特別でも何でもない ~普通であること~
- 事業所名
- 株式会社福島銀行
- 所在地
- 福島県福島市
- 事業内容
- 地方銀行
- 従業員数
- 531名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 ATM障害・運用状況監視 聴覚障害 4 オンライン端末入力 肢体不自由 3 ATM障害・運用状況監視、営業店事務(課長職) 内部障害 2 集中事務監督職、営業店事務(課長職) 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.fukushimabank.co.jp/
1. 事業所の沿革と事業内容
大正11年(1922年)に「湯本信用無尽株式会社」として設立され、その後昭和26年に「福島相互銀行」と改称し、平成元年には「株式会社福島銀行」に商号を変更し今日に至っている。平成5年には本店を福島市万世町(現在地)に新築移転オープンし、平成8年には東京証券取引所第一部に上場し発展を続けている。平成20年3月末現在、資本金181億円、従業員531人(男性411人、女子120人)で、従業員の平均年齢42歳9ヶ月、平均勤続年数20年8ヶ月となっている。
主な事業は、預金業務、貸付業務、金融商品販売業務、内国為替・外国為替業務、その他の附帯業務等を行っている。福島県内を中心に50カ所の支店、5つの出張所、6つのローンプラザで営業を展開し、現金自動預入支払機(ATM)154台、現金自動支払機(CD)16台を有している。
2. 障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する銀行の基本姿勢
地域貢献活動を経営課題の一つに掲げ、「銀行員である前に市民であること、地域社会の住民であることを忘れない」と当行の「行動規範」で定めている。また最近では環境に対する取り組みにも力を入れている。障害者雇用にも積極的に取り組み、それが結果的に地域及び社会への貢献となり、銀行の社会的責任であると考えている。
福島銀行は経営方針に1)強い銀行、2)親切で便利な銀行、3)透明性の高い銀行、の3つのビジョンを掲げ「地域密着型金融推進計画」に取り組んでいる。その取り組み方針(平成20年5月)に「取引企業に対する支援強化」、「融資の高度化、多様化」、「地域経済への貢献」の3つを挙げ、3つ目の「地域経済への貢献」の中に①地球環境への貢献、②障害者に対する就業機会の提供、③金融知識等の普及支援を掲げている。
当行の「障害者に対する就業機会の提供」の具体的な取り組みとして、「法的雇用率1.8%以上の雇用の達成」を挙げ、平成19年度の推進計画において計画期間中の障害者雇用率2%を数値目標として掲げ、平成20年3月末の雇用率は2.28%となっている。ちなみに厚労省の発表によると、平成20年6月現在の全国の障害者実雇用率は1.59%となっており、法定雇用率を達成している企業の割合は44.9%と全体の半数にも達してない。しかも従業員100~299人規模の企業が最も低く1.33%に留まっている。総じて大企業ほど雇用率の達成が低いのが問題となっている。
今後とも法定雇用率を維持し、障害者の雇用を維持していく方針である。障害者雇用の基本的なコンセプトとして次の2点を挙げている。
①地域密着型金融を目指して障害者を積極的に雇用する
「地域経済への貢献」を経営課題の一つとし、その一環として障害者雇用を位置づけて法定雇用率を確保している。障害者をその能力や特性に応じて適材適所に配置し、それぞれの職場でスペシャリストとして仕事に従事させている。
②労働条件・福利厚生面での特別扱いはしない
障害者だからといって業務遂行や労働条件面での特別扱いはしてない。ただし、作業環境を障害の状況に応じて障害者用トイレの近くに仕事場を設けたり、「立ち作業」から「座り作業」へ変更したり等の配慮は行っている。また行員教育、グループ活動等においてはコミュニケーション能力の向上を図るための配慮を講じている。
表1 障害者雇用の概況(2008年10月末現在)
No. | 性別 | 年齢 | 勤続年数 | 障害区分 | 障害の概要 | 職種(業務内容) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 女 | 55 | 37 | 2 | 腎臓機能障害(生活活動制限) | 集中事務監督職 |
2 | 女 | 36 | 18 | 2 | 聴力障害 | オンライン端末入力 |
3 | 女 | 38 | 15 | 2 | 聴力障害 | オンライン端末入力 |
4 | 女 | 28 | 8 | 2 | 聴力障害 | オンライン端末入力 |
5 | 男 | 50 | 23 | 2 | 両上下肢機能障害(車椅子) | ATM障害・運用状況監視 |
6 | 女 | 57 | 3 | 1 | 右手指欠損(全指) | ATM障害・運用状況監視 |
7 | 男 | 36 | 13 | 1 | 視力障害(左0.00) | ATM障害・運用状況監視 |
8 | 女 | 43 | 22 | 2 | 聴力障害 | 経費支払、オンライン端末入力 |
9 | 男 | 49 | 26 | 2 | 心臓機能障害(生活活動制限) | 営業店事務(課長職) |
10 | 男 | 38 | 16 | 1 | 右下肢短縮(5cm以上) | 営業店事務(課長職) |
(注:2は重度)
表1に示したように10名の障害者が雇用されているが、障害の種類は聴覚障害者が4名、上下肢障害者が3名、内部障害者(腎臓・心臓)が2名、視覚障害者が1名である。10名のうち重度障害者が過半数の7名を占めている。年齢は28歳から57歳までに及び、平均年齢は43.0歳となっている。障害者の勤続年数は長い人で37年、短い人で3年となっており、平均勤続年数は18.1年となっている。若年の障害者が比較的少ないが、今後も法定雇用率を確保するために障害者の退職者が出た場合は補充していく予定でいる。当行では、これまで人員削減の計画があった時も障害者をその対象から外して、法定雇用率を確保してきたとのことである。
