「合った仕事」を見つける
- 事業所名
- 三恵工業株式会社
- 所在地
- 滋賀県
- 事業内容
- 自動車補修部品製造販売
- 従業員数
- 247名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 組立前 聴覚障害 0 肢体不自由 1 部品付け 内部障害 0 知的障害 2 組立、部品入れ 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の沿革
1960(昭和35)年の創設であり、以来、自動車補修部品(特にサスペンション・ステアリング関係)のメーカーとして着実な成長を遂げ、現在も自動車産業の一端を担って世界各国からのニーズに応えている。当社の製品555(スリーファイブ)ブランドは海外120か国以上の国と地域に輸出されており、その割合は98%を占めている。ブランド名「スリーファイブ」は近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)の考えを基礎にしながら、今日では世界品質になっている。当社が扱っている商品(製品)は約1,500品目にもおよび、アフターパーツのデパートメントとして、まさしく少量多品種の製造・販売を担っている。


2. 障害者雇用の経緯、採用活動の実際
(1)責任があること、そして責任に応えていくこと
まず、企業体としての法定雇用率に対する意識が第一義であったことは事実である。それは企業としての社会的責任であると同時に、たんなる抽象性に還元されない具体的な取り組みとしての責任でもあり、現実には個々の「依頼」に応えることでもあった。
そこで障害者雇用のより積極的な取り組みの経緯であるが、それは5年ほど前の話になる。当時、近隣の市のある施設から知的障害者の受け入れについての依頼と相談があり、それが取り組みに向けての始まりだった。
(2)採用に向けての見極め
実際の受け入れに際して、見極めなければいけない点がいくつかある。それは仕事に対する適性であったり、周囲との協調性であったりする。その他にも、いくつかの、あるいは、いくつもの条件があるかもしれない。そうであれば、いっそう見極めのための時間は必要であるに違いない。適性や能力を見極めることは簡単なことではないが、かといって難しいことでもない。
まずは安全面についての適性を判断し、最終的に安全面に関して大きな課題(=心配事)がなければ正式な採用に向けてのハードルは容易に越えることができると考える。立場(=視点)を会社から就労を目指している本人に移して考えてみると、職場での安全ということが企業にとって譲れないことであることをきちんと理解し、しっかりと行動することができれば、就労に向けてのステップは一歩も、二歩も前進ということになるだろう。
そのためには話をしっかりと聞くことができなければいけない。もっと言えば、話を聞くことができるということは、とても大切な能力なのである。

(3)依頼を受けることで実現したこと
先にも書いたように、より積極的な取り組みを始めたのは5年ほど前からのことであるが、それ以前は、すでに在籍されていた従業員が病気や怪我などでやむをえず障害者手帳を取得されるのが一般的であった。別様に言えば、受け入れの時点で障害者として採用してきた経験はほとんどなく、そのことがむしろ、関係機関からの依頼に応えることにつながったのかもしれない。
依頼は施設の他にもハローワーク、特別支援学校、公共職業能力開発施設等からあった。結果からみれば、受け入れ(職場実習のみも含む)に関する個々の依頼を断ることはなかった。そして、そのこと以上に、働きたいという障害者の就労への思いが結びついたことが現在の取り組みを支えてもいる。それはトップの理解があったことはもちろんだが、関係施設からの依頼と具体的な取り組みの歯車がタイミングよく合致したことの効果でもある、と言える。
(4)新たな依頼、そして採用が決定
2009(平成21)年4月、滋賀県立長浜高等養護学校の卒業生が入社する。三人目の知的障害者である。彼は数回にわたる職場実習を経て正式の採用が決まった。実習は段階を経て日数が長くなり、実習と実習との間には本人の様子について話し合うためのミーティングがあり、実習が始まれば、進路担当教員が足繁く会社に顔を出して本人の緊張を和らげると同時に安心して、そして徐々に自信をもって実習に向かえられるようなサポートがあった。そうしたことは受け入れる企業としても安心できることであり、安心があればこそ任せるところは任せたうえで、採用に向けての見極めをすることができる。
同校からの依頼は初めてのことだったが、家が当社からそれほど遠くない距離にあり自転車でも通える範囲で、本人も希望の職種であるし、トライアル的に受け入れてみて欲しいとのことであった。これまで知的障害者の採用実績があることで、知的障害者の採用に関して理解がありそうだとの情報が伝わっていたのかもしれないが、近年はそういった依頼と相談が増えてきているのは事実である。企業の担当者は言う。
当社は[実習等に]来ていただいて構いませんよ。拒否はしません。その結果、[来ていただいた方は]みんないい人ばかりだし、多少、程度の差はあっても、雇用しましょうとなってきたわけです。トライアル的なものを第一歩としてやっていって、その間に雇用につながる話が見えてきて、雇用につながってきたんです([ ]は内容を鑑みて執筆者が適宜補いました)。
3. 仕事について-たとえば職務の決定ということについて-
(1)基本的な考え方
その人に合った仕事を考える。それが職務を決めるうえでの大前提である。仕事は一つの仕事に限られることもなければ、それだけで完結しているわけでもない。いろいろな内容の仕事があり、そしていくつかの仕事の候補が考えられる。どの仕事も「誰かがやらなあかん仕事」であり、それぞれに意味のある仕事でもある。先にあげたその人に合った仕事というのは、一つには能力に見合った仕事ということであり、能力に応じて仕事を考えてもいる。
(2)本人の希望を知ること
段階的な実習を通じて、いくつかの仕事を経験してもらうことで、それぞれの仕事における適正レベルと仕事全般に対する職業レベルが見えてくる。もちろん見えてくるものは職業能力だけではなく、本人の興味や関心といったものもある。それに忘れてはいけないことだが、「どういった仕事がしたい」という本人の希望もある。現時点でのレベルだけで判断してしまうと、その人の可能性を小さなものにしてしまうかもしれないからである。逆に、本人の希望を聞き入れすぎると、結果として大きな無理が生じてしまう危険性もある。それぞれをバランスよく考慮、判断したうえで、本人が「こういった仕事をしたい!」と具体的にやりたい仕事があれば、(もちろん能力との兼ね合いはあるが)できるだけ希望に反しない方向での「それなりの仕事」をと考えている。

