さりげない配慮のもとで障害者雇用を展開する事業所
- 事業所名
- 株式会社菜の花
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- コンビニ用弁当類の製造業
- 従業員数
- 221名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 製造オペレーター 内部障害 2 製造オペレーター 知的障害 1 製造オペレーター 精神障害 1 - 目次

1. 事業所の概要
当社がある地域は、静かな田園風景の広がる地域であり、春になれば広い畑一面に菜の花が咲き誇る。株式会社菜の花の社屋は、こうした閑静な環境のなかにある。当社では、大手コンビニエンス・ストアであるセブンイレブンの店舗で販売する弁当類(各種弁当、寿司、おにぎりなど計50種類)を、毎日24時間態勢のもとで製造している。
山口県内にはセブンイレブンが226店舗あり(平成21年2月現在)、それら全ての店舗で販売される弁当類の製造について、当社がその大半を引き受けている。それゆえ、一日に製造される食品数も、平日で約8万食、日曜祝祭日で約12万食という数値に上る。
当社では現在(平成21年2月現在)、6名の障害者が雇用されている。
2. 取り組みの内容
(1)障害のある従業員の雇用
管理部長の亀山忍氏と、総務部主任の安光幹江氏に話を伺った。
「当社では、障害のある従業員に、特にこれといった配慮をしていないのですが・・・。」 この言葉から、障害のある従業員が社内で自然に受け入れられ、定着している様子が伝わってくる。
「当社では、早期から障害者雇用を進めてきたというわけではなく、従業員3名が病気によって中途障害者になったことが、会社としての転機になった。Aさんが心臓障害、Bさんが腎臓障害(現在休職中)、Cさんが下肢障害になったのです。障害者として新規採用したのは、知的障害のDさん、精神障害のEさん、下肢障害のFさんの計3名。」

なお、平成21年度4月より、山口県内の特別支援学校から、知的障害のある卒業生1名が雇用される予定である。
前述した従業員6名は、主に製造ラインと洗浄ラインの部署で日々勤務している。
(2)ITによる徹底した生産管理
製造の受注や指示について、IT製品管理システムが処理を行っている。まずセブンイレブン本社のオンライン端末を通して商品製造を受注し、この受注データをもとに当社の各部署に指示が送られる。IT製品管理により、受注・製造・仕分けなどに関しての一切の無駄を省くシステムが導入されており、迅速かつ徹底したコスト削減をめざしつつあることが窺われる。障害のある従業員も、この指示のなかで働いている。
(3)徹底した衛生管理
衛生管理面の向上に取り組んだ結果、平成17年に食品安全予防システムの国際規格「ハセップ(HACCP)システム」の認証を取得するに至った。美味しくて安全な食品を製造することが、顧客からの信用と収益につながるため、現在雇用されている6名の障害者を含めた全従業員に対し、衛生面についての社員教育は徹底している。
社内に昆虫等が入り込まぬよう玄関ドアは二重構造であり、さらに社内の電灯の光を外部に漏らさぬ特製ガラスがドアの素材に用いられている。また、食品製造工場内への毛髪混入を防止するため、全ての廊下の表面は、清掃によって常に清潔な状態に保たれている。
食品製造工場に入るには、まず衛生管理用の白衣、帽子、マスクを着用し、白衣の上から粘着ローラーをあて、毛髪や埃などを入念に除去する。続いて、衛生係の従業員による検査(手指における裂傷の有無等の検査)を受ける。その後、センサー機能付きのドアを開け、手指洗浄室で手指を入念に洗浄した後に、工場に入室する運びとなる。こうした衛生管理についての徹底した実践が、雇用されている障害者に対しても日々厳格に求められている。



(4)従業員の手の必要性
膨大な数の食品の受注・製造・仕分けには、前述したようにITが大きな力を発揮する。また、特に製造ラインでは、特注の機械が正確かつ迅速に食品製造を進めている。しかし、食品の製造ラインには必ず従業員の手が必要とされる。当社の“幕の内弁当”の製造には現在15名の従業員が対応しており、その盛りつけ等は全てが従業員による手作業である。例えば、弁当に入れる食材の位置や方向には一定の定めがあるため、従業員による細かな手作業は欠かせない。また、50種類近くある食品の中の“おにぎり”の製造についても、その中央部分にウメボシやシャケなどを入れたり、その周囲に海苔を巻くといった作業についても従業員の手に任されている。こうした手作業を必要とする部署があればこそ、障害のある人の就労と活躍の場を生み出すこともできる。


