精神障害者は「戦力」にも
- 事業所名
- 光文図書株式会社
- 所在地
- 神奈川県大和市
- 事業内容
- 製本、教材・教具の生産、受注から出荷まで一貫管理
- 従業員数
- 152名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 1 出荷 知的障害 0 精神障害 7 製本、教材・教具の生産、事務 - 目次
1. 教材を全国の小学校へ
小学校用の図書教材や教材・教具を企画・編集・印刷・製造・販売を手がける株式会社光文書院グループの流通センターとして、製本や教材・教具の生産、および販売管理を一貫して担当している。
北は北海道から南は沖縄まで、全国およそ2万3000校の公立・私立小学校から約750店の販売店を通して注文が寄せられ、出荷している。4月のピーク時には1日1万8000個の荷を全国に出荷。テストやドリル、副読本などの図書教材、算数セットや裁縫セット、書道セット、布教材などの教材・教具をあわせると3000点以上のアイテムを扱っている。
「年が明けて新学期が終わるまでは、嵐のような忙しさです。この時期だけはアルバイトさんを200人ほど増員し、人海戦術で大量の仕事をこなしています」
そう語る熊谷力治部長に、流通センター内を案内してもらった。

建屋は延べ3000坪。1階には製本ラインとテストの袋詰め作業場、テスト収納棚や出庫梱包ラインがある。

2階は教材教具の出庫・梱包、教材・教具類の製造作業場である。下の写真は家庭科の授業で使用される「ナップザックセット」の材料を詰め合わせているところ。

下の写真は光文図書で箱詰めされる教材・教具セット。左は小学校1年の「さんすうセット」。時計やおはじき、ブロック、数カードなどがカラフルに並び、まるでおもちゃ箱のよう。右は高学年で使用する「裁縫セット」。このようにさまざまな部材から単品を作り、注文に応じて詰め合わせ(アッセンブリ作業)、オリジナルのセットに仕上げていく。


光文図書では、障害者だけを1ヵ所に集めて作業させることはせず、健常者と同様、1階の製本現場や2、3階のアッセンブリ作業、また運送会社ごとの荷物の仕分け作業に配属している。
チームで力を合わせて取り組むような仕事から、一人でもくもくとこなす仕事まで、作業の内容はさまざま。その人の適性を見極め、合った仕事を探すことも大切だ。
2. 精神障害者採用のきっかけ
障害者雇用を始めたのは6年前。神奈川県内の養護学校からの依頼で、知的障害者の実習を受け入れたのがきっかけだった。
「会社として何か社会に貢献できることはないかと考えていた矢先だったので、快く受け入れました。その後、養護学校の文化祭や卒業式に参加するなど交流が広がるなかで、精神障害者の就労に取り組んでいるNPO法人横浜メンタルサービスネットワークから、精神障害者の雇用に協力してくれという話がきたのです」と、熊谷部長は当時の様子を語る。
まずは週4回、午前10時から午後3時までという条件で1人、トライアル雇用を開始。同ネットワークのジョブコーチが定期的に巡回して障害者の相談に乗るなど、フォロー体制にも気を配った。
「最初は不安もありましたが、長時間連続して働くことがやや苦手という以外は、健常者とほとんど変わらない。出勤頻度や就業時間を調整するなど彼らが働きやすい環境さえ整えば、十分働いてもらえるということが分かりました」
以来、少しずつ採用を増やし、現在、精神障害者は7人。今や「戦力」として、職場からも頼りにされている存在だ。


