専門職業務も、軽作業も、個々の能力発揮で精神障害者の職域確保
1. 事業所の概要
毎年5月曳山祭り、9月には麦屋まつりで賑わう南砺市に特別養護老人ホーム「きらら」を平成6年4月に開設したのが、社会福祉法人城端福祉会である。
「きらら」はオープン当初の定員50名でスタートし、地域住民の高齢化に応え平成14年4月に定員を30名増やし80名とした。
「きらら」の運営に際してのモットーは「人格の尊重」「安全で安心」そして「やすらぎとうるおい」のあるサービスで、自宅での十分な介護を受けることができない高齢者に日常生活の場を提供してきた。
現在は、特別養護老人ホームのほか、ショートステイ、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、在宅介護支援センターの運営を行い、地域の開かれた福祉施設を目指している。
デイサービスセンター
2. 障害者雇用の経緯
「きらら」では毎年、新規・中途を問わず随時職員の採用をしている。
規模の拡大と並行して障害者雇用についての機運が高まり、平成19年4月、施設清掃部門に精神障害のある女性（57歳）をトライアル雇用を経て採用した。
その後、毎年行っている職員採用計画の一環として、ハローワークに介護福祉士・看護師・ホームヘルパーなど介護職の求人をしたところ、ホームヘルパー資格を有する精神障害の女性（32歳）の紹介があった。
高年齢者の介護職に障害者を採用する稀なケースで多少の不安もあったが、面談と短期間の体験就業だけで、平成19年9月に雇用を決定した。
「きらら」は、もう1名、精神障害の女性を清掃担当として雇用していたが、平成20年7月に退職した。
現在の障害者雇用は2名だが、障害者介助等（業務遂行援助者の配置）助成金の適用を受けており1人の業務遂行援助者が障害者3名を担当できることもあり、障害者合同就職面接会等に積極的に参加し、平成21年4月に1名の精神障害者の雇用をほぼ決定している。
3. 専門職資格を活かす
「きらら」でお年寄りの入所者80人の介護を受け持つのは、介護福祉士、看護師、ホームヘルパーなど55名、深夜の見守りを含め24時間をカバーしている。
精神障害のAさん（32歳）はその中の一人で、全体の勤務ローテーションに組み込まれており、障害者であることの特別待遇はない。
Aさんは、高校を卒業後、食料品流通販売関係の企業に就職し元気に勤めていたが、販売に一定のノルマが課されるなど重圧もあり、体調を損ね退職した。
妹が介護の仕事に就いていて、かねてから関心を持っていたホームヘルパーの資格を取得し、ハローワークに求職の申し込みをした。
Aさんは好成績でパスし、短期間の体験就業を経て正式に就職が決まった。
Aさんの仕事ぶりは他の介護職員に勝るとも劣らぬもので、勤務形態も特別な配慮は全くない。夜勤あり、排泄処理・入浴の世話ありで24時間を大きく五つの時間帯に分割した勤務時間を精力的にこなしている。
「お世話ができてとても幸せ。お年寄りにけがをさせないよう神経を使っている。
入浴の介助など体力が必要で辛いこともあるが、仕事をしているときが一番楽しい。」とAさんはにこやかに話す。
＊業務遂行援助者（指導員） 二永 麻夕子さんの話
初めはAさんの障害について詳しくは知らなかったので、どの程度仕事をこなすか気になっていた。しかし、実際に介護業務を始めるとてきぱきと対応し、全く心配ないことがわかり、他の介護職員と同列の戦力となっている。
4. 経験を深める
ホーム施設の清掃が担当のBさん（女性57歳）は、中学校の先生をしていた。
病気の発症で教職を離れ、いろいろな仕事を試みたが長続きしなかった。このホームに到達するまで10回ぐらいの転職があった。
モップ、雑巾を使っての作業が多い。丹念に丁寧であることは誰もが認めるが、細かな作業にやや難があり、狭い場所、複雑な構造の場所は苦手である。
しかし、作業はホーム介護職員の支援・協力体制によるチームワークで行われる。Bさんが、ゆとりのある場所を担当し、残る細かい作業、特に清潔・衛生が求められる作業は、みんなでカバーする体制ができている。
周囲の温かい支援と適切な指導を受け、平成19年4月就職以来2年間の経験を深めて職場に定着している。
Bさんは、「皆さんのおかげで勤務が続けられる。仕事が生活のリズムを作り、心の安定にもつながっている。」と職場のスタッフに感謝している。
＊業務遂行援助者 二永さんの話
周りの皆さんがBさんの仕事の範囲を理解し、できることを担当してもらうように配慮している。ただ、注意することも必要なので1週間に1度ぐらいまとめてポイントを指摘している。
5. 課題と今後の方針
障害者雇用を推進することは、高齢の皆さんを対象とする施設（事業所）の性格上、限られた領域で対応しなければならないため大変“勇気”の必要性を伴うものであると実感している。
人間としての生命、財産を保全し、日常生活を支援することはとても大変である。そうした状況の中で、自己の持つハンディを克服し乗り越えながら、取り組んでいる二人の姿勢を大いに大切にしたい。
今後もより安全に、安心して職務に励んでいただけるよう、温かく見守っていくことのできるよう、職場環境の改善や援助者の立場にある職員との信頼関係構築に努めていきたい。
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