事務部門での発達障害者の雇用実現 ~事務支援チームの実践~
- 事業所名
- 株式会社東京海上日動キャリアサービス
- 所在地
- 東京都千代田区(東京本社)
- 事業内容
- 総合人材サービス(人材派遣、人材紹介・業務請負等)
- 従業員数
- 533名
- うち障害者数
- 121名
障害 人数 従事業務 視覚障害 7 事務補助 聴覚障害 18 事務補助 肢体不自由 59 営業事務、事務一般 内部障害 19 営業事務、事務一般 知的障害 11 事務補助 精神障害 7 事務補助 - 目次
1. 事業所の概要
「総合人材サービス企業として、お客様に価値のあるソリューションを提供する」を経営理念とした、1984年創業の総合人材サービス企業。東京海上ホールディングス100%出資の会社であり、人材派遣・人材紹介・業務請負・採用支援・研修支援等を実施。全国に34の営業拠点を置いている。
事務支援チーム以外でも、様々な部署で障害者雇用を行ってきたが、今回は、発達障害のある社員を中心として構成されている事務支援チームを中心に紹介したい。

2. 障害者雇用の経緯、背景(事務支援チームの発足と広がり)
身体障害者の雇用は以前より取り組んできたが、グループ会社の正社員に登用される等、障害者の雇用者数がなかなか増えてこなかった。また、東京労働局より、知的障害者や発達障害者を採用するよう指導もあったため、積極的に採用する部門として事務支援チームを設けた。
2007年1月(東京本社)
事務支援チーム(知的障害者・発達障害者の受け入れに向けて)の立ち上げ準備開始。
2007年3月(東京本社)
職場実習3名の受け入れを実施。(→4月トライアル雇用→7月採用)
※当初、障害に関して知らないことも多く、戸惑いを隠しきれない社内の声もあったが、職場実習を通じて、「仕事もできるし、障害があっても何ら変わりはない」という認識が広がり、2008年3月には7名の方を採用することが可能となった。
2008年4月(東京本社)
会社全体として障害者雇用に取り組むことを目的に「ダイバーシティ推進部」を立ち上げた。従来、身体障害者の雇用については、登録型派遣という形で行っていたが、常用雇用型派遣に間口を広げることで、地方での障害者雇用が進んだ。しかし、都市部での身体障害者の雇用推進は、需要と供給のバランスもあって苦戦を強いられた。
2008年6月(関西支社)
事務支援チームの立ち上げ。職場実習4名の受け入れを実施。(→6月トライアル雇用→9月採用)
2008年7月(名古屋支社)
事務支援チームを立ち上げ。職場実習3名の受け入れを実施。(→7月試用期間として雇用→10月採用)
2009年2月現在、会社全体で121名の障害者が在籍し、雇用率は1.8%を超えている。
3. 取り組みの内容
(1)障害者の職場配置と従事業務(平成21年2月現在)~事務支援チーム~
○ 東京本社
①職場配置
障害のある社員:12名〔内訳:身体障害者2名(重複1名)知的障害者9名(発達障害を併せ持つ者)精神障害者1名(発達障害者)〕 支援スタッフ3名
②従事業務
名刺の作成、ノベルティーの発送、郵便物、社内便の受取・配達、電話料金の入力、研修用教材セット・テキスト作成、グループ会社のDM発送作業、アンケート入力作業等
○ 関西支社
① 職場配置
障害のある社員:6名〔内訳:知的障害者3名(重複1名)精神障害者3名(発達障害者)〕 支援スタッフ2名
② 従事業務
スタッフの勤務カードのファイリング、定例郵便物の発送、社内便の仕分け、スタッフ情報登録データのチェック等(作業している所の写真)、会議資料のコピー、アンケート入力作業等
○ 名古屋支社
① 職場配置
障害のある社員:3名〔内訳 知的障害者1名 精神障害者2名(発達障害者)〕 支援スタッフ1名
② 従事業務
ノベルティーの発送、郵便物・社内便の受取・配達、会議資料コピー、データ入力、グループ会社の自賠責保険のステッカーのチェック・梱包・発送等



(2)配慮事項
① 専任の支援スタッフがサポート(本社、関西支社、名古屋支社)
事務支援チームは障害のある社員を中心として構成されており、そこに専任の支援スタッフが常駐。社員の特性の把握・業務上のきめ細かなサポートが可能となっている。
②詳細な手順書(関西支社)
全ての業務で詳細な手順書を作成。それに基づいて業務を実施することにより、多様で高度な業務に対応している。



