ネットワークの力を支えに障害者雇用を展開する企業
- 事業所名
- 株式会社宇部情報システム
- 所在地
- 山口県宇部市
- 事業内容
- システムインテグレーター、主に製造業を顧客とし情報システムの設計構築から運用まで
- 従業員数
- 334名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 プログラマー 肢体不自由 1 プログラマー 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
株式会社宇部情報システムは、宇部興産株式会社(本社;山口県宇部市)に関連するグループ企業(全国に約160社)の一つであり、情報システムの設計、構築、運用を行っている。従業員数は334名、平均年齢は約36歳であり(平成20年12月現在)、若い従業員の多い企業である。
当社では、機密情報の管理のため、徹底した安全対策が講じられている。例えば、従業員によるオフィス入室に際しては、指紋認証のプロセスを経てドアが開く仕組みになっている。また部外者に対しては、液晶画面への入力や電話連絡により、その入室が許可される。


オフィス内では情報システムの設計や構築が行われており、静寂ながらも真剣な活気が伝わってくる。
2. 障害者雇用への取り組み
(1)企業としての社会的責任
当社の企画管理部長である大木義朗氏に、障害者雇用についての話を伺った。大木氏は平成18年度より人事を担当し、平成20年度からは企画管理部長としての立場から、人事についても指揮監督している。

「法的な話をいたしますと、障害者雇用率が法定障害者雇用率(1.8%)に達しないとき、従業員数が301名以上の企業には、障害者雇用納付金を国に納付する義務が生じます。わが社の従業員数は平成18年に301名を越えました。このことが、障害者雇用に取り組む大きな要因になったことは事実です。当社では、平成19年度より障害者の新規雇用を開始しました」
法定障害者雇用率の達成という企業の社会的責任を果たすため、当社は動き始めた。そして平成19年4月にYさん(聴覚障害;身体障害者手帳2級)、続く平成20年4月にKさん(下肢障害;身体障害者手帳2級)の2名が入社する運びとなった。
「平成19年度からの2年間で、2名の障害者を採用しました。障害というハンディに対し、配属部署や職場環境面などへの配慮をしております。しかし、処遇や業績評価については、健常者と全く同じ条件であり、区別はしておりません」
(2)障害者雇用と安定就労への取り組み
企業として障害者雇用を推進するためには、まず障害者の受け入れ態勢を整える必要がある。そして、障害のある従業員が安心して働き続けることのできる職場環境や生活環境を整備する必要もある。当社は、宇部興産株式会社に関連するグループ企業とのネットワークのもとで、この取り組みを継続してきた。
①「UBEグループ障害者雇用支援ネットワーク」が開催する学習会への参加
「UBEグループ障害者雇用支援ネットワーク」とは、宇部興産株式会社の特例子会社である有限会社リベルタス興産の有田信二郎社長が、宇部興産人事部とグループ企業に声をかけ、平成18年7月に発足させた会である。2~3ヶ月おきに学習会を開催し、障害者雇用の進展を目指した組織的な研修を進めている。株式会社宇部情報システムとしても、これまで毎回1~2名の人事担当者がこの学習会に出席してきた。
「平成18年頃、私どもには障害者雇用の知識がありませんでした。そこで、この学習会に出席することにしたのです。学習会の講師は、ハローワーク(公共職業安定所)の職員さん、学校関係の人、労働行政関係の職員さん、リベルタス興産の社員さんなどです。こうした皆さんから、雇用に関する貴重な知識や情報をたくさん教えていただくことができました。今も出席しています。事例発表もあるので、とても勉強になっています」と大木部長は語る。
障害者雇用がうまく展開しない原因の一つは、企業側が障害者雇用に関する知識や情報を十分には持ち合わせていないことにあるといわれている。知識や情報が少ないために、企業は障害者雇用に不安を感じ、躊躇してしまう。この学習会で雇用のノウハウを研修することにより、グループ企業内での障害者雇用が展開することが期待される。ちなみにこの学習会は、ネットワーク発足からの2年間で10回以上開催され、これまで計13名の障害者雇用を実現させた(障害種別は聴覚障害、肢体不自由、知的障害)。株式会社宇部情報システムで働く2名も、このネットワークからの支援のもとで、就労が実現した。
②社内研修会の開催
平成19年4月に聴覚障害のYさんが入社した。当社は、年度当初の4月と5月の2回、従業員対象の社内研修会を開催した。研修内容は、障害者雇用の必要性や、聴覚障害の基礎知識等である。講師は、前述のネットワークを設立した有限会社リベルタス興産の有田信二郎社長と、同社の専任手話通訳者の2名である。有限会社リベルタス興産では、これまで聴覚障害者、肢体不自由者、知的障害者を雇用している実績がある。それゆえ、この研修会は、聴覚障害者を受け入れるための具体的なノウハウとともに、障害者雇用の理念についても学ぶ機会となった。
「ネットワークのお陰で、お二人に講師を気軽にお願いできました」と大木部長は語る。
3. 職場環境と生活環境への支援
(1)Yさん(聴覚障害;身体障害者手帳2級)
Yさんは山口県内の高等学校から大学に進学し、福祉系の企業に就職した後、26歳の時に当社に入社した(平成19年4月)。当社へは、自宅から自家用車で通勤している。
Yさんは現在、プログラミング言語を用いてソフトウェアを製作するプログラマーとして活躍している。しかし、このようなYさんも、入社当時はプログラミングの知識が皆無の状態であった。入社してすぐに研修が始まった。当社では、入社後の1ヶ月間は研修期間である。ここでプログラミングに関する基礎を学んだ後に、配属される部門で使用されるプログラミング言語をさらに学んだ。Yさんは、この研修を通し、プログラマーとしての知識・技能を着実に習得していった。


