おみやげ文化の伝承と多様な雇用の創出で
地域に潤いを与えられる会社を目指します
2019年度掲載
- 事業所名
- 株式会社マツザワ
(法人番号: 7100001023223) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 長野県下伊那郡高森町
- 事業内容
- おみやげ品の企画・製造・販売
- 従業員数
- 323名
- うち障害者数
- 6名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 1 事務 内部障害 2 販売 知的障害 2 入出庫荷・製品搬送 難病 1 事務(在宅勤務) - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、難病
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要
(1)概要
株式会社マツザワ(以下「当社」という。)は、長野県を中心に関東、中部、北陸、東海、近畿地方に営業拠点を持ち、全国各地の名産品や地場産品を発掘してその地域ならではのおみやげ品を企画開発、製造し、観光地を中心に提供しているおみやげ品の専門商社であり、筆者は当社の総務人事グループのリーダーである。
創業は昭和34(1959)年、当初は飯田下伊那の観光地から徐々に南北へ販路を拡大、以降全国的に鉄道網や道路交通網が整備されたことによって新たな観光地が次々に開発され、これに伴って当社も関東・北陸・東海へと営業所や店舗を開設してきた。
平成初期までは経営も順調に推移していたが、バブルが崩壊すると旅行形態が一変し、今までの団体バス旅行が激減、家族や小グループ、あるいは個人の旅行が増え、旅行目的も観光や宴会から体験や食べ歩き、個人個人の好みにターゲットを当てた旅行が増えるなど、スタイルが多様化してきた。
また食品に対する様々な事件が発生したことにより、消費者の食品を見る目が厳しくなり、食品の不具合や不当表示に対して厳しく追及されるようになってきた。
そうした中で、当社は消費者の皆様に安心安全をお届けすることこそ食品を扱う者の使命と考えISO9001を認証取得し、同時に「本物のおみやげ」とは何かを追求し続け、新たなおみやげの企画開発に取り組んでいる。
さらには「おみやげ」の原点と言われる青果物の販売、物販と飲食や休憩施設を組み合わせた新たな複合施設の展開などに取り組み、今に伝わる日本の古き良き「おみやげ文化」を後世に伝えることを目的として今後も事業運営していくこととしている。
(2)事業理念・企業基本方針
<事業理念>
私たちは、人と地域の気持ちをカタチにしてお伝えし、潤いと活力ある社会づくりに貢献します
<企業基本方針>
1.贈った方、贈られた人が、本当に喜んでくれる商品の提供をしよう
2.目的と目標を明確に掲げ、本当に生き甲斐を感じる仕事をし続けよう
3.自分自身の内面を厳しく見続け、優しく素直な思いやりのある人を目指そう
2. 障害者雇用の経緯
(1) 障害者雇用への取組
当社でも在職中に身体障害を持つに至った社員を雇用していたが(詳細は後述)、本格的に障害者雇用に取り組むこととしたのは、平成13(2001)年4月、地元のハローワークよりの「職場の事情で退職された知的障害者が仕事を探しているが、雇ってもらえないか」という相談が発端である。
当時、当社の障害者の実雇用率は法定雇用率を下回っていることは認識していたが、知的障害者を採用した経験はなく、知的障害者と聞くだけで仕事ができるのか不安があったため、積極的に雇用は考えていなかった。そういう気持ちで筆者が社長に相談したところ、「マツザワの理念は何か」を問われ、「おみやげを通して地域社会に潤いや活力を醸し出せるようにすることの中には、社会的責任を果たし、そういう機会を受け入れて社会の役に立つことも大事な理念の実践だ」と諭された記憶がある。
そこで、ハローワークから話のあった者(以下「Aさん」という。)の採用を検討することとし、まず本人の特性を確認し何ができるのかを考えた。工場で商品の入出荷や移動、化粧箱の組立てや箱詰めなど、コツコツと同じことを繰り返して行う作業ならできると考え、工場長に相談をしたところ、まずはトライアル雇用を行い、その上で判断することになった。
Aさんは、当初はコミュニケーションが上手くできない、仕事が遅い、覚えるまでに時間がかかるなどの課題があったが、同じ職場で働くパート社員が本人に対する安全面の配慮をはじめ、OJT教育を担当し、それに併せて会社として障害者雇用に関する社員の理解を得るように努めた。パート社員が、我が子のように懇切丁寧に指導したことで順調に仕事を覚え、本人の自信にもつながり、3か月ほど経つと決まった仕事ならきちんと一人でこなしていけるようになり、その結果正式採用に至った。
その翌平成14年(2002)年にはS養護学校から知的障害のある新規卒業予定者(以下「Bさん」という。)の雇用依頼があり、その方を雇えば法定雇用率を達成するという事情もあったため、改めて工場長に相談したところ、Aさんがほぼ仕事をこなせるようになっており、同様の仕事なら工場でもう一人雇うことが可能であるとのことであった。そして、障害者雇用に対する社内理解も深まってきたことなども判断し、採用の方向で進めることになった。
