事業所名

岩手アツデン株式会社

所在地

岩手県花巻市

事業内容

各種音響機器の製造

従業員数

102名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	出荷検査
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	3	商品類の内製
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景等
2. 取り組みの内容等（取り組みの具体的な内容、活用した制度や助成金など）
3. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット等（取り組みを実施したことによる効果、障害者雇用の波及効果やメリット、障害者自身のコメントなど）
4. 今後の課題・展望等

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景等

（1）事業所の概要等

◇経営方針：多品種少量生産

◇障害者雇用の理念：障害者にできる仕事はある

各種音響機器・無線通信機器の製造販売を手がけるアツデン株式会社（東京）の子会社として、昭和49年に設立された。本社からの発注による音響機器の製造がメインだが、景気悪化とともにその数が減ってきているため、10年ほど前から県内の企業から独自に受注するようになり、年々その比率が高くなっている。ちなみに平成20年12月は、本社からとそれ以外の企業からの受注の割合は6対4。独自の仕事例としては、電動カーテンのモーター部分の製造や、牛の発情期を感知するセンサーの製造など。今後はさらにそうした仕事を増やす一方、不景気により廃業となった同業他社が少なくないことから、その新たな受け入れ先として本業の仕事を受注していくことも期待している。

一方で、20年ほど前から「生産改善活動」に積極的に取り組み、生産効率アップを図っている。そのための取り組みの一つが、組立に必要な部品類の内製で、例えば、今日必要な部品を前日に作ることでムダをできるだけなくす努力をしている。3人の知的障害者は主にこの仕事を担当している。

（2）障害者雇用の経緯

約8年前、地元の花巻養護学校の職場実習に来ていた知的障害の男子生徒が、実習終了後の感想文で「卒業後もここで働きたい」と書いてあったことから、当時の山口温社長が採用を決めたのが始まり。実習時に教育係を担当していた生産部課長の高橋克法さんによると、障害が軽度のため、あいさつがしっかりできている、仕事への取り組み方がまじめ、など好印象だったという。

その後も同社では養護学校の学生の職場実習を続けていて、その中には卒業後の就職を希望する人がいた。一人目の男性が優秀だったので、約2年おきに採用し、現在の3名（すべて男性）に至っている。

実は一人目の男子生徒を採用した後、2人の女子生徒を雇ったことがあるが、2人とも精神的に不安定で、時々職場でパニックになることがあった。たまたま2人の場合は実習期間も短かったこともあり仕事が合わなかったらしく、自ら辞めていったという。

（3）障害者雇用の背景

同社が20年前から始めた「部品類の内製」の仕事は、プラスチックの成型やエアパッキンの加工、「抜きもの」と呼ばれるシールの作成など、比較的単純な作業が多い。そうした単純作業は知的障害者に可能であることから、自然に採用に結びついたようだ。

また、杉本社長曰く「知的障害者は健常者に比べて、単純作業でも飽きずに一生懸命やってくれる」と喜ぶ。社長の「適した仕事を用意し、要所要所で管理すれば、雇用の幅が広がるのではないか」という言葉からも、障害者の雇用には「仕事の適性」がカギのように思える。

もう一つ、同社が雇用に成功している大きな理由が、最初に雇用した高橋大輔さんの存在だ。その後の2人を採用する時、教育係の高橋さんの「後輩が入ってくるのだから、しっかり面倒を見てくれよ」という頼みのとおり、高橋大輔さんは仕事の内容を教えたり、昼食の時に声をかけて一緒に食べるなど、2人の面倒をよくみたという。それが2人の定着にもつながったのは明らかだ。

（4）その他

同社では、音声機能に障害のある男性・佐藤益実さんも平成4年から採用している。佐藤さんは音声機能に障害があるため明確に話すことはできないが、誰でも聞き慣れれば聞き取ることができるので、周囲とのコミュニケーションは全く問題ない。それどころか、音響機器に関する知識と興味があるため、それを活かして出荷検査を担当している。数年おきにグループ企業のあるニューヨークにも出張しているほどで、杉本社長は「ふだんのコミュニケーションや仕事ぶりから、障害者と意識していない」と明言している。

