衛生・安全管理の重視と知的障害者の職場定着
- 事業所名
- 有限会社幸福の寿し本舗
- 所在地
- 青森県青森市
- 事業内容
- 弁当寿司、調理パン、サンドイッチ、惣菜等地場メーカーによる食品製造専門工場として消費者に「食」を提供
- 従業員数
- 220名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 1 機械操作・班長 知的障害 3 惣菜製造ライン、食材ケース洗浄、サンドイッチ製造ライン 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
幸福の寿司本舗は、青森市に本社を置く株式会社工藤パングループのひとつであり、昭和7年青森県むつ市で始まった小規模のパン工場を起源としている。昭和22年に青森市へ移転後、県指定配給パン工場の指定を受け有限会社となり、26年には県より学校給食指定工場として認可を受ける。昭和31年、株式会社となり、現在は本社工場の他に、第二工場・営業所(2ヶ所)、幸福の寿し本舗の関連会社から成っている。当社は工藤パンの弁当・寿司・調理パン部門が、59年9月に第二工場のある現在の青森市へ移転し、有限会社として設立された。以来、サンドイッチ惣菜等を含め、地場メーカーによる専門工場として、豊富な商品構成で『食の提供』を切れ目なく行い、大型食料品店、コンビニエンスストアー、JR駅構内及び車内販売等、多岐に渡る販売経路で消費者に親しまれ、現在に至っている。
障害者雇用に至った経緯について、工藤英世社長によれば、障害者雇用は当社の設立以前、工藤社長が工藤パン第二工場長時代から行われており、そのきっかけとなったのが「仕事とはどういったものかを体験できる場を与えたい」という、当時養護学校に勤めていた恩師の言葉であったとのこと。会う度毎に障害のある生徒の話題があり、いつの間にか知的障害とはどういったものか(特性)、彼らにも出来ることがある(能力)といったことを知り、しだいに抵抗感が薄れ、彼らを受け入れる下地が作られていた。「今思うと、恩師のねらいにはまっていたかも知れない」とのこと。実習の指導をする側も、受ける側も手探り状態であり、決して楽ではなかったが、一生懸命取り組むことで次第に不安感が減じ、食品衛生法上の制度の変わり目にあたって3名の障害者が採用され、人手不足解消の役割を担っていた。
その後、現在の場所に幸福の寿し本舗が設立。障害者雇用は平成3年から開始となる。現在雇用されている障害者は4名であるが、これまでで多い時は7名が雇用されていた時期があった。
2. 障害者雇用の現況
平成20年5月現在、従業員数が220名の事業所であり、内部障害(重度)1名、知的障害3名の合計4名が障害者雇用されている。
障害者雇用率は2.27%であり、企業が障害者を、社会的責任において援助しなければならないという使命に賛同し、社団法人青森県高齢・障害者雇用支援協会の会員事業所に名を連ねている。
工場は24時間体制で稼働し、内部障害の男性は自家用車で通勤しており、他の従業員と同様の条件で勤務している。知的障害のある3人の従業員は、勤務時間は異なるものの同一のグループホームに住んでおり、主として職場の通勤バスを利用して出勤している。通勤バス、時によっては市営バスを利用する為、残業は行っておらずバスの時刻を考慮した勤務時間となっている。
障害者4名の状況については、以下の通りである。それぞれが長期に職場定着していることもあり、作業によってはスピード・正確さで他の従業員以上の場合もあると話していた。
性別 | 年齢 | 勤続年数 | 障害種別・程度 | 雇用形態 | 作業内容 |
---|---|---|---|---|---|
男 | 54 | 8.10年 | 内部・重度 | 正規常勤 | 機械操作・班長 |
女 | 34 | 14.10年 | 知的・軽度 | パート | 惣菜製造ライン |
男 | 33 | 14.00年 | 知的・軽度 | パート | 食材ケース洗浄 |
男 | 31 | 12.08年 | 知的・軽度 | パート | サンドイッチ製造ライン |
【惣菜ライン】