BさんもAさんと同じような職務、職場環境(指導体制など)で配属し、周囲の指導を受けながら、共同作業を通して協調性を養い、より良い対人関係が築けるように本人も周囲も努力した結果、2か月ほどで仕事をスムースにこなせるまでに成長した。
(2) 在職中に障害者認定された社員への取組
当社には、在職期間中に不慮の病気や交通事故により身体障害者と認定された社員が3名いる。そのうち2名の社員は軽度ということもあり、受障前と同じ販売の業務を担当する社員、そして営業から事務へ配置転換をした社員と、いずれも本人の希望や適性を考慮し継続的に雇用している。
ただもう1名の社員(以下「Cさん」という。)は「多発性硬化症」という徐々に筋肉が硬化する進行性の難病で、障害者の等級も段階的に進み現在身体障害者2級の手帳を取得している。
この社員の病気が判明したのが平成23(2011)年の夏過ぎで、この年の11月から1年1か月の間休職することになった。
当社では病気について関係機関などから情報を収集し、今後について検討したが、人によって進行の速さも症状の程度も異なる病気のため、就業規則によって休職が始まってから1年間は休職扱いとし、その後は本人の症状などの状況を見てどうするか判断するということにした。
平成24(2012)年の10月頃からCさんと会社復帰について何回か話し合いを持った。当初は、車いす生活ながらも車の運転ができ、通勤も可能ということであったが、従来勤務していた営業所の職場には車いす用の設備もなく、事務室内も狭かったことに加えて、どうしても職場内での移動や商品の持ち運びが必要であるため、車いすでの勤務は難しいと判断した。
しかしながら、本人が何とか継続して働きたいという強い希望を持っていたこと、さらに勤続年数も23年と長きにわたり会社に貢献してきたことを考慮して、本人が働くことができる仕事と働き方を模索し、最終的には在宅勤務が可能な本部の管理事務として、約50店舗ある小売店舗の売上管理をすることで復帰した。
在宅勤務にはパソコンと通信設備が必要であったが、これらは全て会社で用意した。業務内容は、各店舗から届く日報にそって売上・仕入などを入力することで、日次及び月次の売上と粗利の業績数値を作成している。
在宅勤務の様子
3. 障害者雇用の効果と課題
(1) 障害者雇用の効果
知的障害のある社員を雇用してとても良かったことは、工場の社員のチームワークが高まったことである。それまで工場現場では私語が多く、また、社員間での悪口があったりしたが、社員がAさん、Bさんと関わるようになり、仕事の指導のみならず私生活の相談にも乗っているうちに、親身になって二人への対応をするようになったことで職場の雰囲気が良くなってきた。
同時に彼らの仕事に取組む姿勢が真面目に黙々と行うところから、これに刺激されたのか私語も減り、生産性の向上にもつながってきた。
また、前述した難病の社員を在宅勤務としたときは、会社が社員に対してそこまで考えてくれてありがたいということを何回も社内で耳にした。
当社では、70歳以上になってもやる気のある社員は継続雇用する、家庭や本人の事情で短時間勤務をせざるを得ない方でもそれに応じた対応をする、配偶者の転勤などで現職を離れなければならない場合でも、転勤先に当社の事務所や店舗があればそこで勤めるなど、個々の社員の状況に応じた雇用を進めているが、Cさんもそうした取組の一つである。そして、そうした取組を進めた結果、障害のある社員を含む社員全体の定着率の改善にもつながってきた。
そうした当社の障害者雇用に対する取組が認められ、平成27(2015)年には障害者雇用に関する優良事業所の努力賞を、平成30(2018)年には県知事賞を受賞している。
今後高齢社会が更に加速することで、社員の高齢化はもちろんのこと、障害や介護、育児といった様々な家庭環境下での雇用が必要となってくると思われるが、こうした中でも従来の考え方を継続し、社員一人ひとりの状態や環境に合った雇用を行っていきたいと考える。
平成30年の長野県障がい者雇用優良
事業所県知事表彰受賞の写真(2) 障害者雇用の課題
当社の営業所、事務所や店舗は全国各地に点在しているが、それぞれは小規模・少人数で障害者を雇用できるところはなかなか見当たらない。工場や本部での雇用であれば対応は可能であるが、それ以外のところではそうした体制も環境も整っていない。
当社のグループの中には飲食店を経営している会社もあるが、飲食店9店舗のうち障害のある社員は1名しかいない。職種柄雇用することが難しい面もあるが、地域の雇用に貢献していくためにも、こうした会社でも障害者雇用をしていける体制と環境、更には社員の意識の向上なども含めた風土づくりが必要になってくる。
また、今までは障害者の雇用については受け身で、こういう障害者の方が居たから採用する、病気や怪我で障害を負った社員に合った新たな仕事の場を提供する、といったやり方で対応してきた。そのため障害者を多数雇用して、同じ場所、同じ仕事で働く場を提供するような体制はまだまだ整っていないのが現状である。今後、更に障害者を雇用していくためには、新たな仕事の創出とこうした受入れ体制の整備を行っていく必要がある。
おみやげ文化を伝えることで地域に潤いや活力をもたらし、ひとり一人の状態や環境に沿った新たな雇用創出をすることで豊な地域づくりに貢献できる、そんな企業づくりを当社は目指していきたい。
執筆者:株式会社マツザワ
総務人事グループリーダー 田原 浩成
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