「放っとけやん」の思いから、多数の職域を開発し、地域に必要とされ、地域の誇りとなる施設を目指す!
- 事業所名
- 社会福祉法人一麦会
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 無認可共同作業所を出発点に精神障害者、障害乳幼児、不登校児、高齢者の問題にとりくむ総合リハビリ施設
- 従業員数
- 124名
- うち障害者数
- 33名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 利用障害者の就労支援、生活指導等 肢体不自由 7 利用障害者の就労支援、生活指導等 内部障害 0 知的障害 3 クリーニング、食品製造等 精神障害 22 利用障害者の就労支援、印刷、クリーニング、食品製造等 - 目次

1. 施設概要、障害者雇用の経緯
(1)施設概要
社会福祉法人一麦会 麦の郷(以下、「麦の郷」とする。)は、障害者やその家族の現状を「放っとけやん(このまま放ってはおけない)」という強い思いから、1977年、「たつのこ共同作業所」としてスタートした。その後、数々の支援者の協力や参画を経て、行政機関や民間団体の協同の下、障害者の社会参画に取り組み、その後多数の施設を開所し法人格の認可も受けることとなり、現在では、発達支援、不登校・ひきこもり支援、高齢者支援なども含めた総合的な支援施設として、地域に必要とされる、また地域の誇りとなる施設を日夜目指している社会福祉法人である。
(2)障害者雇用の経緯
現理事長は、大学時代、障害者の実態調査をしたとき、障害者に立ちはだかる大きな問題をつぶさに経験した。当時は、せっかく支援学校を卒業できても、身体障害者には学校を出てしまったら働く場がなく、そうなると、学校でせっかく身につけた力が後退していってしまうという状況であった。当初は、そのように学校を出た身体障害者の居場所を作りたいという願いから、支援学校の先生や障害者の保護者、ボランティアら有志の協力を得て、6畳一間の長屋の一角に、聴覚障害者のための作業所「たつのこ共同作業所」を設立した。
その後、規模が大きくなるにつれ、障害者がより良い条件で働けるよう、次々と作業所の移転、拡張をしていくことになった。当初は、身体障害者の受け入れからスタートしたのであるが、精神障害者等も多く当該施設を利用することとなり、知的障害者通所授産施設「くろしお作業所」、精神障害者のための共同作業所「いこいの家」、「はぐるま共同作業所」などを相次いで開所することとなり、1989年、社会福祉法人一麦会として、認可を受けることとなった。その後も、日本で最初の精神障害者福祉工場「ソーシャルファームピネル」を開設するなど、次々と施設を開所する一方で、数々のシンポジウムへの参画や、多数の書籍出版、障害者との共生を訴える映画のモデル事業所となるなど、常に日本の障害者支援の先頭を走り続けている。 障害者の利用・雇用についても、タイトルにある「放っとけやん」の精神で、クリーニングや印刷、食品製造など、多方面での職域開発を行って、利用障害者や雇用した障害者の働ける場を提供している。
2. 取り組みの内容
(1)あせらずに永い時間をかけて仕事を憶えてもらう
「麦の郷」が行う障害者雇用への取り組みは、実に多岐にわたる。利用障害者の増加に応じて、職域を積極的に開発していった結果であり、現在のところ、雇用契約を交わしている障害者は、約30名存在し、「麦の郷」を利用している障害者は、140名にものぼる。
雇用した障害者は、最初のうち、仕事に慣れず、また精神的プレッシャーにも弱いため、なかなか仕事になじめない者が多かった。しかし、その人の能力、特性を見極め、作業時間に配慮したり、作業工程に配慮したりすることで、少しずつフルタイムで、また少しずつ判断を加えた仕事ができるようになっていった。「麦の郷」で働く障害者は、長く働き続けられるという特徴がある。これは支援するスタッフたちが、働く障害者の持つ「根気強さ」という長所を認識して、あせらずに永い時間をかけて仕事を憶えていってもらえるようにするスタンスを取っているためであろう。
(2)多方面での職域開発
「麦の郷」では、以下にあげるように、利用障害者や雇用した障害者に対し、安心して働ける場を提供するため様々な方面での職域開発を行っている。
◎印刷所
今は、印刷もデジタル化したパソコン入力が主体となりつつあり、文字入力、編集、写真やイラストのはめ込みなど、パソコンの中で版下原稿ができる。実際の印刷作業も省力化されており、無理なくできる仕事である。
印刷所で働く障害者は8人。スタッフは6名でその中には障害者が2名存在する。スタッフのうち1名(精神障害者)は、印刷機械のリーダーであり、印刷所を創設した時代からのメンバーである。彼は、元々福祉工場の利用者であったが、熱心に印刷の技術を憶えるうち、「麦の郷」の職員として、利用障害者に印刷機械の使い方等を指導する役割になった。他の健常者スタッフ4名は、利用障害者の作業についての指導や複雑な作業を担当している。
◎クリーニング
「麦の郷」の中で最も古い業種であり、1988年より開始し、現在まで20年余り稼動している。精神障害の雇用者8名と利用障害者がここで働いている。雇用されている障害者の中には、経験20年近いベテランの職員もおり、総じて、障害者の職員は長く働いている。プレスをするため蒸気を使うので、作業場の中には、蒸気の配管があり、真夏は最高43℃と、かなり暑い作業環境となるが、こまめに休憩をとり水分補給を欠かさないなど、これまでの経験により、作業する者の負担にならない配慮がなされている。
扱い品は、病院などから回収してきたシーツなどのリネンや入院患者の個人用洗濯物、職員の白衣などのユニフォームである。例えば、シーツなどのリネンは、以下の工程を経て、顧客先へ納品される。
①届いた洗濯物を種類毎に仕分ける作業

