高齢者デイサービスセンターにおける知的障害者の雇用の取り組み

1. 事業所の概要
(1)概要
地域に根差した高齢者向けの福祉施設を運営し、デイサービスセンター・短期入所生活介護事業所・居宅介護支援事業所・老人介護支援センター等多様な事業を展開する。
(2)事業展開
第一種社会福祉事業 第二種社会福祉事業 |
セイフティー信和 特別養護老人ホーム セイフティー信和 デイサービスセンター(単独型) ※ セイフティー信和 短期入所生活介護事業 セイフティー信和 居宅介護支援事業所 セイフティー信和 老人介護支援センター |
※ 障害者雇用モデル事例対象事業所
(3)モデル事例対象施設の概要
自宅から通いながら、入浴・食事・各種介護・機能訓練(予防介護)・レクリエーションなどのサービスを行う高齢者向け施設である。
利 用 定 員 | 要 員(含管理者) | 建 物 |
---|---|---|
80名 | 28名 (内障害者1名) |
鉄筋コンクリート造2階建 988.11m2 |
(4)沿革
(法人本体) | 平成3年8月に府中市にて、社会福祉法人広谷福祉会特別養護老人ホームセイフティー信和を設立した。 |
(対象事業所) | 平成16年7月に、デイサービスセンターの場所を、現在の場所へ移転した。 |
(障害者雇用) | 平成16年12月、知的障害者1名を採用した。 |
(5)雇用の経緯
就業・生活支援センターより障害者雇用の依頼を受け、企業としても障害者雇用の必要性を感じていたことから、ハローワークに求人の募集を依頼したところ、障害者Kさんの紹介を受けた。各種障害者就労支援制度を利用して職場適応を図り採用に至る。
2. 採用までの流れ
(1)就労前のKさんの状況
専門学校を卒業したKさんは、近所の老人施設の清掃業務の求人に応募し面接を受けたが不採用となる。希望通りの就職先が見つからず、その後、家の近くの木工会社に実習生として行っていた。しかし、下方斜視と知的障害の影響や日々めまぐるしく変わっていく作業内容等職場の環境に適応することが難しいため、他に自分に合ったような仕事があれば、そちらへ転職をしたいとの希望を持って就業・生活支援センターに相談に行く。
(2)雇用の働き掛けを受ける
就業・生活支援センターの働き掛けを受け、ハローワークへ求人募集を依頼したところ、Kさんの紹介を受けた。面接には、ハローワークの職員と就業・生活支援センターの職員が同席し、雇用に関わる支援制度やKさんの障害特性の説明、またKさんを雇用した後も継続的な支援が受けられるとして、採用を勧められた。
就業・生活支援センターでは、Kさんの障害特性から次の三点に留意してハローワークと連携しながら、就職活動を進めた由である。
①仕事場自体がある程度バリアフリーであること
②機械等の操作がないこと
③仕事内容が日々変わらないこと
(3)障害特性について
下方斜視の影響で足元が見えにくい障害があるため、慣れない場所での移動等は、足で探りながらの移動となるので動きがスローペースになる。また細かな作業や緊張する様なことがあれば手が震える。
動作もスローであり、一度に複数のことを指示されたり、急に予定が変更するとそれに対応しきれない。
些細なきっかけで行動がピタリと止まってしまい、その時はしばらくの間どんなに声掛けをしても、また今まで出来たことであっても動けなくなる。
他方、性格的には陽気な部分があり、知らない場所であっても手遊びやゲームになると、人の何倍も大きな声をあげてその場を盛り上げることが出来る。また自分自身も楽しむことができる。
(Kさんのプロフィール)
年 齢 | 20歳代 男性 |
性 格 | 明るく人見知りしない |
障害種別 | 知的障害B *小学生時に脳腫瘍を患い、手術後に下方斜視や知的障害が後遺症として残る。 |
職種希望 | もともと福祉の関係に興味があり、福祉の専門学校に進学。努力の末ヘルパー1級の資格を取得した事から、老人関係の仕事をしたいという希望を持っていた。 |
(4)職場体験実習の実施
面接を進める中で、まずKさんがこの仕事に向いているのか、事業所としてもKさんの様子を観察し、Kさん自身もこの仕事ができるのかを判断するために、支援関係者から体験実習の提案を受け、3日間就業・生活支援センターの職員が同行し「特別養護老人ホーム」で体験実習を行なった。
当時、Kさんから勤務場所が分からないとの訴えがあり、就業・生活支援センターの職員が通勤指導をしながら、バスと自転車の通勤をサポートしたこともある。
3日間という短期間ではあったが、フロアの掃除をしたり、入浴後のお年寄りの髪の毛をドライヤーで乾かしたり、お年寄りとお話ししたりとKさんなりに一生懸命頑張っていたようであった。
(5)委託訓練事業の実施
3日間の体験実習を終えるも、Kさんの障害特性はすぐには理解できないものもあり、もう少し長い実習が必要であろうという判断の下、その年から広島県が独自で始めた事業である「委託訓練事業」を利用することとした。
この事業は、障害のある人を対象に、採用に先立ち事業所を訓練実施場所とし、実習などを中心とした訓練を実施するものである。
1ヶ月間の訓練を通じ、Kさんの能力と可能性を判断した結果採用の方向となる。
(6)作業内容
[主たる担当業務]
○施設内外の掃除 ○利用者向けレクリエーションの補助
時 間 | 作 業 内 容 | |
---|---|---|
午 前 |
8:30 | 朝礼 |
利用者の湯飲みやおしぼりの準備・社旗を揚げる | ||
9:00 | 利用者の方へおしぼりやお茶を配る | |
9:20 | 玄関前の清掃 | |
9:30 | コップ・湯のみの回収 | |
10:00 | 入浴後の利用者さんへのお茶配り | |
11:00 | 午前のレクリエーションの補助 | |
11:30 | 浴室の清掃 | |
午 後 |
12:00 | (昼休憩) |
13:00 | 午後のレクリエーションの準備 | |
利用者さんの誘導 | ||
14:00 | レクリエーションの補助 | |
15:00 | レクリエーションで使用した物品の片づけ | |
15:30 | 掃除 | |
社旗を下ろす | ||
16:30 | 終了 |
(作業の状況)
○ 利用者サポート作業