①就労面への支援
Yさんは、左耳に補聴器を装着している。人との一対一の会話の時には、相手の音声とその口の動きとで内容を理解し、音声言語による意思疎通が可能である。外見上、健常者とほとんど区別がつかないYさんであるが、以下のような支援が必要であり、これらが当社で実行されている。
(a)Yさんに語りかける時には、Yさんに向かって、自分自身の口の動きを見せるよう配慮することで、その読み取りが円滑に進むよう支援する。
(b)研修会などの場では、座席を一番前にするなどの配慮により、講師の口の動きの読み取りや音声聴取が円滑に進むよう支援する。
(c)口頭での説明だけで済ませるのではなく、ホワイトボードに文字や図を書くなどの配慮により、確実な理解がはかれるよう支援する。
(d)複数の従業員が一堂に会し、議論が次々と展開するような会議の場では、誰が話しているのかの特定が、Yさんには困難である。そこで、前述の(a)(b)(c)などの配慮に加え、会議の議題を文字によって事前に予告したり、事後に議事録を届けるなどの配慮により、Yさんが必要な情報から隔離されることがないよう支援する。
以上のような支援の必要性については、Yさんの入社時に開催された社内研修会の場でも、従業員への周知がなされた。
②通称「手話ネット」(聴覚障害者遠隔支援システム)があることの安心感
聴覚障害者にとって、通常の業務については口話や筆談で進めることが可能であっても、込み入った複雑な話題や、感情が介在するような話題では、手話活用の必要度が高くなる場合もある。そこで、平成20年6月より、有限会社リベルタス興産とグループ企業とを通信回線でつなぎ、動画と音声により、手話を用いたリアルタイム通訳を行う試みが開始された。パソコンとネットワーク環境さえあれば、5万円程度の出費により、専用ソフトやWebカメラなどの必要機材を備えることができ、動画と音声の送受信が可能になる。株式会社宇部情報システムは、既にこの手話ネットに参画した。手話を用いて相談支援を行うのは、有限会社リベルタス興産の専任手話通訳者である。


このシステムにより、日本中どこでもリアルタイムでの相談支援が可能となりつつある。聴覚障害のある従業員にとって、このリアルタイムの相談支援体制は大変心強い。
Yさんは上司や同僚との音声言語による会話が可能なので、現時点でこの手話ネットを活用することはないが、Yさんのデスク上のパソコン上にはWebカメラなどがセッティングされている。いつでもこの手話ネットを活用できるという安心感のなかで、Yさんは日々の仕事に取り組むことができている。
③入社式でのYさんの自己紹介
Yさんは、入社式の日、全従業員を前に自己紹介をした。自身の障害について隠すことなく、おおらかに語った。
「この自己紹介があったことで、社員同士、互いに打ち解けるのが早かったですね。職場のなかに気兼ねなく語り合える雰囲気が生まれたように思います。隠さず語る姿勢は、Yさんの優れた点だと私は思います」と大木部長は語る。
(2)Kさん(下肢障害;身体障害者手帳2級)
Kさんは他県にある障害者職業能力開発校のプログラム設計科を卒業し、28歳の時に当社に入社した(平成20年4月)。
KさんもYさんと同じく、プログラミング言語を用いてソフトウェアを製作するプログラマーとして活躍している。Kさんは入社前に、プログラム設計科で一般的なプログラミングについて学んだ経験があったが、入社後、専門的なプログラミングの知識・技術を習得するための研修を積み重ねた。


