(1)採用の経緯
　Aさんは、ハローワークの紹介により、面接、職場見学、職場実習、トライアル雇用を経て採用した。
　面接では、社会経験もあり、しっかりとした印象で知的障害であるとの印象はあまり感じられず、問題なく仕事はできるのではないかと判断し、採用の方向で進めた。当社としては初めての知的障害のある社員の採用であり、職場見学や職場実習を行った後にトライアル雇用の制度を利用し、採用した。また、長く勤務していただくため、社員にも障害特性を知ってもらう機会として職業センターの職員を講師に社員向けセミナー「知的障害者との関わり方のポイント」を実施したり、ご家族との面談を行って意見交換したり、週1回は人事担当者が職場に出向いて障害のある社員と話す機会を設けることで意思疎通を図り相談しやすい環境作りに努めることなどに取り組んだ。
　また、Bさんもハローワークの紹介により、面接、職場見学、職場実習、トライアル雇用を経て採用した。発達障害があり上手くコミュニケーションが取れないので、職業センターの支援を得て業務日誌を作成し体調の変化や業務上困ったことがあれば記述することで、周囲が早くキャッチできるようにした。
　そして、Cさんは、高校在学中に職場実習を3回（各2週間）実施し、仕事や職場の雰囲気に慣れてもらい、卒業後は正規社員として採用している。障害のある社員では初めての新卒採用であることから、入社前に支援会議（出席は、本人・ご家族、ハローワーク、生活支援センター、学校、当社）を行い、本人の障害特性や性格などが把握でき、今後長く働いてもらう上での意見交換などができたことは有意義であった。Cさんの業務については、障害特性などに配慮し、できるだけ単独で作業できるものを担当業務としている。
　なお、AさんとCさんの採用に当たっては、職業センターのジョブコーチ支援を活用している。

(2)従事業務と勤務状況
　Aさんは、トライアル雇用後に本採用となり、4年余り経過するが、入社以来ゴム製造課材料裁断業務に従事している。勤務は朝9時から17時の7時間15分、週5日の勤務である。
Bさんもゴム製造課材料裁断業務に従事しており、Aさんと競争意識を持って業務に当たっている。勤務は朝9時から17時の7時間15分、週5日の勤務である。
　Cさんは、プラスチック製造課で補助作業（検査、簡単なメンテナンス作業など）に従事している。勤務は、「新卒でフルタイムは自信がないので短時間勤務」という本人の希望で、9時から16時の6時間15分、週5日の勤務である。

(3)具体的な業務内容
ア．Aさんについて
　入社以来ゴム製造課の材料裁断業務を担当している。業務内容は製品ごとに決められた重量があり、それを裁断していくもので、重量が違うと不良品につながるので神経を使う業務である。入社当時、職業センターより「飽きっぽい性格なので複数の仕事を用意した方が良い」とアドバイスを受けたが、材料自体がいろいろな色や形があり変化があるので、同一業務が続いていると思われる。

イ．Bさんについて
　入社以来ゴム製造課の材料裁断業務を担当している。Bさんは、吃音もあり一人で没頭する仕事が良いとのことであったため、この部署が最適と判断した。社会経験が豊富で働くということを適切に認識しており、また業務に対して前向きであり習得度合も早く丁寧な仕事ぶりである。

ウ．Cさんについて
　入社以来プラスチック製造課の補助作業を担当している。特に検査業務はキズや汚れに気付かずに不良品として出荷してしまうと会社としても信用を失うことになるので、集中力が必要な作業である。この点は優れたものがあり量・質ともにほぼ期待どおりの仕事をこなしている。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　 　Aさんの材料断裁作業の様子　　　　　　　　　　　　　　Bさんの材料断裁作業の様子　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
 

(4)指導上の配慮・支援機関との連携
　Aさんについて、当社では分りやすい指図書や手順書を作成したり、また裁断する上で必要な器具を作成したりして裁断業務を早く習得できるよう配慮している。入社当初は職業センターのジョブコーチの支援を得ながら仕事や会社の雰囲気に馴染んでもらった。
　Bさんについて、業務の習得についてはAさんと同様に対応した。業務日誌を作成することで、その日の健康状態や仕事上の悩みや困りごとを会社側でも把握する事ができ、相互に理解が深まり今では責任を持って取組んでいる。
　　Cさんについて、現場の責任者が毎朝当日の作業内容を説明したり、誰が見ても分かりやすい手順書（漢字が苦手なのでふりがな付き）を作成したりして早く一人で仕事ができるよう配慮している。新卒者なので定期的に（月に2～3回）健康状態や仕事上での困りごとなどのヒアリングを行っている。職業センターのジョブコーチの支援を得ながら会社の雰囲気に徐々に馴染むことができていた。

(5)障害のある社員が入社したことによる効果
　新たに障害のある社員が3人入社したことにより、少しずつ社内の変化が見受けられるようになった。製造業では、突然に欠勤されると段取りが変わってしまい残業が発生するので、社員には常日頃から健康管理について注意喚起を行っている。しかし、3人とも突然の欠勤がなく、その真面目な仕事ぶりを見た周りの社員達に良い影響を与えている。また、教育担当者が3人に指導する場合にはいろいろと内容を創意工夫したりするので、担当者の能力向上につながるなどの効果が出ている。そして、3人とも会社の各種行事（奉仕作業、社員旅行、リクレーションなど）に積極的に参加しており、社員間のコミュニケーション及び職場風土の向上に効果が上っている。
 

　当社では、3人には今後も長く働き続けてもらいたいと心から願っている。そのためには個々の障害特性などを把握でき、相談業務のできる担当者が必要であり、その育成も今後の課題の一つと考えている。また当社だけの力で解決するには限界があり、今まで協力を得てきたさまざまな関係支援機関との協力は今後も欠かせないと考えている。当社は、障害者の自立支援と企業の社会的責任を果たし社会貢献することを目的に取り組んでいるが、言葉で表現するのは簡単でも、実現に向けて実際に行動することは難しいことだと思っている。障害者の経済的並びに人間的に自立を支援し、相談しやすい職場作りや障害者に対する意識改革、そして更なる障害者雇用を進め、企業の社会的責任を果たしていきたいと考えている。