事業所名

特定非営利活動法人ふれあい富士

所在地

静岡県富士市

事業内容

介護保険訪問介護事業、障害福祉サービス事業（身体、知的、精神障害者生活支援）、市委託事業

従業員数

9名

うち障害者数

1名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	1	訪問介護サービス補助、パソコン入力等
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 取り組みの内容
3. 事業所にとっての障害者の存在

事業所外観

1. 事業所の概要

当事業所は地域の市民活動が母体となり、老人介護サービス事業を目的として立ち上げた特定非営利活動法人である。小規模な法人でも障害者の雇用が可能となっている様子を紹介したい。

閑静な住宅街に佇み、「みんなで築く新しいふれあい社会」を理念とし、介護保険訪問介護事業と障害福祉サービス事業を展開している。長年、地域の高齢者の生活を支援してきた任意の市民活動団体であったが、平成12年3月に法人格を取得し、平成12年5月より介護保険事業を開始した。平成15年に障害者の支援費制度が施行されると同時に、障害者の居宅介護事業にも乗り出し、職員9名（他にパート労働者32名）という小規模な事業所ではあるが、これからもさらに地域の福祉の輪（和）をひろげようと取り組んでいる。

2. 取り組みの内容

（1）視覚障害者の雇用に挑戦

以上のような事業所の成り立ちや性格上、障害のある人の雇用に対し前向きに取り組もうと以前より考えていた。

そこで、事業も軌道に乗り始めていた平成19年9月、ハローワークが主催する障害者合同就職面接会に参加し、ハローワークに求人を出した。

就職面接会において面接をした中に、ハローワークから紹介を受けた26歳の女性、Mさんがいた。Mさんは視覚特別支援学校（かつての盲学校）を卒業、その後通っていた通所授産（就労支援）施設を、体調を崩したために退所し、回復後に求職活動中であった。

Mさんには視覚と下肢に障害があるため、所属していた施設ではデスクワークの仕事を行っていた。電話交換士やパソコンによる入力作業、点字印刷の仕事などである。そうした仕事なら当事業所でも作り出せると考え、採用に踏み切った。

（2）Mさんの仕事ぶり

勤務時間は1時間の休憩をはさんで朝10時から午後3時までの実質1日4時間、月曜日から金曜日まで週5日の週20時間勤務である。通勤は自力では無理であるので、母親に送迎をしてもらい、母親の都合のつかない時には至近の駅まで職員が迎えに行くという形をとっている。時給は他の職員と同じである。

毎日の仕事は、パソコンのエクセルによる名簿作成業務や電話応対などであるが、前に所属していた施設で電話交換士が主な仕事であっただけに、電話の応対ぶりは素晴らしく、他の職員顔負けの力を発揮している。

当事業所では平成20年度より富士市から「ふれあいコール事業」を受託し、ひとり暮らしの高齢者の安否確認のため、定期的に高齢者のお宅に電話をかけるという業務を開始した。この仕事にMさんの柔らかではきはきとした語り口はうってつけであり、事業所としても大いに助かっている。

パソコン入力作業では、Mさんには視覚に障害があるため音声機能つきのパソコンが必要である。自宅でも音声機能付きのパソコンを使用しているが、事業所で仕事を覚えるまでの試行や将来的な購入を見据えて機器の選定をするまでの期間、高齢・障害・求職者雇用支援機構から就労支援機器の貸し出し制度を利用した。仕事も軌道にのってきたので、障害者雇用助成金制度（障害者作業施設設置等助成金）を利用し、本人にあった機器やソフトの購入をする予定である。

電磁波防護用のエプロンを着用し、音声機能つきパソコンに向かうMさん

（3）事業所側の支援体制

Mさんは電磁波に反応しやすい体質で、パソコンの電磁波防護の必要があるため、事務所内では専用のエプロンをかけて仕事をしている。

また、車いすは使用していないMさんであるが、歩行移動は伝い歩きを行うことができ、事業所は入口にスロープがあるなど、バリアフリーにできている建物であり、また、もともと事務所のスペースがコンパクトにできているので、Mさんの歩行移動に関して特別な配慮をする必要はほとんどなかった。

しかし、トイレには手摺りを設置する必要があった。そんな折、トイレ用簡易手摺りを譲り受けることができたため、設置工事に負担をかけることもなくトイレに手摺りを設置することができた。Mさんにとっても事業所にとっても幸運なことであった。

入口のスロープ

簡易手摺りが設置されたトイレ

Mさんはこれまでに何度か発作がおき、手腕が硬直するなどの症状が時々みられた。最近では発作の回数も減っているが、Mさんがストレスをためずに安心して仕事ができるよう、まわりで心がけていく必要を感じている。また、パソコンの入力作業は音声読み上げソフトを利用することにより1人で行うことができるが、作業をする上で必要な場合にのみ介助をするという場面も出てくる。そこで、障害者介助等助成金（職場介助者の配置）の申請をし、Mさんの4時間の勤務時間のうち2時間を当事業所の職員が専任であたることとした。

（4）将来的な展望

採用当初、法人として障害者の雇用に対し認識不足であったことを今反省しているところである。というのは、就労開始から9ヶ月を過ぎ、Mさんが仕事にも慣れ作業のペースも上がってくるに従い、作業量、作業内容において、Mさんにとって少しずつではあるが余裕が出てきたのである。今後、視覚障害者に向いた作業を模索し、事業所側でMさんの仕事を新たに作り出していく必要性を痛感している。

Mさんに担当をしてもらっている「ふれあいコール事業」に関しても、対象とする高齢者の数が市内で19名と少ないため、まだ拡大の余地があると思われる。Mさんの仕事ぶりからすると、市役所の担当課には対象となる高齢者を増やしていってほしいと願うところである。

3. 事業所にとっての障害者の存在

障害者に対する福祉事業を展開する当事業所にとって、障害当事者であるMさんが職場にいることは大いにプラスになっている。

まず、日常を共に過ごしていると今まで知らなかった視覚障害者の特性についてMさんから教えられることが多々あるということである。

例えば、職員は出入りをする際には必ず○○は△△へ出掛けますという声かけをするようにしているのだが、Mさんはその声かけを記憶し職員の動きを常に把握しているのである。その感性の豊かさと記憶力に驚くとともに素晴らしさを痛感している。

また、どんなことにもまじめで前向きな姿勢は職員たちの手本であり励みにもなっている。

こんなエピソードもあった。「市長への手紙」で事業所が訴えてもなかなか行政が動いてくれなかったことがあるのだが、当事者であるMさんが直接、市の職員との面談を通して要求したところ、行政がすぐに動いてくれたのである。当事者からの声には説得力がある。このときには、今後も事業所側が当事者の声を的確にとらえて、二人三脚で実績を積み上げていけたらと強く感じたものである。

さて、先にも述べたように、Mさんは自力で通勤ができていないのが現状である。通勤に関しても母親に頼るところが多く、また生活全般に関しても、親から自立していくことが望ましいと感じている。まさに当事業所はこうした障害者の自立を支援していく事業を手がけているのである。

これから、Mさんの生活自立を手助けし実現をさせていくことが、Mさんを雇用する事業所として、また福祉サービスを展開する事業所としての使命だと考えている。