①就労面への支援
Kさんは、疾病により、両下肢に障害がある。日常生活では車いすを使用している。当社へは社員寮から自家用車で通勤している。
車いすによる円滑な移動のためには、まず物理面でのバリアフリーが不可欠となる。当社が入っているオフィスビルは、その半分がホテル施設となっており、特に1~4階はオフィスとホテルの共有施設があり、障害者用トイレが使用できる。また、自動ドアも整備されているため、Kさんの入社にあたっての不安要素は少なかった。オフィスでは、車いすでの勤務に適した高さや幅のデスクをKさんに用意したり、車いすで移動しやすいようオフィス内の物品を再配置した。
②生活面への支援
Kさんは、他県からの採用であったため、住宅の確保が必要となった。検討の結果、当社が保有する寮をバリアフリーに改造し、対応することとした。この社員寮は、当社から東へ約5kmの距離にある。改造に要した費用は総額430万円であり、その4分の3に助成金が支給され、残りの4分の1を当社が負担した。なお、改造にあたってはKさんの意見や要望を十分取り入れた。

中心となった改造箇所を以下に述べる。
(a)玄関まで続くスロープ・屋根
寮のベランダ側に長さ約6mのスロープと屋根を設置した。Kさんにとって、ベランダのガラス戸が玄関であり、車いすに乗ったままでこれを開閉し、出入りする。



(b)隣接する食堂までの屋根
寮の食堂まで屋根を設置した。Kさんは雨の日でも濡れることなく、車いすのままで食堂に入ることができる。

(c)食堂のスロープと引き戸
食堂の入口と内部にスロープを設置し、ドアも引き戸に改造した。


(d)Kさん専用の駐車スペース・屋根

寮のすぐ後方に、Kさん専用の駐車スペースを確保し、屋根も設置した。この改造により、Kさんは雨の日でも濡れることなく、自家用車から車いすを出し、これに乗り移ることができる。
(e)寮の室内の改造(ユニットバス等)
寮の室内にあった段差は、事前にその全てを解消させ、バリアフリーとした。水道についても、Kさんが扱いやすいように、蛇口や全体の長さを改造した。
また、ユニットバス内にあった健常者用のバスタブを除去し、洋式トイレのみを残した。Kさんは、このトイレの蓋に座った状態で、上方からの温水シャワーを浴びる。
安定した就労生活は、安定した日常生活が支えている。車いすを使用するKさんにとって、居住空間の改造は日常生活の安定につながり、この安定は就労の場での活躍につながる。
③入社式でのKさんの自己紹介
KさんもYさんと同じく、入社式の日、全従業員を前に自己紹介をした。そして自身の障害について、次のように語ったと大木部長から伺った。
「私は、自分が障害者であることを、鏡を見たときに思い出すくらいです。社内では、私に特別な扱いをしないでください。援助が必要なときは、自分から申しますので。」
今、Kさんの周囲には、Yさんと同様、気兼ねなく語り掛けることのできる雰囲気がある。
4. 資格の取得に向けた啓発
当社の玄関には、情報処理に関する資格を取得した従業員の氏名が、パネルに掲示されている。この中にYさんとKさんの氏名もある。
「私は負けず嫌いな性格なので、このパネルを見ると、さらに上級の資格を取得しようという思いにさせられます。」とKさんは語る。
情報処理に関する資格の種類は多いため、取得に向けた継続的な研修が一人一人の従業員に望まれる。現状に甘んじることなく、上級の資格取得に向けた意欲的な取り組みにつなげる啓発的な働きが、このパネルにはあるといえよう。

5. ネットの力を支えに障害者雇用を展開
株式会社宇部情報システムでは、UBEグループ障害者雇用支援ネットワークの力を大きな支えにしつつ、障害者雇用を展開させている。障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。障害のある人にとって、就労は究極の社会参加であろう。株式会社宇部情報システムは、障害者の「働きたい」という熱い願いを叶えることを通して企業の社会的責任を果たしつつ、同時に業績も上げていくという企業経営を今日も続けている。
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