知的障害のある従業員による地下鉄駅舎などの清掃作業
- 事業所名
- 仙台交通株式会社
- 所在地
- 宮城県仙台市
- 事業内容
- バス、地下鉄車両の点検・整備、地下鉄駅舎及びビル設備の維持管理、地下鉄駅舎及びビル建物の清掃
- 従業員数
- 231名
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 バス整備工場の一般事務、バス車両への燃料給油 内部障害 0 知的障害 11 地下鉄駅舎の清掃、交通局庁舎の清掃 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
仙台交通株式会社は、仙台市営バスや地下鉄などの交通事業をサポートしていた二つの会社が合併して、平成11年4月に設立された。主な業務はバス・地下鉄車両の点検・整備・清掃、地下鉄駅舎及びビル建物の維持管理・清掃、鉄道施設の維持などである。従業員231人のうち、12人が障害のある従業員で、肢体不自由のある従業員2人は、それぞれ、一般事務とバス車両への燃料給油の仕事、知的障害のある従業員10人は地下鉄駅舎の清掃や交通局庁舎などの清掃を行っている。
仙台市地下鉄の富沢車両基地のそばにある仙台交通株式会社本社に、小野業務課長と森川業務係長を訪ねて話をうかがった。その後、小野課長、森川係長とともに、富沢駅から地下鉄で移動して、地下鉄仙台駅を拠点として清掃作業などに従事している3名の知的障害のある従業員に取材した。
2. 取り組みの内容
(1)障害者雇用のきっかけ
仙台交通株式会社では、それまでも数人の障害のある従業員が働いていた。しかし、平成16年度から地下鉄駅舎及びビル建物の清掃業務での採用を検討して、積極的に障害者雇用に取り組み始めた。
今回は、主として平成16年度以降に開始した取り組みについて取材した。平成16年7月に1名採用後、平成17年には4名、平成18年には1名を採用している。同社では仙台地下鉄南北線の北部、中央部、南部に3つの拠点をおいて作業グループを配置し、幾つかの駅構内などで清掃業務などを行っている。知的障害のある従業員は、3つのグループのいずれかに属して、一日6時間の作業に従事している。
取り組んだ当初は初めての仕事に不安もあったが、次第に作業に慣れてきて、今では周囲の心配をよそに安心して十分に力を発揮している。それぞれのグループにおいて、障害のある人もない人も同じ目線で接している。
(2)障害者雇用に関する現状
知的障害のある従業員は、皆、自宅から通っているので、家族と連携をとることも大切である。会社でも年に一度は、保護者の集いを開催し、家庭と会社との双方向の意見交換に努めている。
安心して安全に働くためには危機管理も重要である。現在のところ、知的障害のある従業員は列車が入構するために危険度が高いと考えられるホーム階での作業には従事せず、コンコース階などでの清掃作業に主に従事している。
3つのグループでは、それぞれ、現場責任者である班長が職場の母親役として、日々、きめ細やかに対応している。班長は、知的障害のある従業員も含めて、他の従業員と気軽に話ができる関係を築いている。一日も休みなく、地下鉄が運行している現場では、一人ひとりが責任を持って、障害の有無に関わらず、誰が行っても差のない仕上がりの仕事の実現に努力している。仕事を始めたばかりのころは、作業を覚えるまでには時間がかかったが、その後は一人で動き、次の業務の内容を理解して作業できるようになってきている。
(3)3人の知的障害のある従業員への取材
地下鉄仙台駅構内の従業員控え室に、3人の知的障害のある従業員と赤石班長を訪ねた。3人の勤務時間は午前8時半から午後3時半までの一日6時間労働である。
Aさん(45歳)は平成16年7月から働いている。駅舎清掃業務班の中では、知的障害のある従業員として最初に働き始めたのがAさんであり、年齢からいっても皆の先輩格である。はじめはとても戸惑い、失敗したこともあったが、一つひとつの作業にじっくり取り組みながら、次第に慣れ、仕事に幅ができてきた。もっとも気を配っていることは、階段の清掃作業などで、お客さんの邪魔にならないように注意しながら作業を進めることである。いつもお客さん第一に仕事を行うことがAさんにとってもっとも大切なことである。
Bさん(21歳)は、以前はアルバイトなどを行っていたが、平成17年4月から働き始めた。はじめの一ヶ月ぐらいは体力的にもとても不安な毎日であったという。今は、自信を持って仕事に取り組めるようになってきた。自由通路の清掃の作業を行いながら、Bさんがこの頃思うことは、お客さんのマナーの低下である。ガムの投げ捨てが目立つという。しかし、作業によってきれいになると、とてもやりがいを感じるという。
Cさん(20歳)は、養護学校在学中に職場実習を経て、Bさんとともに平成17年4月に入社した。時々、養護学校の先生が訪ねてきてくれる。現在、Cさんは社員交流会の余興のことで頭がいっぱいだ。養護学校の同級生で、他の班で働いているDさんとともに歌うために、練習に余念がない。
