障害のある社員を同じ仲間として迎い入れ共に楽しく働く職場
2019年度掲載
- 事業所名
- 株式会社 エレナ
(法人番号: 4310001005806) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 長崎県佐世保市
- 事業内容
- 食品スーパー
- 従業員数
- 3,100名
- うち障害者数
- 53名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2 生鮮・商品陳列 肢体不自由 9 生鮮・レジ・商品陳列 内部障害 7 生鮮・レジ・夜間店長代行 知的障害 31 生鮮・商品陳列・清掃 精神障害 4 生鮮・レジ・商品陳列 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
エレナ山祇店1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
株式会社エレナ(以下「同社」という。)は、食品スーパーの会社として昭和34(1959)年4月に創業した。現在、従業員数は、パートを含めて3,100名となる。エレナ店舗の他に、TSUTAYA、ダイソーのフランチャイズ店舗、食品スーパーと直売所を併せ持つなかよし村などの店舗を展開している。
同社の企業理念は、『正しい商売』を根幹にした企業理念であり、正しい商売とは、
1、お客様に喜んでいただける、よりよい品をより安く提供すること
2、地域社会への感謝を常に念頭におき行動すること
3、かかわってくださる総ての方々の幸せを願い続けること
である。
正しい商売を実現しエレナを通して一人ひとりに笑顔になっていただきたいという思いがある。
2. 障害者雇用の経緯と取組
(1) 経緯
同社は、障害者雇用促進法を遵守し障害者雇用を推進しているが、その歴史は長く、現在在職中の障害のある社員で最初に雇用された社員は、昭和58(1983)年の入社であり35年の勤務歴がある。
7年ほど前からは障害のある方の採用計画を作成し、地域の特別支援学校(以下「支援学校」という。)の卒業生を中心に採用するとともに、新卒者以外の障害のある方も中途採用として採用するなど、平成29(2017)年度では支援学校卒業生6名を含め8名の障害のある方を採用している。この採用計画により障害者法定雇用率を3年前に達成することとなった。
(2) 採用方法(職場実習を中心に)
同社での支援学校の生徒の採用は、本部の人事部が担当している。人事部が行う採用方法では、支援学校の生徒が行う職場での実習が重要な役割を担っている。実習を通して職場、職種と本人の相性などをお互いが確認し、採用につなげている。実習の期間は概ね3週間としている。
実習は、支援学校から同社への実習依頼から始まる。同社から支援学校へ実習生を募ることはない。支援学校からの依頼を受けた人事部は、実習生が採用されたのち働きやすい環境が作れることを最優先とし、まだ障害のある社員がいない店舗、実習生の自宅近くにある店舗などを考慮し候補となる店舗を絞り込む。候補となった店舗の店長は、職場の状況を考慮し職場・職種を判断するが、実習を断ることはほとんどない。
実習が終わったあとは、実習生に就職の希望があれば採用に向け実習生の保護者、支援学校、人事部・店長の間で最終確認を行う。
また、前述の実習は高等部3年生に行うものであるが、同社では高等部1、2年生の実習依頼も積極的に受けている。その結果、各店舗では、年に1回1名のペースで実習を行っている。
現在、ハローワークへの求人は、障害がない者の求人のみとなっているが、ハローワークからその求人に対し障害がある方の紹介があった場合は、前述の実習、トライアル雇用制度を利用して採用を判断している。
(3) 人件費の本部負担
障害のある社員は、採用人数、人件費の関係で障害のない社員の採用が店舗採用であるのと異なり人事部が採用し、店舗に配置している。このため障害のない社員の人件費は店舗負担であるのに対し、障害のある社員の人件費は人事部が負担している。これは、各店舗が障害のある社員を受け入れやすくするための人事部の配慮である。各店長は、店長判断での店舗ごとの採用計画と採算を考慮しての人材配置を計画するが、人事部が人件費を負担する障害のある社員はその雇い入れ枠外の配置であり、その分障害のある社員を受入れるハードルが低くなり、配置についても人事部の意向をくんだ配置先を決めることができる仕組みとなっている。
(4) 受入れ態勢の整備
障害のある社員を受け入れている職場の雰囲気は良好で、障害のある社員のトラブルの報告はほとんどない。
障害のある社員を受け入れる職場では、障害があることを最初からその職場で働いている社員にオープンにしており一緒に仕事をする社員はそれを受け入れている。
職場によっては、障害のある若い社員と障害のない年配の社員との年齢差があるチームができる場合がある。意識的にそのような組合せを設定しているのではないが、この業界の特徴である、働く方の年齢層が比較的高く、パートの方が多く、女性の割合が高いという職場環境がこの組合せを作りやすくし、障害がある社員と周りの社員とのコミュニケーションがうまく取れ、職場の人間関係づくりがスムーズに行われることになる。そして、周りの社員は、障害を障害として感じることなく、障害のない社員と障害のある社員とは自然に接することができており、職場は家庭的な雰囲気になっている。
(5)個別事例から
ア.A店舗のケース
A店舗では、障害がある社員は、Cさんひとりである。Cさんは現在26歳で女性。支援学校を卒業後当事業所へ入社。勤続8年目である。障害は、知的障害である。仕事は、入社以来鮮魚を担当。刺身、お寿司などを加工している。通勤は、バスを利用している。仕事に差し障る障害は特別にないが、時々、仕事へのテンションが上がらず、気持ちにムラが生じる時がある。そんなときは同僚にテンションが上がらないことを話し、Cさんの気持ちを同僚に共有してもらうことによりCさんは、『やる気スイッチ』を押してもらっている。
