社会福祉法人における難病のある者(ミトコンドリア病)の
雇用の実践 ~特別養護老人ホーム青風園の取組~
2019年度掲載
- 事業所名
- 社会福祉法人加美玉造福祉会 特別養護老人ホーム 青風園
(法人番号: 4370205001216) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 宮城県加美郡加美町
- 事業内容
- 特別養護老人ホームの経営及び老人短期入所(ショートステイ)事業の運営
- 従業員数
- 44名
- うち障害者数
- 4名
-
障害 人数 従事業務 内部障害 2 介護業務、清掃業務 難病 2 介護業務、清掃業務 - 本事例の対象となる障害
- 内部障害、難病
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人加美玉造福祉会(以下「同会」という。)は、宮城県北西部の農村地域の加美郡四町(中新田町・色麻町・小野田町・宮崎町)と玉造郡二町(鳴子町・岩出山町)の六町の医師会、社会福祉協議会、自治体が結束して昭和60(1985)年7月に設立された。
設立の経緯は、昭和55(1980)年頃からの六町における核家族化の進行、独居老人の増加、そして、高齢者人口比率(高齢化率)についても、将来的にますます高まると予測されている状況があった。
今後、増加・多様化する地域の福祉ニーズに対応するため、六町が協力して、社会福祉法人を中核とし、各地域に特別養護老人ホームや今後必要になる福祉施設を展開していく計画が本間俊太郎中新田町長(当時)より提案され、六町が協力し設立となった。
昭和61(1986)年5月には施設の第1号となる特別養護老人ホーム青風園が中新田町に開設し、平成4(1992)年には鳴子町に特別養護老人ホームりんどう苑が、平成7(1995)年には小野田町に特別養護老人ホームやくらいサンホームが、平成11(1999)年には岩出山町に特別養護老人ホーム岩出の郷が順次開設された。
また、多様化する福祉ニーズに対応すべく、同会ではデイサービスセンターや在宅介護支援センターを各地域で運営し、地域福祉の中核的役割を担っている。
(2)障害者雇用の経緯と雇用状況
同会は昭和60(1985)年の発足以来、高齢者福祉を中心に事業展開を行なってきた。平成12(2000)年には運営する入所系施設は5か所になり、職員の人数も200名規模まで急速に増加した。そのため、同会の障害者の実雇用率は法定雇用率を達成できない状況が続いた。
また、平成10(1998)年に障害者の法定雇用率は1.6%から1.8%へ、さらに平成25年度には2.0%まで引き上げられるなど、障害者雇用の社会的気運は高まっていった。同会は自らが「社会福祉法人」であることに鑑み、そうした社会的背景も踏まえ、本格的に障害者雇用への取組を平成16年から開始した。
具体的な取組については次項で述べるが、同会の取組は実を結び、平成30(2018)年10月1日現在の当該法人の実雇用率は2.98%と法定雇用率(2.2%)を達成している。そして、同年度には、障害者雇用優良事業所として「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞した。
また、難病のある者も積極的に受け入れるなど、不断に雇用継続の取組を続けている。
次に、同会の取組について、特別養護老人ホーム青風園(以下「青風園」という。)における難病(ミトコンドリア病)のある者の雇用事例を中心に紹介する。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 職員の意識改革
同会ではまず職員の障害者雇用についての意識改革が重要と考え、全ての職員を対象に、障害者の「働きやすい職場」のみならず、「来やすい・居やすい環境づくり」をスローガンとして掲げ、会議や勉強会などの取組を始めた。
取組を開始した当初は、事業所内の各部署や事業所間でも「障害のある方々と共に働く」ことに漠然とした不安があり、またどこに相談していいのか分からず取組が進まなかった。また、身体に障害のある方については、障害が目に見えるため比較的スムーズに受入れることができるが、発達障害や知的障害を持つ方々への理解はなかなか進まず、内部での会議を繰り返す日々が続いた。
地域の障害者就業・生活支援センターを知り、ジョブコーチ支援制度の活用や専門家の助言を受け、事業所として一歩ずつ理解を深めていった。さらに、宮城県の「障害者雇用アシスト事業」(企業向けセミナーなどにより企業を支援する事業)を活用し、職員130名を対象に研修会を行い、障害に対する理解を深める機会とした。併せて、事業所の中堅職員の意識改革に取り組み、「伝えることから伝わること」の重要性を認識してもらい、「わからないことは何度でも聞いてかまわない」、「見える化(文字・絵・写真)」や「積極的な声がけ」を中堅職員が中心になり職場全体へ広めていった。
その結果、障害のある職員だけではなく、様々なハンディキャップを持った職員に対し、お互い助け合うナチュラルサポートの文化が職場に育まれてきている。
イ 募集・採用
平成30(2018)年度の採用に向けたハローワークへの障害者専用求人の申込に併せ、近隣の普通高校へ新卒求人の説明で訪問した。その際、難病の治療を受けながら勉強を頑張っている生徒も多くいること、しかし、その治療や病気自体により働くことに制限が生じ、なかなか就職が決まらない現状を目のあたりにした。
その中のひとりに青風園の近隣に住むAさん(18歳・女性)がいた。Aさんは難病(ミトコンドリア病)の治療を受けているが、卒業後は高齢者の方々とふれあう仕事に就きたいとの希望を持ち、在学中に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を受講・修了していた。