③視覚情報による作業指示(本社)
専用の作業指示書を用いることにより、視覚情報を中心とした作業指示を行っている。作業内容、納期、注意事項、担当者を明記することにより、分かりやすく、容易に確認できるシステムとなっている。
④多様な業務(本社、関西支社、名古屋支社)
多種多様な部署から仕事を集中させることにより、単一の業務でなく、多様な業務内容となっている。その結果、障害のある社員がそれぞれの得意分野を活かすことが可能となった。

⑤孤立化の回避(本社、関西支社、名古屋支社)
他の社員と同じ部署・同じフロアーに事務支援チームを配置し、業務の一部として他チームの仕事も請けることで、色々な社員とふれあう機会が増え、障害のある社員もない社員もお互いのコミュニケーションを図るきっかけとなっている。
⑥懇親会の実施(本社、関西支社、名古屋支社)
忘年会・懇親会等を実施。社内のコミュニケーションの円滑化を図っている。
⑦社員の健康管理(関西支社)
食生活や運動不足等で課題を抱えるものがいる。健康診断の結果を踏まえた指導だけでなく、始業前・昼休憩時にラジオ体操を実施することで、運動不足への意識改革を意図している。また、体操を実施することで、事務支援チームのメンバーだけでなく、他チームからの参加も多くなりつつあり、社員間のコミュニケーションが促される波及効果もあった。
⑧スケジュール表の提示(本社・関西支社)
スケジュール表に5日先まで行う業務を表示することにより、先の見通しを持って仕事を行いやすいシステムとなった。

⑨勤務時間の設定(本社、関西支社、名古屋支社)
発達障害のある社員にはラッシュが苦手な人も多い。そこで、勤務時間を通常の社員よりも30分ずらすことにより、ラッシュを回避できるよう配慮している。
(3)障害者雇用の波及効果
① 業務の効率化
発送作業・名札作成・会議資料作成等、業務の付帯作業を集中させることにより、社員がそれぞれの業務に専念することができるようになった。
② 障害のある人への理解促進
障害のある社員と一緒のフロアーで仕事をすることにより、障害に対する偏見が軽減し、理解が深まった。
③ コスト削減
今まで社内で外注していた作業を事務支援チームで実施することにより、コスト削減につながっている。例えば、自賠責保険ステッカー管理業務、自動車保険の保険料試算の一部を実施することでコストが大幅に減少(2/3~1/2に減少)。

4. 課題と今後の展望
① 業務量の調整
多種多様な部署から仕事を集中させているため、業務のスケジューリング・業務量の調整が課題となっている。なお、事務支援チームの立ち上げから日数が浅いため、今後、業務を遂行するにつれて、安定すると思われる。
② 短時間労働者が雇用保険に算定されることに伴う雇用者数の増加
平成22年の障害者雇用促進法改正に伴い、同社では4000名のパートタイマー労働者が雇用者数に加わることとなる。それにともない、障害者雇用率を達成するためには、障害者雇用を更に推進することが必要である。
③ 特例子会社化の検討
現在は、契約社員として障害のある社員を雇用しているが、彼らの生活を保障するために、正社員化は必要なことである。そこで、特例子会社の立ち上げを将来的には検討したい。
④ 障害のある社員のリーダーの養成
生き甲斐をもって働ける環境作りとして障害のある社員にも会社運営に携わってもらえるようリーダーを養成していきたい。
5. 最後に
事務支援チームに配属された社員の中には、今まで支援される立場であった人が少なくなかったようだ。しかし、同社で働き、色々な人と交わり、「有り難う」と声をかけられることが増えるにつれ、人の役に立っているという実感、意味のある仕事をしているという自覚が芽生えてきた人も少なくないようだ。下記に、事務支援チームメンバーの声を紹介しよう。
「2007年4月から入社してもうすぐ2年になります。今の事務の仕事は気に入っています、毎日楽しいです。また、『事務支援チーム』という支援する名前も誇りが持てて気に入っています。僕は自分に障害があることで、それが強さになる点、また弱さになる点を支援団体の方から学び、今の仕事に活かしています。僕が仕事をする上で気をつけていることは同じ間違いを2度しない事です。今よりレベルの高い仕事をやってみたい、また経済的にも自立したいです」
他の人の仕事を支援するという意味でつけられた「事務支援チーム」のネーミングも興味深い。メンバーの声に代表されるように、誇りの持てる名前である。「支援される立場」から「支援する立場」になることで、人の支援ができる人材育成を、という思いが伝わってくる。
更に、社内だけでなく関連会社からも業務を集中させる、積極的に障害特性に応じた配慮を取り入れる等、「ダイバーシティ推進部」の実行力・推進力は、目をみはるものがある。課題に挙げられた「特例子会社での社員の正社員化」も、近い将来実現可能なものとして期待できるであろう。
今後の障害のある社員の更なる活躍と、これらの活動の広がりに期待したい。
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