【工場内専用食材ケースの洗浄作業】


【サンドイッチライン】


3. 取り組みの内容
(1)作業環境
事務課に所属する須藤課長、那須主任によれば、働いている障害者が安心できる環境である以外、障害者の雇用について、当社で特別意識していることはない、と話す。あえて言うならば、部署内の従業員が自然な形で助け合っており、知的障害のある従業員に対しては長年共に働いている為、‘できること'と‘苦手なこと'を周りが理解し、親身になって関わる環境がいつのまにか出来上がっていた。そばにいる従業員が、表情やちょっとした態度の変化に気づくことで、本人への声掛け・代弁等が行なわれ、パニックに陥ることもなくなり、彼らも安心して作業ができている様子であるとのこと。周囲の従業員は「だって、ほうっておけないでしょう」と気軽に答えてくれる環境である。
(2)衛生・安全管理
「人さまに食べていただく商品を取り扱っている」という気持ちを常に持ち、衛生管理には細心の注意が払われている。会社玄関入り口から扉の開閉時に外気が入り込みづらい様、透明で厚手のビニールカーテンが取り付けられているところから始まり、工場に入るためには、マスク・白衣・ヘアネット・ローラー掛けはもちろん、作業場所に辿り着くまでに手洗い・エアシャワー等の消毒・除菌がなされ、これが入室の度毎に行われている。定期的に行われる検査を通っていない者は、誰一人作業場に立ち入ることは出来ないとのこと。知的障害のある従業員の場合、作業を覚える以前に、衛生面で自己管理できるようになるまでに、かなり指導を要することがあり、周囲も気を配っている。
安全管理面においては、危険を伴う機械操作もあるため、知的障害のある従業員については危険な工程を避け、生産ラインを主とした作業工程としている。現在、生産ラインに入っていない食材ケース洗浄者だけは、一部機械操作を行いながら稼働している。
(3)相談対応
採用時当初は、対人関係やコミュニケーションのあり方で問題が生じたこともあったが、彼らが口で流暢に伝えられない想いが、他者によって届けられることで次第に落ち着き、通常の作業においては殆ど問題なく仕事を行っている。
過去には在宅の知的障害者も勤めており、家庭での対応・職場との連携が上手く行かず、生活の乱れに繋がった者もいた。
現在勤務している3名については、勤務中は本人のそばにいる従業員が見守り、退勤後は入居利用している知的障害児施設八甲学園のグループホームで生活に深く関わっている。お互いに連携を取りあえる状況が作られており、咄嗟の事態にも対応可能である。事務課の須藤課長は、本人のみならず担当者としても安心でき、作業能力のスキルアップと同様に雇用定着の一因と感じていた。
4. 今後の課題等
(1)実習・見学者への応対
以前は実習・工場見学を受け入れていた時期もあったが、「食の安全」が叫ばれるようになり、法律改正が行われ、法規制が厳格化されたことにより、現在では、特別支援学校、障害を持つ求職者等からの実習・見学依頼にも気軽に応じられない状態となっている。衛生管理上の問題が大きく、見学に対しては工場内にガラス張りの通路等の設置がなければ対応できず、実習にあたっては、検査と衛生面の自己管理学習で実習期間が終わってしまい、本来の実習内容にたどり着けない可能性が高いことがその理由として挙げられた。
(2)事業所における課題
今後の障害者雇用については、人手不足等により募集をかける場合もあり得るが、安全管理上、音声による危険回避・通路の幅・作業場床が水で滑ること等から、これらに対応が難しい聴覚障害・車いす利用者・下肢障害・視覚障害の方の工場内作業は困難であること、衛生管理上きちんと自己管理できる方を見極めるのは難しく、応募があった場合は、稼働環境の説明をきちんと行ったうえで了解してもらっているとのこと。また、雇い入れ時のトライアル雇用の活用も、上記及び実習時の対応と同様の理由から難しく、将来に向けて雇用時のあり方について考慮を要するとのこと。
5. さいごに
お客様からの「おいしい」の評価に対して、『商品がおいしいと喜ばれてあたりまえであり、良い商品とはそこから一歩前進することで得られる』という謙虚さと向上心を、壁に掲げられた『基本姿勢』の一文から感じることができた。
工藤社長をはじめ須藤課長、那須主任が障害のある従業員に対し「特別の接し方は行っていない」と話されていたが、障害者一人ひとりの個性を認め、温かく見守ることのできる職場環境が出来上がるまでには、試行錯誤と充分な時間が必要であったと思われる。それが実ったからこそ障害者の長期定着につながっている。また、障害者本人を知り、やさしく・適切に対応できる従業員がいつのまにか育っているのも、職場の持つ雰囲気が自然にそうさせているのではないだろうか。
平成20年度中に『職場定着推進チーム』の設置を予定しているとのことだが、既に体制が整い実践していると感じられた。
「幸福の寿し本舗」の取り組みを通じ、障害があっても理解してもらえる環境があれば働き続けられる、少しのサポートがあれば社会参加と自立を学ぶことができると感じた。
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