）につながり、業務中の目配り気配りが安全管理に対する意識が大きく高まることになった。

高所作業のために屋上から降下中

作業準備完了

高所作業（窓ガラス清掃中）

高所作業を建物の内側から覗いた様子

4．障害者雇用の効果（安全管理体制の充実）

  仕事を行っていく上で、同僚・上司との意思疎通は欠かせない。聴覚障害者は、その意思疎通を図ることが難しいと思われているようである。
  同社においても当初は行き違いや失敗が少なくなかったようで、ある時など、Aさんの携帯電話のメール機能が故障を起こし、連絡がなかなか取れずにたいへん困ったと、笑いながら社長が話してくれた。
  OffJTで手話の研修は行っていないが、仕事を通じて社長も専務も健常者である従業員も少しずつ手話を覚えていっており、今では健常者同士の会話の中にも手話が混じるほどだという。
  以前の取材先でも感じたのであるが、片言の手話とジェスチャーと顔の表情などで、いわばその会社独自の言語が形成され、それでコミュニケーションが成立していくのではないだろうか。最初はたどたどしくても、日々やりとりが繰り返される中で、有用なツールになっていくのではないか。一つの要件を伝えるために必要な時間はどんどん短くなっているという社長の言葉は、（本人の業務の慣れもあるだろうが）そのことを裏付けているように思える。
  また、聴覚障害をカバーするため、健常者よりも視覚に頼らなければならない面があるのだが、会社全体で手話やジェスチャーといった「人間の動作」を意識的に行うようになったことが、例えば、指差確認における所作の徹底につながったと言っても言い過ぎではあるまい。

高所ばかりではなく、地上での清掃作業もこなす

5．今後の課題

  植丈夫社長と公麿専務の兄弟は言う。「障害者と言うと、世間的には、例えば重度の障害を持つ寝たきりの方などを、まず想像されるのではないでしょうか。そこで、うちの会社で雇用するのはちょっと難しいかなと、しり込みされる方が多いのでは？一概に障害者と言っても千差万別であり、会社のニーズにピッタリとマッチングする方もたくさんいらっしゃるはずです。いわゆる重度の方を含め、障害者一人ひとりに合った仕事は必ず存在すると思います。これからも、障害の有無ではなく、私どもの業務がその方の適性や性格に合うか合わないかを基準にして採用活動を行っていきたいと思います」
  最後に何か望むことはないかと尋ねてみた。「そうですねえ。（聴覚障害者が）目の前や手の届く範囲にいるときは、互いに向き合って手話やジェスチャーが使えます。遠くにいるときは、携帯電話のメールを使用します。その中間というか、中途半端な位置にいる場合、通常なら『おい』と声をかけたり『おーい』と呼びかける程度の距離にいる場合が実は最も不便です。こちらに気付いてくれさえすれば、手話やジェスチャーが使えるのですが。聴覚障害者に、こちらが呼んでいることに気づいて、振り向いてもらえるツールができませんかねえ」