光文図書では、雇用の際は2週間の実習を行い、その上で採用の可否を決めている。契約はすべてパート社員だが、採用が決まれば個人の能力に合わせ、週に何日、何時間働くことができるかを相談。その後、仕事や環境に慣れてきたら次第に出勤日を増やし、さらには就業時間も延長するなど、徐々にステップアップさせるようにしている。なかには残業もできるほど長時間働けるようになった人もいるとか。
「最初の面接の段階では、正直『大丈夫かなぁ』という人もいます。でも、やる気のある人は受け入れたいし、一度迎えたらしっかり働けるようになるまで育てていこうという心構えはあります。何よりご両親を安心させてあげたいですね」と熊谷部長。
時間をかけてでも彼らの成長を見守っていこうという会社の姿勢に、安心感を感じた。
3. 時間をかけて仕事に慣れさせ
熊谷部長なりにとらえている精神障害者の特徴を聞いた。すると、「体が弱い人がいるように、心が弱い人もいる。それだけのことでしょう」ときっぱり。しかし、特別に健常者と区別して扱うことはないが、やはり配慮は必要であると言葉を添えた。
「我々が発する何気ない言葉に深く傷ついたり、あいさつに返事がなかっただけで落ち込んだり、デリケートな人が多いのは確か。ですから配属の際には、現場の責任者や社員に対し、あまり強い言葉を使ったりしないように指導しています」
また、往々にして自分に対して自信を失っている人が多いとも。その場合は、最初は責任の軽い仕事を任せ、慣れていくとともに仕事のレベルを上げることで、自信をつけさせていくという。
「最初から負担をかけたら、つぶれてしまう人もいます。いくら自分では『がんばれます』『できます』と言っても、いざ任せると『やっぱりダメかも』といったパターンは、今までに何回かありました・・・」
とにかくゆっくりと仕事や職場に慣れさせることが、実はスキルアップへの一番の早道なのだ。
障害を持つ一人に、今ではホストコンピューターをも操るオペレーターがいる。入社後、「対人は苦手だけど機械は得意」という本人の意向もあってコンピューターの入力作業をさせることにしたが、仕事の飲み込みが非常にスローペースだったという彼。指導を担当した責任者は、毎日毎日我慢強く、ゆっくりと仕事を教え込んでいったという。
「今では他の社員と同じだけの伝票作業をこなせるようになりましたが、ここまで実に健常者の倍の時間がかかりました」と熊谷部長も少しばかり苦笑いだ。
技術力もつき、そして周囲に頼りにされることで自信もついてきたという彼は、今、毎日いきいきとモニターに向かって仕事をしている。

4. 社員が心を病む前に
さて、精神障害者の雇用を積極的に展開してきた光文図書だが、過去に健常者の社員がうつになってしまったという苦い経験がある。「社員のうつ」という、今、多くの企業が抱えている問題に関わるので、少し紹介しよう。
「当時、40代だった男性社員なんですが、たまたまその人の上司が病気で長く休むことになり、一気に彼が責任を負う立場になってしまったんですね。がんばりすぎたせいか、最初は不眠を訴え、そのうちに出社できなくなってしまったんです」
もともと責任感が強く、几帳面な性格で知られた彼は、うつ病を発症し、退職していったという。
「今は別の仕事に就いて元気にやっていますし、会社のOB同士で食事をしたりしています。でも、もう少しあのとき、彼の性格を考えて仕事の負担を軽くさせるなど配慮してやればよかったと、今でも思います」と熊谷部長。
健常者でも、環境の変化や重すぎる負荷により心を病み、精神障害を患ってしまうことは十分に考えられるのだ。
このような事態を招かないために、「人それぞれの能力に合った仕事を任せる」のはもちろんだが、熊谷部長は「ざっくばらんに言いたいことが言える社風作り」も大切だと考えている。
「我が社では、夏はビヤパーティー、冬は忘年会を手作りの料理で楽しんでいます。味はともかく、みんなそれなりに喜んでくれているようですよ」
料理をほおばりながら、ときには本音で語り合うこともあり、胸の内に隠している不満やうっぷんの「ガス抜き」的な効果にも役立っているという。
ギスギスした職場で追い詰められ、誰にも悩みを打ち明けられずにうつを発症してしまう例が後を絶たない昨今、「居心地が良く、働きやすい雰囲気づくり」が、もう少し見直されてもいいのかもしれない。光文図書の様子を見て、そう感じた。
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