事業所名

有限会社いわき小名浜菜園

所在地

福島県いわき市

事業内容

生鮮トマトの大規模ハウス栽培

従業員数

168名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	3	トマト栽培ハウス内の清掃
精神障害	1	トマト栽培ハウス内の清掃

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 取り組みの内容
4. 取り組みの効果

事業所外観

1. 事業所の概要

（1）設立の経緯

「いわき小名浜の年間日照時間は、2,000時間を超えているのです。この条件をクリアできる地域は全国でも数カ所しかありません。また、 一日の最高、最低気温の温度差が10度程度がトマト栽培に適しており、これもいわき市の温度差と合致しているのです」小林継基代表取締役社長は熱く語り始めた。

トマト加工大手メーカーのカゴメ株式会社が1998年に生食用トマト事業に参入した。当時のスタッフたちは世界各国の大規模菜園を回り、1999年に茨城県美野里町に第1号の実証温室を完成させた。日本で6番目の候補地としていわき市小名浜に白羽の矢が立てられたのだ。2003年8月20日、いわき市と土地地権者、カゴメ株式会社の三者によって、いわき市にカゴメが出資する大規模ハイテク菜園が進出する旨の記者発表が行われ、その翌月、カゴメ株式会社からの出向により、いわき市での生鮮トマト事業への赴任を命じられた小林社長。「地元に根ざした経営を行っていきたい。雇用の創出などの社会貢献は最優先で考えていく」

ハウス内での小林社長

（2）事業の現状

いわき市の国道6号線を車で走ると、東京ドーム2個分の巨大ハウスが否応無しに眼に入ってくる。その姿は、トマトハウスと言うより、大規模な工場を思わせる。

菜園の中は世界最先端の生育環境制御によりシステム管理され、温度・湿度などはコンピュータ制御されており、生産されるトマトは100%安全・安心・高品質を維持している。現在は「こくみトマト」というブランドで、首都圏や東北地方を中心に新鮮で美味しいトマトを出荷している。

機械化が進んでいるとは言え、収穫や箱詰めなどはすべて手作業に頼らざるを得ない。現在、160名のスタッフが従事しており、そのすべてが現地採用である。そのうち、障害者の雇用は4名（知的障害者3名、精神障害者1名）となっている。

ハウス内での作業風景

2. 障害者雇用の経緯

（1）障害者雇用の経緯

「地域密着と社会貢献はこの事業成功のための絶対条件」埼玉県よりご夫婦で赴任している小林社長は、地元との関わりを強く訴える。3年前、地元の「いわき養護学校」から体験学習の要請があったとき「是非、お越しください」と即答した。体験学習での障害者の作業風景を見ていた小林社長は「障害者に出来る作業、そして、障害者に向いている作業がこの職場にはある」そう考え、ハローワークとも連携を取りながら積極的な雇用を進めた。

（2）障害者雇用の現状

現在、障害者は19歳から40歳までの4名が美化部門に従事しており、主に落下したトマトの葉で汚れたハウス内の清掃作業や、消毒用アルコール液の詰替え作業などを担当している。

最年少の19歳のスタッフは平成20年4月、いわき養護学校から体験学習を経て採用された。それ以外のスタッフは、ハローワークよりトライアル雇用を経て採用された。

障害者が従事している美化部門の仕事は前述したとおり清掃作業が中心であり、根気のいる仕事のためスタッフがなかなか定着しなかった。ところが、障害者を雇用し美化部門を担当させたところ、非常に勤勉に働き、他のスタッフの評価も高い。美化により、他のスタッフが働きやすくなるとともに、衛生面での品質の向上が図れ、また、菜園を訪れる取引先のお客様などにも「きれいな温室」と高い評価を得ている。

4名の障害者は4つあるそれぞれの区に1名ずつ配置され、仕事の指示は、各班長から行われている。

トマト選別作業

箱詰めされたトマト

収穫前のトマト

清掃後のハウス内

3. 取り組みの内容

（1）健康管理

温室ハウスの特性で、夏場の作業場の温度はかなり高温になる。そのため、熱中症対策は欠かすことが出来ない。熱中症対策の取り組み内容には次のようなものがある。まずは、朝の体調チェックの徹底である。同じ条件で働いていても、熱中症は各人の体調により発症する度合が変わってくる。もちろん、体調が良くなければ発症する可能性が高くなることは言うまでもない。体調が思わしくない者は作業内容の変更などを行う場合もある。

次に、休憩時間の拡大である。ハウス内の温度が一定以上に上昇した場合には、通常の休憩時間以外にも休憩を取らせ、体調を整えさせる措置を取る。さらに、給水場を作業現場に設置し、休憩時間以外にも給水が自由にできるよう配慮した。これらにより、熱中症による体調不良を訴えるスタッフが減少したのである。特に肉体的にハードな作業を行っている障害者にも熱中症発症者は未だに一人もいない。また、全従業員を対象に産業医による熱中症予防教育も行っている。

（2）雇用管理

障害者の時給は現状では650円（福島県の最低賃金は641円）の設定である。「今後は、経験や能力により、賃金の見直しもしていきたい」と考えている。

労働時間や休日は8：00～17：30（90分休憩）の週休2日となっており、一般のスタッフとまったく同様である。今後も、障害者だからといって、勤務体系に差をつけることは極力避けていくつもりである。

（3）教育・訓練

雇い入れ時の教育は、職場のルールや作業の仕方など、すべて配属された班の班長が行う。その際、徹底されることが衛生面での教育である。障害者は美化担当に配属されるため、特にハウスに再入場する際などは、前回の作業で汚れた手の手洗いや消毒などは衛生上一番に気をつけなければならない点なので、徹底した教育を行っている。

4. 取り組みの効果

（1）効果

広いハウスの中では障害者と他のスタッフが接する機会はそれほど多くないが、休憩時間などには積極的にコミュニケーションをとる姿が見られる。30歳の知的障害を持つスタッフはマッサージが得意で、作業に疲れた他のスタッフの体をほぐしてあげたりしており、社内のムードも明るくしている。「自分の子供のような気がして親近感があるのよね」50代後半の女性スタッフはこう語る。スタッフのうち75%が女性であり、しかも年齢層は高い。そのため、障害者を見る眼も母親のように優しく感じられる。

（2）今後の取り組み

3年前から「いわき養護学校」のみで実施していた体験学習も、一昨年より「福島聾学校」の生徒の受け入れも始めるようになった。まだ、採用にまでは至っていないが近い将来、雇用することになるであろう。「聾唖者を採用するときは私が得意の手話で仕事を教えてあげるから」と40代の女性スタッフ。障害者を受け入れる体制は、しっかり根付き始めている。「収穫の喜びと障害者も健常者も分け隔てをしないチームワークが私たち企業の最大の力です」小林社長は最後に力強く語った。