○ おしぼりサービス


○ 湯茶サービス



○ レクリエーション作業


○ 浴場清掃作業


○ 多目的フロア・玄関の清掃



(7)処遇等
勤務時間 | 08:30~16:30 拘束8時間、実働7時間/日 (昼休憩12:00~13:00) |
休 日 | 4週8休(年末年始休暇・お盆休暇含む) |
通勤手段 | バス+徒歩(単独通勤・片道30分) |
雇用形態 | 非常勤 |
(8)Kさんの成長
最初は、介護に対するイメージが分かっていなかったため、お年寄りにどのように関わっていったら良いのか分からず、不安が大きかったようで指示されたことをこなすことで精一杯であった。
特別養護老人ホームでの体験実習後にデイサービスへ配置が決まった時も、事前に施設の見学を計画したことで、デイサービスの雰囲気が分かり、不安を軽減することに役立ったようである。
確かに、今でも苦手な業務があるようだが、それらも同僚職員にフォローしてもらいながら作業をこなしている。
本人としては、デイサービスでの仕事を4年間続けてみて、今ではこの仕事が自分に向いており、これから先もこの仕事を続けていきたいと思っている様である。
これからは、お年寄りのことをもっと理解していくために、送迎業務にも出て行きたいという思いも語っている。
(9)支援機関等の活用
ハローワーク | 求人の紹介希望に対し、障害求職者の紹介を受けると共に障害者の就労支援制度等の情報提供を受ける。 |
広 島 県 | 障害者の職場適用委託訓練事業を申請し利用した。 |
就業・生活 支援センター |
採用時の面接支援、その後の職場適用への支援を受けると共に、採用後の職場適応について定期的に支援を受けている。 |
3. まとめ
Kさんが慣れるまでの1年間位は、精神的にも安定せず同僚職員の声掛けをネガティブに捉えて落ち込み、職場で涙を流す場面もあったが、4年間という長い期間働き続けることにより、Kさんも現在の環境にすっかり慣れてきており、最近では職場の中で後輩も出来、自分がやっている仕事の内容を後輩の人達に教える場面も出て来ている。
Kさん自身も、仕事に対する誇りと自信をしっかりと持てるようになっているようであり、特にレクリエーションの時間は生き生きと仕事に取り組んでいる。
Kさんが、このように4年間仕事を続けられるのは、デイサービスセンターの同僚の人達の協力体制の良さと、所長の人柄が大きかったと考える。
所長や同僚の人達は、Kさんに「障害者」として関わるのではなく、一人の職員として同じように接し、仕事に対する姿勢等についても、優しく時には厳しく見守り指導している。又、業務の場面だけでは無く、親睦行事等も一般の職員と同様Kさんにも伝えて、出来るだけ参加できるように気遣し、Kさんが職場の中で孤立しないように配慮している。
Kさんは、職場の中で利用者の皆さんとの会話を率先して実行することで、感謝の言葉を掛けられたり、利用者の皆さんに可愛がられることで、Kさん自身大きな刺激を受け、それが力となりKさんの自信に繋がってきている。
この4年間で、Kさんは自身の努力と所長の配慮や周囲の人達の理解を得ながら、ゆっくりではあるが着実に進歩している。
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