一人ひとりの性格に合わせ、長く続けてもらえる一つの仕事を通じて、雇用を実現している企業の事例
- 事業所名
- 綾羽工業株式会社
- 所在地
- 滋賀県高島市
- 事業内容
- 産業資材織物、土木建築補強資材、樹脂合成材の製造販売
- 従業員数
- 263名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 4 機械(織り機)オペレーター、製造、機械の清掃、製造(補助) 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の沿革
綾羽工業株式会社は1952(昭和27)年の設立である。綾羽工業はアヤハグループの一員でありグループ創業の紡績部門から出発した産業用繊維資材の生産・開発・販売担当部門である。用途別にはタイヤコード部門、産業資材部門等があり、環境保全・保護と省資源の観点から繊維のもつ特性を活かした土木・建設資材を開発・販売している。
また、ガラス・カーボン・アラミド繊維等のスーパー繊維素材に高度な織編技術と樹脂加工技術を駆使し、多様なニーズ・環境変化に対応すべく生活環境の創造に寄与する製品を提供している。
なお、アヤハグループはグループ本社である綾羽株式会社が経営・人事等を統括し、製造・技術サービス事業、住生活関連事業、ソフト&サービス事業を展開している。
2. 採用の実際
(1)雇用の状況
綾羽工業株式会社における在籍の障害者は4名であり、内訳は以下の表のとおりである。
(平成21年3月末 現在)
No. | 障害種別 | 採用年月日 | 勤続年数 | 職務 |
---|---|---|---|---|
1 | 知的 | 1983年3月 | 27年 | 織り機オペレーター |
2 | 知的 | 1990年3月 | 19年 | 製造 |
3 | 知的 | 2005年5月 | 3年10か月 | 機械の清掃 |
4 | 知的 | 2008年3月 | 1年 | 製造(補助) |
(注) No.3は短時間勤務
(2)社会・地域に役立ちたいという思い
上述の表にもあるように、在籍の障害者の勤続年数を見ると25年・20年とあり、早期から障害者の雇用を進めてきたと言えるだろう。現在在籍している障害者は偶然にも知的障害者だけだが、肢体不自由者、聴覚障害者等の雇用経験もある。当時も現在も思いは変わらない。雇用をすることで社会・地域に役立ちたい。その思いは障害者雇用に取り組むこととなった経緯ということにもつながってくるが、取り組みの進展は時代の変化とともに障害者雇用に対する社会的雰囲気が高まってきたこととも大きな関係がある。一つには法定雇用率制度による社会的な効果は少なくないと考えている。
当社において、より積極的な取り組みということで言えば、それは5年程前に遡ることができるが、その契機としては行政機関からの働きかけがあった。ハローワークだけでなく、県や市の機関からの要望も多数あり、ある時点に限って見れば根負けしたとも言えるかもしれない。
(3)採用する上で譲れないこと
雇用するに際して、当社として譲れないことがある。それは基本的な条件でもある。当社は生産工場であることから、生産に係る業務がほとんどであり、特に製造現場における仕事は立ち作業で身体を動かすことが多い仕事となる。そうした特徴から立ち作業が難しい人は採用することは現実的に不可能である。また、集中力・持続力も必要になってくる。何時間も続けて一つのことができる。それは一つの能力であり、その能力は当社が求める職業能力でもある。
次に能力的なことではなく、性格的なことについて見てみよう。工場長は言う。
とにかく、なんでもよく相談をしてくれる人がいい。自分が何か思っても言わない人もいる。そうではなくて、なるべく誰でもいいから相談してくれる性格の人がいいですね。相談してくれる人としない人は性格が違うということなのだろうけれど、これまでの経験から相談してくれる人のほうが長続きします。みんなからも可愛がられるし。
もちろん、相談は仕事のことが多い。相談をすることで周囲とのコミュニケーションも図れる。
(4)近年のエピソード
2008(平成20)年4月に近隣の特別支援学校の卒業生(知的障害)が入社した。採用までには職場実習を重ねた。実習を通じて見極めることができることもあれば、逆に見極めることが難しいこともある。仕事に対する姿勢や態度、そして職業能力についてはある程度判断はできる。ただし、体力については実習の期間も回数もともに限られていることもあり、限定した範囲でしか見極めることはできない。そのことで戸惑うこともあるが・・・・・・、と工場長は言う。
体力的に少し弱いところがあるように思います。しばしば転んだりしますし、足腰が弱いのかな? 同じ時期に入社した高卒の学卒者と比べてもそれは顕著な気がします。
職業能力についてはどうだろうか?
多分、しばらくは誰かがついていなければいけないでしょうね。一緒にチームを組んでやる仕事以外は難しいかなと思います。これをしてくださいと言うだけではなかなか上手くいかないのです。横について、時折、仕事ぶりを観察しながら、必要があればこうしなさいと作業の指示を言わないといけないのかなと思います。言いっぱなしというか、教えて、後はそのままというわけにはいきませんね。たとえ一時間でも心配は心配です。
実習の時はどうでしたか?