(5)障害のある従業員への支援
①Aさん(心臓機能障害;身体障害者手帳1級)
Aさんには心臓機能障害があり、心臓にペースメーカーを装着している。入社後の中途障害者の一人であり、手術のための入院期間は数ヶ月を要した。現在は現場復帰している。
Aさんの働く部署は製造ラインであり、主に赤飯の調理にあたっている。勤務時間は午後8時から明け方の午前5時までである。60歳定年制の当社で60歳を迎えたBさんは、この度、5年間の再雇用の期間に入った。フルタイムパート職員のリーダーとして、周囲の従業員からの信望は厚い。
病院で検査を受ける必要がある時には、当社から勤務時間などについての配慮がある。
②Bさん(腎臓機能障害;身体障害者手帳1級)
Bさんには腎臓機能障害がある。当社からの勤務時間などの配慮のもと、週3回の人工透析(透析は1回4時間を必要とする)を行ってきた。現在、手術のために当社を休職中である。
③Dさん(療育手帳「B」)
Dさんには知的障害がある。山口県内の養護学校(現;特別支援学校)の高等部を卒業した。
Dさんの働く部署は製造ラインである。筆者による取材当日のDさんの作業内容は、おにぎりの製造であった。Dさんは、おにぎりに入れる具材のエビマヨ(エビとマヨネーズ)を、両手で均等に混ぜる作業に取り組んでいる。

Dさんは、このおにぎり製造にまつわる一連の作業の多くを担当している。おにぎりを成形する機械(名称「めしロボット」)に、炊きあがったご飯をセットする役もDさんである。1時間に2000個のおにぎりを製造するため、ご飯のセットは頻繁に行われる。Dさんは重量約13キロのご飯を両手で持ち上げ、「めしロボット」にセットし、スイッチを入れる。
出来上がったおにぎりはラッピングされ、その上に製造時刻や賞味期限などを示したラベルが、機械によって次々に添付されていく。このラベルに記載された数値のチェックもDさんの役であり、専用の台帳にその数値を記載していく。また、製造過程で生まれた不合格品を処理する役も担っている。Dさんは当社に勤めて丸11年になった(平成21年2月現在)。



「これまでDさんは、作業を繰り返しによって学んできました。急なトラブルへの対応には少々むつかしいところもありますが、繰り返しによって技術を習得しています。また、当社では新商品の製造が定期的に必要となりますので、その対応にもこの繰り返しが必要ですね」と亀山管理部長は語る。
一連の作業の多くを担当できるようになるまでには、上司や周囲の従業員からの根気ある指導の繰り返しとともに、Dさん本人の地道な努力があったことが窺える。
また、素直でこつこつ働き続けるDさんは、他の従業員から揺るぎない信頼を得ている。
「Dさんは、素直なところが良いですね。素直だから、まわりの皆から慕われています」と安光総務部主任は目を細める。
「挨拶、返事ができることが職場では大切です。Dさんはそれができています」と亀山管理部長はDさんを評価する。

製造ラインを指揮監督する小田政和係長も、「Dさんは、数を数えたりすることは少し苦手ですが、素直に仕事に打ち込んでくれています」と評価する。
職場は組織体であるがゆえに、挨拶などの基本的マナーがきちんと身に付いていることが、従業員としての必要不可欠な条件となる。そして、性格面での素直さは、周囲の人たちからの意見や指導を謙虚に受け入れる姿勢につながるため、技術習得も早いことが推測される。
また、Dさんには無断欠勤がない。毎朝、自宅から約10キロメートル離れたJR駅まで自転車をこぎ続け、そこで待つ当社の送迎バスに乗り換え、出勤する。退社後も、JR駅から同じ道のりを自転車で走り、帰宅する。雨の日も風の日も、この通勤を一日も欠かさずに続けてきた。
④Eさん(精神障害者保健福祉手帳2級)
Eさんには精神障害がある。以前は精神障害者グループホームから通勤していたが、その後自宅からの通勤に変えた。
Eさんの働く部署は洗浄ラインである。番重(バンジュウ;食品を運搬する際などに使用する箱)を大型洗浄機で洗浄する仕事を受け持っている。洗浄し終えた番重をトラックに乗せ、再び工場に運び込む仕事もEさんの役である。洗浄する番重は、一日あたり3000枚に上る。
なお、Eさんは非番の日に医療機関への通院を続けている。


3. さりげない配慮をもとにした障害者雇用
障害のある従業員が社内で自然に受け入れられ、定着している。
「当社では、障害のある従業員に、特にこれといった配慮をしていないのですが・・・」という亀山管理部長の説明からは、さりげない配慮の大切さが伝わってくる。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。障害のある人にとって、就労は究極の社会参加であろう。株式会社菜の花は、さりげない配慮のもとで、障害者の「働きたい」という熱い願いを叶えることを通して企業の社会的責任を果たしつつ、同時に業績も上げていくという企業経営を今日も続けている。
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