同会ではAさんの採用を前提に、Aさん本人、ご家族、学校の先生、ハローワーク担当者を交えた面談を複数回実施した。Aさんの採用や就労継続のための就労形態(業務・勤務条件等)や、他の職員が理解し配慮すべき点を確認することなどが重要と判断し、面談では細かい事前打合せを行った。
具体的には、Aさんの興味・意欲、性格等に加え、疾患の理解と通院の頻度や服薬の状況、症状が出た場合の対応などについて細かく聞取を行なった。
聞取の結果、就労に向けた課題として、以下の点を確認した。その内容を基にハローワークと相談し、本人に合った職務形態を設定し、平成30年4月からの青風園での採用を決めた。
(ア)職務遂行面:低身長と筋力低下があるため、直接的な介護に携わるのは難しい。
(イ)コミュニケーション面:感音性難聴を併発しているため会話や自発的(積極的)発語が難しい。
(ウ)健康管理面:低身長と筋力低下があるため、体調を崩しがちになる。定期的に神経内科と耳鼻科を受診している。
(エ)性格・行動面:内向的な性格のため馴染むことができるか懸念される。
注) ミトコンドリア病(指定難病21)について
ミトコンドリアは全身の細胞にありエネルギーを産生する働きを持っている。ミトコンドリアの働きが低下すると、細胞の
活動が低下する。たとえば、脳の神経細胞であれば、見たり、聞いたり、物事を理解することが障害される。心臓の細胞
であれば、全身に血液を送ることができなくなる。筋肉の細胞であれば、運動が障害されたり、疲れやすくなったりする。
治療は主として現在現れている症状を把握し、その症状に対症療法がある場合にはそれを積極的に行なう対症療法
になる。
ミトコンドリア病の経過は様々であり、ミトコンドリア病患者の将来予測は非常に難しいとされている。
ウ 就労形態、担当業務・職場配置と就労継続の取組
(ア)就労形態、担当業務・職場配置
Aさんはパート職員として週30時間勤務(9:00~16:00(休憩1時間)の6時間×5日)で働いている。また、Aさんが継続して働けるように日常的に指導・相談などを担当する職員(以下「担当者」という。)を定め、担当者の勤務シフトをAさんと同じにしている。
担当業務は、身体状況から現状では直接的な介護に携わることは難しいので、洗濯物たたみや職場内清掃といった負荷が少ない無理のない仕事から始め、食事の準備補助なども加えるなど、本人・関係者と話合いをしながら業務内容や量を調整している。
清掃作業の様子 洗濯物たたみの様子(イ)就労継続の取組
業務上の指導などは原則的に担当者が行うこととしており、教え方が異なって本人が混乱するのを防ぐと同時に、Aさんの体調変化などにすばやく対応できる体制をとっている。また、管理者が定期的にAさんや担当者と面談し、業務の習得度合いに応じ業務内容や業務量の調整を随時行なっている。
コミュニケーション面では、難聴に配慮し、職員がAさんに話しかける際には、正面から口を大きく動かして話しかけるようにしている。また、周りの職員から積極的に挨拶したり、声がけを行なっている。
Aさんは、内向的な性格で職場に馴染むことができるかが懸念されたため、原則正規職員が参加する職員親睦会の行事に参加してもらい、職員との距離を縮めている。
Aさんの就労継続に向け、同会が行う「来やすい・居やすい環境づくり」は、Aさんが就労開始時に決めたこと「だけ」を「こなせばいい」とするのではなく、本人のやる気・能力や病状を常に把握し、新たなことに挑戦できる機会を設け、その能力を伸ばしていくことと考え取り組んでいる。
(2)取組の効果
採用後8か月が経過し、Aさんは少しずつ体力がついてきた。さらに仕事に対する自信も出てきた。12月には普通運転免許取得に挑戦する計画を立てている。仕事面では、より体力を必要とする洗濯本体の業務に挑戦したいと意欲を示している。運転免許を取得後、平成31(2019)年4月ごろを目途に挑戦してもらう予定としている。
職員とのコミュニケーション面では、新しく補聴器を調整し聞取りやすくなってきている。また、職員からの積極的な声がけや職員懇親会の歓迎会や慰安旅行への参加を通し職場に馴染むことできてきている。最近は自分から話しかけてくることも多くなった。
今回の取材でも、Aさんは、職員親睦会に参加し「楽しく過ごせた!」とうれしそうに語った。
健康面でも大きな問題はなく、採用から現在まで1度の欠勤もなく就労できている。
青風園では海外出身の職員も就労している。同会が障害者の雇用を通じて、「働きやすい職場」のみならず、「来やすい・居やすい環境づくり」のスローガンの基、「わからないことは何度でも聞いてかまわない」、「見える化(文字・絵・写真)」や「積極的な声がけ」が自然にできる風土を作ってきたことが、まだ日本語でのコミュニケーション能力が十分でない海外出身の職員であっても安心して働ける職場環境づくりにも役立っている。
3. 今後の展望と課題
同会では、Aさんに関して、本人が希望している洗濯本体の業務の作業時間が夕方にかかることもあり、平成31(2019)年4月から週40時間勤務に切替える予定にしている。
パート職員に意欲と希望があれば、正規職員への道も用意されており、障害や難病のあるパート職員についても同様である。
そうした道も考慮しながら、Aさんが、今後も意欲を持って働き続けられるよう、注意深く見守っていきたいと考えている。
そして、ナチュラルサポートの風土を定着させるため、様々なハンディキャップ(いわゆる障害だけでなく)を持ちながら働く全ての職員に対し、その思いに寄り添い、気軽に相談できる人材の育成が大きな課題となっている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
宮城支部 高齢・障害者業務課
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