視覚障害者の適性を見極め、できる仕事を見つけ出す等、担当者の努力により受け入れ可能にした好事例
- 事業所名
- 東京ブラウス株式会社
- 所在地
- 東京都中央区
- 事業内容
- 婦人服製造卸売・小売
- 従業員数
- 250名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 売掛金データ集計、シートに集計結果等を転写する業務 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
1. 障害者の適性を見極め、できる仕事を見つけ出す(三好部長の言葉)
事業所: | 東京・神戸・大阪・福岡・札幌・台北、直営店24店舗 |
主要取引先: | (株)三越、(株)伊勢丹、(株)高島屋をはじめとした全国有名百貨店、専門店直営店舗、台湾直営10店舗 |
従業員数: | 250名 |
(1)障害者就職合同面接会
平成19年夏、障害者雇用率が目標を下回っていたためハローワークより雇用指導を受け、求人活動を強化したがなかなか採用に結びつかなかった。
11月10日のハローワーク飯田橋で行われた障害者就職合同面接会に参加し、Iさんと面接した。ご自身で作成したワープロ文字の整った履歴書、職務経歴書を読んで「全盲の方」とはまったく気づかず、多少視力がある方だと思いこんだ。素直で前向き、積極的で粘り強い方だった。そのやる気に感心し、採用しようと心の中で決めていた。
最終確認で当社のパンフレットをIさんの目の前で開いて、写真の製品を説明し始めた時、
「すみません、わたし、見えないんです」「見えない?・・・ぜんぜん・・・ですか?」その時、恥ずかしながら、初めてIさんが全盲であることに気づいた。
わたしはすぐに「申し訳ありません。当社では残念ですがあなたを受け入れる環境が整っておりません。」と言い訳をして、履歴書をその場でご本人へお返しした。Iさんは少し驚いた表情をして、でもすぐ気を取り直して、立ち上がり私に対して「ありがとうございました」と90度のお辞儀をしてくれた。そして回れ右をして歩き出し真向かいの会社のブースへ向かった。そこで再びお辞儀をして鞄から履歴書を取り出して同じように面接を始めた。その後、Iさんの動きをじっと目で追っていた。その場で断る会社もあれば、履歴書を預かって答えを保留にする会社もあったようだ。「どこかに決まるといいのに、ウチ以外で・・・」と正直に思った。
わたしの中で断ったことに対して胸が痛む思いがあった。午後4時30分に面接会の終了のチャイムが鳴り、手元の結果報告書に「本日は採用ゼロ」と記入し出口に向った。その結果書を入れる箱の横によく顔見知りのわが社担当の雇用指導官から「三好さんどうしてIさんを断ったんですか?」と聞かれ「うちには全盲の方ができる仕事がないのです」と答えた。「あの方はコンピューターやワープロの技術がすごいのです、来週、視覚障害者就労生涯学習支援センターにおいてデモンストレーションがあるので、是非、見学に行って頂きたい!」と要請があった。
(2)視覚障害者生涯学習就労支援センターとの関わり
正直なところ「まいったなあ、伺っても結果は同じかも・・・」と思ったが、いつもお世話になっている方のお誘いなので無碍に断ることもできず、11月19日の「視覚障害者就労生涯学習支援センター」の技術発表会に参加した。7名程の受講生の中にIさんがいて、さかんにキーボードを操作していた。スクリーンに映し出される、ワープロ、表計算、ワード、エクセル、パワーポイント等、私が毎日、使っているソフト以上に高度なテクニックそして速さ、正確さ・・・。しばし言葉を失って見入っていた。「え~!目が見えないのに、こんなことができるなんて~!!」どうやっているのだろう?どんな仕組みになっているのだろう?と、見とれてしまい、「信じられない」が実感であった。
(3)技能と仕事を結びつける
帰路、あの技術を何とか社内で活かせないだろうか? ちょうど、財務経理部売掛管理課に欠員があったので、そこに照準をあわせた。さっそく担当の課長に「今日の体験」を話し採用と配置の可能性を打診したところ「駄目です。経理は確認とチェックが仕事の主で目を一番使う部署だから視力障害の方は無理です。」と素気無く断られてしまった。
技術発表会での事をどんなに説いても理解してもらえない。私自身も社内の仕事とあの技術をどう活かせるか具体的な青写真を描くことができなかった。そこでITシステム課のYさんに相談してみたら「私は以前、勤めていた会社で全盲の方とコンピューターを通じていっしょに働いていましたがかなりの仕事を任せられますよ」とのこと。急に道が開けたような気がした。さっそくYさんに協力を取り付け再び売掛管理課の課長に相談して技術を活用できそうな仕事をピックアップして貰ったところ、いくつか可能性があることが分かってきた。翌朝、支援センターの職員に電話連絡したところ「就業の可能性を試すため課題をメールで送信して下さい。挑戦させてください」とのことであった。
データの照合作業を仮説試験として100題、送ったところ2日後に回答があり100問中98点正解であった。さらに難度の高い問題を2度送信し、その都度、優秀な回答結果であった。翌週、直接来所し、現場で実際の入力業務でモデル形式の問題を実践、結果を出せることが解った。最終的に社長の判断で12月25日に採用内定を決定した。
(4)入社までの準備
年末に内定したが1月7日の初出勤までにいつくかの準備が必要であった。
まず、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当時)から専用音声ソフト(95Reader、JAWS他)とパソコンハード機器等の就労支援機器の貸し出しを受けた。