3人に好きなことを聞いた。Aさんは地元仙台を拠点とするプロ野球楽天と阪神の大ファンで、ドライブが趣味であるという。Bさんは友達とスポーツをするのが楽しみだ。Cさんは音楽、ゲームが大好きである。毎日の仕事に一所懸命に取り組み、休みの日には趣味の充実した時間を持つことが、仕事を継続するためのコツなのかもしれない。
(4)一人ひとりが、一つひとつ仕事の幅を拡げて
知的障害のある従業員は、安全のためにホーム階での作業はないが、その他の作業内容に関しては、障害の有無に関わらず、ほとんど差がない。月に4、5日は早番勤務もある。昨年8月ぐらいから一人で広瀬通駅地下歩道の清掃を行うことがある。地下鉄仙台駅に隣接するこの駅には、ビジネス街やショッピング街に通ずる人通りの多い地下歩道がある。当番日には、地下鉄で移動して、一人で清掃作業を行うのである。
さらに、昨年11月から空き瓶、空き缶、ゴミの回収の仕事にも取り組み始めた。朝、普段より一時間程早く出勤して、地下鉄で各駅間を移動し回収作業を行う。当初は、一人で地下鉄駅ごとに回収作業を行えるのか、不安だった。そこで、はじめは皆で一緒に作業して作業工程を体で覚えるように努めた。やがて、心配は取り越し苦労に終わった。じっくり取り組むと、やがてできるようになる。回収作業は、障害の有無に関わらず、一人ずつ交代で配属される。障害のある従業員も、今では、自信をもって、仕事の幅を拡げている。障害のある一人ひとりの従業員は、今ではなくてはならないスタッフの一員になっているのだ。
知的障害のある従業員も一人ひとりが自分のできることを増やしてきて、仕事にも大きな幅ができてきた。そして、これからもさまざまな作業に取り組むことになる。




(5)現場の作業指導者、班長の役割
彼らに言わせると、赤石班長は「頼りになる存在でもあり、冷たい存在」でもある。
知的障害のある従業員にとって、何事も初めて取り組む作業は不安でいっぱいだ。自分も心配であるが、周りも心配になる。一人ひとりの特性をふまえて、チーム全体での取り組みを行いながら、適確な指示を出す赤石班長はとても頼りになる存在である。しかし、仕事に慣れ、自分一人で作業できるようになると、とたんに赤石班長は冷たい存在になる。当然ながら、手取り、足取りの指導はなくなり、距離をおいた冷たい存在になる。まさに作業チームの母親的役割を果たす赤石班長は「頼りになる存在でもあり、また冷たい存在」でもある。
毎日の会議では、業務上の確認をわかりやすい言葉で伝えることが大切である。そして、一人ひとりの体調の管理に目配り、気配りするのも赤石班長の大事な役割である。赤石班長は従業員控え室で、勤務表を示しながら説明してくれた。今では、それぞれ一人ひとりに安心して仕事が任せられるようになったという。また、あまり一所懸命になり過ぎないように、ブレーキをかけるのも大切な役割なのだという。
3. まとめ~仕事の幅を拡げるための工夫と就労継続を支えるもの~
平成16年7月からの取り組みが着実に成果を上げている。知的障害のある従業員にとって仕事の幅を拡げるための工夫がさりげなく行われている。
一人で移動して、一人で行う地下歩道の清掃や空き瓶、空き缶の回収作業など、新たな可能性に挑戦するときには、現場指導者である班長がきめ細やかに対応する。初めは皆で一緒に同じ作業を自信が持てるまで、じっくりと時間をかけて、丹念に繰り返して取り組む。そして、班長は一人ひとりの性格や行動特性をふまえて個別的な指導を行う。このような取り組みは、知的障害のある従業員にとても有効だ。自信がつけば、意欲をもってさらに実践力が高まる。そして、一度作業に慣れれば、さらに仕事の幅を拡げることができる。
「頼りになる存在でもあり、冷たい存在でもある」という現場責任者の存在は大きい。必要な場合には頼りになる母親役を担い、頼る必要がない場合にはある程度の距離をおいて、障害のある従業員の主体的な力を引き出すことに努める冷たい存在は、まさに母親役である。
仕事の幅を拡げるために、手間と時間を惜しまずに、潜在的な力を引き出し、仕事の喜びを感じてもらい、やりがいを持って毎日の一人で行う仕事につなげている。そして、誰もが同じ目線で接して、障害の有無に関わらずに、業務に従事することが可能になっている。通行するお客さんの妨げにならないように、気を配りながら、きれいな環境づくりのために、やりがいを持って毎日の仕事に喜びを見出している姿は素晴らしい。
また、職場内でしっかりとコミュニケーションが取れることも大切である。障害のある従業員が、余暇活動や趣味の時間のすごし方を身につけていることはストレスを解消して、充実した就労を継続するために大切である。
何気なく行われている毎日の作業を実現するために、工夫していることから学ぶことの多い事例である。
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