アルコール依存症者に対して門戸を広げ多数雇用した取り組み
- 事業所名
- 株式会社セイビ札幌
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- ビルの清掃・警備・設備保守管理・マンションの管理業務
- 従業員数
- 78名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 清掃員・ボイラーマン 内部障害 1 ボイラーマン 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)創立のあゆみ
昭和33年に設立した株式会社セイビは、北海道地区の業務拡大を目指し、昭和47年8月札幌営業所を開設した。
昭和40年代、日本は高度成長期であった。昭和47年には田中内閣が発足、日本列島改造の提唱により益々景気は上昇した。
そのことから、昭和58年1月12日に株式会社セイビから分離独立し株式会社セイビ札幌を設立、札幌市内に事務所を置いた。
(2)事業の特徴
当社はビルの清掃・警備・設備保守管理、マンションの管理業務等を提供するビルメンテナンス業である。
(3)経営理念
当社の社会的使命は、人と環境の調和を図り、地域社会における快適な環境の維持、創造に貢献することにある。
そのために、技術・技能を高め、心のこもったサービスを実践することによって、お客様と会社並びに社員の「満足共感企業」となることを目指す。
また、行動規範として
1 創業の精神である「和」の思想を基に、働く楽しみと喜びを持ち「和衷協同」を実践する職場を築き上げる。
2 仕事を通じ社会と人を大切にし、社員一人ひとりが自立心と主体性を持ち、会社の運営に参加していることが実感できる会社を目指す。
(4)グループの構成
当社は、セイビグループの1社で株式会社セイビ東京、株式会社セイビ函館、株式会社セイビ東海、株式会社セイビ大阪、株式会社セイビ九州、株式会社セイビビルシステム、株式会社セイビプロパティマネジメント、株式会社セイビホテルサービス等がそれぞれ個別の法人として運営している。
(5)組織
組織は総務部—経理課・労務課、業務部—業務課・住宅課、開発部—開発課の3部4課構成となっている。
2. 雇用の経緯、背景
昭和63年頃日本経済は好景気にあり、人手不足でパート従業員の募集をしてもなかなか応募者がいない状況にあった。
平成元年「札幌マック」(アルコール薬物ケアセンター 別記)からアルコール依存症の方Sさんが応募してきた。そのとき、正直言って、「責任を持ってきちんと仕事ができるだろうか。欠勤することなく継続して勤務できるだろうか。」という心配があった。
反面、当時、アルコール依存症は障害者でもなく、もちろん健常者でもない彼らに就業の門戸は狭かった。病気を患う原因は本人だったとしても、現在、酒を断ち働こうとする意欲があり、その仕事に対する能力を感じながらも不採用とするのは貴重な労働力を失うことになるのではないかという思いと、彼らの働く道を閉ざすことになるのではないかと迷い悩んだ末、彼を清掃パートとして採用することにした。
別記
NPO法人マック
所在地 札幌市白石区東札幌2条5丁目1-21
電話 011-841-7055
URL http://www.sapporo-mac.jp/
アルコール・薬物依存症者が回復、社会復帰していくための中間施設です。
1978年アルコール・薬物依存症から回復したカトリックの神父が、アメリカの中間施設のプログラムをモデルに東京に設立したのが始まりです。この施設はアルコール・薬物依存症者をその病的な依存から立ち直る手助けとしてアルコール・薬物を断つ事は勿論、回復に必要な『生きることに対する支援』を目的として、日本で最初に設立されたデイケア・リハビリテーション施設でした。その活動と実績『アルコール・薬物依存症に回復はある』という事実は1994年行政に認められ、時の厚生省から保健文化賞を受賞し、マックの存在は広く社会に知られるようになりました(現在は東京の他、札幌、大阪、名古屋、京都、広島、横浜、埼玉、新潟にあります。)
現在、札幌マックは、著名な先生方や有識者をはじめ多くの方々に支えられながら、『ジャパンマック』の一員として女性専用の施設を持つ道内では唯一の施設として活動しております。
マックは、アルコール・薬物依存症者が回復、社会復帰していくための中間施設です。
(マックのホームページから抜粋)
3. 従事業務、職場配置
(1)清掃業務
当社は清掃業務が主たる業務であり、全従業員230名中、約70%に当たる158名が清掃業務に従事している。従事者は月給者と日給者、そしてパートといった雇用種別がある。業務はそれぞれ雇用種別ごとに役割と責任を持たせ作業に当たっている。
たとえば、月給者(現場責任者)は配属されたビルの1ヶ月ごとの清掃プランを作成し、ビル側の担当責任者と打ち合わせを行う。そして、その打ち合わせ内容を清掃担当の日給者、パートに知らせるとともに、作業量に応じた要員の手配を行う。日々の清掃についても日常と違う業務が発生すると、それぞれの担当に指示する。また、日給者は現場責任者を補佐し勤務時間もフルタイムであることから、パートが帰った後の作業を実施する。
ビルに配置した清掃員は、異動がない限り、そのビルの専属となる。
清掃業務を委託される施設には、施設の目的(オフィスビル・病院・商業施設・マンション)があり、清掃方法も違うし清掃量(清掃面積・清掃場所等)も違い配置される要員も様々である。