仕事内容は一般の社員等(準社員含む)と何ら変わりはなく、所属部署や仕事内容も基本的には社員等と同様である。具体的にはオンライン端末入力やATM障害・運用監視など、適材適所に配置され仕事を遂行している。中には集中事務の監督職や営業店(課長職)で店頭営業に当たり管理職として活躍している者もいる。もちろん待遇面でも全く変わらない。
障害者だからといって仕事の面で特別な班やグループを編制したり、特定の人を指導員として配置したり等の特別な配慮は何もしていない。通常の社員等と同様にごく普通に当たり前に処遇することが、実は障害者への一番の配慮だといえるのかもしれない。障害者本人も「特別扱い」されることを嫌がり、望まないのである。敢えて「障害者」として特別な目で見ようとする我々の眼がおかしいのかも知れない。
銀行としても本人たちも、たまたま聴覚に障害があり身体が不自由であるだけで、同じ社員等であることには何ら変わらないとの認識でいる。何も「特別扱い」しないことが実は障害者への一番の配慮だと、改めてその考えを強くした。
(2)適材適所
先述したように、基本的には「特別扱い」しないことが何よりの配慮であるが、敢えて当行での配慮事項を挙げれば以下の点である。
①聴覚障害者への配慮
当行で雇用されている障害者の約半数が聴覚障害者で、コミュニケーションの取り方についての配慮が必要である。手話が出来る人が少ないために筆談が中心になるが、周囲の社員や上司は身振り手振りでかなりの会話が可能である。大切なことは、聴覚障害者本人が他人とのコミュニケーションを積極的に取ろうとする態度や姿勢である。本人がコミュニケーションを取るのに消極的になったり恥ずかしがらずに、自ら積極的に関わろうとする姿勢が大切である。また銀行内でのそうした雰囲気作りが必要である。当行では聴覚障害者の特性を考慮して仕事内容はオンライン端末の入力業務に就いている。
②肢体機能障害及び内部障害者への配慮
肢体機能に障害がある人や内部障害者は生活活動に制限があり「立ち作業」は困難なので、「座業」中心の業務に就かせるなどの配慮がなされている。具体的には事務監督やATM障害・運用の監視業務で、いずれも障害者の特性や自己ペースに合わせて就業出来るように配慮されている。
③働きやすい職場環境作り
障害者にとって働きやすい職場環境は、実は一般社員にとっても働きやすい職場である。障害者がごく自然に銀行に慣れ親しみ、一般の社員と人間関係を結びながら楽しく仕事を続けている。こうした温かい銀行の雰囲気や人間関係を構築していくためには、上司や周囲の社員と互いに相手を理解し合い、協力しあっていく環境作りが重要である。障害者自身も他人との協調性に富み余暇時間やレクレーション活動等に積極的に参加し、銀行外での諸活動にもごく普通に参加していくことが必要である。
仕事以外の行内行事や行外行事も同様で、一緒に飲みに行ったり、花見や忘年会・新年会等への参加もまったく本人に任せているとのことである。このようにごく普通に特別扱いしないで自然に任せていることが、結局は障害者にとって気楽で働きやすい職場となり、障害者の職場定着にも繋がるのであろう。
3. 障害者雇用で大事にしたいこと
雇用に際して当行が求める障害者像として下記の点が指摘された。これは障害者雇用全般にもいえることである。またこれは障害者に限ったことでもなく、広く一般の会社員(従業員)にも同様に言えることである。
(1)健康で協調性(社会性)のある人
何事でもそうであるが、まずは心身共に健康であることが求められる。そのためには日頃から体力作りと健康管理に努めておく必要がある。そして会社内での対人関係や人間関係の形成がとても重要になる。そのためには我が儘を通すのでなく、他人との協調性や協力心が特に重要である。協調性とコミュニケーション能力と言い換えてもよい。
(2)挨拶や返事がきちんと出来る人
当たりまえのことであるが、自分から明るく挨拶したり名前を呼ばれたらきちんと返事をすることである。これは幼少期から家庭生活で躾として指導されるべきものであるが、障害者にとってはその都度必要に応じて指導する必要がある。
(3)生活の基本がきちんと出来ている人
日常生活を送る上で必要な基本的生活習慣をきちんと身につけておくことである。例えば、食事、排泄、衣服の着脱、身なり、清潔、といったエチケットやマナーをしっかりと身につけておくことである。
(4)何事にも積極的でチャレンジ精神が旺盛な人
引っ込み思案で臆病では困る。何事にもチャレンジ精神のある人を企業は望んでいる。分からないことや疑問があったら必ず質問し、終わったら報告するなどである。よく言われる、「ホー(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)」が不可欠である。
(5)根気があり集中力のある人
金融機関であるがゆえに小さなミスも許されない。緻密さと集中力が必要とされる。
以上に挙げたことは福島銀行に限ったことではなく、どんな仕事に就こうが職種や業種に関わらず必要とされる基本的資質である。しかも障害者であろうがそうでなかろうが、すべての職業人に必要とされる人間的資質である。これまでの障害者雇用に際しては、どちらかといえば作業能力や技能といった「スキル」に目が奪われがちであったが、それよりももっと基本的資質が必要であることに注目しなければならない。雇用者はむしろ障害者の「人間的資質」を問題にし、力点をおいている点に注目すべきである。
4. まとめにかえて-普通であること-
経営方針や障害者雇用への取り組み姿勢についての説明を聞き、改めて「普通であること」の重要性を再確認できた。これまで数回の会社訪問を通して、障害者を「特別扱い」しないことが、実は障害者への一番の配慮であるということを痛感した。障害者を特別扱いしないことが最も大切な視点であり、障害者の職場定着を可能にしている秘訣だと思われる。何か特別なことが必要だと思っていた我々の先入観(眼)が問題であったのかもしれない。
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