事業所名

有限会社メタルス

所在地

岩手県奥州市

事業内容

中子製造

従業員数

8名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	4	中子製造（3人）、後片付け（1人）
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景等
2. 取り組みの内容等（取り組みの具体的な内容、活用した制度や助成金など）
3. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット等（取り組みを実施したことによる効果、障害者雇用の波及効果やメリット、障害者自身のコメントなど）
4. 今後の課題・展望等

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景等

（1）事業所の概要等

◇経営方針：品質の良いものを、納期を守って作る。

◇障害者雇用の理念：健常者と同じように育て、仕事を教え、一人前に扱う。

南部鉄器の町・奥州市水沢区。この場所で、南部鉄瓶の中空部分に使う中子と鋳物機械のメーカーとして平成元年に設立された。その後鉄瓶の需要が減少したが、その頃、隣の前沢区にある自動車部品会社から中子の注文が入るようになり、平成7年頃からそちらに転換。現在に至っている。

昨年秋からアメリカの不況の影響で日本の自動車メーカーの業績が悪化しているが、同社でもその影響を受けているところ。昨年10月から注文が半分に減っているという。しかしもともと限られた人数で仕事をこなしていることもあり、雇用調整はせずに、様子を見ている段階である。

（2）障害者雇用の経緯

平成2年に菅原社長が、水沢区内の施設「静山園」に勤める知人から「雇ってくれないか」と言われたのがきっかけ。県北の出身で、施設の寮に住む知的障害者の男性だった。一般の中学校を卒業しており、あいさつも会話も問題なく、読み書きもできたので、採用することにした。

仕事を教える段階では、気短かであり、言われたことをそのままに受け入れず、何度かの注意後もなおらない。その上ごまかしたりすることもある。3ヶ月間の試用期間内の態度は「あまり芳しいとは言えず、本来なら採用は難しかった」と菅原社長。しかし、幸い寮から先生がよく見に来てくれたので相談のうえ、優しさと厳しさを使い分け、根気よく指導するうちに、ちゃんと話を聞くようになった。

2年ほど経った頃には、「仕事をまかせても大丈夫」と思えるようになったうえ、その後も「静山園」から雇用の依頼が来るようになったこともあり、平成6年に2人目、平成14年に3人目を採用した。

他にもその間に何人かの知的障害者が来たが、途中で辞めていった。菅原社長曰く、「2日くらいで、ここで働けるか、無理かがわかる」という。ポイントはやる気があるかどうか。やる気がある人は、たとえ叱られても、ふてくされずに「お願いします」と言う。「働かなければいけない」という意識が感じられる。その点で言えば、同社で働く3人は全て親元から離れて寮で暮らしている。「自立しなければ」という意識が働いているのだろう。

同社で雇用している4人の知的障害者のうち、3人が中子製造を担当し、残る一人はその仕事がどうしても覚えられなかったため雑用業務を担当しているという。

同社の仕事には特別な技術は必要ないと菅原社長は言い切る。それだけに「重度の障害者でなければ健常者と同じように仕事ができる」と考えている。同社よりも以前から、近隣の鋳物工場で知的障害者を雇用していたところがあるが、すべて雑用ばかりをさせていたという。それを知りながら、あえて一人前に扱おうと辛抱して仕事を教え続けた菅原社長の信念が、成功に結びついたといえる。

実際に一人目の男性を雇用してわかったのが、障害者はよほどのことがないと休まないので安心してシフトが組めるということ。同社では若い健常者の社員もおり、障害者と同じ中子製造の仕事をしているが、急な休みが少なくない。その点で障害者の方が良いと判断したことも、2人目、3人目の雇用につながったのだろう。

作業所全景。健常者も障害者も同じ仕事をこなしている。

3人の知的障害者は奥のスペースで中子を作っている。

19年目の知的障害者の男性。慣れた手つきで作業している。

工程チェック表。これで作業の間違いが防げると同時に、達成感も得られる。

平成6年と平成14年に入社した男性2人。おしゃべりなどすることもなく、勤務態度は真面目である。

2. 取り組みの内容等（取り組みの具体的な内容、活用した制度や助成金など）

（1）具体的な内容

・仕事そのものはマンツーマンで菅原社長が教えた。間違った場合は頭ごなしに叱らず、「わざと間違った訳ではないから仕方がない」と考え、「次からはこうやりなさい」と教えた。