(3)よりレベルの高い職域への可能性
現在、プレス作業に従事している知的障害者がいる。入社は2005(平成17)年9月で、勤続年数は3年以上となる。彼は他の従業員と比較しても、スピード、正確さ、いずれをとっても一人前以上に仕事をこなしているが、入社直後からプレス作業に携わっていたわけではなく、この作業までにいくつかの作業を経験してきた。入社半年間ほどは、どちらかというとより単純な作業を任せてきたが、その後、段階的に「この仕事を覚えながらやってみるか」「あの仕事も覚えながらやってみるか」とレベルアップに取り組んでいった。初めから本人の能力をすぐに見極めることは難しいことでもあるので、いろいろな仕事にトライしてもらうなかで確認をしていった。指示命令系統に対する理解、身体的能力、大きな問題は見当たらなかった。
現在、最終的にプレス作業に至っているが、それまでには段階があり、それぞれの段階をクリアしてきた結果でもある。よりレベルの高い仕事をすることで、それは責任をもって仕事に臨むということでもあるが、喜びも大きなものになる。
ただ、課題がまったくないわけでもない。休みかけるとよく休む。それほど長い期間休むわけではなく、電話連絡があっての単発的な休みだが、こういったことが少なくなれば、よりよいと思っている、と担当者は期待の言葉を口にした。