Cさんは、支援学校高等部在学中に1、2、3年次の前期、後期に計6回支援学校を通じて複数の企業で実習に参加した。実習は、スーパー、介護施設、ホテルなどのいろいろな事業所で実習して、最終的に同社での就職を希望し、採用された。
Cさんへの仕事の指示や教育は、同僚か、幅広い年齢層のベテランの社員が行っている。特別に障害に配慮した手順書や、分かりやすい写真のようなものは用意していないが、作業のお手本になる社員が大勢いる。
Cさんへの取材時に本人は、最初は体力的にきつかったが、いろいろなことを学習できて、仕事は楽しいという。基本的に最初に配置された鮮魚の加工から変更することはないとのことであったが、今後は精肉の作業もやってみたいという希望を話しており、意欲的に取り組む姿勢もうかがえた。取材中にふと漏らした言葉であって、同席したA店店長は初めて聞いた話であり、これまでは配属先を変えることを考えていなかったが、本人が意欲を示しているのであれば『それもあり』との考えであるとのことであった。
Cさんは、仕事で分からないこと、指摘されたことはメモを取り、次に作業をする時の参考にしている。
店長は、Cさんと仕事をする上でコミュニケーションの大切さを感じている。また、障害のない社員と同じように接することを心掛けているとのことである。
その他にも、店長がCさんに考慮していることがある。例えば、仕事の指示を出した時にCさんは『はい』と返事をするが、分からなくとも『はい』と返事しているのではないかと感じる時がある。この場合本当に理解しているかどうか、指示が伝わっているかどうかの確認が必要となり、指示したことをCさんに復唱してもらい確認している。これは知的障害のある社員への業務指示の方法として広く認められている方法であるが、店長はそうした知識がないなかで、経験に基づく対処が理にかなった方法として定着していると感じた。
店長は、Cさんは仕事を頑張っていると評価している。
障害のある社員の悩み、相談は、まず、パート社員もまじえた職場のメンバーで話し合い、解決しない場合は重要度によりフロアチーフへ、フロアーチーフは店長へ、店長は本部人事部へ報告する仕組みとなっている。また、各店長は、会社から業務連絡に使用するための携帯電話を支給されており、その携帯電話を利用して障害のある社員の情報交換、社内連絡、必要なサポートなどを行うなど、障害のある社員の定着に向け経験に基づいて仕組みを構築できている。
同社の各職場には、いわゆる女子会があるところがある。社員同士が月に1回くらいのペースで集まっている。そこにCさんも積極的に参加し、集まった社員に悩みを聞いて貰ったりしているという。先に述べた『やる気スイッチ』もこの女子会で押してもらうことが多い。本人も楽しく語っていた。
また、同社の各職場には、労働組合が組織されており、組合員が店舗合同のボーリング大会、バス旅行などを企画している。忘年会、歓迎会なども催される。Cさんは積極的に参加している。
お寿司を製造しているCさんイ.B店舗のケース
Dさんは24歳の男性。B店舗でも障害がある社員はDさんひとりである。Cさんと同じく支援学校からの実習を経て平成25年入社。勤続6年目である。障害は、知的障害である。仕事は、入社の時から食品部門の米を担当、朝から米の陳列、売り場作り、その他にショッピングカートの配列、カート回収(ビル1~3階でこまめに回収が必要)、生ゴミ置き場の掃除、エアコンのフィルターの掃除などである。通勤はバス通勤である。仕事に差し障る障害は特別にないが、仕事を間違えた際には上長のみならず周りからも注意されても、本人はきちんと受け止め、改善に努力しており、6年目まで同じ仕事を任せられている。Dさんは一日の仕事の手順をほぼ覚えているため、日程表などは使用していない。
職場では、Dさんに対して仕事を行う上で次のような考慮をしている。
・ 2~3つの仕事を一度に指示すると忘れることがあるので、上長は指示を出す時は一つずつ出し、終わったら次の仕事を指示するなど
本人の状況を見ながらの手順を取っている。
・ 仕事のムラがあるとクレームなどにつながることもあるので周りの障害のない社員がDさんの仕事にムラがないか見守っている。
・ 毎日約4千人が来店するB店舗では、障害のある社員であってもお客様にご挨拶をしなければクレームなどにつながる可能性がある
ために、接客の技術のレベルアップを行っている。
挨拶については、Dさんは、笑顔で挨拶することができているが、気分の浮き沈みによりできない時もある。今のところトラブルに至ったことはないし、顔見知りの顧客から挨拶してもらえるなど、すでに店舗になじんだ人材となっている。
B店店長は、Dさんは性格が真面目でそれが一番大切なことであると評価している。職場では家族同様に受け入れられており、他の社員とのトラブルはない。仕事が早く終わり時間が余る時があるが、Dさんはルーチンの業務以外今は自ら仕事を作ることができないため上長が状況を見ながら仕事を指示している。
店内のカートを移動させているDさん3. 今後の展望と課題
同社は、障害者雇用に取り組んだ当初は身体障害のある方を採用し、次に知的障害のある方を採用してきた。近年は精神障害のある方も採用を始め、現在数名は雇用しているが、雇用継続の難しさを感じている。今後は、精神障害のある方などの採用に向け準備をしていくことになるがどこから手を付けていくかということが課題となっている。
社内の教育も課題と考えている。管理職には話はしてきているが、一般の社員には研修を行ってきておらず、特に精神障害のある方の雇用拡大には社員教育が必要になると考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
長崎支部高齢・障害者業務課 麻生 香
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