・教える時には、子供に教えるように丁寧にやさしく話しかける。

・社長曰く「優しさと厳しさを使い分けた」という。例えば、仕事が完成したり、ノルマを達成した時には褒め、時々飲みに連れて行き「仕事を真面目にやれば楽しいこともあるんだ」と実感させた。一方で、仕事上でごまかしたり基本を守らない時、ちゃんと話を聞かない時には本気で厳しく叱り、ふてくされた態度にも妥協はしなかった。特に2人目の男性は、叱られると寮に帰ったあとに失踪することがあったという。「寮から連絡が来て最初は驚いた」と菅原社長は話すが、それでも「悪いことをした時には叱る」という姿勢を貫いたという。失踪は5年ほどでなくなった。

・3人目の男性は、来た当初から仕事をさぼることがあり、現在も時々あるという。あまりひどい時には注意するが、現在はノルマをこなしている範囲では見逃すこともある。この「注意する時」と「見逃す時」の境界線をどこで引くかがポイントである。

・現在でも年に何度か飲みに連れて行くが、その場合は障害者たちだけを連れて行くという。普段、健常者とはコミュニケーションがないので、無理に一緒に行くことはしない。

・入社したばかりの頃は、他の障害者や健常者とケンカをすることもあったが、よほどのことがない限り、あえて介入はしなかった。

（2）活用した制度や助成金

・障害者作業設備として平成6年に中子製造機を購入

（3）その他

・作業場には「工程チェック表」が貼ってある。自分でチェックしながら仕事をこなすことで達成感を得ることができ、間違いやごまかしもなくなったと考えられる。

・2人目と3人目の男性は同社に来る前に他の企業で働いていたが、雇用を打ち切られた。そんな彼らに対し、菅原社長が辛抱強く教え続けたことが、取り組みの中で最大の要素であり、それを支えていたのが「本人にやる気があって、こちらがきちんと教えれば、きっとモノになるはずだ」という社長の信念である。

・健常者・障害者にかかわらず「家庭環境も大切」と菅原社長はいう。自宅通勤で両親からの愛情を受けているのが一番だが、3人のように寮から通っていると、親に甘えることはできないし、嫌でも「自立」を意識せざるを得ない。それが本人のやる気に結びついているのだろう。その点も、障害者を雇用する際の一つのポイントになるのかもしれない。

3. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット等（取り組みを実施したことによる効果、障害者雇用の波及効果やメリット、障害者自身のコメントなど）

（1）取り組みを実施したことによる効果

・健常者より時間はかかったものの、社長の忍耐強い指導により、仕事をマスターできた。健常者が3日間で覚える仕事を、一人目の男性は2年、二人目の男性は3年、3人目の男性は半年かかった。「それでも、いったん覚えれば真面目に続けてくれるので助かる」と菅原社長。また、現在は一つの仕事ではなく数パターンをこなしており、菅原社長も「今は何も心配はいらない」と太鼓判を押すほどである。

・怒る、言うことを聞かない、ふてくされる、といった態度が改まった。

・3人とも真面目に取り組むので、現在では健常者と同じノルマをこなしている。

（2）障害者雇用の波及効果やメリット

・3人ともよほどのことがないと会社を休まないので、仕事のスケジュールが立てやすい。

（3）障害者自身のコメント

・最初に雇用されていた男性は、19年目とあって、仕事の手つきも慣れたもの。「仕事は大変だけど、楽しい。頑張っています」と話していた。

（4）その他

・以前から障害者を雑用担当として雇用している周辺の企業は、3人が健常者と同じように働いている姿を見て驚くという。あらためて菅原社長は「働く気があればできるので、健常者と同じように育てていくべきだ」と訴えていた。

4. 今後の課題・展望等

「仕事は減っているが、どんな状況になっても3人の障害者だけは最後まで雇用し続けたい」と菅原社長。その背後には、「親元から離れている」「自立したくてもなかなか雇う企業もないだろう」という厚い「情」がある。また、彼らに対して自分の子供のような愛情を持っていることも会話の端々から伺える。さらに、健常者と同じノルマをこなす彼ら自身が同社の戦力となっているのも事実。それだけに菅原社長は、今後同社の仕事が増えて、彼らと同じようにやる気のある障害者が来れば、積極的に採用したいと考えている。