実習の時も同じようにしました。実習は2回来ました。1回目は単なる実習で、2回目は就職を前提とした実習で来てもらいました。一回目も二回目も本人のやる気はありました。家で腕立て伏せをして体力をつけるのだと言っていましたし。だから、慣れたらいけるのではないかなと思うのです。集中力が途切れがちなところがあるのですが、ずっと持続して仕事をしていくことができるか。それが課題です。
職業人として成長していくためには時間をかけて見守ることが求められていると言える。
何よりも仕事が続くようにすること、そのために仕事が続くような仕組みをつくっていかなければならない。たとえば、集中力がないなら半日半日で目先を変えてみるとか、そういうことを考えたほうがいいと思います。
3. 雇用の実際
(1)人間関係:接し方の違いで受け止め方が変わる
同じようなことを同じように言っても、言われた人の受け止め方はさまざまである。それは障害の有無にかかわらず言えることであるが、ここでは先のエピソードであげた知的障害者を例として見てみたいと思う。なぜなら、新しい環境に緊張したり、気後れしている知的障害者を職場に溶け込ませていくには、より大きな温かさと辛抱強さが必要になるとしばしば言われるからである。まずは工場長の話を引こう。
現場の作業者もいろいろなタイプの人がいて、知的障害者に対して育てようという気持ちのある人と、他の人(=健常者)に対する時と同じように接する人がいます。本人(=知的障害者)は育てようという気持ちがある人に対しては割合なついているようです。一方、他の人(=健常者)に対する時と同じように接する人に対してはきつく感じるようです。周囲の目にも嫌がっている様子が見て取れますね。注意する人を嫌がるんです。こうしたほうがいいよ、とか言う人は嫌がりますね。叱られていると思うのかもしれません。注意というのが本人にとっては重く感じられるのでしょうね。それは今後の課題でもあるでしょうね。作業の順番はこうしたほうが速くできるよと言っても、自分が思ったほうをやりたがる。それで、こうしたほうがいいと言われると怒られていると感じる。怒られていると感じるからその人のことは嫌で、嫌やからその人のところへは行きたくない。そういう傾向があります。
もちろん、すべてが本人だけの問題というわけではない。周囲の人に悪気があるわけでもない。事実としてはどうなのだろう?
従業員も知的障害者に対して違ったふうに話すとか、接し方を変えればいいとは思うけれど、ついつい仕事のことになると強く言ってしまったりとかするのです。余裕がないと、こうしたいとは思っていてもできないですからね。
試行錯誤を経て、現在は、優しく接する人の近くで仕事をしてもらっている。
(2)基本的な考え:キーワードは一つの仕事
まずは、民間企業に対する法定雇用率の1.8%というラインを達成し守りたい、と工場長は言う。しかし、現実はそう容易ではない。事業は縮小傾向にあり、それにともない職務も限定されてきている。そのなかで障害者(ここでは当社における現在の障害者の雇用状況を踏まえて知的障害者を前提としている)に合うような職務を考えると難しいこともあるようだ。工場長の言葉から見てみよう。
なるべく一つの仕事をずっと、5、6時間やれるような仕事があればね。いいなとは思います。以前は勘違いしていて、障害者を雇用する時にフルタイムじゃないといけないと思っていたのです。それがいろいろな機関の方とお付き合いさせていただくようになって、そうじゃないのだと。半日の4時間でもいいですよと。それだったら、無いこともないなと思っています。ただし、現在の状況は従業員を維持するだけで大変な状況です。
仕事の受注量は景気に左右されることを考えれば、経済状況の好転が待ち望まれる。
(3)職務内容:キーワードは一つの仕事
既存の仕事のなかで、その人に合った仕事をしてもらう。そして、できることなら人が付かずに一人で仕事ができる、一つの仕事をずっとしている。それが一番ありがたいと工場長は言う。
一つの仕事をずっとしていることが、結果として本人(=知的障害者)にとっての安定した就労につながってくるとも言える。職務と職場定着との関係はどうなのだろうか?工場長に訊いた。
たくさんのことができなくても、それはそれで構わないのです。任せられたことをある期間ずっとやれる能力があれば長く仕事ができると思います。たとえば勤続25年の方は今の仕事であれば慣れているので十分に一人でできますし、もちろん任せることもできます。逆に違う仕事をしてもらったら、一人ではできないでしょうね。今の仕事はこれから先、20年、30年以上経ってもある仕事だと思いますから、仕事が将来的に継続してあるという意味においても問題はないと思いますね。
また、違う面でも合った仕事だと思います。本人はあまり話をしませんが、仕事は機械相手の仕事ですから困ることは少ないです。トラブルがあった時だけ必要なことだけを伝えればいいわけですから。性格的にも合っていると思います。同じようなことがそれぞれの人に見つかればいいわけです。
今、心配しているのは間もなく入社後1年になる人のことです。彼が何に向いているのか、どんなことができるのか見極めなければいけないと考えています。危なくなくて、今のところは補助的な作業で、できることを見極めていきたいと思います。
4. 雇用管理の実際
(1)雇用にまつわる条件