エアパッキンの加工を担当している高橋大輔さん

完成したエアパッキンを保管している場所。それぞれサイズごとに分けられており、高橋さんはこれを随時確認して、必要なサイズのエアパッキンを製造加工する

「抜きもの」の一つ、シールを製造

奥の男性が作ったシールをはがしていく。この日はたまたま二人で流れ作業を担当していた

3人が所属する「内製部門」の作業スペース

2. 取り組みの内容等（取り組みの具体的な内容、活用した制度や助成金など）

（1）具体的内容

・同社の仕事は大きな機械をたくさん扱っているので、一つ間違えると大きな事故につながる。養護学校の先生も生徒が就職するにあたり、まずその点を気にしているので、同社では最初にどんな行為が「危険」なのかを教えたという。

・担当の仕事を教える際には、完全に覚えるまで丁寧に何度も繰り返して教えることを心がけた。また、質問がうまくできない人には、ひと通り教えたあとも時々「大丈夫?」などと声をかけるようにした。

・仕事は単純作業だが、もっとも優秀な高橋大輔さんでも、一人前になるまで2年近くかかった。長い目で見守る気持ちが必要である。

・3人は、それぞれ障害の程度が異なり、個性もある。それを理解したうえで声をかけたり、仕事を割り振ることが大切である。

・うまくできた時はほめる、失敗した時にはしっかり叱る、とメリハリをつけて対応している。ただし叱る時にも、本人の性格や能力を否定することがないよう、言葉を選んでいる。

・障害者だからといって特別扱いはしない。「特別扱いをすると甘えが出てくるのでは?」と話すのは、生産部部長の藤原慶知さん。指導内容はあくまでも健常者と同じだが、指導方法は、丁寧に何度も、を心がけ、あとは遠くから見守ることが必要ではないか、と話す。

・声をかけるのは仕事の時間だけでなく、休憩時間や昼食時なども徹底している。

（2）活用した制度や助成金

・なし

（3）その他

3人とも、養護学校での職場実習後、3ヶ月間の試用期間を経て入社している。そうしたトライアル期間で適性ややる気を見極めることが、雇用の継続につながっていると思われる。

3. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット等（取り組みを実施したことによる効果、障害者雇用の波及効果やメリット、障害者自身のコメントなど）

（1） 取り組みを実施したことによる効果

・健常者よりも時間はかかったものの、現在3人とも1人前の仕事をこなし、同社の戦力となっている。

・最初に採用した高橋大輔さんは部品類の内製の仕事だけでなく、それらの部品類の在庫をチェックし、必要なものに優先順位をつけて作る、という仕事もこなしている。教育係だった高橋さんをはじめ社員が普段から頻繁に声をかけているせいか、仕事以外の部分でも会社にすっかり溶け込み、懇親会など会社の行事にも進んで参加し、他の社員とのコミュニケーションを図っている。

・仕事をこなせるようになって自信がついたのか、高橋さんと、その2年後に入社した花篭大輔さんは、入社後に自動車の普通免許取得にチャレンジ。何度か筆記試験に落ちたものの、最終的に二人とも免許を取得した。費用などで親の援助を頼ることはなかったという。筆記試験の勉強をしていた時も、高橋課長や他の社員は「どうだ?」と声をかけて励ましたという。

（2）障害者雇用の波及効果やメリット

・3人とも礼儀正しく挨拶がしっかりできるので、他の社員の模範となった。

（3）障害者自身のコメント

・高橋大輔さんは仕事について「ちょっと大変なところもあるけど楽しい」と話していた。杉本社長が話していたとおり、単純作業を楽しんで真面目に取り組んでいる様子がうかがえた。休憩時間は他の社員と話していることが多いという。

（4）その他

・高橋課長や藤原部長の話を聞いていると、本当に3人のことを根気よく見守ってきたことがわかる。3人それぞれの性格を把握し、それが適正な配置や技術習得につながっている。「失敗した時にはちゃんと叱り、その一方で遠くから見守っている。それが『育てる』ということではないか」という藤原部長の言葉が印象的だった。

4. 今後の課題・展望等

杉本社長によると、本業である東京本社からの仕事は減る一方で、県内の独自の仕事も最近の景気の悪化で見通しが立たないという。また、定年退職者の補充の予定もないので、今後の障害者の雇用は難しいようだ。

雇用している知的障害者3人のうち、高橋大輔さんは部品類の内製の管理の仕事も一部担当しているが、他の2人についても、可能であればそうした仕事も担当させ、可能性を広げていきたいと考えているようだ。