4. 仕事について-たとえば雇用管理ということについて-
(1)雇用の状況
在籍の障害者は4名であり、内訳は以下の表のとおりである。
(H.20.6.1 現在)
No. | 障害種別 | 採用年月日 | 勤続年数 | 職務 |
---|---|---|---|---|
1 | 肢体(上肢) | S.44. 3.24 | 40 | 部品付け作業 |
2 | 視覚 | H.17.12. 8 | 3 | 組立前作業 |
3 | 知的 | H.17.10.10 | 3 | 組立作業 |
4 | 知的 | H.20. 1.16 | 1 | 部品入れ作業 |
※No.1の肢体不自由者は採用後に手帳の取得となった中途障害者です。
(2)雇用にまつわる条件
中途障害者以外の3名の障害者は雇用形態としてはみな契約社員である。また、入社が予定されている1名も同様に契約社員としての採用である。こうしたことは会社の事情もさることながら、本人、家族、そして支援者を含めた関係する人たちに事情を理解してもらえるだけの中身(=実質)があってこそ可能になることであろう。
そこで雇用条件としての実質はどうなっているのか? 賃金を見てみよう。まず給与形態は時間給である。ここで具体的な金額を述べるのは差し控えるが、一つの目安として高等学校を卒業したばかりの入社1年目の従業員と比較してみても、勤務日数が月20日とすれば、ほとんど差はない。むしろ、総額としては若干ではあるが上回ってもいる。さらに賞与も支給している。契約社員は60名ほど在籍しているが、条件面での差は一切設けていない。ちなみに契約期間は6か月であり、問題がなければ自動更新としている。
また正社員登用制度があり、本人にやる気があり、同時に希望もあり、所属長の推薦があれば正社員への道は開かれている。勤続一年以上という条件はあるが、チャレンジできる環境が整っている。もちろん、今後、知的障害者の正社員登用ということも考えられることであり、むしろ正社員になってもらいたいとの思いも強い。「僕も頑張れば正社員になれるんだ!」これから入社してくる知的障害者に目標を与えることにもつながっていくことだろう。
今後は障害の有無にかかわらず、契約社員を含めた雇用条件のよりよいあり方の一つとして、「同一価値労働同一賃金」に向けて少しでも考えていきたいと担当者は言う。
(3)安全、その他のこと
安全教育をはじめとして、仕事における指導はOJTが基本である。製造業にとってはまず何よりも安全な作業、そして品質が大切であり、そのためにはOJTを通じた実際的な教育・訓練が適している。そうは言っても、どれだけ教育・訓練を行なっても100%の安全が保証されるということはありえず、やはり本人の安全意識に負う部分が大きい。特に障害者(ここでは知的障害者を前提として考えている)の場合は理解力の不足が安全意識の不足につながる例が見られ、繰り返し指導することで安全意識が維持できることもあれば、それが難しい場合はより危険度が少ない作業を任せることになる。必然、仕事の内容も決まってくる。いずれにしても職場配置を検討する際には作業への適性(作業耐性:たとえば集中力、持続力等)だけでなく、安全への配慮・適性も正しく見極める必要がある。
5. これまでの経験からほんの少しだけ言えること
(1)求めること、気を付けていること
すでに述べたように具体的な依頼に応えるかたちで実習を受け入れてきた。企業として受け入れるということは、当然のことではあるが仕事ができるレベルであるかどうかが重要なことになる。もちろん、ある程度仕事ができるようになるには時間がかかる。あくまで実習の期間は見極めのための期間であり、将来的に一人で仕事ができるかどうかが判断のポイントになる。判断をする上で、あえて他の従業員との比較をしてみる。どれだけのことが一人でできるのか(=任せることができるのか)? その判断基準は保っていく必要があるだろう。教えたことを教えたとおりにできる。それは一つの目標でもあり、将来に向けてのスタートでもある。
一方、求めるだけでは見えてこないことも多い。実習を見極めのための一つの時間と考えてみると、作業の経験幅は少ない(単数)よりも多い(複数)ほうが実習効果が高い場合がある。その点を踏まえ、当社では段階的に作業を変更することで作業に関して飽きを覚えないように工夫している。
多様な作業のなかで反復的な作業を中心にいくつかの組み合わせを考え、日によって、あるいは一日の内でも午前と午後とか区切りを付けやすいタイミングで作業を切り替える。こうしたことを通じて、興味の有無、得て不得手も見えてくる。前向きに取り組んでもらうためには目先を変えることが必要であり、もちろん、本人のレベルに合わせて作業の組み合わせ方も変わってくる。
(2)思いを聞いてみる
部品入れ作業に従事している知的障害者に話を訊いた。仕事中だったこともあり、ほんの短い時間でのやりとりだったが、事のほか真面目な性格の印象を受けた。以下、質問と返答の一部(抜粋)である。
(Q)仕事をしていて嬉しいと感じる時はどんな時?
(A)手早く部品を袋に入れることができた時
(Q)早くできると嬉しい?
(A)嬉しい。部品がたくさんある。
(Q)たくさんの部品のなかから必要な部品を集めて袋入れをするんだ。難しいと思うことはある?
(A)部品が多いこと。
(Q)間違えたらダメだもんね。
(A)そうです。
(Q)スピードも大事?
(A)はい。
(Q)仕事のやりがいはどんなこと?
(A)部品が多いから、部品を集めたり、運んだり。
(Q)今の仕事は好き?
(A)はい。

後で企業の担当者に訊ねたところ、仕事はよくやってくれていると思う。ただ、休み(有給休暇)を取らないので、今後は休みを取ることの意味や休みの必要性についても話をしていきたいとの事だった。以前と違って、休みを取ることに対して社会環境も企業環境も認識が変化しており、積極的に休みが取得できる環境づくりを進めている。かつてあった皆勤賞も現在は殊更には行なっていない。
(3)それぞれの能力に見合った仕事
障害者雇用を進める上で企業が直面する課題の一つとして、職域が少ないということが言われる。だが、当社について考えてみるとこれまでも述べてきたように職域は限定的ながらも豊富にあるように思われる。限定的というのは能力によって、できる作業とできない作業があるということであるが、そのことを別の面から考えてみると、必ずしも高い能力がなければできない作業ばかりというわけでもない。
たとえば下記の写真にあるようにピットマンアーム組立とサポート組立の工程を比較してみると、ピットマンアーム組立の工程は6工程、サポート組立の工程は1工程である(サポート組立は機械によるオートメーションと手動とがあり、それぞれ大量注文、少量注文に対応している)。
こうした工程数の違いは機械操作における複雑さの度合い、あるいは作業スピード、判断力を要するかどうか等、求められる能力の違いとなって現われてくる。より高度な作業も、比較的単純な作業も、ともになくてはならない仕事であり、それぞれの能力に見合った仕事という考え方が活かされている現場である。


(4)今後について一言
障害者の雇用に関しては障害の種別にかかわらず、職場実習、トライアル雇用等を通じて積極的に受け入れを進めていくとの事であり、できることなら毎年1名は採用していきたいとの考えをもっている。そのためには、これまでにも述べてきたように本人の能力を見極めるための質の高い実習が欠かせないものであり、そのことと関連して実習生を送り出す側(特別支援学校や公共職業能力開発施設等)には採用後の継続的なフォローもしていただけたら、と担当者は素直な思いを口にする。「顔を出してくれたら、私らも話ができるし、来てくれたら本人も喜ぶと思いますよ。励みにもなるのではないかな。頻繁じゃなくてよいわけですし、たまに話をすることで見えてくることもあるわけですしね」
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