まず、在籍4名の知的障害者の雇用形態を見てみよう。二人は社員であり、二人はテンポラリーと呼ばれる時間給(=日給月給)での雇用である。社員以外の雇用形態でも必要な社会保険には加入し、賞与も支給している。仕事内容の違いもあり時間給は男性女性で若干の違いはあるが、男性の場合であれば一時間あたりの金額は当社で新規に雇用した臨時の男性従業員のスタート時点の金額と同額であり、県内の産業別(化学繊維製造業)最低賃金726円を大きく上回っている。しかしスタート時点での金額は同じでも、そこから先は職務の内容や達成状況等で差が出てくる。まったく時間給が上がらないこともある。特別支援学校の生徒であれば、そのことは採用の段階で進路の担当教諭に話をする。齟齬があっては本人、企業それぞれにとって残念な結果になることも考えられるからである。もちろん、保護者にも話はしている。一月あたりの金額は高等学校卒業の学卒の新入社員と大差はない。
また、テンポラリーの契約更新は年1回としている。これも他のテンポラリーと変わりはない。
(2)安全のこと
雇用管理のなかでも安全に係わることは個々人それぞれの意識に頼らざるを得ない面がある。どのようにして教育を行なっているのだろうか?工場長に訊いた。
ここが危険なところです。こうすると危ないです。ここは危険ですから近づかないでください。安全教育に関してはできるだけ具体的に伝えるようにしています。
しかし、どこまで理解ができているか掴みきれないところがあり、なるべく危険なところには近づかせないようにしています。それでも何気なく歩いていくこともあるし、心配は心配です。だからと言って誰かを傍に付けるわけにもいかないし、その都度注意をするだけです。どこまで理解してくれるかというところが本音です。プレス機のような危険はありませんが、使用している糸は一番弱い糸でも10kg以上の力がないと切れません。服に付いたりして引っ張られると、骨まで切れてしまうようなこともあります。その意味ではたかが糸といっても怖いのです。機械がむき出しになっているところや、回転しているところも多いので、むやみに近づかれると心配です。
だからと言って、知的障害者だからというわけでもないのです。健常者でも同じことです。たとえば、ガサツな人はよくケガをしやすいとか、ケガする人は同じ人がケガをするとか、ありますね。どれだけやっても、100%ということはありませんから、OJTでその人に「それは危ないよ」と注意します。
(3)仕事の適性と指導についてどう考えるか?
具体的に見ていこう。勤続20年になる知的障害者の場合である。
適性ということで言うと、彼の場合は私(=工場長)が知っている範囲で、仕事は三つ目です。どちらかというと彼は理数系に強いと思います。性格的には意固地なところもありますが、仕事は大抵こなします。最初は資材を扱う仕事の補助作業をしていました。当時から、一つの作業を終えたら次はこれ、その次はこれ、というような感じで自分は考えてやっていました。ただ、安全面に関しては認識が不十分なところがあります。たとえば、モノをすぐ床にポンポンと置いたりして、自分で置いたモノに自分でつまずいてひっくり返ったりします。それで、「ひっくり返ったりするのだからモノを置いたりせずに元の場所に直せ」とは言うのですが、なかなか直りませんね。相変わらず、つまずいたり、ぶつけたりしています。そうしたことは苦手なのだと思います。一方、機械の扱い方とかはすぐに覚えますね。
苦手なところに配慮しつつ、指導を行なっている。指導の上で本人たちに求めることは「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」と素直さに尽きると工場長は言う。というのも、この二つのことができると周囲の人からも好かれるし、関係もスムーズに、好意的に仕事を教えてもらえるからである。
5. 「必要は定着の母」?
(1)通勤という問題
障害者雇用を進める上で通勤手段が課題となることが多い。当社の場合、車の免許を所持している2名は自動車通勤であり、他の2名は自転車通勤である。うち1名は自宅が遠いこともあり、就業規則上は特例だが、妻帯者用の社宅の利用を許可している。自動車通勤、近隣からの自転車、徒歩通勤。事実、公共交通機関を利用して通勤してくる従業員は誰もいない(最寄り駅からは遠く、バスの利用は時間帯が合わない)。そうしたことから、通勤手段の有無が障害者の受け入れの可否を左右しているとも言える。
(2)障害者を受け入れたことでの職場の反応、あるいは変化
まず作業の方法を見直し、考えるようになったことが大きい。以下に工場長の言葉を引こう。
私たちには特に考える必要もなくできる仕事が知的障害者にできないということがあります。たとえば原料を仕掛けるのに1,000仕掛けるのと1,001あるいは1,002仕掛ける場合があります。つまり、その端数の1とか2をどこに仕掛けるのか?私たちならすぐに判断が付くことも、毎回間違えるのです。ということは誰でもができるようにするためにはどうすればいいのか?ということになります。そこで改善とか工夫とかの必要性が生じてきます。現場では、取り組んでいますね。
できないことがあるからこそ、できるようにする。当社は具体的な必要性から職場の機運が高まってきたと言えるだろう。それにともなって「話のネタ」もでき、コミュニケーションも自然と活性化していく。「必要は定着の母」かもしれない。
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