(2)職場配置その1(デパート)
Sさんは商業施設である某デパートに配置した。その理由は、清掃内容が単独作業でなく、複数で作業をすることから教育も容易であると判断したことである。
作業は、朝7時30分に出勤し、店がオープンしお客さんが入店する10時前に店内の清掃を終わらせるものである。
Sさんの仕事はダスタークロス(プロが使うホウキに代わる道具)を使い掃く、次にモップで床を拭く作業である。毎日繰り返し行う作業でもフロア(売り場)によって作業方法も微妙に違う。清掃のため移動しなければならない商品もあり、売り場によって違ってくる。清掃作業そのものは単純であるが、フロア・売り場別の作業を熟知しなければならないのも、清掃作業員の業務の一環である。
デパートにおけるSさんの評価は良く、現場の責任者からは仕事に取り組む姿勢も積極的だと報告があり、採用に関わった担当者、採用を決めた当社としても、その報告を受け安堵したものである。
その後もSさんは仕事ぶりも真面目であり、清掃機器のポリシャーの操作、ワックスの塗布技術も会得した。2年後の平成2年5月、パートから日勤職へと昇格し清掃業務に必要な国家資格でもあるビルクリーニング技能士を取得した。
「札幌マック」から通勤していたSさんは賃金も上がり、部屋を借り自立したと住所変更を届けに来たとき嬉しそうに報告をしてきた。
(3)職場配置その2(病院)
平成3年5月、某病院に配置していた清掃パートが退職をしたため、1名欠員となり募集をすることとなった。
「札幌マック」に話をしたところ、アルコール依存症者Hさんを推薦してきた。病院の作業内容はSさんと同じ掃き拭きの作業であるが、患者さんが入院されている病室を含めての作業であり、不特定多数の方々と接することとなり粗相がないかちょっと心配であったが、Hさんに会い面接の受け答え、仕事に対する姿勢等々直感的に大丈夫と判断し採用を決め、当該病院へ清掃パートして配置した。
数日後、心配をよそに現場責任者の評価は積極性、意欲ともに非常に良いと報告してきた。Hさんが入社して数ヶ月位経った頃、病院の事務から電話が入った。
それは患者さんからの投書で、職員から親切にしていただいたことへのお礼の投書だった。そして、それはHさんの行為によるものであったことも分かった。
そのことから、アルコール依存症者の雇用は企業側のちょっとした配慮で問題はないと判断した。
その後、Hさんは平成4年1月パートから日勤職へと昇格、同時に病院勤務からオフィスビルに異動し、ビルクリーニング技能士の国家資格を取得、さらに国家資格である清掃作業監督者の資格も取得した。
Hさんはオフィスビルに移っても評価は良かった。平成6年4月Hさんはさらに月給者となり元の病院へ移り、現場責任者となり現在も活躍中である。


4. 取り組みの内容
平成元年最初のアルコール依存者Sさんの雇用の成功に続いてHさんの例があり、その後、アルコール依存症者雇用の門戸を広げていったが、どこかに欠員が出て募集する際「札幌マック」から良い人を推薦されても採用とはいかない事情もあった。
それは一人現場であるとか、作業仕様にトイレの清掃があるとか、深夜にわたる作業は除外せざるを得なかった。
それでも平成20年までに10名のアルコール依存症者を雇用した。
彼らを雇用したとき、会社側はある配慮を必要とする。
彼らは一様にある劣等感を持っている。注意をするときもちょっとした気配りを必要とする。また、会社は親睦を目的として、酒を飲む機会があるが、彼らの隣には病歴を知らしている者を座らせる。先輩株の職員が酒を勧めに廻って来る。酔った先輩は「俺の酒が飲めないか」と言うことがあるが、そのとき断る代役をする役目である。
雇用したアルコール依存症者には個人差はあるが入社して2~3年で、日勤職、そして国家資格の取得をさせることにしている。ただし、その前にこのまま当社に残るのか、元の職業に戻るのか選択をさせる。
残った者は健常者と同じ扱いとなる。能力に応じ、ある者は月給者、現場責任者となる。
5. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
平成9年6月「札幌マック」の紹介でOさんを清掃パートして採用した。
Oさんは平成10年3月に月給者に昇格、その間ビルクリーニング技能工の資格も収得していたが、平成12年8月に出身施設である「札幌マック」の事務部門に再就職するために退職したケースがあった。
当社としては、彼が将来や適性のことも考え選択した結果であったので快く送り出した。
その後、本人から「アルコール依存症である私に、その事実を知った上で永い間使っていただいたことが・・中略・・共に働き、共に生きることを繰り返し教えていただいたことが、人としての優しさにつながり、この度の人生を歩むことができた」との礼状をいただいた。
アルコール依存症の雇用は、もちろん本人の努力も大きいのだが、企業側のちょっとした配慮で彼らに自信を持たせ、働く意欲、能力を引き出し、健常者と同じラインに就かせることができた。
このことによって、障害者も健常者もお互いに思いやりをもって生き生きと働ける職場環境を作ることができ、障害者雇用で社会に貢献できたという達成感がある。
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