続いて盲人福祉協会から歩行訓練士との通勤訓練。社内では職場の机の配置交換、社内広報などで受け入れ態勢づくりを呼びかけた。初出勤までの受け入れ準備の間も予測されるリスクで心配になった。無事に自宅から通勤できるか?仕事は途切れなく出てくるのか?周囲の皆は暖かく受け入れてくれるか?等々、正月の神社の初詣で合掌して祈った。「えらい事を引き受けちゃったなー」が正直なところ、本心である。
実際にトライアル雇用を3ヶ月行った結果、心配していた通勤も問題なく毎日、休み無く出社、社員も皆で応援してくれた。駅から会社までいっしょにエスコートをしてくれたり社内の通路が整理整頓されつまずきそうな物も片付けられた。皆が優しいことに改めて気づいた。“案ずるよりも生むが易し”とはまさにこのことだなあと痛感した。

2. 障害者を受け入れる環境づくり
(1)慣れることを考慮し仕事を割り振る(K課長のコメント)
トライアル見学で訪れたIさんを見て、最初はとまどいを隠せなかった。
全盲なのでさすがにはじめは驚いた。もちろん前もって総務部長からは打診があったし、覚悟してはいたが、いざ実際の場面になると、一体、何をして貰えばよいのかと考えてしまった。
しかし実際にやって貰うと、キーボード入力は速いし、正確で間違いもない。器用に何でもこなすIさんの姿に感動した。
前向きで真面目で素直なIさんの性格も頼もしく感じたし、これは戦力になるメンバーが増えたと、内心喜んだ。
売掛管理課は、照合業務、入金管理業務、請求業務を行う部署でその中で照合業務は全国百貨店の支払明細書と当社得意先元帳との照合を行い差異内容を把握し事業部、販売店との連携を行い、得意先店舗別に報告、処理を行う。
取引内容には委託販売取引、売上仕入販売取引などがある。委託販売先では売上、返品等の照合、売上仕入販売先では売上の差異チェックなどそれぞれ照合内容が異なるが、ともに正確さを要求される業務である。
そこでIさんを受け入れるにあたり気を配ったのは、「時間はかかってもいいから、まず慣れることから」と売上仕入販売先の差異チェックからはじめることとなった。
意思疎通は指示内容を具体的に明確に伝えることが大切なので、仕事の打ち合わせは会話とメールで確認しながら行うことにした。
メンバー全員の力強い指導のもと、Iさんは与えられた仕事をどんどんこなすようになり、やがて売上仕入販売先の元帳照合の全般を任せるようになった。
![]() | 社内の机の配置を変更 (出入り口に近い机を選び移動しやすくした) |
![]() | 所属部門:「財務経理部売掛管理課」 構成メンバー:5名 売掛金データを集計し得意先の店舗ごとのシートに集計結果を転写する。 |

ダミーデータを技能講習機関へメール送信し業務内容の音声とキー操作によるシミュレーションを実施。 MID関数、IF文、配列等による売掛金の日計の算出を行う
(2)1年が過ぎて (三好部長のコメント)
あれから1年が過ぎIさんにはそろそろ新しい仕事のスキルを習得する時期かなと考え、部署の異動を含め、現場に打診すると「貴重な戦力なのでできれば異動させないで欲しい。勉強熱心で本当によく頑張っていますよ」とうれしい言葉をいただいている。今後は仕事量とバランスを見ながら徐々に他の仕事もやって貰いたいと考えている。
視覚障害者の活躍を学ぶために他の業界へ職場見学にも出向いた。そこでは社内報編集、会議議事録作成、人事採用担当、給与計算業務等、仕事の種類は多岐にわたっていた。職種に限定されることなく、かなり広範囲の業務が可能なようである。
何ができるか?どこまでできるか?の答えを持っている人はなく、先入観に縛られずいろんな事にチャレンジして貰うことが近道のようである。
現在のITソフトの進歩は驚くばかりで視覚障害の方も積極的に技能を身につけることで雇用の機会がさらに増えると思う。視覚障害者の技能発表会を多くの人事担当者にぜひ体験していただきたい。また人事担当者は障害の内容や程度にとらわれることなく本人の人柄、技能を見て、社内の仕事とのジョイント(結びつき)を実現していただきたい。素晴らしい出会いがたくさん実現することを願っている。
3. 企業での就労について(Iさんのコメント)
(1)障害状況と就職までの経緯
わたしは、2歳のときに視覚障害となり身体障害者手帳1級を取得している。
ルーテル学院大学社会福祉学科を卒業したわたしは、卒業後はNPO法人の知的障害者の福祉施設に1年半勤務した。一般企業での就労が必要と考え転職を決意した。
(2)就職活動
一般企業に就職するためには、パソコンのスキルが必須と感じていたので「視覚障害者就労生涯学習支援センター」で「ビジネスパソコンと就職応援コース」を受講し、Excel・Word・パワーポイント等を学んだ。
同時にハローワークが開催する「障害者就職合同面接会」に参加した。
この期間中に東京ブラウスとの出会いがあり、人事担当者にスクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を利用してのパソコン操作を見ていただく機会もあって、Excelを使って売上金の集計操作を行うことが可能ではないかということから、メール等のやり取りで実際に作業を行ったことが就職につながるきっかけであった。
(3)1年が過ぎて
入社をしてからあっと言う間に1年が経った。私の業務は、売上金の日計算出を行ない店舗ごとに集計結果をまとめることが定型業務となっている。
この業務が可能となった過程には、システムの方の理解からシステムの工夫がされたこと、就職前にデータ作業が行なえたことが非常に大きい。
最初は途惑う場面もあったが、現在は問題なく作業ができるようになった。
今後は現在の業務を続けながらも新しいことを見つけて、業務を増やして行ければと思っている。
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