②洗濯機に洗濯物や洗剤を入れ、機械の設定をし、洗濯機を稼動させる作業
③出てきた洗濯物を大型乾燥機に移し替える作業
④大型乾燥機で生乾きにした後、大型プレス機械で乾燥させる作業


⑤洗濯済み・乾燥済みの洗濯物を、畳んで仕分け整理したり、10枚セットで結束したりする作業
⑥行き先ごとに洗濯完成品の注文数量に応じて仕分けを行う作業
⑦出荷伝票を出力し、トラックに積み込む作業


◎食品
食品関連では、各部門・工場に別れ、冷凍コロッケなどの冷凍・加工食品や、パン、クッキー、健康せんべい、納豆、豆腐、シュークリーム、わらび餅、製麺・うどんなど多数の食品を製造し、利用障害者に働く場を提供している。製造された商品の販売先は、「麦の郷」を支援する近隣の住民のほか、産直広場や一部地元スーパーにも卸しており、特に、納豆、冷凍コロッケ、クッキー、健康せんべいは、値ごろ感があり、今後の販売増加が見込まれている。
一例をあげると、冷凍・加工食品部門では、7名の雇用障害者が利用障害者とともに働いている。その中には、精神障害者のリーダーが1名おり、主に利用障害者の指導にあたっている。
扱い品目である冷凍のコロッケは、ジャガイモから肉に合わせ、成型を行い、冷凍しパッケージ化、梱包するまでの工程を、雇用障害者と健常者の職員が、利用障害者の指導を行いながら、生産を行っている。また2009年4月稼動に向け、障害者の新たな職域開発として「おにぎり製造」も準備しており、そのため衛生環境の整った作業場に改修、製造工程も衛生管理を重視したものに計画中である。
また彼ら職員達は、向上心が旺盛であり、平成20年度には、和歌山県工業技術センターによるマーケット・イン商品化支援事業の採択を得て、コロッケパッケージのデザイン開発と販路開拓の支援を受け、更なる製品の向上を図っている。
納豆部門も、食の安全が叫ばれる昨今において、今後の有望株である。この部門は、知的障害者の利用授産施設であり、流通業から障害者の就労支援を志して転職したスタッフが中心になって、卓越した目で利用障害者への作業指示やアドバイスを行っている。
新設された作業場は、衛生管理が徹底され、ユニフォームを着用し、手洗いとエアシャワーを行わないと作業場には入れない仕組みとなっている。納豆の原料となる大豆は、異物混入がないかをチェックした後、その場で炊き上げられ、衛生的な保管設備内で発酵が行われる。また製品は、万全を期すため金属探知機で金属の混入をチェックしている。生産工程においては、障害者だからという甘えは決して許されず、マニュアル化された衛生管理の徹底ぶりが、スーパーなどの卸し先の信頼を勝ち取っているのである。




◎オープンカフェ
「麦の郷」は、2001年に、紀ノ川農業協同組合と業務提携を行い、紀の川市にある組合の産地直売所「ふうの丘」の店頭に「風車」というオープンカフェ型の店舗販売を開始し、出来立てのコロッケやアイスクリーム、飲み物などを販売している。この「風車」では、精神障害者と知的障害者の2名、健常者の職員1名の計3名が働いている。 彼女らは、会で製造されたコロッケをその場で揚げて、アツアツのまま顧客に販売を行っている。ごくまれにつり銭間違いのミスも犯すが、ミスを恐れることなく、積極的に仕事を楽しんで働いてもらうよう指導を行っている。

産直ブームで土日などは顧客が多い

オープンカフェスタイルで運営されている
3. 取り組みの効果とその他の啓発への取り組み
(1)地域住民への認知度の向上
多くの支援者や行政などの協力の下、様々な職域開発を行い、実際に製品・サービスの販売を通じて収益を上げている部門も多い。しかし、まだ利用障害者に対しては、満足いく報酬を支給することができていないのが現状である。ただ、地域住民にとっての認知度は確実に向上しており、着々と地域に必要とされ、地域の誇りとなるような事業所に成長していることは確かである。
(2)その他の啓発への取り組み
「麦の郷」では、このような職域開発のほか、障害者が偏見の壁なく地域で生活していけるための啓発活動にも余念がない。精神障害者が、生まれた町、自分の住む町で充実して暮らしていきたいという思いを描いた、障害者団体「きょうされん」の30周年記念として自主制作された映画「ふるさとをください」(平成20年2月封切)のモデル事業所として、「麦の郷」内でロケが行われた。また障害者福祉に関する書籍も多数発刊しており、啓発活動も積極的に行われている。
4. 今後の課題・展望
「麦の郷」では、障害者が20歳(成人)になったら、地域で独立した生活を送ることを可能とするため、どのような「支援」や「仕組み」が必要かを常に考えている。障害者雇用については、公的な支援で不足する部分を、「麦の郷」が中心となり、地域住民を初めとした多くの人の支援を得ながら、解決するよう日夜努力を重ねている。より具体的には、最低賃金の適用除外である利用障害者の方にも、出来るだけ毎月5万円程度の報酬を支払えるように目標を掲げ、生産工程やラインでの業務改善、販路開拓等を行っている。5万円あれば、障害年金とあわせてグループホーム等での自立がなんとか可能なためである。
決して受身ではなく、積極的に障害者の生きがいを感じとれる場を創り出そうという地道な活動が、地域住民や地域企業の参画を促し、今後の地域における障害者雇用にも良い影響を与えていくことは確かである。
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